花占い
名を刻もう
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こうしてこの世界のルールに従って、一体どれくらいが立つのだろうか。あんなにも最初の頃は訳がわからなくて、あんな耳を劈く音が、嫌で嫌でたまらなかったはずなのに。
「ねぇ桔梗、今日はなに聞かせてくれるのー?」
彼はハッチの前でこうしておしゃべりをするのが好きらしい。毎回私を最後に残してハッチまで連れて行けばそこで沢山の時間を使わされる、本当に他の生存者達には申し訳ないと思うけれど、こればかりは私の力ではどうにもできないのだ。
「は、初めて…?」
「はい、え?」
気付いた時にはこの地に足をつけていて、私は生前の記憶をまともに覚えていなかった。どうやってここへきたかも、そして今、なぜ私は初対面の女性の前で屈みながら立っているのかも理解できない。ただ初めてかと聞かれれば、それはもちろんのこと"初めまして"であって、それ以外に聞かれることがあるのだとすればそれは詳細に教えてもらわないときっとわからない。三つ編みヘアの凛々しい女性は私を手招きして目の前の機械に触れと合図する。いいや無茶な、私はパソコンはおろかテレビの録画すらまともにできないような機械音痴なのに、そんな私にその根本的なものをいじれと言わないでほしい。きっと、いや確実に壊す。こんな高そうな機械弁償できません。
「逃げて!」
「へぇ?」
まさか自分がここまで考え事に浸るとは思わなかった。彼女の声が聞こえた瞬間、誤って爆音でテレビをつけたような、そんな破れたような機械音が聞こえた。なんだなんだと後ろを振り向けば、本当にすぐそこに、チェーンソーを持った大男が立っていた。空高くその機械を掲げて私を見下ろす瞳は月より明るくなんと綺麗な、しかし私はそんなことを思っている場合ではないとすぐにわかってしまった。
「ホアーーーーッ!?」
「ゔーーっ!」
心の底から叫ぶというのはきっとこういう感覚なんだろう、身体の奥が熱く熱く唸っているような、でも今までにないほどの開放感を手に入れたような。
私は彼女の言葉通り逃げなかったことに後悔した。そもそもこんなもの人に向けていいものではない、彼女が血相変えて逃げていったということはこの男は少なくともを私たちの仲間ではないということ。もしかしなくとも、私は彼にこのまま殺されるかもしれない。
「ほ、ほぉ」
「?」
叫びに叫んだ私は脱力して地面に尻餅をついた。いや、ただ腰を抜かしただけなのかもしれないが体中の力が全く生きている気がしないのだ。怖すぎて焦りすぎて、でも綺麗で、震えることすらできずにただ口を開けて情けない息同様の声を上げているだけ。彼はそんな私をチェーンソーを掲げたまま不思議そうに見下ろしていた。どうしたんだろうか、その武器は私を殺すためのものではないのだろうか、もうこんなにも無防備な私は彼に殺されるしかないはずなのに。もしかして、ただ単純に私や彼女と違って武器を持った強そうな仲間なのか。そうだとしたらこんなに怯えて申し訳ない。
「ねーねー」
「…ほ?」
私はもはや「ほ」しか喋れなくなってしまったのか、口をそれ以外動かすことができないのか。いやそれ以前に、この男、私に掲げたチェーンソーを下ろして私に話しかけてきたぞ。喋れるんか、さっき雄叫びみたいなものあげてなかったか。いや、これはもしかしたら絶好のチャンスかもしれない、私が生きられるチャンス、こんなの掴み取る以外に何がある。私はよくわかんない間にこんなところにいて、そのまま死んでしまうなんて嫌ですよ。
「ねーねー」
「あの!」
「わ!」
「私!ここに知らない間にいて、訳わかんないことさせられて、私どうしたらいいですか!」
ああ違った、言いたいことはそれではない。私はただ命乞いをしたかっただけなのに、どうして訳わかんないこと口走ってしまうのだろうか。コミュ障か、知ってたよ、くぅ。
「ゔ…」
「う?」
「ゔーーーっ!」
「うわぁーー!」
彼は私の質問に答えずチェーンソーを掲げる、とうとう死んでしまうのかと思えばそのまま私に背を向けて他所へ行ってしまった。なんだったんだ、仲間なのか、敵なのか、今だに理解できない。
ただその答えを知ることになるのはそう遠くない未来だった。男女の叫ぶ声やチェーンソーの声が未だ腰が抜けたままの私の元まで頻繁に聞こえてくる、きっとその中には最初に出会った彼女の声も混ざっているのだろう。やはり彼は敵なのか、だとしたら私はなぜ見逃された?そもそも初めてとはやはり初めまして、ということなのか。たくさんの疑問が私を混乱させて、でもどうしようもできないこの状況と、聞こえてくる断末魔に心が貪られた。痛い、聞きたくない。怖くて、夢だというのなら今すぐに覚めて欲しい。こんなリアルな夢望んでない。嫌だよ、暗い影が風のような音とともに空に上がっていくのも、この心を苦しめる叫び声も、全部何がどうなっているのか、ちゃんと説明してよ。私はそうやって耳を塞いでその場に居続ければただただ時間が過ぎるのを待った。それしか私にできることはなかったし、そもそも私にできることは最初から殺されるのを待つことだけなのかもしれない。
「ねぇ」
「は…」
気づけばあれだけ頭を痛めていた叫び声もチェーンソーの音も、何処かから聞こえてくる唸るような囁きも全て聞こえなくなっていた。ただ目の前に、敵であるはずのこの男が一人。私は塞ぎこんでいた顔を上げて彼を見ればやはりその瞳は月のように輝いていて、何故か安心するような変な感覚で身震いした。彼は私の目の前にしゃがんでそのチェーンソーを地面に下ろせば私をそっと抱き上げる。どうしたんだろう、やっぱり敵ではなかったのか。
「あのね、僕、本当は君を殺さなくてはいけないんだけど」
「じゃあ、他の方々は…」
「みんなもう殺したよ!でも大丈夫、死んでないから」
何を言っているんだろう。殺したということは、つまり死んだということ。それ以外に存在するとしたらイエスキリスト並みの再生能力の持ち主か、神さまが間違えてこの世の理を無視して生き返らせてしまったのかくらいだ。どちらにせよ私たち生身の人間からすれば考えられないことで、私はやはり彼の言っていることが理解できなかった。
「僕ね、君のこと好きだよ!」
「ん?」
「君ね、僕のこと見た時に綺麗って言ってくれたでしょう?僕嬉しいなぁ」
そんなこと言っただろうか。まさか、気付かないうちに感情が口からダダ漏れていたのか。どちらにせよ彼に聞かれたということに多少の羞恥心が湧くも、それより私はこれからどうなるのかという心配の方が大きかった。もし本当に彼が他の人たちを殺したのなら、私を殺さない理由がない。
「だから僕ね、本当はダメなんだけど君のこと殺さないでいてあげる」
「いや、あの」
「この世界はね、こういうところなんだ。だからこれから君は頑張って逃げて、僕が相手の時はこうして逃がしてあげるよ」
君だけ。そう言って彼は私の頬に口付けをしてくる。なんて軽い、そしてあっさりとしたキスをするんだろうか。挨拶とかでもなければ、別にそこに何か深いものがあるわけでもない。
ただ心が痛いのは、彼がそれを悲しそうな顔をしてするからだ。なんて冷たい人なんだ。よく見たら火傷の跡かわからないけれど、顔から肩にかけてある肉の変形が痛々しい。私は敵である彼にじわじわと苦しめられた。その気持ちが、いつかくるべき日に気付くことができることを、今の私は知らない。
「ほら、行っていいよ」
彼はそういって私を唸るような風が吹く四角いハッチのようなものの近くに下ろした。行っていいよ、見逃してあげる。見逃されたら、どうなる?彼は私と何度でも会える、そして何度でもこうして逃がしてあげる、と。彼ではない他の人に会った時、私はどうしたらいい?未だ解けない謎がただ多くなっただけ、私は酷く混乱した。
「初めましてだったけど、きっとこれからわかるよ」
「何を」
「色々、僕はヒルビリーだよ」
彼は私の肩を突き飛ばすように押した。当然その力に体が耐えられるわけもなく、私はそのまま後ろに倒れてハッチに落ちていく。彼がその奥で悲しそうに、でもどこか笑っているような、そんな気がして。またねって、その口が言っている気がして。だから私も。
「また、ね」
ここから私が、生存者として生きていく。
彼と会うために、儀式を繰り返していく。
君がそんな顔をしないように。
君が笑ってくれるなにかを送るよ。
あとがき*
リクエスト、ヒルビリーと甘いお話。を書かせていただきました。私にとっての甘とみなさんの甘がなかなか違っている気がしてならない…甘々の甘とか言われたらもうべろんべろんに甘いの……書けない気がする。
これで満足していただけると幸いですがまたリクエストいただけたら嬉しいです(*´ω`*)感想〜全て、皆様からの声を楽しみにしております。この度はリクエストありがとうございました!
「ねぇ桔梗、今日はなに聞かせてくれるのー?」
彼はハッチの前でこうしておしゃべりをするのが好きらしい。毎回私を最後に残してハッチまで連れて行けばそこで沢山の時間を使わされる、本当に他の生存者達には申し訳ないと思うけれど、こればかりは私の力ではどうにもできないのだ。
「は、初めて…?」
「はい、え?」
気付いた時にはこの地に足をつけていて、私は生前の記憶をまともに覚えていなかった。どうやってここへきたかも、そして今、なぜ私は初対面の女性の前で屈みながら立っているのかも理解できない。ただ初めてかと聞かれれば、それはもちろんのこと"初めまして"であって、それ以外に聞かれることがあるのだとすればそれは詳細に教えてもらわないときっとわからない。三つ編みヘアの凛々しい女性は私を手招きして目の前の機械に触れと合図する。いいや無茶な、私はパソコンはおろかテレビの録画すらまともにできないような機械音痴なのに、そんな私にその根本的なものをいじれと言わないでほしい。きっと、いや確実に壊す。こんな高そうな機械弁償できません。
「逃げて!」
「へぇ?」
まさか自分がここまで考え事に浸るとは思わなかった。彼女の声が聞こえた瞬間、誤って爆音でテレビをつけたような、そんな破れたような機械音が聞こえた。なんだなんだと後ろを振り向けば、本当にすぐそこに、チェーンソーを持った大男が立っていた。空高くその機械を掲げて私を見下ろす瞳は月より明るくなんと綺麗な、しかし私はそんなことを思っている場合ではないとすぐにわかってしまった。
「ホアーーーーッ!?」
「ゔーーっ!」
心の底から叫ぶというのはきっとこういう感覚なんだろう、身体の奥が熱く熱く唸っているような、でも今までにないほどの開放感を手に入れたような。
私は彼女の言葉通り逃げなかったことに後悔した。そもそもこんなもの人に向けていいものではない、彼女が血相変えて逃げていったということはこの男は少なくともを私たちの仲間ではないということ。もしかしなくとも、私は彼にこのまま殺されるかもしれない。
「ほ、ほぉ」
「?」
叫びに叫んだ私は脱力して地面に尻餅をついた。いや、ただ腰を抜かしただけなのかもしれないが体中の力が全く生きている気がしないのだ。怖すぎて焦りすぎて、でも綺麗で、震えることすらできずにただ口を開けて情けない息同様の声を上げているだけ。彼はそんな私をチェーンソーを掲げたまま不思議そうに見下ろしていた。どうしたんだろうか、その武器は私を殺すためのものではないのだろうか、もうこんなにも無防備な私は彼に殺されるしかないはずなのに。もしかして、ただ単純に私や彼女と違って武器を持った強そうな仲間なのか。そうだとしたらこんなに怯えて申し訳ない。
「ねーねー」
「…ほ?」
私はもはや「ほ」しか喋れなくなってしまったのか、口をそれ以外動かすことができないのか。いやそれ以前に、この男、私に掲げたチェーンソーを下ろして私に話しかけてきたぞ。喋れるんか、さっき雄叫びみたいなものあげてなかったか。いや、これはもしかしたら絶好のチャンスかもしれない、私が生きられるチャンス、こんなの掴み取る以外に何がある。私はよくわかんない間にこんなところにいて、そのまま死んでしまうなんて嫌ですよ。
「ねーねー」
「あの!」
「わ!」
「私!ここに知らない間にいて、訳わかんないことさせられて、私どうしたらいいですか!」
ああ違った、言いたいことはそれではない。私はただ命乞いをしたかっただけなのに、どうして訳わかんないこと口走ってしまうのだろうか。コミュ障か、知ってたよ、くぅ。
「ゔ…」
「う?」
「ゔーーーっ!」
「うわぁーー!」
彼は私の質問に答えずチェーンソーを掲げる、とうとう死んでしまうのかと思えばそのまま私に背を向けて他所へ行ってしまった。なんだったんだ、仲間なのか、敵なのか、今だに理解できない。
ただその答えを知ることになるのはそう遠くない未来だった。男女の叫ぶ声やチェーンソーの声が未だ腰が抜けたままの私の元まで頻繁に聞こえてくる、きっとその中には最初に出会った彼女の声も混ざっているのだろう。やはり彼は敵なのか、だとしたら私はなぜ見逃された?そもそも初めてとはやはり初めまして、ということなのか。たくさんの疑問が私を混乱させて、でもどうしようもできないこの状況と、聞こえてくる断末魔に心が貪られた。痛い、聞きたくない。怖くて、夢だというのなら今すぐに覚めて欲しい。こんなリアルな夢望んでない。嫌だよ、暗い影が風のような音とともに空に上がっていくのも、この心を苦しめる叫び声も、全部何がどうなっているのか、ちゃんと説明してよ。私はそうやって耳を塞いでその場に居続ければただただ時間が過ぎるのを待った。それしか私にできることはなかったし、そもそも私にできることは最初から殺されるのを待つことだけなのかもしれない。
「ねぇ」
「は…」
気づけばあれだけ頭を痛めていた叫び声もチェーンソーの音も、何処かから聞こえてくる唸るような囁きも全て聞こえなくなっていた。ただ目の前に、敵であるはずのこの男が一人。私は塞ぎこんでいた顔を上げて彼を見ればやはりその瞳は月のように輝いていて、何故か安心するような変な感覚で身震いした。彼は私の目の前にしゃがんでそのチェーンソーを地面に下ろせば私をそっと抱き上げる。どうしたんだろう、やっぱり敵ではなかったのか。
「あのね、僕、本当は君を殺さなくてはいけないんだけど」
「じゃあ、他の方々は…」
「みんなもう殺したよ!でも大丈夫、死んでないから」
何を言っているんだろう。殺したということは、つまり死んだということ。それ以外に存在するとしたらイエスキリスト並みの再生能力の持ち主か、神さまが間違えてこの世の理を無視して生き返らせてしまったのかくらいだ。どちらにせよ私たち生身の人間からすれば考えられないことで、私はやはり彼の言っていることが理解できなかった。
「僕ね、君のこと好きだよ!」
「ん?」
「君ね、僕のこと見た時に綺麗って言ってくれたでしょう?僕嬉しいなぁ」
そんなこと言っただろうか。まさか、気付かないうちに感情が口からダダ漏れていたのか。どちらにせよ彼に聞かれたということに多少の羞恥心が湧くも、それより私はこれからどうなるのかという心配の方が大きかった。もし本当に彼が他の人たちを殺したのなら、私を殺さない理由がない。
「だから僕ね、本当はダメなんだけど君のこと殺さないでいてあげる」
「いや、あの」
「この世界はね、こういうところなんだ。だからこれから君は頑張って逃げて、僕が相手の時はこうして逃がしてあげるよ」
君だけ。そう言って彼は私の頬に口付けをしてくる。なんて軽い、そしてあっさりとしたキスをするんだろうか。挨拶とかでもなければ、別にそこに何か深いものがあるわけでもない。
ただ心が痛いのは、彼がそれを悲しそうな顔をしてするからだ。なんて冷たい人なんだ。よく見たら火傷の跡かわからないけれど、顔から肩にかけてある肉の変形が痛々しい。私は敵である彼にじわじわと苦しめられた。その気持ちが、いつかくるべき日に気付くことができることを、今の私は知らない。
「ほら、行っていいよ」
彼はそういって私を唸るような風が吹く四角いハッチのようなものの近くに下ろした。行っていいよ、見逃してあげる。見逃されたら、どうなる?彼は私と何度でも会える、そして何度でもこうして逃がしてあげる、と。彼ではない他の人に会った時、私はどうしたらいい?未だ解けない謎がただ多くなっただけ、私は酷く混乱した。
「初めましてだったけど、きっとこれからわかるよ」
「何を」
「色々、僕はヒルビリーだよ」
彼は私の肩を突き飛ばすように押した。当然その力に体が耐えられるわけもなく、私はそのまま後ろに倒れてハッチに落ちていく。彼がその奥で悲しそうに、でもどこか笑っているような、そんな気がして。またねって、その口が言っている気がして。だから私も。
「また、ね」
ここから私が、生存者として生きていく。
彼と会うために、儀式を繰り返していく。
君がそんな顔をしないように。
君が笑ってくれるなにかを送るよ。
あとがき*
リクエスト、ヒルビリーと甘いお話。を書かせていただきました。私にとっての甘とみなさんの甘がなかなか違っている気がしてならない…甘々の甘とか言われたらもうべろんべろんに甘いの……書けない気がする。
これで満足していただけると幸いですがまたリクエストいただけたら嬉しいです(*´ω`*)感想〜全て、皆様からの声を楽しみにしております。この度はリクエストありがとうございました!