悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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初めて出会う殺人鬼には決まってこう Q される、その頭の器具は何のために必要なのかと。外している時こそ開放感を得ることができるものはないと思えるこの器具は何故 私に固執するのか、はたまた私がこれに固執しているのか。彼らには私が研究者だから、と濁して答えるのだが本来の答えは全てこの世界に存在することが関係している。私がこうして乾いた高笑いを上げるのも、この口を強制的に開けさせられているのも、全てがエンティティによるゲームの飾りなのだ。
つける意味は電気ショックの精密度や自由度を上げるためだが、私の体を流れる電気の全てを私が確実に耐え切れるとは限らない。エンティティは私が生存者たちに狂気度を与えるのと同時に私にも狂気を与えその器具で縛った。そうなるとつける意味は先ほどのものではあるが、つける意図と聞かれれば必然と答えは違ってくる。
本来の答えなければならない A は私はこのゲームの上で永遠に狂った笑顔でいることを強いられている、ということだ。私の体に流れる電気と生存者に与える狂気の代わりとなるそれは、言い換えれば私が強者であるという証にもなる。だからこそ私はこれに抗うことができず、永遠の解放を許されない。つまり私がこの体になってから死ぬまでの永遠をこの器具によって支配されるということ、それに私は何か問題を感じなければならないのだろうか?
「ゔあぁぁあ!」
本当は目の前に吊るした彼にそう質問したかったが、私たちはこの儀式で生存者達と会話することを許されていない。仮に質問をして答えが返ってきたところで、もうすでに答えは決まっているのだから意味もないのだが。
あと一人、隠密系のドワイトを最後に残したのは些かよろしくない気もするがそうもいっていられない。自分の得意であるこの施設で1人だろうが取り逃がすことをすれば今夜の殺意はおさまらないだろう。私はエンティティに捧げられたデイビッドを背に狂気を撒き散らしに踵を返した。
あれから彼を見つけるのはそう難しくなく、狂気度が上がった男は叫び声を上げ私の幻影でも見たのかチグハグな方向へ逃げ惑っていた。相変わらず情けない、何の脳もなさそうなその面。そしてそれはこれから先も変わらない。私たちが殆ど歳を感じないのと同じよう、生存者達もこの箱庭にいる限りそれは変わらないのだろう。
「ゔぁ!」
「はは…」
一発。最後の力を振り絞ったように勢いを増して彼は走り出すがこんな状況で逃すような私でもない。彼らを殴るたびに疼くように右腕に電気が溜まり、左手からその溜まった興奮が放出されれば私は必ず高笑いをしてみせた。殺人鬼の中には事情があり殺人に目覚めたものもいるが私のように生前から常に殺人を趣として捉えている輩からすれば、こうして手を疼かせる人の肉の感覚というのは本当に素晴らしいものだった。一つ何か足りないとすれば、もっともっと柔らかく、暖かな感覚があれば。
やめろ、儀式中にあの女を思い出すな。
そう思った瞬間だ。私が気を抜いた隙をつかれたのか、目の前で走っていた男は風が唸る音とともにハッチへ飛び込んでしまった。不覚だ、自分のほんの一瞬の気の緩みで私のテリトリーから逃してしまった。終了の合図のように霧が深くなれば私は左手に握りこぶしを作った。悔しさとかそういうものではない、ただおさまらない殺意をこらからどうして処理し帰ればいいのかがわからなかった。もし仮にあの女と今会うことがあれば、私は彼女を今度こそ殺してしまうかもしれない。
それでも何もしないままでいるのは解決策にはならない。そもそも彼女自身私が儀式から帰った時は察したように眠っているか他に隠れるかして私から遠ざかっているのだ、こちらとしてはとても安心なのだが。
深まった霧が晴れ私は住処の前に棒立ちになれば握ったままの拳を眺める。血で染まったこの金棒も、靴も白衣も、私の欲を満たすために存在した。この掌も体に流れる電気も全て。それが今となってはいくつか洗い流してでも接しなければならない存在をここに置いている、それも私が先ほどまで殺していた人間とそう変わらない存在だ。私は何故彼女に対する殺意のみが湧かないのか、そんなことはもうこの半年に何度も考えたことだが未だにわからないままで、きっとどんな質問よりそれは答えにくいものであろう。
「ひぉ」
そしてこの存在に私はこの姿を見せたくはなかった。玄関を上げれば風呂上がりなのかびしょ濡れの髪を珍しく下ろして、未だ一着しかないその病衣を着て玄関から寝室へ向かおうとしていた。首元にかけたタオルを握る手が震えているのがわかる。私の血まみれの姿をこうしてまじまじと見るのはきっと初めてだろう、何より私がそれを隠していたからだ。殺人鬼ということを自覚してもらう手段としては最適ではあるが、今こうして彼女と出会うのは非常に最適ではない。
「邪魔だ」
未だおさまらないこの興奮により私の右手に持った金棒がクリティカルなほど彼女の腹にぶち当たる。当然のように壁に叩きつけられた彼女は嗚咽を零しながら潰れかけた肺に空気を入れようと喉を鳴らしていた。それが今の私を最高に高ぶらせて笑い声を上げさせる。彼女は私を狂っていると言わんばかりに見つめていて私はその感覚がひどく愛おしく懐かしく感じた。人間というものはこうであるべきだ、こんなもので一度でも殴られれば生存者たちのように力を振り絞って逃げることもできないし、もっと痛みに敏感になるはず。彼女はまさしく殺人鬼が求める人間そのものなのだ。
「お"ぇ」
地面に両手をついて肩を震わす彼女の髪を掴んで引きずるように寝室へと向かう、金棒を捨てるように廊下へ投げれば彼女は必死に追いつこうとその足を無様に動かしていた。未だ痛むであろうその腹部を片手で支えて寝室に到着すれば私はそんな彼女をベッドに叩きつける。嗚咽ほど酷くない空咳を数回吐けば私に許しを請うようにその身を縮めていた。なんて小さく本物の人間よ、お前が生存者として生きていたならどれだけ今の私を苦しめなかったか。
「ドク、タ…」
あれだけ儀式の時に殺してはいけない存在だと思っていた彼女は今にも死にそうな様子で私に首を掴まれている。決して殺しはしない、ただこのどうしようもない殺意を収める方法が今の私には見つからない、本当にそれだけ。こんなに温めたモルモットをそう簡単には殺せない、もっと研究の材料としてその生を私に注ぐがいい。私はその手に溜めた電気を彼女の脳に送り込もうとバチバチと耳元で音を鳴らした。
これで死ぬかもしれない、そんな心配をよそに自分の欲を放出する私は、いや私の方が、彼女より。
「な、」
本当に一瞬だった。彼女は苦しみながら私の頬を両手で掴んで引き寄せてきた。下唇に当たるその柔らかな感覚は私が彼女から奪ってきたなによりも痛く、柔らかく、そして苦しい。死にそうな表情から解放してやるべく私は首から両手を離したがそれは既に遅く、彼女の体はベッドに沈みそれと同時に口づけも冷たく終わっていくのだ。死んだわけではない、ただ気を失っただけ。それなのにこんなに心が満たされていくのは何故だ。殺したわけでもないのにこの殺人の欲がおさまっていく。
「桔梗」
届くことはないこの声を、お前がもし聞いたらどんな顔をするだろうか。私は血で染まったシーツを眺めてそこから降りた。自分で面倒事を作ったにもかかわらず溜息しか出なかったが、せめて彼女が目覚める前にこれら全てをどうにかしなければならない。私は自らを洗い流すべくシャワールームへ足を向けた。
彼女からの初めての口付けが、毒々しくて堪らない。
つける意味は電気ショックの精密度や自由度を上げるためだが、私の体を流れる電気の全てを私が確実に耐え切れるとは限らない。エンティティは私が生存者たちに狂気度を与えるのと同時に私にも狂気を与えその器具で縛った。そうなるとつける意味は先ほどのものではあるが、つける意図と聞かれれば必然と答えは違ってくる。
本来の答えなければならない
「ゔあぁぁあ!」
本当は目の前に吊るした彼にそう質問したかったが、私たちはこの儀式で生存者達と会話することを許されていない。仮に質問をして答えが返ってきたところで、もうすでに答えは決まっているのだから意味もないのだが。
あと一人、隠密系のドワイトを最後に残したのは些かよろしくない気もするがそうもいっていられない。自分の得意であるこの施設で1人だろうが取り逃がすことをすれば今夜の殺意はおさまらないだろう。私はエンティティに捧げられたデイビッドを背に狂気を撒き散らしに踵を返した。
あれから彼を見つけるのはそう難しくなく、狂気度が上がった男は叫び声を上げ私の幻影でも見たのかチグハグな方向へ逃げ惑っていた。相変わらず情けない、何の脳もなさそうなその面。そしてそれはこれから先も変わらない。私たちが殆ど歳を感じないのと同じよう、生存者達もこの箱庭にいる限りそれは変わらないのだろう。
「ゔぁ!」
「はは…」
一発。最後の力を振り絞ったように勢いを増して彼は走り出すがこんな状況で逃すような私でもない。彼らを殴るたびに疼くように右腕に電気が溜まり、左手からその溜まった興奮が放出されれば私は必ず高笑いをしてみせた。殺人鬼の中には事情があり殺人に目覚めたものもいるが私のように生前から常に殺人を趣として捉えている輩からすれば、こうして手を疼かせる人の肉の感覚というのは本当に素晴らしいものだった。一つ何か足りないとすれば、もっともっと柔らかく、暖かな感覚があれば。
やめろ、儀式中にあの女を思い出すな。
そう思った瞬間だ。私が気を抜いた隙をつかれたのか、目の前で走っていた男は風が唸る音とともにハッチへ飛び込んでしまった。不覚だ、自分のほんの一瞬の気の緩みで私のテリトリーから逃してしまった。終了の合図のように霧が深くなれば私は左手に握りこぶしを作った。悔しさとかそういうものではない、ただおさまらない殺意をこらからどうして処理し帰ればいいのかがわからなかった。もし仮にあの女と今会うことがあれば、私は彼女を今度こそ殺してしまうかもしれない。
それでも何もしないままでいるのは解決策にはならない。そもそも彼女自身私が儀式から帰った時は察したように眠っているか他に隠れるかして私から遠ざかっているのだ、こちらとしてはとても安心なのだが。
深まった霧が晴れ私は住処の前に棒立ちになれば握ったままの拳を眺める。血で染まったこの金棒も、靴も白衣も、私の欲を満たすために存在した。この掌も体に流れる電気も全て。それが今となってはいくつか洗い流してでも接しなければならない存在をここに置いている、それも私が先ほどまで殺していた人間とそう変わらない存在だ。私は何故彼女に対する殺意のみが湧かないのか、そんなことはもうこの半年に何度も考えたことだが未だにわからないままで、きっとどんな質問よりそれは答えにくいものであろう。
「ひぉ」
そしてこの存在に私はこの姿を見せたくはなかった。玄関を上げれば風呂上がりなのかびしょ濡れの髪を珍しく下ろして、未だ一着しかないその病衣を着て玄関から寝室へ向かおうとしていた。首元にかけたタオルを握る手が震えているのがわかる。私の血まみれの姿をこうしてまじまじと見るのはきっと初めてだろう、何より私がそれを隠していたからだ。殺人鬼ということを自覚してもらう手段としては最適ではあるが、今こうして彼女と出会うのは非常に最適ではない。
「邪魔だ」
未だおさまらないこの興奮により私の右手に持った金棒がクリティカルなほど彼女の腹にぶち当たる。当然のように壁に叩きつけられた彼女は嗚咽を零しながら潰れかけた肺に空気を入れようと喉を鳴らしていた。それが今の私を最高に高ぶらせて笑い声を上げさせる。彼女は私を狂っていると言わんばかりに見つめていて私はその感覚がひどく愛おしく懐かしく感じた。人間というものはこうであるべきだ、こんなもので一度でも殴られれば生存者たちのように力を振り絞って逃げることもできないし、もっと痛みに敏感になるはず。彼女はまさしく殺人鬼が求める人間そのものなのだ。
「お"ぇ」
地面に両手をついて肩を震わす彼女の髪を掴んで引きずるように寝室へと向かう、金棒を捨てるように廊下へ投げれば彼女は必死に追いつこうとその足を無様に動かしていた。未だ痛むであろうその腹部を片手で支えて寝室に到着すれば私はそんな彼女をベッドに叩きつける。嗚咽ほど酷くない空咳を数回吐けば私に許しを請うようにその身を縮めていた。なんて小さく本物の人間よ、お前が生存者として生きていたならどれだけ今の私を苦しめなかったか。
「ドク、タ…」
あれだけ儀式の時に殺してはいけない存在だと思っていた彼女は今にも死にそうな様子で私に首を掴まれている。決して殺しはしない、ただこのどうしようもない殺意を収める方法が今の私には見つからない、本当にそれだけ。こんなに温めたモルモットをそう簡単には殺せない、もっと研究の材料としてその生を私に注ぐがいい。私はその手に溜めた電気を彼女の脳に送り込もうとバチバチと耳元で音を鳴らした。
これで死ぬかもしれない、そんな心配をよそに自分の欲を放出する私は、いや私の方が、彼女より。
「な、」
本当に一瞬だった。彼女は苦しみながら私の頬を両手で掴んで引き寄せてきた。下唇に当たるその柔らかな感覚は私が彼女から奪ってきたなによりも痛く、柔らかく、そして苦しい。死にそうな表情から解放してやるべく私は首から両手を離したがそれは既に遅く、彼女の体はベッドに沈みそれと同時に口づけも冷たく終わっていくのだ。死んだわけではない、ただ気を失っただけ。それなのにこんなに心が満たされていくのは何故だ。殺したわけでもないのにこの殺人の欲がおさまっていく。
「桔梗」
届くことはないこの声を、お前がもし聞いたらどんな顔をするだろうか。私は血で染まったシーツを眺めてそこから降りた。自分で面倒事を作ったにもかかわらず溜息しか出なかったが、せめて彼女が目覚める前にこれら全てをどうにかしなければならない。私は自らを洗い流すべくシャワールームへ足を向けた。
彼女からの初めての口付けが、毒々しくて堪らない。