悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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「キツイですもう」
「でもどうすることもできないわよぉ?」
「死にたいです」
「もう死んでると同じよ」
あの男の元に住むようになって一週間が過ぎた。私はあの日ゲームと同じように彼と暮らす攻略法を探そうとしていたはず、なのに今はこのザマだ。目の前でお茶を嗜むお嫁さんに全力の愚痴をぶつけている、なんと無様な姿。
この数日私は地獄のような時間を今まで以上に感じてきた。朝は全裸で叩き起こされそのまま施設まで強制連行、昼間はその日によって違うのだが夜は夕食を作らされ風呂の準備をさせられ挙げ句の果て同じベッドで寝かされる。夜に関しては完全に女中と変わらない。その上彼は私が何か下手なことをするたびに日頃の鬱憤をぶつけるように私に電気を放出しようとしてくるのだ、溜まったもんじゃない。今はこうして施設に来ることができているが、それも彼と私の意思が一致した時のみ。週に3日はお嫁さんが不在だから外に出たくないというのだが、それでも強引に連れて行かされることもある。逆にお嫁さんがいるから行くと言った日に限って家で待たされる時もあった。自分の自由があるようでないのだ、こんな生活を今後一生していくと考えれば必然とこういった言葉を口走るのは致し方ないと思う。
「セクハラとかは大丈夫かしら」
「それどころではないことに気付いてくれません?」
「全裸はまぁトラッパーでもそうだし」
「なんで知ってるの!?」
大体みんなそうよ、と笑いながらお茶を啜ったと思えばそれでもダメよね、と少し怒ったように言う、彼女はどっちの味方なのだ。そもそも何故他の殺人鬼達の夜を知っているのだ、お嫁さんには生前愛した旦那さんがいるというのに。まさか、いやそんな大人の事情、私は知らないふりをしていたいですよ。
「だってトラッパーの家に用があって行った時、普通に全裸で出てきたわよ」
「きっつ」
本当にきつい。いや、トラッパーさんならあり得なくもない話。そもそも普段から同じような服装でしか会わない彼彼女らはやはりほかにまともな服を持ち合わせていないのか、だから家に一人いる時なんかは服を着てないのかもしれない。というより何か事情がない限り服を着ないという選択には至らないだろう、もし本当に何もないのならそいつは正真正銘の変態だ。
あれから沢山の愚痴を話して沢山の驚きを感じた。とはいえこれは普段となんら変わらない過ごし方で、それが特別とは思わない私からすればただ純粋に時間が過ぎたといえよう。だからこそ、そろそろ彼が来る時間だと予測することもそう難しくはなかった。なによりノックもなしに部屋へ入って来るのはこの男しかいない。
「帰るぞ」
「ドクター、桔梗ちゃんの前では最低下着くらい」
「…帰るぞ」
あ、この人逃げてる。毎度毎度私が愚痴るごとにこの男はお嫁さんに説教をされているんだ、そりゃ逃げたくもなる。その上、何か話しただろうと言わんばかりに私を凝視してくるのだ、おお怖い。
私は彼の機嫌をこれ以上損ねないようにお嫁さんに一言挨拶して彼の背中を追いかけた。
移動の際は必ずこうして彼と共に行動をするのだが、どうやらそれはお嫁さんとこの男が決めた規則みたいなものらしい。私を家に置くことを了承する代わりに幾つかの契り的なものを作ったらしいが、それがまた至極面倒だと先日の夕食時に珍しく愚痴をこぼしていた。彼も彼女も私を守るためのものだとは言っていたが、私にとっては結局互いの自己満足にしか見えないのは不幸者の考えだろうか。ああもっと余裕のある人間なら、もう少しましな考えで人の恩をあざで返すようなことをしなくていいはずなのに。
「ねえ」
「なんだ」
「いや急なんだけどさ、なんで私お嫁さんのところじゃダメなの?」
この荒地を歩きながら住処へ向かう私たちは基本的に無言であり、はっきりいうと空気が悪い。元々多弁ではないこの男相手にホイホイと会話が出て来ることもなければ、1つの会話で話題を盛り上げられるほどのバリエーションを持ち合わせているとも思えない。だからこそこうして自ら何かを口にしないとこの空気感に耐えられないのだ。
「そんなにナースのところがいいか」
「まぁ、女性の方がやっぱり」
「ダメだ」
だから、何故それがダメなのかということを私は聞いているのに。
それから私がどう質問しようが決まって答えはダメだダメだの一点縛りだった。駄々をこねる子供でもあるまいしもう少し知的な会話を望んだのだが、それですら私は知る価値がないとでも言うのか。それともやはり理由はモルモットだから、というそれだけなのか。相変わらずこの男の考えはどこの視点に立っても読めない。
「あの」
「そんなに知りたいか」
「いやまぁ自分のことですし、今後一生の可能性もちゃんと考えてますし」
私がそう言えば彼はもうすぐそこにある住処を無視してこちらを振り返ってきた。どうしたのだと顔を上げると同時に私は地面の感覚を失う、彼は私を抱き上げたのだ。なんだ、高い高いとは違う、けれど別に怖くはない。ただ足がつかないだけ、本当に普通に持ち上げられているだけ。
やめて、そんな表情で私にこれから何を言うの。
「…なん、」
「お前はまだ知らなくていい」
「へ?!」
「さっさと帰って飯の支度をしろ」
抱き上げてから数秒、何も喋らないかと思えばそう言って目の前に住処があるにも関わらず私を肩に担ぎ上げた。違和感しかない、そういう言葉をいう表情でもなかったのに。けれど彼がそういうのだ、私はこのゲームに勝つために彼に従わなければならない。ゲームオーバーなんてごめんだよ、他の人間達と違って私は一度死んだら生き返れないんだ。
ああ、でも、これは憂鬱だな。
(くそ、何を言おうとしていたんだ)
「でもどうすることもできないわよぉ?」
「死にたいです」
「もう死んでると同じよ」
あの男の元に住むようになって一週間が過ぎた。私はあの日ゲームと同じように彼と暮らす攻略法を探そうとしていたはず、なのに今はこのザマだ。目の前でお茶を嗜むお嫁さんに全力の愚痴をぶつけている、なんと無様な姿。
この数日私は地獄のような時間を今まで以上に感じてきた。朝は全裸で叩き起こされそのまま施設まで強制連行、昼間はその日によって違うのだが夜は夕食を作らされ風呂の準備をさせられ挙げ句の果て同じベッドで寝かされる。夜に関しては完全に女中と変わらない。その上彼は私が何か下手なことをするたびに日頃の鬱憤をぶつけるように私に電気を放出しようとしてくるのだ、溜まったもんじゃない。今はこうして施設に来ることができているが、それも彼と私の意思が一致した時のみ。週に3日はお嫁さんが不在だから外に出たくないというのだが、それでも強引に連れて行かされることもある。逆にお嫁さんがいるから行くと言った日に限って家で待たされる時もあった。自分の自由があるようでないのだ、こんな生活を今後一生していくと考えれば必然とこういった言葉を口走るのは致し方ないと思う。
「セクハラとかは大丈夫かしら」
「それどころではないことに気付いてくれません?」
「全裸はまぁトラッパーでもそうだし」
「なんで知ってるの!?」
大体みんなそうよ、と笑いながらお茶を啜ったと思えばそれでもダメよね、と少し怒ったように言う、彼女はどっちの味方なのだ。そもそも何故他の殺人鬼達の夜を知っているのだ、お嫁さんには生前愛した旦那さんがいるというのに。まさか、いやそんな大人の事情、私は知らないふりをしていたいですよ。
「だってトラッパーの家に用があって行った時、普通に全裸で出てきたわよ」
「きっつ」
本当にきつい。いや、トラッパーさんならあり得なくもない話。そもそも普段から同じような服装でしか会わない彼彼女らはやはりほかにまともな服を持ち合わせていないのか、だから家に一人いる時なんかは服を着てないのかもしれない。というより何か事情がない限り服を着ないという選択には至らないだろう、もし本当に何もないのならそいつは正真正銘の変態だ。
あれから沢山の愚痴を話して沢山の驚きを感じた。とはいえこれは普段となんら変わらない過ごし方で、それが特別とは思わない私からすればただ純粋に時間が過ぎたといえよう。だからこそ、そろそろ彼が来る時間だと予測することもそう難しくはなかった。なによりノックもなしに部屋へ入って来るのはこの男しかいない。
「帰るぞ」
「ドクター、桔梗ちゃんの前では最低下着くらい」
「…帰るぞ」
あ、この人逃げてる。毎度毎度私が愚痴るごとにこの男はお嫁さんに説教をされているんだ、そりゃ逃げたくもなる。その上、何か話しただろうと言わんばかりに私を凝視してくるのだ、おお怖い。
私は彼の機嫌をこれ以上損ねないようにお嫁さんに一言挨拶して彼の背中を追いかけた。
移動の際は必ずこうして彼と共に行動をするのだが、どうやらそれはお嫁さんとこの男が決めた規則みたいなものらしい。私を家に置くことを了承する代わりに幾つかの契り的なものを作ったらしいが、それがまた至極面倒だと先日の夕食時に珍しく愚痴をこぼしていた。彼も彼女も私を守るためのものだとは言っていたが、私にとっては結局互いの自己満足にしか見えないのは不幸者の考えだろうか。ああもっと余裕のある人間なら、もう少しましな考えで人の恩をあざで返すようなことをしなくていいはずなのに。
「ねえ」
「なんだ」
「いや急なんだけどさ、なんで私お嫁さんのところじゃダメなの?」
この荒地を歩きながら住処へ向かう私たちは基本的に無言であり、はっきりいうと空気が悪い。元々多弁ではないこの男相手にホイホイと会話が出て来ることもなければ、1つの会話で話題を盛り上げられるほどのバリエーションを持ち合わせているとも思えない。だからこそこうして自ら何かを口にしないとこの空気感に耐えられないのだ。
「そんなにナースのところがいいか」
「まぁ、女性の方がやっぱり」
「ダメだ」
だから、何故それがダメなのかということを私は聞いているのに。
それから私がどう質問しようが決まって答えはダメだダメだの一点縛りだった。駄々をこねる子供でもあるまいしもう少し知的な会話を望んだのだが、それですら私は知る価値がないとでも言うのか。それともやはり理由はモルモットだから、というそれだけなのか。相変わらずこの男の考えはどこの視点に立っても読めない。
「あの」
「そんなに知りたいか」
「いやまぁ自分のことですし、今後一生の可能性もちゃんと考えてますし」
私がそう言えば彼はもうすぐそこにある住処を無視してこちらを振り返ってきた。どうしたのだと顔を上げると同時に私は地面の感覚を失う、彼は私を抱き上げたのだ。なんだ、高い高いとは違う、けれど別に怖くはない。ただ足がつかないだけ、本当に普通に持ち上げられているだけ。
やめて、そんな表情で私にこれから何を言うの。
「…なん、」
「お前はまだ知らなくていい」
「へ?!」
「さっさと帰って飯の支度をしろ」
抱き上げてから数秒、何も喋らないかと思えばそう言って目の前に住処があるにも関わらず私を肩に担ぎ上げた。違和感しかない、そういう言葉をいう表情でもなかったのに。けれど彼がそういうのだ、私はこのゲームに勝つために彼に従わなければならない。ゲームオーバーなんてごめんだよ、他の人間達と違って私は一度死んだら生き返れないんだ。
ああ、でも、これは憂鬱だな。
(くそ、何を言おうとしていたんだ)