悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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私には人権がないのかもしれない。
そもそもこの世界でそれを求めるのは間違っているのだろうか。数分前、私はお嫁さんに共に暮らそうとプロポーズを受けたはずなのに、今はこうしてこの男に担がれているのだ。私のモルモット、やはり私は彼にとってモルモットでしかないのだ。理解はしていたがそんな理由で男女が共に住んでいいなんて私は思わない。私まだ綺麗なんですよ、こんな男の元で暮らせば他の男が寄ってこないし、そうなれば私は何処にも嫁に行くことができない。あ、そもそもこの世界で結婚できないからもうそういう希望は持たなくていいのか。だとしても私にほんの1ミリでもいいから選ぶ権利が欲しい。
「どべぇ!?」
「騒ぐな」
私は担がれたまま数分、彼に揺らされ目的地へ辿り着くのを気怠そうに待っていた。布団のせいでうまく抵抗もできず、腹部に刺さる肩が偶に痛くて大声で話しかけることもできなかった。ガチリと扉が2回、間隔をあけて開く音が聞こえたと思えば私は地べたに投げ落とされる。いくら布団で包まっているとはいえ、普通に痛く情けない声を上げてしまう。背骨から少し突き出た尻尾みたいな骨が床に擦れれば堪らず腰を上げてそこをさすった。着いたのだ、彼の住処に。いいやそれよりもっと優しく降ろしてくれ。
「施設が住処ではなかったんですか」
「お前が患者としていたから泊まり込んでいただけだ」
「つまりここが本来の住処?」
「本来かは知らないが」
なるほど、つまり研究や実験のためだったり何かしらの目的であそこに泊まることはあっても、住処としては此処が正しいというわけだ。搔き分けるようにもがいて布団から顔を出せば、そこには何とも施設と変わらない殺風景な空間。私の横には大きなベッドが存在して…いや落とすならせめて此処にしろ、と苦い思いをした。
「今日はそこで寝ろ、内装については後日説明してやる」
「今日はダメなんですか」
「これから儀式だ」
「…………あー」
これだ。彼らに唯一殺人鬼らしいと思えるのはこの儀式というワード。私が彼と初めて出会った時に行われていた、エンティティの仕向けたゲームみたいなもの。未だルールみたいなものは理解できていないが、その中で生きる人間たちは何度死んでも生き返るらしい。いやめっちゃ羨ましい、私もそんな体欲しい。と何度も思ったが私はそれに選ばれずにあの場にいたと言い聞かされた。なら何故此処に私が存在するのだろうと矛盾が生じるのだが、そんな理解のできない世界の仕組み考えたところで仕方がなかった。
それに考えて欲しい、もし私があそこで彼に選ばれてなければ生き返ることもなく死んでいた可能性だってある。逆にこれは運命なのかもしれない、彼が私のようなクソガキに興味を示したからこそ私が今生きているといっても過言ではない。
私はそのゲームで強いられる殺人を考えないようにそっぽを向いて彼に行ってらっしゃいと呟いた。いつもならそれを理解して彼はせっせと儀式の準備を行いにその場を去るのだが、今日はどうやら動く気配がない。何だ、まさか私に儀式をしろとでもいうのか、流石にないか。
「これを持っていろ」
「…壊れてますが?」
「構わん」
いってくる、そう言わんばかりに私に背を向けてその場を去った彼からもらったものは、メガネだ。なんだこれ、レンズはバリバリに割れて傷まみれのガラクタだ。
何故彼はこれを私に渡したんだ。彼が何か物を渡すことに意味がないとは思わないが、こんなものが何かに役立つとも思えない。もしかけてみてガラスの破片が目に入りでもしたら、いや考えたくない。
やはり何の意図があって渡されたのか理解できないが、私は彼の言われた通りベッドのそばに置いて眠ることにした。台車で寝るよりずっと柔らかくて暖かさも感じる。彼が寝るベッドのせいか随分と大きいが、果たして此処に私が寝れば彼の寝る場所はどこになるのだろうか。此処に来るまで常に視界を奪われていたが、ソファでもあるのだろうか。こんな殺風景な壁の建物にソファなんてそんなお洒落なもの、考えられない。もしかしたらここ以外の部屋は案外豪華なのかもしれないが、それも考えられない。
ああ、微かに香る彼の匂いが、今の自分をこんなに。
紅白とは祝いを意味する組み合わせ、それがこの世界では美しくも儚い命の消失を意味すると思えばこれは私たち殺人鬼に対する祝福を意味するのかもしれない。そういう点ではあの世もこの世もこの色合いの意味はさして変わらない気がする。
私は最後の一人をフックへ吊るして女王へ捧げた。天高く舞った彼らは果たしてどのようにして復活し再び私たちの前に現れるのだろうか、どんな科学より進化しているエンティティの能力はあの世ではさぞ喜ばれるだろう。
濃い霧が晴れて私は己の住処の前に血に染まりながら立っていた。こうして不可思議な終わりを迎えるのなら、この血ですら無かったことにしてくれればいいものを。
今日から住むあの女にこの臭いを嗅がせるのは些か納得がいかない私は部屋に入るや否やすぐにその血を洗い流す。私の意思の上ではこのままでも構わないのだが、これは彼女を連れ帰ると言った私に対するナースの言付けでもあった。
強引にもこの女を連れ帰ったが、その分ナースに幾つかの契りをさせれた。本来は今日の診察で異常が確認されなければ、彼女の元であの女は暮らす予定だった。自分もそれに納得しその通りに話を進めていた。
だが何故だ、彼女がナースの言葉に嬉しそうにしている姿が堪らなく憎かった。泣くほどそれが嬉しかったか、私がすることに対してそんな反応一度もしたことがないくせにナース相手にはどんな表情でも向けるのだ。憎くて鬱陶しくて堪らない。私のモルモットだとナースにもあの女にも、そして自分にも言い聞かせて無理やりその場を収めたが、実際それで良かったと思う。後から何を言われようとこのことはもう変えられないのだから。
私は洗い流した裸体をタオルで軽く拭けば服も頭の器具も付けずそのまま寝室へと向かった。扉を開ければ体を丸めて病衣のまま眠る彼女がいたが、その側には私が出る前に預けた壊れたメガネがあった。説明こそしていなかったが、側に置いているのならそれでいい。いずれ来たる日にその意味がわかれば、それで。
私は彼女と同じベッドに入り彼女を持ち帰った時に使った布団を掛けようとした。小さい、本当に小さく熱く、だがその後ろ姿は妙に大きく感じる。背中に残るフックの縫い目が過去の己を苦しめ眠りを妨げようとするのを感じ、私はそれを隠すように彼女を後ろから抱きしめて布団を掛け瞼を閉じた。
眠れ。慈悲を持つ必要はない、私は殺人鬼だ。
そもそもこの世界でそれを求めるのは間違っているのだろうか。数分前、私はお嫁さんに共に暮らそうとプロポーズを受けたはずなのに、今はこうしてこの男に担がれているのだ。私のモルモット、やはり私は彼にとってモルモットでしかないのだ。理解はしていたがそんな理由で男女が共に住んでいいなんて私は思わない。私まだ綺麗なんですよ、こんな男の元で暮らせば他の男が寄ってこないし、そうなれば私は何処にも嫁に行くことができない。あ、そもそもこの世界で結婚できないからもうそういう希望は持たなくていいのか。だとしても私にほんの1ミリでもいいから選ぶ権利が欲しい。
「どべぇ!?」
「騒ぐな」
私は担がれたまま数分、彼に揺らされ目的地へ辿り着くのを気怠そうに待っていた。布団のせいでうまく抵抗もできず、腹部に刺さる肩が偶に痛くて大声で話しかけることもできなかった。ガチリと扉が2回、間隔をあけて開く音が聞こえたと思えば私は地べたに投げ落とされる。いくら布団で包まっているとはいえ、普通に痛く情けない声を上げてしまう。背骨から少し突き出た尻尾みたいな骨が床に擦れれば堪らず腰を上げてそこをさすった。着いたのだ、彼の住処に。いいやそれよりもっと優しく降ろしてくれ。
「施設が住処ではなかったんですか」
「お前が患者としていたから泊まり込んでいただけだ」
「つまりここが本来の住処?」
「本来かは知らないが」
なるほど、つまり研究や実験のためだったり何かしらの目的であそこに泊まることはあっても、住処としては此処が正しいというわけだ。搔き分けるようにもがいて布団から顔を出せば、そこには何とも施設と変わらない殺風景な空間。私の横には大きなベッドが存在して…いや落とすならせめて此処にしろ、と苦い思いをした。
「今日はそこで寝ろ、内装については後日説明してやる」
「今日はダメなんですか」
「これから儀式だ」
「…………あー」
これだ。彼らに唯一殺人鬼らしいと思えるのはこの儀式というワード。私が彼と初めて出会った時に行われていた、エンティティの仕向けたゲームみたいなもの。未だルールみたいなものは理解できていないが、その中で生きる人間たちは何度死んでも生き返るらしい。いやめっちゃ羨ましい、私もそんな体欲しい。と何度も思ったが私はそれに選ばれずにあの場にいたと言い聞かされた。なら何故此処に私が存在するのだろうと矛盾が生じるのだが、そんな理解のできない世界の仕組み考えたところで仕方がなかった。
それに考えて欲しい、もし私があそこで彼に選ばれてなければ生き返ることもなく死んでいた可能性だってある。逆にこれは運命なのかもしれない、彼が私のようなクソガキに興味を示したからこそ私が今生きているといっても過言ではない。
私はそのゲームで強いられる殺人を考えないようにそっぽを向いて彼に行ってらっしゃいと呟いた。いつもならそれを理解して彼はせっせと儀式の準備を行いにその場を去るのだが、今日はどうやら動く気配がない。何だ、まさか私に儀式をしろとでもいうのか、流石にないか。
「これを持っていろ」
「…壊れてますが?」
「構わん」
いってくる、そう言わんばかりに私に背を向けてその場を去った彼からもらったものは、メガネだ。なんだこれ、レンズはバリバリに割れて傷まみれのガラクタだ。
何故彼はこれを私に渡したんだ。彼が何か物を渡すことに意味がないとは思わないが、こんなものが何かに役立つとも思えない。もしかけてみてガラスの破片が目に入りでもしたら、いや考えたくない。
やはり何の意図があって渡されたのか理解できないが、私は彼の言われた通りベッドのそばに置いて眠ることにした。台車で寝るよりずっと柔らかくて暖かさも感じる。彼が寝るベッドのせいか随分と大きいが、果たして此処に私が寝れば彼の寝る場所はどこになるのだろうか。此処に来るまで常に視界を奪われていたが、ソファでもあるのだろうか。こんな殺風景な壁の建物にソファなんてそんなお洒落なもの、考えられない。もしかしたらここ以外の部屋は案外豪華なのかもしれないが、それも考えられない。
ああ、微かに香る彼の匂いが、今の自分をこんなに。
紅白とは祝いを意味する組み合わせ、それがこの世界では美しくも儚い命の消失を意味すると思えばこれは私たち殺人鬼に対する祝福を意味するのかもしれない。そういう点ではあの世もこの世もこの色合いの意味はさして変わらない気がする。
私は最後の一人をフックへ吊るして女王へ捧げた。天高く舞った彼らは果たしてどのようにして復活し再び私たちの前に現れるのだろうか、どんな科学より進化しているエンティティの能力はあの世ではさぞ喜ばれるだろう。
濃い霧が晴れて私は己の住処の前に血に染まりながら立っていた。こうして不可思議な終わりを迎えるのなら、この血ですら無かったことにしてくれればいいものを。
今日から住むあの女にこの臭いを嗅がせるのは些か納得がいかない私は部屋に入るや否やすぐにその血を洗い流す。私の意思の上ではこのままでも構わないのだが、これは彼女を連れ帰ると言った私に対するナースの言付けでもあった。
強引にもこの女を連れ帰ったが、その分ナースに幾つかの契りをさせれた。本来は今日の診察で異常が確認されなければ、彼女の元であの女は暮らす予定だった。自分もそれに納得しその通りに話を進めていた。
だが何故だ、彼女がナースの言葉に嬉しそうにしている姿が堪らなく憎かった。泣くほどそれが嬉しかったか、私がすることに対してそんな反応一度もしたことがないくせにナース相手にはどんな表情でも向けるのだ。憎くて鬱陶しくて堪らない。私のモルモットだとナースにもあの女にも、そして自分にも言い聞かせて無理やりその場を収めたが、実際それで良かったと思う。後から何を言われようとこのことはもう変えられないのだから。
私は洗い流した裸体をタオルで軽く拭けば服も頭の器具も付けずそのまま寝室へと向かった。扉を開ければ体を丸めて病衣のまま眠る彼女がいたが、その側には私が出る前に預けた壊れたメガネがあった。説明こそしていなかったが、側に置いているのならそれでいい。いずれ来たる日にその意味がわかれば、それで。
私は彼女と同じベッドに入り彼女を持ち帰った時に使った布団を掛けようとした。小さい、本当に小さく熱く、だがその後ろ姿は妙に大きく感じる。背中に残るフックの縫い目が過去の己を苦しめ眠りを妨げようとするのを感じ、私はそれを隠すように彼女を後ろから抱きしめて布団を掛け瞼を閉じた。
眠れ。慈悲を持つ必要はない、私は殺人鬼だ。