悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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先日手に入れた花は驚くべき効果が発見された。
人の脳内にある快感と理性を貪り、本人の我慢していた欲を無理やり引き出す。花を単品で扱うことになればこれは媚薬とさほど変わらない効果を得られるのだが、この花の葉を同時に使うことで性に関することだけでなく、自分の抑えていた欲望の全てを強制的に露出させることができるのだ。これは拷問にも使える素晴らしい手段だと思う。罪を犯した者に対して飲ませれば隠した事実を言わせることができ、私のように趣味として楽しむものが拷問者に使えばその苦しみもがく姿にきっと興奮が高まるだろう。以前黒い花を研究した時は人の欲を抑える効果が発見されたが、どうやら色も効果も反対みたいだ。互いの効果を混ぜれば一体どういう効果が出るのか気になりはするが、それは今後の課題にしよう。
見れば見るほど薄い蒼で濁った液体。まだ原液でしかないそれをこれから摂取可能にするために薄めなければならない。試験管に入れてそれを眺めながら、さて、今後この液をどう生かそうかと私は考えていた。今は拷問ができるような人材は手に入らないし、殺人鬼共は欲の塊のような存在だ、今更それを曝け出そうとしなくても勝手に出しているから処置のしようもない。
確かにこれまでにない効果に魅力は感じるが、かといって使いどころが一切ないのでは損した気分になる。つまらん。あくまで研究をするまでが楽しみなのだが、こうも結果が目に見えて出ないのは面白みもない。試しにヒルビリーあたりにでも飲ませてみるのが吉か。
「ん、」
とはいえ飲んだ奴に死なれても困る、彼らは殺人鬼だが腐っても一応私たちは"仲間"なのである。他者に飲ませる前に念のため自分の口で毒味をしなければならない。自分で飲んで死んだらどうなると何度かナースに言われたことがあるが、それで死んだ試しが一度もないからこうして今の私が存在しているのだ。
私は指先にまとわりついたそれをひと舐めした。味はそこまで変ではないが、味の濃い食材に混ぜなければ少し違和感があるかもしれない。単体で舐めれば舌にまとわりつくねばねばが気持ち悪く感じる。効果が出るのはまだ先みたいだ、今の所自分の体になんらかの変化は感じられない。
「ドクター、帰ります」
「御苦労」
ナースがブリンクをして定時の挨拶をしにくればその勢いでそそくさとその場を去っていった。もうそんな時間か、今日の成果はここ最近で一番悪くないと思う。今度クラウンにでも教えて一工夫してもらうのも手かもしれんな。
私は研究を終えてあの女の夕食を片手に病室へと向かった。臓器が回復に向かっている今、こうして胃の機能も回復させてやらなければ体力に余裕がなくなる。彼女はどうやら元の場所では運動力に優れていたらしく、ゆくゆくはそれに向けて治していきたい、とくだらないことを言っていたがつまりはそれだけの体力と根気があるということだ。回復に欠かせない二つをしっかり持っているからなんの問題もない。リハビリと言いながらどこかへ行こうとするのを何度か見かけてはいたが、最近は図書部屋で暇を潰しているようだから以前より心配事は減った気がする。
「飯の時間だ」
「知ってた」
病室に入り彼女に投げるように皿を渡す。危ないと言いながらもちゃんと受け取りそれを口にする様子を確認すれば、私はカルテルの記載のために椅子に座った。もう少しで彼女がきて半年の月日が経つ。私は彼女が完治したら、どうしてやろうか、研究のため…いや、その前にここにいさせるのも駄目だろうからどこか他の部屋にでも移さなければならない。もう病人、ではなくなるのだ。
何故だ、先程から胸元がじわじわと熱くなっている気がする。目も見開いているのが辛く思わず口と目の器具を外して目を閉じた。なんだこの感覚は、もしかして薬が効いてきたのか。だとすると自分の欲はまさか、疲れのせいか睡眠作用を起こしているのか。しかし眠たいとはまた違う、瞳の裏で何かが疼くようなそんな感覚。
「あの…ごちそうさまです」
彼女はそう言って私に恐る恐る皿を渡してきた。あまり目を合わせることのない彼女と目が合えば、その瞳はどこか心配そうに私を見ていた。なんだ、やめろ。彼女に見られれば恐ろしいほどの何かが湧き上がってくる。器を受け取り視線を逸らそうとすれば彼女は私に大丈夫かと尋ねてきた。頼むから優しくするな、なんで今なんだ。
お前は私を、そこまでかき乱して、楽しいか?
「疲れてるなら眠られた方が」
「桔梗」
「んへ?」
口より先に行動が出る私は、きっと今薬に酷く犯されているのだ。私は彼女の頬を片手で掴めば噛みつくような口づけをおみまいした。だめだと自分の中で言い聞かせているのに、やめてくれない。このままだと全てを失う。自分の欲は、なんなんだ…
「桔梗…」
なんだろうこの状況、私今何されてるの。
食事を終えた私は珍しく器具を外しているこの男の様子が心配でならなかった。目を閉じ頭を片手で支え、どこか苦しむようにない眉を潜めているのだ。頬を少し赤らめながらいるその様子はまるで熱でも出したかのような、そんな様。研究に没頭しすぎて風邪でも引いたのか、そもそも殺人鬼達は風邪を引くという概念があるのか。
私は彼が心配で思わずそれを口に出した時だった。この男は片手で私の顔を掴んで喰われるのではないかという勢いで私に接吻をしてきた。なんだろう、これ。本来こういう状況で人は目を閉じなければならないのだろうけど、私はあまりの驚きで目を見開いてしまった。いつもあんなに目をガン開きにしているこの男は私と反対でどこか満たされた様子で目を閉じている。なんだ、お嫁さんこいつどうしたんですか。怖い、急に怖いよ。
「、は…」
「ちょ、やめ」
一度ならまだ事故だと言い聞かせて許せたのに、この男は何度も角度を変えて私に唇を押し付けてくる。ガサガサに乾燥した唇は私に恐怖を与えた。今にも食べられるのではと思えるほど大きく口を開けては何度も口付けをして、何度も私の唇を食んでくる。以前風呂場でされたようなそんな口付け。あの時は酔っていた彼が、今は一体どういう心境でこの行動をするんだ。お願い、これ以上やめてくれ。だって私たちはそういう関係ではないでしょう?どうしたの急に、嫌だ、まだいつものあなたの方があなたらしいのに。怖くても許せるのに。
「桔梗」
「なん、で…ぁ!」
違った。あの時のようなキスではない、もっと深い口付け。私より大きい舌を口内いっぱいになるまでねじ込んでくれば頭が麻痺するまで中を犯された。体から直接伝わる卑下た水音、それが自分の背筋をゾクゾクとさせて、でもそれが嫌だと行動で示すことができない。口づけをされながら彼の指が私の腰を下から上へなぞり胸元へいく、まさか私はこれからこの男にそういうことをされるということなのか?
「す、すと…んー!」
大声を出そうとすればその口づけはより深いものになった。私に否定を許してくれない、今はただ彼がしたいようにされるだけの存在に成り下がっている自分が酷く憎い。病衣の上から片手で胸元を弄られ、擦れる先端をわざと指先でこねくり回してきた。布ごしで擦れそこが勃っているのが見なくてもわかる、それと同じように下半身がグツグツと湧き上がるように疼いた。これは致し方ない、生理現象というもの。私の意思でこうなっているわけではないのに、体が否定も抵抗してくれない。お嫁さんに助けを求めようにも、彼女は先ほど帰ってしまった。私はこのまま為すがままなのか。この舌を噛み砕いてやりたいのに、そんな力すら今の私には出てこない。どうして。
「桔梗」
「い、ぁ、あ…!」
「愛らしいな…桔梗」
「嘘つき…んっ」
心にもない言葉を、どうして彼は言ってのける。風呂場での時だってそうだ、他の時だって…私に優しくして言葉をかけて、こうしてやましいことをして、でも時に暴力的ですごく冷たい。あなたは私にどっちの態度で接したいの。
自分の中の気持ちが乱れる、やめてよ、私を洗脳しないで。
何度も苦しい口付けを交わし乳房を好きなだけいじった彼は私から少し体を離した。終わったのか、それとも正気を取り戻したのか。そう思っていた矢先、彼は私の下半身に手を出そうとしてきた。その瞳はどこか虚ろで死んでいて、でも確実に私を見つめている。そして病衣の中に手を潜り込ませ下着に指をかけた。だめだ、だめだ、だめ…
「やめい!」
「ゔ、!?」
やっと、やっと私の体が動いた。彼の腰に備えられていた金棒を両手で掴んで、それを引き抜けば彼の腰に目一杯打ち込む。鈍い声とともに彼は私に体を倒してきた。
やってしまった、私は人を殺めてしまった、こんなもので腹を殴られれば私だって確実に死ぬ。ああ私はこうしてお尋ね者になるんだ。エンティティとやらに私も殺人鬼と同じ仲間にされて、私の人生は終わるんだ。こんなことなら意地でもここから逃げ出してえぶにゃんの声優ライブ行きたかった、えぶにゃんの録画も見てないし、えぶにゃんのグッズだってこれからたくさん出るだろうからそれも買いたかった。あの売り切れだったマグカップも再販されていたかもしれないのに、私はこんなところで人生を棒に振ったのか。もう死にたい。
「ゔ……」
「あ、生きてるわ」
入りところが良かったのか悪かったのか、この男はそのまま気を失ってしまった。少しだけかいている汗が私に張り付くのが、絶妙に気持ち悪い。でも、これでよかったんだ。彼が望まないままこういうことをして、もし目が覚めた時に絶望させてしまったら、可哀想だから…
「だからおやすみ、少しだけここで寝ていいよ」
私は彼を強引に私の横に押し倒し布団をかけてあげる。あんなにひどいことをされたのに、どうして今の私は彼に優しくするんだろう。いや、優しさとかそういうのではなく、ただ無意識にしたんだ。
さっきのことは無かったことにはしない、でも、忘れたふりはする。だってあなたが起きたら状況に驚くだろう?
だから私を捨てないで、私で絶望しないで、これは私のわがまま…つまりは自分勝手なだけなのだ。優しさなんかではない、それはきっと、稀に優しくしてくれる彼も同じなんだ。
だから、だからだから。
傷付かないで。
人の脳内にある快感と理性を貪り、本人の我慢していた欲を無理やり引き出す。花を単品で扱うことになればこれは媚薬とさほど変わらない効果を得られるのだが、この花の葉を同時に使うことで性に関することだけでなく、自分の抑えていた欲望の全てを強制的に露出させることができるのだ。これは拷問にも使える素晴らしい手段だと思う。罪を犯した者に対して飲ませれば隠した事実を言わせることができ、私のように趣味として楽しむものが拷問者に使えばその苦しみもがく姿にきっと興奮が高まるだろう。以前黒い花を研究した時は人の欲を抑える効果が発見されたが、どうやら色も効果も反対みたいだ。互いの効果を混ぜれば一体どういう効果が出るのか気になりはするが、それは今後の課題にしよう。
見れば見るほど薄い蒼で濁った液体。まだ原液でしかないそれをこれから摂取可能にするために薄めなければならない。試験管に入れてそれを眺めながら、さて、今後この液をどう生かそうかと私は考えていた。今は拷問ができるような人材は手に入らないし、殺人鬼共は欲の塊のような存在だ、今更それを曝け出そうとしなくても勝手に出しているから処置のしようもない。
確かにこれまでにない効果に魅力は感じるが、かといって使いどころが一切ないのでは損した気分になる。つまらん。あくまで研究をするまでが楽しみなのだが、こうも結果が目に見えて出ないのは面白みもない。試しにヒルビリーあたりにでも飲ませてみるのが吉か。
「ん、」
とはいえ飲んだ奴に死なれても困る、彼らは殺人鬼だが腐っても一応私たちは"仲間"なのである。他者に飲ませる前に念のため自分の口で毒味をしなければならない。自分で飲んで死んだらどうなると何度かナースに言われたことがあるが、それで死んだ試しが一度もないからこうして今の私が存在しているのだ。
私は指先にまとわりついたそれをひと舐めした。味はそこまで変ではないが、味の濃い食材に混ぜなければ少し違和感があるかもしれない。単体で舐めれば舌にまとわりつくねばねばが気持ち悪く感じる。効果が出るのはまだ先みたいだ、今の所自分の体になんらかの変化は感じられない。
「ドクター、帰ります」
「御苦労」
ナースがブリンクをして定時の挨拶をしにくればその勢いでそそくさとその場を去っていった。もうそんな時間か、今日の成果はここ最近で一番悪くないと思う。今度クラウンにでも教えて一工夫してもらうのも手かもしれんな。
私は研究を終えてあの女の夕食を片手に病室へと向かった。臓器が回復に向かっている今、こうして胃の機能も回復させてやらなければ体力に余裕がなくなる。彼女はどうやら元の場所では運動力に優れていたらしく、ゆくゆくはそれに向けて治していきたい、とくだらないことを言っていたがつまりはそれだけの体力と根気があるということだ。回復に欠かせない二つをしっかり持っているからなんの問題もない。リハビリと言いながらどこかへ行こうとするのを何度か見かけてはいたが、最近は図書部屋で暇を潰しているようだから以前より心配事は減った気がする。
「飯の時間だ」
「知ってた」
病室に入り彼女に投げるように皿を渡す。危ないと言いながらもちゃんと受け取りそれを口にする様子を確認すれば、私はカルテルの記載のために椅子に座った。もう少しで彼女がきて半年の月日が経つ。私は彼女が完治したら、どうしてやろうか、研究のため…いや、その前にここにいさせるのも駄目だろうからどこか他の部屋にでも移さなければならない。もう病人、ではなくなるのだ。
何故だ、先程から胸元がじわじわと熱くなっている気がする。目も見開いているのが辛く思わず口と目の器具を外して目を閉じた。なんだこの感覚は、もしかして薬が効いてきたのか。だとすると自分の欲はまさか、疲れのせいか睡眠作用を起こしているのか。しかし眠たいとはまた違う、瞳の裏で何かが疼くようなそんな感覚。
「あの…ごちそうさまです」
彼女はそう言って私に恐る恐る皿を渡してきた。あまり目を合わせることのない彼女と目が合えば、その瞳はどこか心配そうに私を見ていた。なんだ、やめろ。彼女に見られれば恐ろしいほどの何かが湧き上がってくる。器を受け取り視線を逸らそうとすれば彼女は私に大丈夫かと尋ねてきた。頼むから優しくするな、なんで今なんだ。
お前は私を、そこまでかき乱して、楽しいか?
「疲れてるなら眠られた方が」
「桔梗」
「んへ?」
口より先に行動が出る私は、きっと今薬に酷く犯されているのだ。私は彼女の頬を片手で掴めば噛みつくような口づけをおみまいした。だめだと自分の中で言い聞かせているのに、やめてくれない。このままだと全てを失う。自分の欲は、なんなんだ…
「桔梗…」
なんだろうこの状況、私今何されてるの。
食事を終えた私は珍しく器具を外しているこの男の様子が心配でならなかった。目を閉じ頭を片手で支え、どこか苦しむようにない眉を潜めているのだ。頬を少し赤らめながらいるその様子はまるで熱でも出したかのような、そんな様。研究に没頭しすぎて風邪でも引いたのか、そもそも殺人鬼達は風邪を引くという概念があるのか。
私は彼が心配で思わずそれを口に出した時だった。この男は片手で私の顔を掴んで喰われるのではないかという勢いで私に接吻をしてきた。なんだろう、これ。本来こういう状況で人は目を閉じなければならないのだろうけど、私はあまりの驚きで目を見開いてしまった。いつもあんなに目をガン開きにしているこの男は私と反対でどこか満たされた様子で目を閉じている。なんだ、お嫁さんこいつどうしたんですか。怖い、急に怖いよ。
「、は…」
「ちょ、やめ」
一度ならまだ事故だと言い聞かせて許せたのに、この男は何度も角度を変えて私に唇を押し付けてくる。ガサガサに乾燥した唇は私に恐怖を与えた。今にも食べられるのではと思えるほど大きく口を開けては何度も口付けをして、何度も私の唇を食んでくる。以前風呂場でされたようなそんな口付け。あの時は酔っていた彼が、今は一体どういう心境でこの行動をするんだ。お願い、これ以上やめてくれ。だって私たちはそういう関係ではないでしょう?どうしたの急に、嫌だ、まだいつものあなたの方があなたらしいのに。怖くても許せるのに。
「桔梗」
「なん、で…ぁ!」
違った。あの時のようなキスではない、もっと深い口付け。私より大きい舌を口内いっぱいになるまでねじ込んでくれば頭が麻痺するまで中を犯された。体から直接伝わる卑下た水音、それが自分の背筋をゾクゾクとさせて、でもそれが嫌だと行動で示すことができない。口づけをされながら彼の指が私の腰を下から上へなぞり胸元へいく、まさか私はこれからこの男にそういうことをされるということなのか?
「す、すと…んー!」
大声を出そうとすればその口づけはより深いものになった。私に否定を許してくれない、今はただ彼がしたいようにされるだけの存在に成り下がっている自分が酷く憎い。病衣の上から片手で胸元を弄られ、擦れる先端をわざと指先でこねくり回してきた。布ごしで擦れそこが勃っているのが見なくてもわかる、それと同じように下半身がグツグツと湧き上がるように疼いた。これは致し方ない、生理現象というもの。私の意思でこうなっているわけではないのに、体が否定も抵抗してくれない。お嫁さんに助けを求めようにも、彼女は先ほど帰ってしまった。私はこのまま為すがままなのか。この舌を噛み砕いてやりたいのに、そんな力すら今の私には出てこない。どうして。
「桔梗」
「い、ぁ、あ…!」
「愛らしいな…桔梗」
「嘘つき…んっ」
心にもない言葉を、どうして彼は言ってのける。風呂場での時だってそうだ、他の時だって…私に優しくして言葉をかけて、こうしてやましいことをして、でも時に暴力的ですごく冷たい。あなたは私にどっちの態度で接したいの。
自分の中の気持ちが乱れる、やめてよ、私を洗脳しないで。
何度も苦しい口付けを交わし乳房を好きなだけいじった彼は私から少し体を離した。終わったのか、それとも正気を取り戻したのか。そう思っていた矢先、彼は私の下半身に手を出そうとしてきた。その瞳はどこか虚ろで死んでいて、でも確実に私を見つめている。そして病衣の中に手を潜り込ませ下着に指をかけた。だめだ、だめだ、だめ…
「やめい!」
「ゔ、!?」
やっと、やっと私の体が動いた。彼の腰に備えられていた金棒を両手で掴んで、それを引き抜けば彼の腰に目一杯打ち込む。鈍い声とともに彼は私に体を倒してきた。
やってしまった、私は人を殺めてしまった、こんなもので腹を殴られれば私だって確実に死ぬ。ああ私はこうしてお尋ね者になるんだ。エンティティとやらに私も殺人鬼と同じ仲間にされて、私の人生は終わるんだ。こんなことなら意地でもここから逃げ出してえぶにゃんの声優ライブ行きたかった、えぶにゃんの録画も見てないし、えぶにゃんのグッズだってこれからたくさん出るだろうからそれも買いたかった。あの売り切れだったマグカップも再販されていたかもしれないのに、私はこんなところで人生を棒に振ったのか。もう死にたい。
「ゔ……」
「あ、生きてるわ」
入りところが良かったのか悪かったのか、この男はそのまま気を失ってしまった。少しだけかいている汗が私に張り付くのが、絶妙に気持ち悪い。でも、これでよかったんだ。彼が望まないままこういうことをして、もし目が覚めた時に絶望させてしまったら、可哀想だから…
「だからおやすみ、少しだけここで寝ていいよ」
私は彼を強引に私の横に押し倒し布団をかけてあげる。あんなにひどいことをされたのに、どうして今の私は彼に優しくするんだろう。いや、優しさとかそういうのではなく、ただ無意識にしたんだ。
さっきのことは無かったことにはしない、でも、忘れたふりはする。だってあなたが起きたら状況に驚くだろう?
だから私を捨てないで、私で絶望しないで、これは私のわがまま…つまりは自分勝手なだけなのだ。優しさなんかではない、それはきっと、稀に優しくしてくれる彼も同じなんだ。
だから、だからだから。
傷付かないで。