悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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「ほぉ〜、これが言ってた花の種か」
「研究結果次第だが種の採取に成功した、物々交換だ」
「相変わらず効率しか考えねぇ男だなぁ」
クロータス・プレン・アサイラム。以前ここへ来た時より少しだけ空気が良くなっている気がするが、この場所はナースの居場所と違い少し明るすぎる。同じアサイラムの中でもこうも雰囲気が違うのは、その地に住む殺人鬼の個性というものが影響しているせいだろう。
私は新参者のクラウンが住むこの教会へ、例の品を提供をしてもらうために出向いた。殺人鬼の中でも少し落ち着きのある彼だが、'癖'だけは他の殺人鬼の上をゆく者だ、油断してはいけない。クラウンは待ってろと一言置いて教会内の地下室へ向かっていったが、果たして望みのものは用意されているのだろうか。
「ほらよ」
「よく手に入れたな」
「サバイバーが落としてたからよ」
クラウンに頼んで手に入れてもらった品、壊れた眼鏡だ。これはサバイバーたちが稀に持っていたりするのだが、最悪の事態を対処するために私にはこれが必要だった。いや、私ではなく、あの女にだ。自分で手に入れることはあまりないため貴重なアイテムの一つ、私はそれをコートの中にそっとしまい込んだ。
「しっかしいつになったら嫁ちゃん見せてくれんだよ」
「ダメだ」
「他の奴らには言ったのか?レイスんところなら仲良くなれそうじゃねぇかぁ」
「必要がない、黙ってろ」
以前この男がレリーへ訪れた時の話だ。
白い物陰を見たと言われた時は衝撃のあまりに手元にあったペンで殴りつけてやろうと思ったが、この男は私の態度を見るや否や秘密を約束すると交渉に出てきた。まだこの世界に来て間もない彼にサバイバー以外の人間を、まして私の施設内で飼っている人間を殺すことまで頭が回らなかったらしい。好都合ではあるが、こうしてあの女の話を持ち出されるのは正直得意ではなかった。
「そもそも嫁ではない」
「でも嫁にする気だろう?」
「まさか、ただのモルモットだ」
偽ってない。事実それを目的で彼女を連れて帰ったのだ、だからそういう顔をするな。確かに実験という実験は何一つとしてしていないし、正直する気が起きないのも事実だ。だからといってそれでただ飼いならすだけで終わる私でもない。あの場所にもう少しいれば何か進展があり新たな実験が思いつくかもしれない、一概にして手を出さないとも言い切れない。だからモルモットで間違いないのだ。
「俺ぁあんたは変わったと思うけどなぁ」
「ナースから聞きでもしたのか」
「いや、ただ何というかよぉ…」
それから彼は口を開くことはなかった。なぜか罰の悪そうな、言いにくそうな表情でそのピエロ面を歪ませている。私には彼の考えを理解することはできないが、どうせ聞いたところで理解できるものでもない。ナースと変わらずくだらないことを言うに決まっていた。
私は用が済んだと一言添えてレリーへと向かおうとした。互いに今回の品に満足したのだ、これ以上ここにいる必要もなければ意味もない。研究の結果が出次第また出向くと伝えれば彼は口を濁しながらこう言ってきた。
「あんた、気づいてないだけだぜ…本当はもう知っちまってんだよ、あんたは」
「何を言っている」
「だから、あんたは愛を」
「くだらん」
嫌気がさした。彼の言葉をこれ以上聞くのは己に毒だとも思い、私は早足でその場から消えていった。クラウンは背後で未だに納得してない様子だったが、私はそれを頑なに無視した。これ以上関与しても、話を聞いても、きっと返ってくるのはナースとあまり変わらない。
だいたいあの女の話をしてどうやったら愛にまで行き着くのだ。まだ子供みたいな様子で、私に楯突くような、しかも力のない雑魚と変わらない存在。仮にそこに愛ができたとしても彼女からすれば私は殺人鬼、一度殺そうとした存在にそう容易く手を出されればただただ怯えるだけだ。私が彼女に優しくしているわけではなく、自分のために生かして使い時を待っているだけなのだ、ナースもクラウンもそれを勘違いをしている。
『あなたみたいですね』
あの白い花を指差しながら私のようだと語った彼女は、あの時何を思ってそう言ったんだ。薄くだが笑いながらそれを伝える彼女に、どこか恐怖すら感じる。殺人鬼を捕まえて花のようだと、殺そうとした相手に言えるセリフか。それとももう彼女は、私が殺そうとしたことすら記憶にないのか。
「もっと恐れ、もっと怯えさせなければ、私のモルモットに成り得ない」
少々甘くし過ぎた気がする。彼女で知らぬ間に己が満たされているのも、どこか安心を得ているのも気付いている。でもそれは彼らがいう愛ではない、そう思っている。それは間違いなのか?
「桔梗」
彼女がいないのに名前を呼ぶ自分は、どうかしている。生前から愛を学ばなかった私に、今更愛を感じられるとは思わない。だからきっとこれは、研究に対する、実験に対する好奇心の表れなのだ。そうだろう、エンティティ。だからお前は私に桔梗を渡したんだろう。
(ドクターももう少し素直になりゃあいいのによぉ)
「研究結果次第だが種の採取に成功した、物々交換だ」
「相変わらず効率しか考えねぇ男だなぁ」
クロータス・プレン・アサイラム。以前ここへ来た時より少しだけ空気が良くなっている気がするが、この場所はナースの居場所と違い少し明るすぎる。同じアサイラムの中でもこうも雰囲気が違うのは、その地に住む殺人鬼の個性というものが影響しているせいだろう。
私は新参者のクラウンが住むこの教会へ、例の品を提供をしてもらうために出向いた。殺人鬼の中でも少し落ち着きのある彼だが、'癖'だけは他の殺人鬼の上をゆく者だ、油断してはいけない。クラウンは待ってろと一言置いて教会内の地下室へ向かっていったが、果たして望みのものは用意されているのだろうか。
「ほらよ」
「よく手に入れたな」
「サバイバーが落としてたからよ」
クラウンに頼んで手に入れてもらった品、壊れた眼鏡だ。これはサバイバーたちが稀に持っていたりするのだが、最悪の事態を対処するために私にはこれが必要だった。いや、私ではなく、あの女にだ。自分で手に入れることはあまりないため貴重なアイテムの一つ、私はそれをコートの中にそっとしまい込んだ。
「しっかしいつになったら嫁ちゃん見せてくれんだよ」
「ダメだ」
「他の奴らには言ったのか?レイスんところなら仲良くなれそうじゃねぇかぁ」
「必要がない、黙ってろ」
以前この男がレリーへ訪れた時の話だ。
白い物陰を見たと言われた時は衝撃のあまりに手元にあったペンで殴りつけてやろうと思ったが、この男は私の態度を見るや否や秘密を約束すると交渉に出てきた。まだこの世界に来て間もない彼にサバイバー以外の人間を、まして私の施設内で飼っている人間を殺すことまで頭が回らなかったらしい。好都合ではあるが、こうしてあの女の話を持ち出されるのは正直得意ではなかった。
「そもそも嫁ではない」
「でも嫁にする気だろう?」
「まさか、ただのモルモットだ」
偽ってない。事実それを目的で彼女を連れて帰ったのだ、だからそういう顔をするな。確かに実験という実験は何一つとしてしていないし、正直する気が起きないのも事実だ。だからといってそれでただ飼いならすだけで終わる私でもない。あの場所にもう少しいれば何か進展があり新たな実験が思いつくかもしれない、一概にして手を出さないとも言い切れない。だからモルモットで間違いないのだ。
「俺ぁあんたは変わったと思うけどなぁ」
「ナースから聞きでもしたのか」
「いや、ただ何というかよぉ…」
それから彼は口を開くことはなかった。なぜか罰の悪そうな、言いにくそうな表情でそのピエロ面を歪ませている。私には彼の考えを理解することはできないが、どうせ聞いたところで理解できるものでもない。ナースと変わらずくだらないことを言うに決まっていた。
私は用が済んだと一言添えてレリーへと向かおうとした。互いに今回の品に満足したのだ、これ以上ここにいる必要もなければ意味もない。研究の結果が出次第また出向くと伝えれば彼は口を濁しながらこう言ってきた。
「あんた、気づいてないだけだぜ…本当はもう知っちまってんだよ、あんたは」
「何を言っている」
「だから、あんたは愛を」
「くだらん」
嫌気がさした。彼の言葉をこれ以上聞くのは己に毒だとも思い、私は早足でその場から消えていった。クラウンは背後で未だに納得してない様子だったが、私はそれを頑なに無視した。これ以上関与しても、話を聞いても、きっと返ってくるのはナースとあまり変わらない。
だいたいあの女の話をしてどうやったら愛にまで行き着くのだ。まだ子供みたいな様子で、私に楯突くような、しかも力のない雑魚と変わらない存在。仮にそこに愛ができたとしても彼女からすれば私は殺人鬼、一度殺そうとした存在にそう容易く手を出されればただただ怯えるだけだ。私が彼女に優しくしているわけではなく、自分のために生かして使い時を待っているだけなのだ、ナースもクラウンもそれを勘違いをしている。
『あなたみたいですね』
あの白い花を指差しながら私のようだと語った彼女は、あの時何を思ってそう言ったんだ。薄くだが笑いながらそれを伝える彼女に、どこか恐怖すら感じる。殺人鬼を捕まえて花のようだと、殺そうとした相手に言えるセリフか。それとももう彼女は、私が殺そうとしたことすら記憶にないのか。
「もっと恐れ、もっと怯えさせなければ、私のモルモットに成り得ない」
少々甘くし過ぎた気がする。彼女で知らぬ間に己が満たされているのも、どこか安心を得ているのも気付いている。でもそれは彼らがいう愛ではない、そう思っている。それは間違いなのか?
「桔梗」
彼女がいないのに名前を呼ぶ自分は、どうかしている。生前から愛を学ばなかった私に、今更愛を感じられるとは思わない。だからきっとこれは、研究に対する、実験に対する好奇心の表れなのだ。そうだろう、エンティティ。だからお前は私に桔梗を渡したんだろう。
(ドクターももう少し素直になりゃあいいのによぉ)