悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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「先日はありがとうございます、洗う場所なかったんでこのままなんですが」
「いいのよー、それにそれもう桔梗ちゃんのものなんだから」
「いや、やっぱり私には似合わないです…」
一週間ほど前にあの男と外の世界を歩いたことがあった。当時着ていた服はどうやらお嫁さんが私のためにと作ってくれた服らしいが、どう考えてもこんな上品な品質の服私には似合わない。というより、このお転婆具合でこの服を1ミリでも引き裂こうものなら、私の喉もそれと同じくらい引き裂いてやりたいレベルの上等品だと思う。自分の命と同じ重みの服を受け取れるほど自分に自信がない。
「大袈裟よ?」
「今はまだ預かってください…」
「それで、一つお願いが」
「あら珍しい、また外に行きたいの?」
「いやあの、食材と台所を貸していただきたいです」
「それはドクターに頼」
「お願いしますお嫁さん!」
あの男には言わないでと無理なお願いとともに私はその場で頭を下げる。バレては意味がないのだ、バレれば今すぐ寝ていろと怒られるし、そうすれば私がやりたいことはできなくなる。だからこの頭は彼女が困りながらでも承諾するまで上げてはいけない。辛抱強く待つ、それが今の私の使命だ。
私が頭を下げてから数秒、お嫁さんが溜息をつきながらその場から消えてしまった。これはダメだったということなのか?それで彼女はここにいるのが心苦しくなり、私の前からブリンクをして消えていったのか?やめろやめろ、そんなマイナスなことばかり考えるのは良くないぞ。でも…今の状況でそう考えてしまうのは仕方ないよな、仕方ないよな?
頭を下げたまま見捨てられたのではないかと、一人冷や汗かいて考え込んでいた私の目の前に再びブリンク音が鳴る。ああ帰ってきた、私を哀れに思い帰ってきてくれたと頭を上げれば彼女の手の中には肉や野菜らしきものがゴロゴロとありそれを私に渡してきた。
「これ使っていいわよ」
「え、マジスカ」
「余った材料は今から案内する貯蓄庫にしまっておいてね」
「神オブザゴッドですお嫁さん」
私達はそれらを両手に案内すると言われた貯蓄庫とキッチンへ向かった。流石に多少の調味料とか調理具はあるだろうと思い、それを踏まえて一体この謎めいた材料で何を作ろうかと考える。まともな名前の料理は到底できそうにない、作るとすればいつも私が食べているようなものしかできないだろう。そもそもあの男が何かを口にしているところを見たことがないが、果たしてあの体で食べ物を体内に入れることはできるのだろうか。こうして食材が存在する世界だから、少なからず食べることは日常に必要なことだろうとは思うが…
「ここよ、ドクター今仮眠取ってるから作るなら今のうちにね」
「ありがとうございます」
まあ、想像はしていたがここまでボロいとは思わなかった。物に関してはお嫁さんが整理しているからか配置通りと言わんばかりに整ってはいたが、壁が黒ずんで今にも崩れそうな箇所がたくさんある。果たしてこれで火を使うことが可能なのか、正直疑いたい。
とはいえ時間がないからつべこべいってられないのだ、多分殺人とかに使ってないであろう包丁で肉や具材を一口サイズに切ってただそれをミルクで煮込むだけ。なんだその料理はと言われるかもしれないが、実際これ以外に渡された材料内で思いつかないのだ。今では普通に食べている野菜も、本当に野菜という部類なのかもわからないレベルのもの。それでどう料理しろというのだ、むしろ彼らが作っているあれに、栄養食以外の名前をつけるとしたら何だ。シチューか、シチューなのか?
いつも私が使っているものより少し大きいめの器に30分ほどじっくり煮込んだそれを注ぐ。味はやはりどう頑張ってもクリーミーなものになってしまったが、仕方ない。いやもうこれしか無理、まともな調味料なかったもん。でも味そのものはそこまで悪くないと思う、なんなら料理を滅多にしない私にしてはなかなかの出来前だと思う。だれか褒めろ。
私はそれを片手に彼が仮眠を取っているであろう図書室へ向かうことにした。あの場所はそこだけレトロで雰囲気のいい場所になっていて、ひっそりそこで時間を潰すのが最近の私の楽しみにもなっていた。ほとんどの本がまともなものではないのだけれど、それでも数冊ある小説本はなかなか心にくる物語が詰まっていて、そのセンスだけはあの男を褒めてやりたくなる。
いや、今は私のことを褒めて欲しいのだけど。
「なんだ」
「うわお」
起きてるじゃねぇか。
あの男は図書室の窓枠に腰をかけて気だるそうに解剖書を読んでいた。今更この男がその本を読む必要性はあるのか。いや、無いな、こりゃ相当暇だったみたいだ。私は起こす予定が早々に見つかったことに一瞬焦りを感じるも、彼の近くにあった机にまだ暖かい食事をそっと置いた。窓枠に座っているにもかかわらず私より上にある目線がこちらを見下ろしてくる。こうしてみるとやはりこの男は口の器具を外していた方が鼻が高く見える、別に今更それを指摘するつもりもないけれど。
「ナースか」
「いえ、私です…」
「は?」
「つまりですなぁ、これはあれです。この間外に連れ出してくれた…まぁお礼みたいな」
「お前も媚びることを覚えたか」
「煽てたらまた連れ出してくれるかなって」
「おい」
我ながらアホだと思う。こんなこと言えばこの男の機嫌が悪くなることくらいわかっているのに、何故こういう言い方しかできないんだ。ただ普通にお礼がしたかった、とその一言でいいはずなのに。本人は器具の外れた唇をいつもより不機嫌そうに下げて私を凝視した、そりゃそういう反応もしたくなる。
私はその場を誤魔化そうと空咳をして机に備えられた椅子をきき、と引く。そしてこの男の手を無理やり引いて強引にそこへ座らせた。食べて欲しいなんて、そんな恥ずかしい台詞が言えるわけない。だから行動で、食べて欲しいと示しただけ。この男ならそれで理解してくれるはず。
「料理ができたのか」
「専門分野ではありません」
「だろうな」
「馬鹿にしたよな今、なぁ」
ああこれはさっきの仕返しなんだろう、そう取っておこう。
それからこの男は何も話さなくなり黙ってスプーンでそれを掬って口にした。殺人鬼ならもう少し毒が入ってるのではとか、そこら辺気にするものではないのか。それともそこまで気が回らないほど馬鹿だと思われているのか。なんでもいい、この際食べてくれるだけマシだと思わなければならない。
「えっと」
「普通だな」
「デスヨネー」
期待してない。まさか美味しいなんて言ってもらえるととも思ってないし、そもそも褒めてもらえるほど美味いものを作ったわけでもない。なのに少しだけ自分が不満そうにしているのを感じる、理解しているはずなのに…こんな気持ちになりたくない。
きっとその気持ちが顔に出ていたのだろう。彼は食べながらずっと私の方を見てくるのだ、やめて欲しい。見ないで、こんな寂しさで満たされた私なんて。
「普通が悪い言葉だったか」
「いえ別に」
「女は面倒だな」
彼はそう言って片腕で私を引き寄せて膝の上に座らせてきた。あまりに自然な流れで抵抗するのも忘れていた私は、気付いた時には顔が熱くなっていた。近い、私を後ろから抱きしめるようにしてこの男は食事をしている。食べるときに屈むせいで余計に身体が密着して恥ずかしさが増した。いや誰得だよこんな状況、そんなに私は寂しそうな顔をしていたか。まさかこの男、私を赤ちゃんだと思ってあやしてくれているのか。
あんなに彼に近づくのが嫌だったはずなのに、今では慣れたようにこうして近づくことができるのは、最早洗脳されているとしか思えない。彼らは私の身体が完治する前に、すでに実験を始めていたということか。脳から徐々に侵食して、いずれ私が抵抗できなくなったときに本格的にすると。頭のいい方法だ、悔しいぞ。
「おい」
「へえ?」
「私は基本食事をそこまで取らない。だから、こうして食べるのはそれなりの味ということだ」
「へぇ…へ?」
「覚えておけ」
まずい、まともに話を聞いていなかった上に言ってることをうまく理解できなかった。でも多分、不味くないぞってことを彼は伝えてくれたんだと思う。そこまでこの男に気を遣わせてしまったのか。くぅ…やはり私は最強な気がしてきた。
情けない返事をしたにも関わらず、彼は黙々と私の作った料理を口にしてくれた。その大きな口で胃の中に放り込んでいくそれ、ちゃんと噛んでますか。まさか丸呑みしても殺人鬼は大丈夫みたいな、そんな高機能あったら是非私に分けて欲しい。秒でご飯食べる能力欲しい。
そうこう考えているうちに山盛りに入れたはずのシチューもどきが、カラカラと乾いた音を立てて無くなってしまった。凄い食べっぷりだ。でも私が回復したらもっと食べれる自信があるぞ。食事を終えた彼は私を離すことなく先ほどまで読んでいた書を再び読み出した。あれ、なんで離してくれないんだ、これを片付けに戻りたいのに。私は彼の腕の中でもごもごと動けば不服そうな視線をこちらに向けてきた。
「なんだ」
「いやこっちのセリフだよ、片付けしに行くから」
「もう少し待て」
そう言ってその視線は再び本へと移った。このままかぁ…このまま?このままということはだ。彼の腕の中で彼の心拍数を聞きながら大人しくしてろということだろ?できるかそんなの。無駄に意識してしまうほどの距離でどう対応すればいいんだ私は。
(あれ、この人こんなに暖かかったっけか)
不思議だ。昔はただ近くにいるだけで怖くて、何もできなくて、私は無力だと思い知らされていた過去が。今ではこんなに彼の心拍数で焦って、でもそれが心地よくて…こう、つい眠くなってしまう。このまま寝たらこの男に迷惑をかけてしまう、面倒だと言って転がされてしまうかもしれない。なのに、どこかでいつもみたいに、抱き上げてベッドまで運んでくれることを願ってしまう。ねえ、ハーマン・カーター、あなたは何故ここまで私の中に居続ける。この心地よさは……
「寝たのか」
意識が薄れる中であなたの声が聞こえる。額に柔らかな温もりが一瞬感じられたけど、
それ、は、何…だったっけ……
「いいのよー、それにそれもう桔梗ちゃんのものなんだから」
「いや、やっぱり私には似合わないです…」
一週間ほど前にあの男と外の世界を歩いたことがあった。当時着ていた服はどうやらお嫁さんが私のためにと作ってくれた服らしいが、どう考えてもこんな上品な品質の服私には似合わない。というより、このお転婆具合でこの服を1ミリでも引き裂こうものなら、私の喉もそれと同じくらい引き裂いてやりたいレベルの上等品だと思う。自分の命と同じ重みの服を受け取れるほど自分に自信がない。
「大袈裟よ?」
「今はまだ預かってください…」
「それで、一つお願いが」
「あら珍しい、また外に行きたいの?」
「いやあの、食材と台所を貸していただきたいです」
「それはドクターに頼」
「お願いしますお嫁さん!」
あの男には言わないでと無理なお願いとともに私はその場で頭を下げる。バレては意味がないのだ、バレれば今すぐ寝ていろと怒られるし、そうすれば私がやりたいことはできなくなる。だからこの頭は彼女が困りながらでも承諾するまで上げてはいけない。辛抱強く待つ、それが今の私の使命だ。
私が頭を下げてから数秒、お嫁さんが溜息をつきながらその場から消えてしまった。これはダメだったということなのか?それで彼女はここにいるのが心苦しくなり、私の前からブリンクをして消えていったのか?やめろやめろ、そんなマイナスなことばかり考えるのは良くないぞ。でも…今の状況でそう考えてしまうのは仕方ないよな、仕方ないよな?
頭を下げたまま見捨てられたのではないかと、一人冷や汗かいて考え込んでいた私の目の前に再びブリンク音が鳴る。ああ帰ってきた、私を哀れに思い帰ってきてくれたと頭を上げれば彼女の手の中には肉や野菜らしきものがゴロゴロとありそれを私に渡してきた。
「これ使っていいわよ」
「え、マジスカ」
「余った材料は今から案内する貯蓄庫にしまっておいてね」
「神オブザゴッドですお嫁さん」
私達はそれらを両手に案内すると言われた貯蓄庫とキッチンへ向かった。流石に多少の調味料とか調理具はあるだろうと思い、それを踏まえて一体この謎めいた材料で何を作ろうかと考える。まともな名前の料理は到底できそうにない、作るとすればいつも私が食べているようなものしかできないだろう。そもそもあの男が何かを口にしているところを見たことがないが、果たしてあの体で食べ物を体内に入れることはできるのだろうか。こうして食材が存在する世界だから、少なからず食べることは日常に必要なことだろうとは思うが…
「ここよ、ドクター今仮眠取ってるから作るなら今のうちにね」
「ありがとうございます」
まあ、想像はしていたがここまでボロいとは思わなかった。物に関してはお嫁さんが整理しているからか配置通りと言わんばかりに整ってはいたが、壁が黒ずんで今にも崩れそうな箇所がたくさんある。果たしてこれで火を使うことが可能なのか、正直疑いたい。
とはいえ時間がないからつべこべいってられないのだ、多分殺人とかに使ってないであろう包丁で肉や具材を一口サイズに切ってただそれをミルクで煮込むだけ。なんだその料理はと言われるかもしれないが、実際これ以外に渡された材料内で思いつかないのだ。今では普通に食べている野菜も、本当に野菜という部類なのかもわからないレベルのもの。それでどう料理しろというのだ、むしろ彼らが作っているあれに、栄養食以外の名前をつけるとしたら何だ。シチューか、シチューなのか?
いつも私が使っているものより少し大きいめの器に30分ほどじっくり煮込んだそれを注ぐ。味はやはりどう頑張ってもクリーミーなものになってしまったが、仕方ない。いやもうこれしか無理、まともな調味料なかったもん。でも味そのものはそこまで悪くないと思う、なんなら料理を滅多にしない私にしてはなかなかの出来前だと思う。だれか褒めろ。
私はそれを片手に彼が仮眠を取っているであろう図書室へ向かうことにした。あの場所はそこだけレトロで雰囲気のいい場所になっていて、ひっそりそこで時間を潰すのが最近の私の楽しみにもなっていた。ほとんどの本がまともなものではないのだけれど、それでも数冊ある小説本はなかなか心にくる物語が詰まっていて、そのセンスだけはあの男を褒めてやりたくなる。
いや、今は私のことを褒めて欲しいのだけど。
「なんだ」
「うわお」
起きてるじゃねぇか。
あの男は図書室の窓枠に腰をかけて気だるそうに解剖書を読んでいた。今更この男がその本を読む必要性はあるのか。いや、無いな、こりゃ相当暇だったみたいだ。私は起こす予定が早々に見つかったことに一瞬焦りを感じるも、彼の近くにあった机にまだ暖かい食事をそっと置いた。窓枠に座っているにもかかわらず私より上にある目線がこちらを見下ろしてくる。こうしてみるとやはりこの男は口の器具を外していた方が鼻が高く見える、別に今更それを指摘するつもりもないけれど。
「ナースか」
「いえ、私です…」
「は?」
「つまりですなぁ、これはあれです。この間外に連れ出してくれた…まぁお礼みたいな」
「お前も媚びることを覚えたか」
「煽てたらまた連れ出してくれるかなって」
「おい」
我ながらアホだと思う。こんなこと言えばこの男の機嫌が悪くなることくらいわかっているのに、何故こういう言い方しかできないんだ。ただ普通にお礼がしたかった、とその一言でいいはずなのに。本人は器具の外れた唇をいつもより不機嫌そうに下げて私を凝視した、そりゃそういう反応もしたくなる。
私はその場を誤魔化そうと空咳をして机に備えられた椅子をきき、と引く。そしてこの男の手を無理やり引いて強引にそこへ座らせた。食べて欲しいなんて、そんな恥ずかしい台詞が言えるわけない。だから行動で、食べて欲しいと示しただけ。この男ならそれで理解してくれるはず。
「料理ができたのか」
「専門分野ではありません」
「だろうな」
「馬鹿にしたよな今、なぁ」
ああこれはさっきの仕返しなんだろう、そう取っておこう。
それからこの男は何も話さなくなり黙ってスプーンでそれを掬って口にした。殺人鬼ならもう少し毒が入ってるのではとか、そこら辺気にするものではないのか。それともそこまで気が回らないほど馬鹿だと思われているのか。なんでもいい、この際食べてくれるだけマシだと思わなければならない。
「えっと」
「普通だな」
「デスヨネー」
期待してない。まさか美味しいなんて言ってもらえるととも思ってないし、そもそも褒めてもらえるほど美味いものを作ったわけでもない。なのに少しだけ自分が不満そうにしているのを感じる、理解しているはずなのに…こんな気持ちになりたくない。
きっとその気持ちが顔に出ていたのだろう。彼は食べながらずっと私の方を見てくるのだ、やめて欲しい。見ないで、こんな寂しさで満たされた私なんて。
「普通が悪い言葉だったか」
「いえ別に」
「女は面倒だな」
彼はそう言って片腕で私を引き寄せて膝の上に座らせてきた。あまりに自然な流れで抵抗するのも忘れていた私は、気付いた時には顔が熱くなっていた。近い、私を後ろから抱きしめるようにしてこの男は食事をしている。食べるときに屈むせいで余計に身体が密着して恥ずかしさが増した。いや誰得だよこんな状況、そんなに私は寂しそうな顔をしていたか。まさかこの男、私を赤ちゃんだと思ってあやしてくれているのか。
あんなに彼に近づくのが嫌だったはずなのに、今では慣れたようにこうして近づくことができるのは、最早洗脳されているとしか思えない。彼らは私の身体が完治する前に、すでに実験を始めていたということか。脳から徐々に侵食して、いずれ私が抵抗できなくなったときに本格的にすると。頭のいい方法だ、悔しいぞ。
「おい」
「へえ?」
「私は基本食事をそこまで取らない。だから、こうして食べるのはそれなりの味ということだ」
「へぇ…へ?」
「覚えておけ」
まずい、まともに話を聞いていなかった上に言ってることをうまく理解できなかった。でも多分、不味くないぞってことを彼は伝えてくれたんだと思う。そこまでこの男に気を遣わせてしまったのか。くぅ…やはり私は最強な気がしてきた。
情けない返事をしたにも関わらず、彼は黙々と私の作った料理を口にしてくれた。その大きな口で胃の中に放り込んでいくそれ、ちゃんと噛んでますか。まさか丸呑みしても殺人鬼は大丈夫みたいな、そんな高機能あったら是非私に分けて欲しい。秒でご飯食べる能力欲しい。
そうこう考えているうちに山盛りに入れたはずのシチューもどきが、カラカラと乾いた音を立てて無くなってしまった。凄い食べっぷりだ。でも私が回復したらもっと食べれる自信があるぞ。食事を終えた彼は私を離すことなく先ほどまで読んでいた書を再び読み出した。あれ、なんで離してくれないんだ、これを片付けに戻りたいのに。私は彼の腕の中でもごもごと動けば不服そうな視線をこちらに向けてきた。
「なんだ」
「いやこっちのセリフだよ、片付けしに行くから」
「もう少し待て」
そう言ってその視線は再び本へと移った。このままかぁ…このまま?このままということはだ。彼の腕の中で彼の心拍数を聞きながら大人しくしてろということだろ?できるかそんなの。無駄に意識してしまうほどの距離でどう対応すればいいんだ私は。
(あれ、この人こんなに暖かかったっけか)
不思議だ。昔はただ近くにいるだけで怖くて、何もできなくて、私は無力だと思い知らされていた過去が。今ではこんなに彼の心拍数で焦って、でもそれが心地よくて…こう、つい眠くなってしまう。このまま寝たらこの男に迷惑をかけてしまう、面倒だと言って転がされてしまうかもしれない。なのに、どこかでいつもみたいに、抱き上げてベッドまで運んでくれることを願ってしまう。ねえ、ハーマン・カーター、あなたは何故ここまで私の中に居続ける。この心地よさは……
「寝たのか」
意識が薄れる中であなたの声が聞こえる。額に柔らかな温もりが一瞬感じられたけど、
それ、は、何…だったっけ……