悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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らしくない、という言葉は今の私に向けられる最大限の言葉だと自覚しよう。あの女の誘いを数日経った今自ら持ち出し、こうして外へ連れ出しているのだ。あれだけ外に出さずにいたこの存在を、少しだけだが許せるようになった…というよりは、ただ単に己とともにという言葉そのものに惹かれただけかもしれない。だからこそ、らしくないという言葉はまさにそれなのだ。
後ろを付いて回るこの女はいつものような白い病衣ではなく、彼女が完治した時用にとナースが作った漆黒のワンピースを着ている。この世界に溶け込めるような、しかしどこか存在感のあるその黒は余計に目立つのではないかとも思う。だいたいその服のセンスはいいとしても、その曲がって帽子はなんだ。魔女のような格好のそれに、他の殺人鬼達は新たな仲間が来たと思い寄ってくるかもしれない。やはりダメだ、一刻も早くその帽子を取れ、その方が顔もちゃんと見えて怪しくなくてずっといい。
「あ、ちょっと!」
「子供がこんなものかぶる価値もない」
「もう二十歳きてますけど」
私は振り向きながら彼女に手を伸ばしその目立った黒帽子を外し、いつもと違うコートの中に仕舞い込んだ。よく見れば彼女の簪の近くに白い花飾りが咲いている。珍しい、こんな世界に花が咲くことすら稀なのに、純白の花が咲くとは…
「聞いてます?」
「何がだ」
「だから!アサイラムって、お嫁さんのところ?」
「他にどこがある」
それともナースのやつ、またいらぬ情報でも教えたのか。たしかにクロータス・プレン・アサイラムは2箇所存在するが…まさか、彼女をあの男の元へ連れて行くなど考えたくもない。指を喰われて終わるだけだ。
さて、今回の目的はナースには事前に話していたが…いつもと変わらない、同じようにただ薬草を取るだけのことだ。先日ナースが新しい花が咲いていると言っていたのが気掛かりで研究の材料として少しだけ頂こうという魂胆だ。先ほども言った通りこの世界に花が咲くのはそう頻度にないことだが、だいたいの花は素晴らしい効果を発揮してくれるから花の研究及び調査は欠かせない。ただの草は似た者同士といわんばかりの薄い結果しか出ないからだ。
「どうした、疲れたか」
「まさか、目が覚めた当日にここまで歩きましたし」
「それもそうか」
今思えばこの女の力は底知れないものだった思う。それなりにあるこの距離を、重症状態で手も借りずここまで歩いたのだ。力こそ女程度にしかなかったが、根性だけはもしかしたら儀式に参加するサバイバー共よりずっとあるかもしれない。ああ、この女があの時私の手により儀式側の人間として送られていたとしたら、どの殺人鬼達もこの存在にだけは手こずるだろう。
それともその時は"平等にするため"にエンティティが改造でもするのだろうか。
「ちょっと!?」
「なんだ」
「せっかく一緒に歩いてんのに、黙らないでよ」
「何故喋らくてはならん」
「気まずいから」
「気まず」
「そう、気まずい!」
ダメだ、この女の言っていることは何一つとして理解できない…辛うじて理解できるとすればこの女もナースと変わらないほどの"お喋り"ということ。常に口を開いてないといけないような、哀れな存在なのだ。そんなに口を開けておきたいのなら私のように頭に器具でも装着していろ。
「お揃いで作ってやろうか」
「なんの話?」
「常に口を開けておきたいなら私の器具でも付けるか」
「そんなにうるさい?」
うるさい…いや、少し違う。少し前まではこの止まない喋り声が集中力を切らす元になっていたが、今はもうそういう類のものとは違う。煩いとも思えるが、今はただその声を聞いておきたい。こうなったのも全てこの女のせいだ、この女が私の脳をこう仕向けたのだ。だから今の私にはこの声を煩いと言って遮ることはできない。どちらが飼われている側なのか分かったものではない、が、間違わずとも飼っているのはこの私で飼われているのはこの女だ。
「お前はそこに座ってろ」
「え、それだけ?」
「今はな」
私達は予定通りアサイラムに到着する。彼女を岩場に座らせるために抱き上げれば、突然あっと声を出して彼女は私の後ろを指差した。珍しいものでも見たのかとちらりと後ろを向けば、そこには彼女の頭に刺さっている花と同じものが咲いていた。ナースのやつ、わざわざ私が出向かなくとも、こうして持ってこれるのなら最初からこうしてればいいものを。しかしまあ、こうしてこの女を連れ出す理由を作ってくれたことにはある意味感謝しなければならない。私はこんなくだらないことで嘘つき呼ばわりされたくない。
「あの花」
「見ればわかる、お前の頭に刺さってる」
「そうじゃなくて、あなたみたいですね」
「は?」
この女は何を言ってるんだ、そういう言葉は女に対して言うセリフではないのか。私を捕まえてそのセリフはあまりに論外だ、ナースが聞いたらただただ笑うだろう。戯言を聞く暇はないと、私は抱き上げたままの彼女を予定通り岩場に座らせた。
「お前はそこで黙って見てろ」
「えー!そりゃないよ、せっかく外に出れたのに?」
「嫌なら帰るか」
「遠慮!」
あれから1時間経った気がする、いつも通り採取を終えて私は立ち上がる。その間あの女は私に一切の関与することなく、ただ黙って背後で座っていた。一つ気まずいことといえば、常にこちらを眺めては何故か納得した表情をするのだ。
「なんだ」
「いえ、意外とこうしてあなたを見ているだけで満足するんだなと」
この女は何を言っているんだ、今日こうして思うのは二度目だぞ。どうしてくれるんだ、この心のモヤを。
私は全力で誤魔化すために彼女を片腕で抱き上げて歩き出した、もう終わり?と聞いてくるのに対してそうだと答えればどこが残念そうに口を尖らせている。それでいい、お前がそうやって混乱していればいい。私よりお前の方がその姿が似合う。
そうして表情をコロコロ変えるのはお前だけでいい。
(どう、外は楽しかった?)
(あの人みたいな花が咲いてて楽しかったです)
(ん?)
(ん?)
後ろを付いて回るこの女はいつものような白い病衣ではなく、彼女が完治した時用にとナースが作った漆黒のワンピースを着ている。この世界に溶け込めるような、しかしどこか存在感のあるその黒は余計に目立つのではないかとも思う。だいたいその服のセンスはいいとしても、その曲がって帽子はなんだ。魔女のような格好のそれに、他の殺人鬼達は新たな仲間が来たと思い寄ってくるかもしれない。やはりダメだ、一刻も早くその帽子を取れ、その方が顔もちゃんと見えて怪しくなくてずっといい。
「あ、ちょっと!」
「子供がこんなものかぶる価値もない」
「もう二十歳きてますけど」
私は振り向きながら彼女に手を伸ばしその目立った黒帽子を外し、いつもと違うコートの中に仕舞い込んだ。よく見れば彼女の簪の近くに白い花飾りが咲いている。珍しい、こんな世界に花が咲くことすら稀なのに、純白の花が咲くとは…
「聞いてます?」
「何がだ」
「だから!アサイラムって、お嫁さんのところ?」
「他にどこがある」
それともナースのやつ、またいらぬ情報でも教えたのか。たしかにクロータス・プレン・アサイラムは2箇所存在するが…まさか、彼女をあの男の元へ連れて行くなど考えたくもない。指を喰われて終わるだけだ。
さて、今回の目的はナースには事前に話していたが…いつもと変わらない、同じようにただ薬草を取るだけのことだ。先日ナースが新しい花が咲いていると言っていたのが気掛かりで研究の材料として少しだけ頂こうという魂胆だ。先ほども言った通りこの世界に花が咲くのはそう頻度にないことだが、だいたいの花は素晴らしい効果を発揮してくれるから花の研究及び調査は欠かせない。ただの草は似た者同士といわんばかりの薄い結果しか出ないからだ。
「どうした、疲れたか」
「まさか、目が覚めた当日にここまで歩きましたし」
「それもそうか」
今思えばこの女の力は底知れないものだった思う。それなりにあるこの距離を、重症状態で手も借りずここまで歩いたのだ。力こそ女程度にしかなかったが、根性だけはもしかしたら儀式に参加するサバイバー共よりずっとあるかもしれない。ああ、この女があの時私の手により儀式側の人間として送られていたとしたら、どの殺人鬼達もこの存在にだけは手こずるだろう。
それともその時は"平等にするため"にエンティティが改造でもするのだろうか。
「ちょっと!?」
「なんだ」
「せっかく一緒に歩いてんのに、黙らないでよ」
「何故喋らくてはならん」
「気まずいから」
「気まず」
「そう、気まずい!」
ダメだ、この女の言っていることは何一つとして理解できない…辛うじて理解できるとすればこの女もナースと変わらないほどの"お喋り"ということ。常に口を開いてないといけないような、哀れな存在なのだ。そんなに口を開けておきたいのなら私のように頭に器具でも装着していろ。
「お揃いで作ってやろうか」
「なんの話?」
「常に口を開けておきたいなら私の器具でも付けるか」
「そんなにうるさい?」
うるさい…いや、少し違う。少し前まではこの止まない喋り声が集中力を切らす元になっていたが、今はもうそういう類のものとは違う。煩いとも思えるが、今はただその声を聞いておきたい。こうなったのも全てこの女のせいだ、この女が私の脳をこう仕向けたのだ。だから今の私にはこの声を煩いと言って遮ることはできない。どちらが飼われている側なのか分かったものではない、が、間違わずとも飼っているのはこの私で飼われているのはこの女だ。
「お前はそこに座ってろ」
「え、それだけ?」
「今はな」
私達は予定通りアサイラムに到着する。彼女を岩場に座らせるために抱き上げれば、突然あっと声を出して彼女は私の後ろを指差した。珍しいものでも見たのかとちらりと後ろを向けば、そこには彼女の頭に刺さっている花と同じものが咲いていた。ナースのやつ、わざわざ私が出向かなくとも、こうして持ってこれるのなら最初からこうしてればいいものを。しかしまあ、こうしてこの女を連れ出す理由を作ってくれたことにはある意味感謝しなければならない。私はこんなくだらないことで嘘つき呼ばわりされたくない。
「あの花」
「見ればわかる、お前の頭に刺さってる」
「そうじゃなくて、あなたみたいですね」
「は?」
この女は何を言ってるんだ、そういう言葉は女に対して言うセリフではないのか。私を捕まえてそのセリフはあまりに論外だ、ナースが聞いたらただただ笑うだろう。戯言を聞く暇はないと、私は抱き上げたままの彼女を予定通り岩場に座らせた。
「お前はそこで黙って見てろ」
「えー!そりゃないよ、せっかく外に出れたのに?」
「嫌なら帰るか」
「遠慮!」
あれから1時間経った気がする、いつも通り採取を終えて私は立ち上がる。その間あの女は私に一切の関与することなく、ただ黙って背後で座っていた。一つ気まずいことといえば、常にこちらを眺めては何故か納得した表情をするのだ。
「なんだ」
「いえ、意外とこうしてあなたを見ているだけで満足するんだなと」
この女は何を言っているんだ、今日こうして思うのは二度目だぞ。どうしてくれるんだ、この心のモヤを。
私は全力で誤魔化すために彼女を片腕で抱き上げて歩き出した、もう終わり?と聞いてくるのに対してそうだと答えればどこが残念そうに口を尖らせている。それでいい、お前がそうやって混乱していればいい。私よりお前の方がその姿が似合う。
そうして表情をコロコロ変えるのはお前だけでいい。
(どう、外は楽しかった?)
(あの人みたいな花が咲いてて楽しかったです)
(ん?)
(ん?)