悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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傷口がだいぶ治ったお陰か、最近はこうしてシャワーを浴びさせてもらえることが多くなった。目覚めた当時こそ身体を拭くこと以外許されず常にモヤモヤした感覚が募っていたが、お嫁さんが入ってもいいよと言ってくれる日がこの頃は2日に1回の間隔になった。それだけ自分の傷口が回復したのだと身をもって実感できる。最初こそお湯はおろか水を浴びるだけで酷い痛みだったこの傷が、少しぶつけた程度では痛みを感じなくなった気がするのだ。そりゃ誰かさんのあの金棒で殴られれば傷だろうがなんだろうが痛いだろうし、ここに間違えて爪楊枝を刺そうものなら私はそいつの鼓膜を破るほど叫び声をあげて死んだふりをしたいが、今こうして考えられるのはそこまで余裕ができたということだろう。
お嫁さんが案内してくれたこのシャワールームはなかなか不便ではあったが、それでもこの世界に来た時よりかは幾分かマシにはなったし、彼女の私に対する気遣いに感謝と喜びを感じる。うん、やっぱり天使だよね。私は一人で笑いながら身体を洗い今はもう痛くない湯をかければ、天国だと思いながら目を瞑った。
「桔梗」
「ぎあぁぁぁあ!!?!」
地獄だ、浴室の錆びた扉が開けば背後からあの男の声が聞こえるのだ。私はどこから出たのか疑いたいレベルの酷い声をあげて視線だけ向けるよう後ろを向いた。湯気ではっきりと見えなかったが男は明らかにそこにいる、なんならいつも着ている白衣の上だけを脱いで上半身裸で入ってきたのだ。唯一何か違うといえば頭についている器具が丸ごと外されてthe-ハゲになっているところ。嫌だ、こんな状況黙々と実況したくないし願わくば一発二発私の拳を喰らわせてあげたい。
「はぁ…」
「いやはぁじゃね…くっさ!」
この男は裸である私の背中にくっついてくれば後ろから抱きしめて首元に顔を埋めてくる、そして顔元でため息を吐けば私は至極嫌な顔をしたと思う。
覚えがある、これは正月にお爺さんがよくうちで呑んでいたお酒の香りに似ている。まさか、いや嘘だと思いたい。彼は今酔ってわけもわからずここにきているということか?酔っ払いが風呂に入って泥酔死なんてことはざらに聞くが流石に目の前でそれを目撃するのは嫌だぞ。いや違う、馬鹿野郎もっと気にすべきことがあるだろう私は。
「あの!!?」
「んー…」
「ひぃ、やめてやめてお願い私お風呂なんですよ今!」
「桔梗…」
「あー!石鹸、石鹸まみれになりますよ!まだちゃんと流してい、いぃっ!?」
ガリ、と音がしたように感じた。彼は先日私の肩に噛み付いたことがあり、そこは血が出るほどくっきり穴を開けられて深い傷跡が残っている。そうだ、その反対側だとか横だとかならまだいいが、彼はあろうことかその傷口を抉るように噛んできた。瘡蓋に刺さる歯はあの時感じたものより痛く、目頭が熱くなった。酷い、人のお腹に手を添えて名前を何度も呼ぶくせに、治りかけの傷をえぐって更にその横に強く噛み付くのだ。当然そこからも血が流れて傷を増やされるのだからたまったもんじゃない。私は必死に彼を自分から剥がそうとしたが、男でもあり殺人鬼でもある彼が私の力一つで動くはずがなかった。
「い、痛い、痛い!」
「っは…桔梗……美味そうな、肌」
「ああああ酔っ払ってるんですよお願いします、お嫁さん、お嫁んー!」
「ん、黙ってろ、前にも言ったはずだ…」
酔っ払いが何を言っているのだと思うも、彼は左手で私の口を塞いで自由を奪った。だめだ、助けを求めないと痛みで頭が狂いそうだし、下手したら私は彼に食われる…まだ生きていたい、嫌だ。こんなところでもしかしなくてもシチューの肉にされてしまうかもしれない、昔みた危ないサイトのようにお風呂でスープにされてしまうかもしれない。
私は不安と痛みで支配され怖くなったのか、ビクビクと怯えて涙目になってしまった。悔しさで何度ももがこうとするが、抵抗すればするほど体に噛み傷が増える。彼の様子は変わらず怒っていたり満足そうに笑っていたりと情緒不安定の酔っ払いそのものだったが、私は彼を止めることができない。
「…っへ、あ、痛い、ドクターやめて…!」
「桔梗……桔梗、はは…」
狂ってる、狂気をそそるような笑い声で私を混乱させてくる。口を塞いでいた手を離して私の姿など御構い無しに正面を向かせてくる。見られてるとかそういう感情より、恐怖が勝っているのは女としてどうかと思うがそんなものはもうどうでもよかった。それより恐ろしいのは彼が私に顔を近づけて頬を舐めていることだった。犬のような戯れ合いではない。しつこくねっとりと、本当に何かを味わうように舐めてくるのだ。気持ちが悪くて多弁な私がとうとう何もいえなくなりただただ彼にされるがままだった。
「はは…ははは…」
普段の声から感じられない、渇いた高い笑い声が風呂場に反響する。何度も舐めた後己と視線を合わせてくる彼、次は何を、一体私をどうするの。
「はは…桔梗」
「は、はひ」
「…お前は、可愛いな」
「ひ!」
腹部をおさえていた両手が私の頬を包み込む、大きくて私の顔なんてその手に埋もれてしまう気がする。思ってもないことを口にする彼に首を横に振れば彼は軽く舌を出しながら迫ってきた。舐めるとかではない、もうこの歳になればわかる、彼は酔った勢いで私にキスをしようとしてるのだ。止めなければ、彼はきっと目覚めた時に後悔するんだ。
「や、だ」
「ん…」
「ドクター!!」
正直諦めていた。このまま彼に食されてしまうのだと、このまま彼を絶望させてしまうのだと。だからこそ、やはり彼女は私の女神様なのだと思う。怖くて瞑った目をそっと開ければ彼は気を失って私の胸元に顔を埋め、その後ろには私の救世主お嫁さんが鈍器を持って立ち尽くしていたのだ。先ほどの怖さと不安が一気に安心に変わると、一気に涙が溢れ出して彼女に泣きついた。
その後彼は酔いが覚めてもその時のことを覚えていなかった。ただ察したように一言謝って私の手当て済みの肩に目線を落としたのだから、私はため息しか出なかった。
(私は彼女とどこまでしたんだ?)
お嫁さんが案内してくれたこのシャワールームはなかなか不便ではあったが、それでもこの世界に来た時よりかは幾分かマシにはなったし、彼女の私に対する気遣いに感謝と喜びを感じる。うん、やっぱり天使だよね。私は一人で笑いながら身体を洗い今はもう痛くない湯をかければ、天国だと思いながら目を瞑った。
「桔梗」
「ぎあぁぁぁあ!!?!」
地獄だ、浴室の錆びた扉が開けば背後からあの男の声が聞こえるのだ。私はどこから出たのか疑いたいレベルの酷い声をあげて視線だけ向けるよう後ろを向いた。湯気ではっきりと見えなかったが男は明らかにそこにいる、なんならいつも着ている白衣の上だけを脱いで上半身裸で入ってきたのだ。唯一何か違うといえば頭についている器具が丸ごと外されてthe-ハゲになっているところ。嫌だ、こんな状況黙々と実況したくないし願わくば一発二発私の拳を喰らわせてあげたい。
「はぁ…」
「いやはぁじゃね…くっさ!」
この男は裸である私の背中にくっついてくれば後ろから抱きしめて首元に顔を埋めてくる、そして顔元でため息を吐けば私は至極嫌な顔をしたと思う。
覚えがある、これは正月にお爺さんがよくうちで呑んでいたお酒の香りに似ている。まさか、いや嘘だと思いたい。彼は今酔ってわけもわからずここにきているということか?酔っ払いが風呂に入って泥酔死なんてことはざらに聞くが流石に目の前でそれを目撃するのは嫌だぞ。いや違う、馬鹿野郎もっと気にすべきことがあるだろう私は。
「あの!!?」
「んー…」
「ひぃ、やめてやめてお願い私お風呂なんですよ今!」
「桔梗…」
「あー!石鹸、石鹸まみれになりますよ!まだちゃんと流してい、いぃっ!?」
ガリ、と音がしたように感じた。彼は先日私の肩に噛み付いたことがあり、そこは血が出るほどくっきり穴を開けられて深い傷跡が残っている。そうだ、その反対側だとか横だとかならまだいいが、彼はあろうことかその傷口を抉るように噛んできた。瘡蓋に刺さる歯はあの時感じたものより痛く、目頭が熱くなった。酷い、人のお腹に手を添えて名前を何度も呼ぶくせに、治りかけの傷をえぐって更にその横に強く噛み付くのだ。当然そこからも血が流れて傷を増やされるのだからたまったもんじゃない。私は必死に彼を自分から剥がそうとしたが、男でもあり殺人鬼でもある彼が私の力一つで動くはずがなかった。
「い、痛い、痛い!」
「っは…桔梗……美味そうな、肌」
「ああああ酔っ払ってるんですよお願いします、お嫁さん、お嫁んー!」
「ん、黙ってろ、前にも言ったはずだ…」
酔っ払いが何を言っているのだと思うも、彼は左手で私の口を塞いで自由を奪った。だめだ、助けを求めないと痛みで頭が狂いそうだし、下手したら私は彼に食われる…まだ生きていたい、嫌だ。こんなところでもしかしなくてもシチューの肉にされてしまうかもしれない、昔みた危ないサイトのようにお風呂でスープにされてしまうかもしれない。
私は不安と痛みで支配され怖くなったのか、ビクビクと怯えて涙目になってしまった。悔しさで何度ももがこうとするが、抵抗すればするほど体に噛み傷が増える。彼の様子は変わらず怒っていたり満足そうに笑っていたりと情緒不安定の酔っ払いそのものだったが、私は彼を止めることができない。
「…っへ、あ、痛い、ドクターやめて…!」
「桔梗……桔梗、はは…」
狂ってる、狂気をそそるような笑い声で私を混乱させてくる。口を塞いでいた手を離して私の姿など御構い無しに正面を向かせてくる。見られてるとかそういう感情より、恐怖が勝っているのは女としてどうかと思うがそんなものはもうどうでもよかった。それより恐ろしいのは彼が私に顔を近づけて頬を舐めていることだった。犬のような戯れ合いではない。しつこくねっとりと、本当に何かを味わうように舐めてくるのだ。気持ちが悪くて多弁な私がとうとう何もいえなくなりただただ彼にされるがままだった。
「はは…ははは…」
普段の声から感じられない、渇いた高い笑い声が風呂場に反響する。何度も舐めた後己と視線を合わせてくる彼、次は何を、一体私をどうするの。
「はは…桔梗」
「は、はひ」
「…お前は、可愛いな」
「ひ!」
腹部をおさえていた両手が私の頬を包み込む、大きくて私の顔なんてその手に埋もれてしまう気がする。思ってもないことを口にする彼に首を横に振れば彼は軽く舌を出しながら迫ってきた。舐めるとかではない、もうこの歳になればわかる、彼は酔った勢いで私にキスをしようとしてるのだ。止めなければ、彼はきっと目覚めた時に後悔するんだ。
「や、だ」
「ん…」
「ドクター!!」
正直諦めていた。このまま彼に食されてしまうのだと、このまま彼を絶望させてしまうのだと。だからこそ、やはり彼女は私の女神様なのだと思う。怖くて瞑った目をそっと開ければ彼は気を失って私の胸元に顔を埋め、その後ろには私の救世主お嫁さんが鈍器を持って立ち尽くしていたのだ。先ほどの怖さと不安が一気に安心に変わると、一気に涙が溢れ出して彼女に泣きついた。
その後彼は酔いが覚めてもその時のことを覚えていなかった。ただ察したように一言謝って私の手当て済みの肩に目線を落としたのだから、私はため息しか出なかった。
(私は彼女とどこまでしたんだ?)