悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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最近はこの施設に出入りする者が増えたせいか余計に賑やかになった気がする。レイスが患者を連れてきたり、それこそヒルビリーがあの女に会いにきてはチェーンソーを振り回したりと物音が悲鳴とともにこの施設に響く。そう、今も彼らの雑音が耳を劈き…
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ無理無理無りゃあぁぁぁぁぁぁあ!?」
「うはははぁ!」
なんだこの声は。資料を書く手が止まりそちらに意識が集中すれば通路から何かを引く物音とともにあの女の叫び声とヒルビリーの笑い声が聞こえた。確かにこれまで彼らの声が聞こえることは多々あったがこうも騒がしいのは初めてだった。私はこの集中を切らされたことに苛立ちを感じて一言怒りをぶつけに行こうと通路へ出た。
「あぁぁぁどけろどけろどけろぉぉぉお!!!?」
左に視線を向ければ私の怒りは当たり前のように沸点を超えた。あろうことか彼女は台車に乗って、その後ろをジェット機でも積んだかのような勢いでヒルビリーが押している、彼らはこの台車で遊んでいたのだ。このまま私がここにいれば当然のようにあれは減速が間に合うことなく私にぶつかるであろう。私はそれを覚悟に片脚を前に出して台車を強制的に止める。鈍い衝突音と共に台車に乗っていた女はその勢いで私に突っ込んできて、私を押し倒した。台車を押していたヒルビリーは一瞬何事かと固まるが数刻経てば焦ったように謝ってくる。その中、私の上にいる女は頭を抱えて震えていた。
「い、痛い…この人ロボットです」
「この状況でよくその口が聞けるな」
「酷いです、避けてくれれば私の寿命はもっと長かったはず」
「死にたいなら望み通りにしてやろう」
やめてくださいと言わんばかりに私の胸元で頭を下げる彼女に私は盛大なため息を吐く。もし私がいなかったらこのまま壁に叩きつけられその顔を二度と鏡で拝めなかったかもしれないというのに、何故こんなにも余裕な態度で私にものを言い返してくるのだ。私は彼女を肩に担いで立ち上がればヒルビリーの頭に乱暴だったが手を置いた。
「ヒルビリー、遊ぶのはいいがこいつも一応患者だ」
「一応じゃなくとも患者でーす」
「もう少し丁寧に扱わないと、この女と遊べなくなるぞ」
「ご、ごめんなさい…」
「いや患者って思うならこの担ぎ方酷くないですか?傷口抉れます」
「…なるほど、こちらの方が良かったか」
私は担いだ彼女を一度下ろし、そして今度は眠る彼女にしかしないような抱き方をしてやった。両手で優しく支えるように横抱きにして、自分の胸元に彼女をくっつけて少しでも己の怒りをおさめようとする。相手の顔が見えるように密着すれば彼女に変化が起きた。
「は、ひ」
その時には既に私の思考が停止していた。先ほどまであんなに減らず口だった彼女が、私と視線を合わせることもなくその瞳を大きく見開き、そして頬を紅潮させていた。何かを言おうとしたのかその口は薄らと開いたままで、いつもつり上がった眉は困ったように下げている。思わず心臓がジワリと揺れる、これはあれだ、こんな表情の彼女を間近で見ることがなかったせいだ。自分に必死にそう言い聞かせて私は足を動かす。後ろで寂しそうに叫ぶヒルビリーに一瞬視線を向けてシーッと呟けば、察したのか察してないのか大人しく何処かへ行ってしまった。
いつもなら一刻も早く彼女を下ろしてやろうと思うのだが、私は何故か病室を無視してそのまま通路を歩いた。彼女も何事かと言わんばかりにこちらに視線を向けてくるが、私がわざと目を合わせれば焦ったようにそっぽを向いた。何か言いたげな顔が不安になったり言い出そうとしたりする様子が楽しくて、つい器具を外していた唇を歪ませた。
すると今度は彼女が珍しいものを見たかのように驚いて私を眺めた、先ほどとは違い視線が合おうがなんだろうがきょとりとしている。そんな彼女を無視して私は施設の端まで行けば、小さな小部屋に入り1つの台車に腰を下ろした。彼女は状況が理解できないと言わんばかりにそわそわとしている。
「あ、あの…」
「なんだ」
「んーっと、そう、笑うんですね」
「は?」
「いえ、だから。一度も笑った姿を見たことがなかったので」
成る程、彼女は私が先ほど歪んだ顔をしたのを笑ったと捉えたらしい。私は再度唇を歪ませてこうか、と顔を近づけてやれば焦ったように両手を前に出してきた。それは抵抗か、それとも反射的にか、どれが理由であろうと気にくわなかった私は右手で両手を掴んで大人しくさせた。
「私帰らないでいいんですか」
「帰らないとダメに決まっているだろ」
「えぇ…」
「お前は、もう少し自分を大切にしろ。何のために治療をしていると思う」
「それは、知りませんよ…前にも質問しましたが答える前にフレディおじ」
「ああ、それはもういい」
気に入らない名が彼女の口から出れば頭を支えていた左手を口に回して黙らせる。喋る事も手を出す事も封じられ私の腕の中に未だいる彼女は困ったようにキョロキョロと視線をあちこちに向け眉を下げた。
正直自分は何がしたくてここにこいつを連れてきたのか、何故そのまま病室へ連れて行かなかったのかがわからない。こうして誰もいない二人の空間を無理やり作って、彼女の行動も言動も奪い、私はこの先彼女にどうしろと言うのだ。自分は彼女に何を求めている。
「桔梗」
「ぐ?!」
私は自分に問いかけながら無意識に彼女の肩に噛み付いた、ギリギリとその肉がぶつりと音を立てて血を流すまで。普段むき出しにされているその歯を彼女の柔らかい肩に突き立てたのだ。当然彼女は喉から唸るような声を上げるが私はそれを無視して彼女に痛みを与えた。唯一自由な足をバタバタと動かして、その宝石には大粒の涙が溜まっている。それが私を酷く惹きつけた。
「悪いのはお前だ」
「ぐ、んっ!!?」
「これは躾だ、私がああして止めていなかったら本当に事故になっていたかもしれない」
「んん、ぐ、ぐぅ!!」
「理解しろ、お前は私のモルモットだ。黙って治療され大人しくしていろ」
「ぶ!!…っは!」
じわりと唇に感じる熱とともに口内に広がる鉄の味、彼女の肩にくっきりと歯の傷ができれば私はひと舐めして彼女から離れる。口を押さえていた手を離してやれば震えるように私の腕の中で大人しくなり、私が与えた痛みに耐えている彼女がそこにいた。それがどうしてか己を傷つけ、しかしそれと同時に己を満足させた。
「わかったな」
最後の一押しをすれば彼女は私に視線を向けるや否やこくこくと首を縦に振って怯えた瞳で私を見つめる。
本当にモルモットになったような、そんな哀れな様子で。
(この人は何故こんなに、寂しそうな顔をしてるんだろう)
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ無理無理無りゃあぁぁぁぁぁぁあ!?」
「うはははぁ!」
なんだこの声は。資料を書く手が止まりそちらに意識が集中すれば通路から何かを引く物音とともにあの女の叫び声とヒルビリーの笑い声が聞こえた。確かにこれまで彼らの声が聞こえることは多々あったがこうも騒がしいのは初めてだった。私はこの集中を切らされたことに苛立ちを感じて一言怒りをぶつけに行こうと通路へ出た。
「あぁぁぁどけろどけろどけろぉぉぉお!!!?」
左に視線を向ければ私の怒りは当たり前のように沸点を超えた。あろうことか彼女は台車に乗って、その後ろをジェット機でも積んだかのような勢いでヒルビリーが押している、彼らはこの台車で遊んでいたのだ。このまま私がここにいれば当然のようにあれは減速が間に合うことなく私にぶつかるであろう。私はそれを覚悟に片脚を前に出して台車を強制的に止める。鈍い衝突音と共に台車に乗っていた女はその勢いで私に突っ込んできて、私を押し倒した。台車を押していたヒルビリーは一瞬何事かと固まるが数刻経てば焦ったように謝ってくる。その中、私の上にいる女は頭を抱えて震えていた。
「い、痛い…この人ロボットです」
「この状況でよくその口が聞けるな」
「酷いです、避けてくれれば私の寿命はもっと長かったはず」
「死にたいなら望み通りにしてやろう」
やめてくださいと言わんばかりに私の胸元で頭を下げる彼女に私は盛大なため息を吐く。もし私がいなかったらこのまま壁に叩きつけられその顔を二度と鏡で拝めなかったかもしれないというのに、何故こんなにも余裕な態度で私にものを言い返してくるのだ。私は彼女を肩に担いで立ち上がればヒルビリーの頭に乱暴だったが手を置いた。
「ヒルビリー、遊ぶのはいいがこいつも一応患者だ」
「一応じゃなくとも患者でーす」
「もう少し丁寧に扱わないと、この女と遊べなくなるぞ」
「ご、ごめんなさい…」
「いや患者って思うならこの担ぎ方酷くないですか?傷口抉れます」
「…なるほど、こちらの方が良かったか」
私は担いだ彼女を一度下ろし、そして今度は眠る彼女にしかしないような抱き方をしてやった。両手で優しく支えるように横抱きにして、自分の胸元に彼女をくっつけて少しでも己の怒りをおさめようとする。相手の顔が見えるように密着すれば彼女に変化が起きた。
「は、ひ」
その時には既に私の思考が停止していた。先ほどまであんなに減らず口だった彼女が、私と視線を合わせることもなくその瞳を大きく見開き、そして頬を紅潮させていた。何かを言おうとしたのかその口は薄らと開いたままで、いつもつり上がった眉は困ったように下げている。思わず心臓がジワリと揺れる、これはあれだ、こんな表情の彼女を間近で見ることがなかったせいだ。自分に必死にそう言い聞かせて私は足を動かす。後ろで寂しそうに叫ぶヒルビリーに一瞬視線を向けてシーッと呟けば、察したのか察してないのか大人しく何処かへ行ってしまった。
いつもなら一刻も早く彼女を下ろしてやろうと思うのだが、私は何故か病室を無視してそのまま通路を歩いた。彼女も何事かと言わんばかりにこちらに視線を向けてくるが、私がわざと目を合わせれば焦ったようにそっぽを向いた。何か言いたげな顔が不安になったり言い出そうとしたりする様子が楽しくて、つい器具を外していた唇を歪ませた。
すると今度は彼女が珍しいものを見たかのように驚いて私を眺めた、先ほどとは違い視線が合おうがなんだろうがきょとりとしている。そんな彼女を無視して私は施設の端まで行けば、小さな小部屋に入り1つの台車に腰を下ろした。彼女は状況が理解できないと言わんばかりにそわそわとしている。
「あ、あの…」
「なんだ」
「んーっと、そう、笑うんですね」
「は?」
「いえ、だから。一度も笑った姿を見たことがなかったので」
成る程、彼女は私が先ほど歪んだ顔をしたのを笑ったと捉えたらしい。私は再度唇を歪ませてこうか、と顔を近づけてやれば焦ったように両手を前に出してきた。それは抵抗か、それとも反射的にか、どれが理由であろうと気にくわなかった私は右手で両手を掴んで大人しくさせた。
「私帰らないでいいんですか」
「帰らないとダメに決まっているだろ」
「えぇ…」
「お前は、もう少し自分を大切にしろ。何のために治療をしていると思う」
「それは、知りませんよ…前にも質問しましたが答える前にフレディおじ」
「ああ、それはもういい」
気に入らない名が彼女の口から出れば頭を支えていた左手を口に回して黙らせる。喋る事も手を出す事も封じられ私の腕の中に未だいる彼女は困ったようにキョロキョロと視線をあちこちに向け眉を下げた。
正直自分は何がしたくてここにこいつを連れてきたのか、何故そのまま病室へ連れて行かなかったのかがわからない。こうして誰もいない二人の空間を無理やり作って、彼女の行動も言動も奪い、私はこの先彼女にどうしろと言うのだ。自分は彼女に何を求めている。
「桔梗」
「ぐ?!」
私は自分に問いかけながら無意識に彼女の肩に噛み付いた、ギリギリとその肉がぶつりと音を立てて血を流すまで。普段むき出しにされているその歯を彼女の柔らかい肩に突き立てたのだ。当然彼女は喉から唸るような声を上げるが私はそれを無視して彼女に痛みを与えた。唯一自由な足をバタバタと動かして、その宝石には大粒の涙が溜まっている。それが私を酷く惹きつけた。
「悪いのはお前だ」
「ぐ、んっ!!?」
「これは躾だ、私がああして止めていなかったら本当に事故になっていたかもしれない」
「んん、ぐ、ぐぅ!!」
「理解しろ、お前は私のモルモットだ。黙って治療され大人しくしていろ」
「ぶ!!…っは!」
じわりと唇に感じる熱とともに口内に広がる鉄の味、彼女の肩にくっきりと歯の傷ができれば私はひと舐めして彼女から離れる。口を押さえていた手を離してやれば震えるように私の腕の中で大人しくなり、私が与えた痛みに耐えている彼女がそこにいた。それがどうしてか己を傷つけ、しかしそれと同時に己を満足させた。
「わかったな」
最後の一押しをすれば彼女は私に視線を向けるや否やこくこくと首を縦に振って怯えた瞳で私を見つめる。
本当にモルモットになったような、そんな哀れな様子で。
(この人は何故こんなに、寂しそうな顔をしてるんだろう)