悪魔と殺人鬼
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「いや!嫌だー!やだやだ!」
「黙れ」
「お嫁さぁん!死にたくないよ!」
「大丈夫よ、別に死なないから…」
「絶対嫌!」
今日も今日とてこの女は煩い。普段はあんなにもしおらしくベッドの上で漠然としていると思えばこのザマだ、あの世話焼きなナースですら手を焼いている。
「サイコパス先生が作った飯とか話になりません」
「粥みたいなものだ、今のお前が固形の食い物なんて食えば一瞬で胃が破裂するぞ」
「なぜ」
「お前は人の話を聞いてないのか?」
「聞いてます、お前は人の話を聞いてないのか?って言いました」
私はここ数日で学んだことがある、それは多少患者に乱暴をしても大丈夫ということだ。私はこの女の首を左手で掴む、当然彼女は驚いたように目を見開き口をはくはくと開け、踠きながら私の手に爪を立ててくる。すかさず横にいるナースが必死に私を抑え込もうとするがそんなものは今の私には効かない。私は右手のスプーンで栄養食を軽く掬いそのだらしなく開いた口に無理やり落とした。維持でも食べたくない彼女はそれを吐き出そうとするが、そうはさせまいと私は左手を首から口へ移動させ無理矢理口を閉じさせる。嫌だといわんばかりに首を横にふるがそれも無視だ。あちらも維持で対抗するならこちらも維持だ、私はスプーンを乱暴に投げ彼女の鼻を摘み上げる。ぐく、と喉の膨らみが下に移動するのを確認すればその手を離してやる。1.2回ほど軽く噎せた彼女は私を睨みつけてくるが、それを鼻で嗤ってやった。
「この鬼」
「言ってろ」
「お嫁さんこの人どうにかして」
「ふ、ふふ…」
「1時間ほどして生きていたらちゃんと残りを食え、身体が回復しないままだぞ」
「死んでたら?」
「そんなんで死ぬか」
毒を盛ったわけでもない、本当にただ普通に作っただけの栄養食だ。むしろこれで死ぬならこの女はもっと早い段階で墓の中にいるかエンティティにでも捧げられている。ナースが何処か楽しそうに笑っているのはこの女の私に対する態度であろうか、確かに殺人鬼である私にこの態度だ。トラッパーやレイスが見れば楽しそうにするだろうな、見せる必要などないから見せないが。
「ドクター、本日は」
「あぁ、ヒルビリーが来るんだろう」
「え、来るの?」
「お前は会話に入るな」
「ひっど」
中指を立てている彼女を私は全力で無視した。構っているだけ時間の無駄だ、ヒルビリーが来る前に出来る限りの準備をしよう。私は席を立ちナースに後のことを任せてその場を去った。後ろで野次を飛ばして来るあの女の声は部屋を出ればモニターの叫び声に混ざりすぐに聞こえなくなった。
「もー、なんだあのハゲ」
「簡易的になったのね呼び方が」
ここ数週間で私は彼に多数の酷い扱いを受けた。顔を洗おうと洗面器に水を貯めればさっさとしろと頭を掴まれ溺死させられそうになったり、眠れない時にお嫁さんとうだうだ話していれば早く寝ろと体に電気を浴びさせてきたり…今だってそうだ、おもくそ強引に私に飯を食わせた。なんだってこんな目に会わなければならないんだ、私だって生身の人間なんだぞ。少なくとも患者と思うのならいい加減にしてくれないと死ぬぞ。
「許してあげて、彼なりの優しさよ」
「何 を 言 っ て い る の ?」
優しさではない、あれは私を殺しにかかっている。彼は私をいずれは殺すんだ。今は元気になるまで待っているだけで、私がまともなものを食べれるようになればブクブクに太らせ、そして肉として食べられてしまうんだ。あのひん剥いた歯で肉を千切られそしてあの電気で焼いて、さぞジューシーな私のお肉を食べるんだ。くそ、贅沢…違う、なんて無残なんだ。私は森で迷子になってカニバリズムに食べられるなんてお話絶対聞きたくないし、それが自分だなんてもっと嫌だ。
「お嫁さん、ヒルビリーはいつ来るの」
「もう少ししたらだと思うわ、でも会えないわよ?」
「何故?」
「ドクターが治りきってないからダメだって」
「なにそれ、ベッドから出ないなら変わらないよ」
全くもってその通りだと思う。確かに彼のチェーンソーで間違って死んでしまうなんてことは事故としてあるかもしれないけれど、私を夢から覚ましてくれたのはあの子だし、あの時あの子の手があったから色々と理解できるようになったんだ。彼がまだ心が子供だろうと、私は少なくとも助けられた身としてお礼を言いたい。
「ごめんなさいね、でももう少し待ってくれないかしら」
「んー…お嫁さんが言うなら」
納得なんてしていない、だが彼女が申し訳なさそうに私にそう言って来るんだ、これ以上わがままを言ったところで彼女を困らせるだけだ。後正直殺されるならこの人に殺されたい、きっと優しく殺してくれるだろうし、私はこの人がこの世界の中では好きだ。仮に殺人鬼でも。
私はなにもすることがなくなったのと先ほどあの男と言い合ったせいか身体が怠くなり、そのまま倒れるようにベッドに体を寝かせた。お嫁さんが私にそっと布団をかけてくれる。この世界で暖かいと最初に感じたのはこの布団だ。人と触れ合おうと、外に出て日に当たろうとしても、未だこの布団以外で温もりを感じたことがない。今の私にとってこの布団は堪らないほどの祝福だった。
その温もりはいつでも私に眠気を与えてくれる、柔らかく暖かく、夢が私を誘うように。
気付けばいつだって私は夢の世界に存在して、目が醒めるまで"彼"とお話をするんだ。
「桔梗ちゃん、こんにちは」
「私は今寝たからこんばんわって気分だよ」
「まだ昼間だからねぇ、俺も暇潰しを探していたんだ」
彼は私の夢に入り込んできたおじさん。最初こそ人の夢に入ってきたなんて言ってくるこの男を私は一つも信用しなかった。だってここは私の夢の中、一つ視点を変えれば私の想像の中の人物がただ夢に出てきたとも考えられるからだ。だが違う、彼は本当に私の夢の中に入ってきている。その証拠ではないのだが、彼はドクターと呼ばれるあの男の生前の名を教えてくれた。ハーマン・カーター、それが彼の本当の名前なのかはまだわからないが少なくとも夢の中でそんなことを言う人物を、今はおとなしく信じるしかなかった。
「今日もあのガキが来るかもね」
「いいよ、あれも"私"だし」
「ふぅ、俺はあれ嫌いだなぁ」
おじさんは腕組みをして私の横に座ってきた。そういえばこのおじさん、フレディっていうのだが…どうやら殺人鬼達の仲間らしい。確かに手に嵌められる長い爪の手袋には、いかにも人を殺していますと言わんばかりに血の油がテカって見える。手癖のようにチャリチャリと腕組みをしたまま爪を擦り合わせる彼のその音が私にとってはただの不快音でしかなく、しかし私はそれを口に出すことはできなかった。それを遮ったのはまぎれもない"私"。
『桔梗、君はいらない子だ』
「うん」
『君は本当になんの価値もない』
「うーん」
私は適当に返した、目の前の少女はその様子をつまらなさそうに見ていたが次の瞬間、フレディが彼女に斬りかかり、彼女は残像だったかのようにその二言を残して消えてしまった。どうでも良かった、夢の中の出来事なんて、夢の中でしか生きられない存在の戯言なんて。なのにこの横の人は、私の代わりにイライラしてくれた。歯を食いしばり目つきを尖らせ殺意をむき出しにしている、それはいつかの私の役目だったはずなのに。
「俺、今日儀式だから」
「うん」
「行ってくるよ」
彼はそう言って私の横髪を爪で掬ってそれに唇を落とした。おじいちゃんのような、でもヒーローのような、そんな存在。私はまた一人自分の夢の世界に取り残された。
「黙れ」
「お嫁さぁん!死にたくないよ!」
「大丈夫よ、別に死なないから…」
「絶対嫌!」
今日も今日とてこの女は煩い。普段はあんなにもしおらしくベッドの上で漠然としていると思えばこのザマだ、あの世話焼きなナースですら手を焼いている。
「サイコパス先生が作った飯とか話になりません」
「粥みたいなものだ、今のお前が固形の食い物なんて食えば一瞬で胃が破裂するぞ」
「なぜ」
「お前は人の話を聞いてないのか?」
「聞いてます、お前は人の話を聞いてないのか?って言いました」
私はここ数日で学んだことがある、それは多少患者に乱暴をしても大丈夫ということだ。私はこの女の首を左手で掴む、当然彼女は驚いたように目を見開き口をはくはくと開け、踠きながら私の手に爪を立ててくる。すかさず横にいるナースが必死に私を抑え込もうとするがそんなものは今の私には効かない。私は右手のスプーンで栄養食を軽く掬いそのだらしなく開いた口に無理やり落とした。維持でも食べたくない彼女はそれを吐き出そうとするが、そうはさせまいと私は左手を首から口へ移動させ無理矢理口を閉じさせる。嫌だといわんばかりに首を横にふるがそれも無視だ。あちらも維持で対抗するならこちらも維持だ、私はスプーンを乱暴に投げ彼女の鼻を摘み上げる。ぐく、と喉の膨らみが下に移動するのを確認すればその手を離してやる。1.2回ほど軽く噎せた彼女は私を睨みつけてくるが、それを鼻で嗤ってやった。
「この鬼」
「言ってろ」
「お嫁さんこの人どうにかして」
「ふ、ふふ…」
「1時間ほどして生きていたらちゃんと残りを食え、身体が回復しないままだぞ」
「死んでたら?」
「そんなんで死ぬか」
毒を盛ったわけでもない、本当にただ普通に作っただけの栄養食だ。むしろこれで死ぬならこの女はもっと早い段階で墓の中にいるかエンティティにでも捧げられている。ナースが何処か楽しそうに笑っているのはこの女の私に対する態度であろうか、確かに殺人鬼である私にこの態度だ。トラッパーやレイスが見れば楽しそうにするだろうな、見せる必要などないから見せないが。
「ドクター、本日は」
「あぁ、ヒルビリーが来るんだろう」
「え、来るの?」
「お前は会話に入るな」
「ひっど」
中指を立てている彼女を私は全力で無視した。構っているだけ時間の無駄だ、ヒルビリーが来る前に出来る限りの準備をしよう。私は席を立ちナースに後のことを任せてその場を去った。後ろで野次を飛ばして来るあの女の声は部屋を出ればモニターの叫び声に混ざりすぐに聞こえなくなった。
「もー、なんだあのハゲ」
「簡易的になったのね呼び方が」
ここ数週間で私は彼に多数の酷い扱いを受けた。顔を洗おうと洗面器に水を貯めればさっさとしろと頭を掴まれ溺死させられそうになったり、眠れない時にお嫁さんとうだうだ話していれば早く寝ろと体に電気を浴びさせてきたり…今だってそうだ、おもくそ強引に私に飯を食わせた。なんだってこんな目に会わなければならないんだ、私だって生身の人間なんだぞ。少なくとも患者と思うのならいい加減にしてくれないと死ぬぞ。
「許してあげて、彼なりの優しさよ」
「何 を 言 っ て い る の ?」
優しさではない、あれは私を殺しにかかっている。彼は私をいずれは殺すんだ。今は元気になるまで待っているだけで、私がまともなものを食べれるようになればブクブクに太らせ、そして肉として食べられてしまうんだ。あのひん剥いた歯で肉を千切られそしてあの電気で焼いて、さぞジューシーな私のお肉を食べるんだ。くそ、贅沢…違う、なんて無残なんだ。私は森で迷子になってカニバリズムに食べられるなんてお話絶対聞きたくないし、それが自分だなんてもっと嫌だ。
「お嫁さん、ヒルビリーはいつ来るの」
「もう少ししたらだと思うわ、でも会えないわよ?」
「何故?」
「ドクターが治りきってないからダメだって」
「なにそれ、ベッドから出ないなら変わらないよ」
全くもってその通りだと思う。確かに彼のチェーンソーで間違って死んでしまうなんてことは事故としてあるかもしれないけれど、私を夢から覚ましてくれたのはあの子だし、あの時あの子の手があったから色々と理解できるようになったんだ。彼がまだ心が子供だろうと、私は少なくとも助けられた身としてお礼を言いたい。
「ごめんなさいね、でももう少し待ってくれないかしら」
「んー…お嫁さんが言うなら」
納得なんてしていない、だが彼女が申し訳なさそうに私にそう言って来るんだ、これ以上わがままを言ったところで彼女を困らせるだけだ。後正直殺されるならこの人に殺されたい、きっと優しく殺してくれるだろうし、私はこの人がこの世界の中では好きだ。仮に殺人鬼でも。
私はなにもすることがなくなったのと先ほどあの男と言い合ったせいか身体が怠くなり、そのまま倒れるようにベッドに体を寝かせた。お嫁さんが私にそっと布団をかけてくれる。この世界で暖かいと最初に感じたのはこの布団だ。人と触れ合おうと、外に出て日に当たろうとしても、未だこの布団以外で温もりを感じたことがない。今の私にとってこの布団は堪らないほどの祝福だった。
その温もりはいつでも私に眠気を与えてくれる、柔らかく暖かく、夢が私を誘うように。
気付けばいつだって私は夢の世界に存在して、目が醒めるまで"彼"とお話をするんだ。
「桔梗ちゃん、こんにちは」
「私は今寝たからこんばんわって気分だよ」
「まだ昼間だからねぇ、俺も暇潰しを探していたんだ」
彼は私の夢に入り込んできたおじさん。最初こそ人の夢に入ってきたなんて言ってくるこの男を私は一つも信用しなかった。だってここは私の夢の中、一つ視点を変えれば私の想像の中の人物がただ夢に出てきたとも考えられるからだ。だが違う、彼は本当に私の夢の中に入ってきている。その証拠ではないのだが、彼はドクターと呼ばれるあの男の生前の名を教えてくれた。ハーマン・カーター、それが彼の本当の名前なのかはまだわからないが少なくとも夢の中でそんなことを言う人物を、今はおとなしく信じるしかなかった。
「今日もあのガキが来るかもね」
「いいよ、あれも"私"だし」
「ふぅ、俺はあれ嫌いだなぁ」
おじさんは腕組みをして私の横に座ってきた。そういえばこのおじさん、フレディっていうのだが…どうやら殺人鬼達の仲間らしい。確かに手に嵌められる長い爪の手袋には、いかにも人を殺していますと言わんばかりに血の油がテカって見える。手癖のようにチャリチャリと腕組みをしたまま爪を擦り合わせる彼のその音が私にとってはただの不快音でしかなく、しかし私はそれを口に出すことはできなかった。それを遮ったのはまぎれもない"私"。
『桔梗、君はいらない子だ』
「うん」
『君は本当になんの価値もない』
「うーん」
私は適当に返した、目の前の少女はその様子をつまらなさそうに見ていたが次の瞬間、フレディが彼女に斬りかかり、彼女は残像だったかのようにその二言を残して消えてしまった。どうでも良かった、夢の中の出来事なんて、夢の中でしか生きられない存在の戯言なんて。なのにこの横の人は、私の代わりにイライラしてくれた。歯を食いしばり目つきを尖らせ殺意をむき出しにしている、それはいつかの私の役目だったはずなのに。
「俺、今日儀式だから」
「うん」
「行ってくるよ」
彼はそう言って私の横髪を爪で掬ってそれに唇を落とした。おじいちゃんのような、でもヒーローのような、そんな存在。私はまた一人自分の夢の世界に取り残された。