彼が大人になった時
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11
腕時計を見ると時刻は17時15分。ひとしきり雑誌の仕事やレッスンを済ませ、そのあとはしっかりと身だしなみを整えて、今に至る。
日付は3を表示している。
10月3日、黒斗と付き合ってまだ3日目。
本当なら黒斗が告白してきてくれたのは誕生日の9月30日なんだけど、正式に付き合うことになったのは10月1日。
で、まぁそんなことを思い出しつつ俺が今立っているのは、なんてことない普通のファミレスの前。
「…はぁ」
帰宅ラッシュの駅前はなかなか賑やかではあるものの、急ぎ足の人が多い時間帯では伊達メガネをかける程度でも簡単にバレることはない。
とはいえ、約束の時間より早く着いてしまい、店の前で突っ立っていれば当然見られる頻度は高くなり、たまにもしかしてと遠目に見てくる女子高生やらが伺える。
スマホを弄るふりをして顔を俯けるけど、タッチの差で遅かったのか、俺の前に人が立つ。
「…あの、瀬名…泉さんですか?」
その声は青年といってふさわしい、さわやかな男の声色。ただ…一見どれだけ優しそうでも、油断はできない。
「はぁ、はい。そうですけど、今は…」
と、丁重に断りの言葉を伝えようと顔を上げるものの、そこに立っていたのは口角を上げた黒斗だった。
「ちょ、黒斗だったのぉ…?」
「ふ、ははっ…!引っかかった!」
「そりゃだって、声高かったしぃ?そもそも約束の時間、まだ後10分はあるでしょ」
「それはお互い様だろ。にしても泉、何時から待ってたんだ?」
別に、と待っていた時間を悟られたくなくて片手に持っていたスマホをポケットにしまいながら、店を指さす。
「ここで良いの?黒斗の、家の近くでも良いけど」
「まぁ、普通に泉と飯食って話せるならどこでも。…まぁちょっと長くなるから居酒屋〜とも思ったが、さすがに食べるだけなら割高だしな?」
「黒斗って貧乏性なのぉ?」
「いやいや、普段自炊してたらそういう感覚にならないか?」
どうせ酒も飲まないし。と付け加える黒斗に、たしかにと納得する。ご飯だけなら、無理に酒の提供を前提とする店に行かなくてもいい。というのは俺もそうするだろうし。
店に入るとスムーズに席に案内され、注文のためにタッチパネルを二人で覗き込む。
というか、俺としてはもう一人ついてきていないことのほうが意外で…
「みやくんは?」
「おー、蒼空は夜ラジオの収録。レギュラーなんだよ。俺と違ってバラエティ得意でさ、頼もしいだろ?」
黒斗が遠慮なくスライドさせていくメニューを見てるような見てないような感覚で思ったことを口に出す。
「…みやくん、家で一人じゃなくてよかった」
「あ、そっちの心配か。」
ふっ、と小さく笑った黒斗が、俺これ。とたらこスパゲティをタップする。
「…えぇ、俺何にしようかなぁ?あまり食生活ズレるようなのは嫌なんだけど」
「これでいいだろ。後でどうせサプリとか飲むんだろ?」
「はぁ?なんで知ってんのぉ?」
勝手にサイコロステーキとかいうものを注文した黒斗を訝しげに見るも、本人はきょとんとした顔で俺を見返しつつ注文送信ボタンを押す。
「…いや、適当に言った。泉のことだし、そうだろうなって気持ちで」
ふふんと自慢げに口角を上げて、俺すごいだろ?とよくわからない自慢をしてくる黒斗に、俺も別の意味を込めて肩を竦める。なんだか、さっきからにこにこと笑って、まるでみやくんみたい。
「あっそう、それはすごいとして。今日はなんで俺を一緒にご飯に誘ったわけ?」
そう、今日は俺が誘って一緒にご飯を食べに来たわけではない。
お昼直前ごろに、黒斗からメッセージが来た。"本日、こちらで抱えている一件についてお話したく晩ごはんをご一緒できればと存じます。ご都合いかがですか?"なんてビジネスみたいな文章で。
「変なメッセージ送ってきたから、…たぶん文章はみやくんが考えたんだろうけど、抱えてる一件って?」
「あー、…まぁ蒼空が送ったのは間違いないな。俺がちょっとトイレ行ってる隙に送ってて…ただまぁ、伝えておかなきゃいけない話なのは間違いない」
眉間に皺を寄せて、言葉を選んでいる黒斗。
さっきの口角を上げたりとか、テレビで見る笑顔なんかよりずっと安心してしまう表情で、変な話、俺は黒斗の悩んでいる顔や、険しい表情のほうが見慣れてしまっている。
「俺…実はドラマの主演を務めることになって…」
「えっ、それ普通にすごいじゃん。…ってまさか自慢話ぃ?」
じとりと黒斗を見ると、なわけないだろ。と短い溜息を吐かれる。
「W主演ってやつで」
「あ、まって?もしかして恋愛ドラマ?」
「おー…、さすが泉だな。察しが良すぎてますます話しづらい…」
「いや別に、仕事なんだからさぁ。それが浮気だとか言ったりしないし。…それとも、俺のことそういう風に見てる?」
テーブルに両肘を乗せて、身を乗り出すように問い詰めるけど、黒斗はじっと俺の事を見つめ返してくる。
…そ、それはそれで反則なんだけどぉ?
「泉なら、どんな仕事でも信じてくれるとは思ってる。当然。だから俺もこんな面と向かって言わなくてもって蒼空に言ってたんだが…」
「へぇ…じゃあみやくんが心配性ってこと?父親みたいに食いついてくるもんねぇ。まぁでも俺だってそういうことになりうるんだから、いちいち気にしてられないよねぇ」
「相手が相手だから絶対にちゃんと言ったほうがいいってさ。…はぁ、下手に緊張して損した。だからメッセージでもいいだろって言ったのに。だって相手は真だぞ」
「ふふ、まさかスキャンダル多発の女優とか………え?」
黒斗と同時に空笑いしながら話していると、突然聞こえてきた”まこと”という3文字。
黒斗が女優の名前を呼ぶことなんて多分、おそらくだけど、テレビとかのビジネス上でしか呼ばない。しかも絶対に”さん”を付けている。
「そんなスキャンダルばかりの女優だったらむしろお断りだな。…ってどうしたその顔?」
黒斗が俺の言葉にふっと鼻で笑い受け答えするも俺の驚きで開いたままの口を見て、さすがに目を丸める。
「いや、は?え?まことって…あの、ゆ…ゆうくん…ってこと?」
震える声でなんとか絞り出して声を出す。
恋愛ドラマで、W主演で?なんでゆうくん?
「あー、そうそう、最近流行りのBL漫画?のドラマ化で…。だとしても、真となら何も面と向かっていうことじゃないのになぁ?って…泉!?」
黒斗の驚きの声が聞こえている頃には俺の視界はテーブルで埋め尽くされていて、不可抗力にも頭を抱えてしまう。
「えっ、ど…どうした?ま、まさか、蒼空の言ったとおりになるか普通っ!?あの瀬名泉だぞっ?」
どの瀬名泉を期待してんの?
みやくんが面と向かって言った方が良いって言う理由がわかった。
そりゃぁそうなるでしょ?ゆうくんだよ?俺と同じで黒斗のことが好きで、黒斗もゆうくんにはめちゃくちゃ甘くて…それでBL!?じゃあ俺が恋人としてこれから黒斗としたいこととか全部ゆうくんも黒斗とするってことじゃん!
「はっ、まって?…それって、推しと推しの最高に幸せ空間の恋愛ドラマを見るか、恋人と推しの恋愛ドラマを悔しいけどビジュアル的に納得せざるを得ない気持ちで見るか…どっちの感情で見ればいいの!?」
「あー……、蒼空に杞憂だったって伝えとくか」
::END
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腕時計を見ると時刻は17時15分。ひとしきり雑誌の仕事やレッスンを済ませ、そのあとはしっかりと身だしなみを整えて、今に至る。
日付は3を表示している。
10月3日、黒斗と付き合ってまだ3日目。
本当なら黒斗が告白してきてくれたのは誕生日の9月30日なんだけど、正式に付き合うことになったのは10月1日。
で、まぁそんなことを思い出しつつ俺が今立っているのは、なんてことない普通のファミレスの前。
「…はぁ」
帰宅ラッシュの駅前はなかなか賑やかではあるものの、急ぎ足の人が多い時間帯では伊達メガネをかける程度でも簡単にバレることはない。
とはいえ、約束の時間より早く着いてしまい、店の前で突っ立っていれば当然見られる頻度は高くなり、たまにもしかしてと遠目に見てくる女子高生やらが伺える。
スマホを弄るふりをして顔を俯けるけど、タッチの差で遅かったのか、俺の前に人が立つ。
「…あの、瀬名…泉さんですか?」
その声は青年といってふさわしい、さわやかな男の声色。ただ…一見どれだけ優しそうでも、油断はできない。
「はぁ、はい。そうですけど、今は…」
と、丁重に断りの言葉を伝えようと顔を上げるものの、そこに立っていたのは口角を上げた黒斗だった。
「ちょ、黒斗だったのぉ…?」
「ふ、ははっ…!引っかかった!」
「そりゃだって、声高かったしぃ?そもそも約束の時間、まだ後10分はあるでしょ」
「それはお互い様だろ。にしても泉、何時から待ってたんだ?」
別に、と待っていた時間を悟られたくなくて片手に持っていたスマホをポケットにしまいながら、店を指さす。
「ここで良いの?黒斗の、家の近くでも良いけど」
「まぁ、普通に泉と飯食って話せるならどこでも。…まぁちょっと長くなるから居酒屋〜とも思ったが、さすがに食べるだけなら割高だしな?」
「黒斗って貧乏性なのぉ?」
「いやいや、普段自炊してたらそういう感覚にならないか?」
どうせ酒も飲まないし。と付け加える黒斗に、たしかにと納得する。ご飯だけなら、無理に酒の提供を前提とする店に行かなくてもいい。というのは俺もそうするだろうし。
店に入るとスムーズに席に案内され、注文のためにタッチパネルを二人で覗き込む。
というか、俺としてはもう一人ついてきていないことのほうが意外で…
「みやくんは?」
「おー、蒼空は夜ラジオの収録。レギュラーなんだよ。俺と違ってバラエティ得意でさ、頼もしいだろ?」
黒斗が遠慮なくスライドさせていくメニューを見てるような見てないような感覚で思ったことを口に出す。
「…みやくん、家で一人じゃなくてよかった」
「あ、そっちの心配か。」
ふっ、と小さく笑った黒斗が、俺これ。とたらこスパゲティをタップする。
「…えぇ、俺何にしようかなぁ?あまり食生活ズレるようなのは嫌なんだけど」
「これでいいだろ。後でどうせサプリとか飲むんだろ?」
「はぁ?なんで知ってんのぉ?」
勝手にサイコロステーキとかいうものを注文した黒斗を訝しげに見るも、本人はきょとんとした顔で俺を見返しつつ注文送信ボタンを押す。
「…いや、適当に言った。泉のことだし、そうだろうなって気持ちで」
ふふんと自慢げに口角を上げて、俺すごいだろ?とよくわからない自慢をしてくる黒斗に、俺も別の意味を込めて肩を竦める。なんだか、さっきからにこにこと笑って、まるでみやくんみたい。
「あっそう、それはすごいとして。今日はなんで俺を一緒にご飯に誘ったわけ?」
そう、今日は俺が誘って一緒にご飯を食べに来たわけではない。
お昼直前ごろに、黒斗からメッセージが来た。"本日、こちらで抱えている一件についてお話したく晩ごはんをご一緒できればと存じます。ご都合いかがですか?"なんてビジネスみたいな文章で。
「変なメッセージ送ってきたから、…たぶん文章はみやくんが考えたんだろうけど、抱えてる一件って?」
「あー、…まぁ蒼空が送ったのは間違いないな。俺がちょっとトイレ行ってる隙に送ってて…ただまぁ、伝えておかなきゃいけない話なのは間違いない」
眉間に皺を寄せて、言葉を選んでいる黒斗。
さっきの口角を上げたりとか、テレビで見る笑顔なんかよりずっと安心してしまう表情で、変な話、俺は黒斗の悩んでいる顔や、険しい表情のほうが見慣れてしまっている。
「俺…実はドラマの主演を務めることになって…」
「えっ、それ普通にすごいじゃん。…ってまさか自慢話ぃ?」
じとりと黒斗を見ると、なわけないだろ。と短い溜息を吐かれる。
「W主演ってやつで」
「あ、まって?もしかして恋愛ドラマ?」
「おー…、さすが泉だな。察しが良すぎてますます話しづらい…」
「いや別に、仕事なんだからさぁ。それが浮気だとか言ったりしないし。…それとも、俺のことそういう風に見てる?」
テーブルに両肘を乗せて、身を乗り出すように問い詰めるけど、黒斗はじっと俺の事を見つめ返してくる。
…そ、それはそれで反則なんだけどぉ?
「泉なら、どんな仕事でも信じてくれるとは思ってる。当然。だから俺もこんな面と向かって言わなくてもって蒼空に言ってたんだが…」
「へぇ…じゃあみやくんが心配性ってこと?父親みたいに食いついてくるもんねぇ。まぁでも俺だってそういうことになりうるんだから、いちいち気にしてられないよねぇ」
「相手が相手だから絶対にちゃんと言ったほうがいいってさ。…はぁ、下手に緊張して損した。だからメッセージでもいいだろって言ったのに。だって相手は真だぞ」
「ふふ、まさかスキャンダル多発の女優とか………え?」
黒斗と同時に空笑いしながら話していると、突然聞こえてきた”まこと”という3文字。
黒斗が女優の名前を呼ぶことなんて多分、おそらくだけど、テレビとかのビジネス上でしか呼ばない。しかも絶対に”さん”を付けている。
「そんなスキャンダルばかりの女優だったらむしろお断りだな。…ってどうしたその顔?」
黒斗が俺の言葉にふっと鼻で笑い受け答えするも俺の驚きで開いたままの口を見て、さすがに目を丸める。
「いや、は?え?まことって…あの、ゆ…ゆうくん…ってこと?」
震える声でなんとか絞り出して声を出す。
恋愛ドラマで、W主演で?なんでゆうくん?
「あー、そうそう、最近流行りのBL漫画?のドラマ化で…。だとしても、真となら何も面と向かっていうことじゃないのになぁ?って…泉!?」
黒斗の驚きの声が聞こえている頃には俺の視界はテーブルで埋め尽くされていて、不可抗力にも頭を抱えてしまう。
「えっ、ど…どうした?ま、まさか、蒼空の言ったとおりになるか普通っ!?あの瀬名泉だぞっ?」
どの瀬名泉を期待してんの?
みやくんが面と向かって言った方が良いって言う理由がわかった。
そりゃぁそうなるでしょ?ゆうくんだよ?俺と同じで黒斗のことが好きで、黒斗もゆうくんにはめちゃくちゃ甘くて…それでBL!?じゃあ俺が恋人としてこれから黒斗としたいこととか全部ゆうくんも黒斗とするってことじゃん!
「はっ、まって?…それって、推しと推しの最高に幸せ空間の恋愛ドラマを見るか、恋人と推しの恋愛ドラマを悔しいけどビジュアル的に納得せざるを得ない気持ちで見るか…どっちの感情で見ればいいの!?」
「あー……、蒼空に杞憂だったって伝えとくか」
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