彼が大人になった時
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10
世の中には面白いことが驚くほどある。
それは当然わかっているし、これからも僕がアイドルとして活動していく中で糧にしていきたい事象だって起こり得る。
「へぇ、遊木くんと黒斗が共演?…それはもう決定事項?」
「えぇ、そのようです。先ほど目良さまがこの事務所に来ており、ご挨拶も含めて内容を伺うと…」
「ドラマのダブル主演ね〜。あの黒斗ならまぁわかるけど、なんで遊木センパイが?」
「こらこら桃季、彼だってメキメキと上達しているんだから、そういった声がかかるのも当然だろう?」
ふぅーん?と未だ納得と言うには遠い返事をする桃季。
まぁ、桃季の心情は自分も早くそこを目指したいという気持ちからくるものではあるだろうけど、兎にも角にも同じ事務所の後輩がドラマの主演を務めると聞くとそれなりに嬉しいものではある。
「黒斗はまだいるかな。せっかくだから僕も挨拶したいのだけれど…」
「あ!僕も!ちょっと見てくる〜!」
「あっ、坊ちゃま!…はぁ、行ってしまいました。」
「ふふ、元気でいいじゃないか。とりあえず僕もロビーに向かおうかな。事務所での打ち合わせは終わったし、いずれにしてもこれ以降はオフだからね」
腕時計を見ると14時を指していて、このあとはちょっとだけカフェでお茶してから帰ろうかなぁ、なんて午後の楽しみを思い浮かべていたところだ。
まぁ、それもこれも僕の体調次第ではあるけれど。
「それにしても黒斗か…。あの性格は健在かな?いつまでも人を疑り深い目で見てくるから…少しは控えめになっているといいけど」
「えぇ、まぁ…学生時代にお会いした時より幾分か柔らかな表情になったかと思いますよ。まぁ、あくまでも私めの主観ですのでご参考までに」
「へぇ…。弓弦の目からみても変わった様子がわかるなら、おそらく相当だろうね。柔らかな表情か、楽しみだ」
くすくすと、弓弦の言葉に笑みを浮かべながらロビーまで歩く。
と、そこにはまさに帰り際の黒斗と、お見送りの遊木くんとあんずちゃん、そして桃李がいた。
ちらり、と一番に視線をこちらに向けてきた黒斗はあからさまに面倒くさそうにため息を吐く。
失礼だよね?僕これでも天祥院の御曹司なんだけど?
「久しぶりだね。黒斗。相変わらず元気そうで何よりだよ」
「先ほどは快く雑談していただきありがとうございました。お見送りも兼ねてまた参上いたしました。」
「また厄介なのが…。久しぶりだな、英智。ん?ちょっと体重増えたか?健康的とまでは行かないが、まぁ昔よりマシだな。」
「いきなりアイドルに向かって太った?って聞けるの黒斗くらいだよ」
そもそも僕の体重なんて把握してるの少数だし、こんな出会い頭でわかるものではないだろうに。
まぁ当然…久しぶりに顔を合わせるほうが変化に気づきやすいとは言うけれど。
「そーそー!しかも英智さまに向かってぇ!」
がるる、と可愛く牙をむける桃李に、はいはい。と軽くあしらうようにポケットから飴を取り出す黒斗。
なんで持ってるのかな?というかうちの子に餌付けするのはあまり喜ばしい光景ではないというのが本音。
「黒斗さん。…あの、明後日からよろしくお願いします。」
「ん、おー。よろしくな。」
何とか隙を見て割り込むように声をかける遊木くん。
それを一切聞き漏らさず、途端に僕には向けない笑顔を向ける黒斗。
卒業してもその兄弟のような関係は変わらず健在ってことか。
今日は10月2日。明後日っていうと…4日から始動ってことかな?
というか、
「ドラマの共演なんだろう?いったいどんなストーリーなんだい?」
「あっ、えぇっと…恋愛ドラマ?ラブコメディ?って感じです。」
苦笑いを浮かべてあんずちゃんが答える。
「ふうん、恋愛ドラマか。じゃあなんでそんなに挙動不審なのかな」
「うぅ…天祥院先輩は相変わらず一瞬で見抜いてきますね…。あの、簡単に言うとボーイズラブなドラマなんです。」
「ボーイズ…、あぁそういうこと。黒斗、よくあの蒼空が許したね。それにもう一人」
「はぁ?別にあいつの許可はいらないだろ。恋人でもあるまいし、むしろ仕事が増えることには喜んでる。あいつはバラエティも得意で、ソロの仕事結構あるし」
僕の次の言葉を遮るように黒斗が答える。
まぁ、蒼空関連のことしか聞かれないと思っていたのなら、しょうがない気もするけど。
黒斗のことだ、もう一人については特に話すことはないとシャットアウトされてしまったのかも。
ということは、もしかして昔みたいにべったりじゃないってことか…
「まぁ、それはそうだけどね。意外と蒼空って独占欲強いだろう?」
「アレを独占欲強いで済ませるなんて…事情を知らないってのは本当に無知…いやいや…羨ましいな?」
にっこりと作り笑いを貼り付けるも明らかに不機嫌になった黒斗にこちらも微笑みで返す。
何かボロが出ないかと挑発したけれど、さすがに純粋に怒ったみたいだ。黒斗が完全に復帰したせいで、WWってなかなか蹴落としにくくて大変だな。
「ふふ、ごめんよ。決して彼を貶すつもりはなかったから。むしろ調子が良さそうで安心したよ。」
「あー、はいはい。お前らなんだかんだ仲いいからな。そんなにあいつの挨拶が聞きたいなら代わりに俺が応えといてやるよ。」
肩を竦めたかと思えばごほんと一つ咳払いをする黒斗。言っている言葉にいまいちピンと来ず、ん?と僕が首を傾げた途端
「お前に心配されるまでもねぇよクソ皇帝!…はい、どうだ?」
びしっと中指を立てて黒斗が声を上げる、が。
「いや、どうだって言われても…」
「ちょっと!いくら黒斗でも英智さまになんて口効くの!?っていうか今のあのバカの真似!?全然似てない!」
「ふふ、私も少々驚きましたが…あれが星宮さまのモノマネと考えると…おもし、ふふふッ」
「黒斗さんが中指を…」
「黒斗先輩…蒼空先輩とあれだけ一緒にいるのに全然似てない…っあははは!ごめんなさい!あははっ!」
桃李を皮切りに弓弦がツボに嵌まってしまう。当然、周りにいたあんずちゃんも笑っているし、遊木くんは驚いて目を丸めている。
僕も確かに面白いものを見たなと感心する。
「くそっ、なんだよ。せっかく真似たのに」
「ふふふ、なるほどね。これは確かに、弓弦の言っていた通り、だいぶ柔らかくなったのかも…ふふっ」
くすくすと笑いを堪えながら黒斗を見ると、昔に比べ顔の筋肉が息を吹き返したのか随分と拗ねたような表情を浮かべていた。
その表情が僕にとっては面白くて驚きで…
「案外、子供らしい一面もあるんだね」
なんてことを、本人には聞こえないように呟いた。
::END
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世の中には面白いことが驚くほどある。
それは当然わかっているし、これからも僕がアイドルとして活動していく中で糧にしていきたい事象だって起こり得る。
「へぇ、遊木くんと黒斗が共演?…それはもう決定事項?」
「えぇ、そのようです。先ほど目良さまがこの事務所に来ており、ご挨拶も含めて内容を伺うと…」
「ドラマのダブル主演ね〜。あの黒斗ならまぁわかるけど、なんで遊木センパイが?」
「こらこら桃季、彼だってメキメキと上達しているんだから、そういった声がかかるのも当然だろう?」
ふぅーん?と未だ納得と言うには遠い返事をする桃季。
まぁ、桃季の心情は自分も早くそこを目指したいという気持ちからくるものではあるだろうけど、兎にも角にも同じ事務所の後輩がドラマの主演を務めると聞くとそれなりに嬉しいものではある。
「黒斗はまだいるかな。せっかくだから僕も挨拶したいのだけれど…」
「あ!僕も!ちょっと見てくる〜!」
「あっ、坊ちゃま!…はぁ、行ってしまいました。」
「ふふ、元気でいいじゃないか。とりあえず僕もロビーに向かおうかな。事務所での打ち合わせは終わったし、いずれにしてもこれ以降はオフだからね」
腕時計を見ると14時を指していて、このあとはちょっとだけカフェでお茶してから帰ろうかなぁ、なんて午後の楽しみを思い浮かべていたところだ。
まぁ、それもこれも僕の体調次第ではあるけれど。
「それにしても黒斗か…。あの性格は健在かな?いつまでも人を疑り深い目で見てくるから…少しは控えめになっているといいけど」
「えぇ、まぁ…学生時代にお会いした時より幾分か柔らかな表情になったかと思いますよ。まぁ、あくまでも私めの主観ですのでご参考までに」
「へぇ…。弓弦の目からみても変わった様子がわかるなら、おそらく相当だろうね。柔らかな表情か、楽しみだ」
くすくすと、弓弦の言葉に笑みを浮かべながらロビーまで歩く。
と、そこにはまさに帰り際の黒斗と、お見送りの遊木くんとあんずちゃん、そして桃李がいた。
ちらり、と一番に視線をこちらに向けてきた黒斗はあからさまに面倒くさそうにため息を吐く。
失礼だよね?僕これでも天祥院の御曹司なんだけど?
「久しぶりだね。黒斗。相変わらず元気そうで何よりだよ」
「先ほどは快く雑談していただきありがとうございました。お見送りも兼ねてまた参上いたしました。」
「また厄介なのが…。久しぶりだな、英智。ん?ちょっと体重増えたか?健康的とまでは行かないが、まぁ昔よりマシだな。」
「いきなりアイドルに向かって太った?って聞けるの黒斗くらいだよ」
そもそも僕の体重なんて把握してるの少数だし、こんな出会い頭でわかるものではないだろうに。
まぁ当然…久しぶりに顔を合わせるほうが変化に気づきやすいとは言うけれど。
「そーそー!しかも英智さまに向かってぇ!」
がるる、と可愛く牙をむける桃李に、はいはい。と軽くあしらうようにポケットから飴を取り出す黒斗。
なんで持ってるのかな?というかうちの子に餌付けするのはあまり喜ばしい光景ではないというのが本音。
「黒斗さん。…あの、明後日からよろしくお願いします。」
「ん、おー。よろしくな。」
何とか隙を見て割り込むように声をかける遊木くん。
それを一切聞き漏らさず、途端に僕には向けない笑顔を向ける黒斗。
卒業してもその兄弟のような関係は変わらず健在ってことか。
今日は10月2日。明後日っていうと…4日から始動ってことかな?
というか、
「ドラマの共演なんだろう?いったいどんなストーリーなんだい?」
「あっ、えぇっと…恋愛ドラマ?ラブコメディ?って感じです。」
苦笑いを浮かべてあんずちゃんが答える。
「ふうん、恋愛ドラマか。じゃあなんでそんなに挙動不審なのかな」
「うぅ…天祥院先輩は相変わらず一瞬で見抜いてきますね…。あの、簡単に言うとボーイズラブなドラマなんです。」
「ボーイズ…、あぁそういうこと。黒斗、よくあの蒼空が許したね。それにもう一人」
「はぁ?別にあいつの許可はいらないだろ。恋人でもあるまいし、むしろ仕事が増えることには喜んでる。あいつはバラエティも得意で、ソロの仕事結構あるし」
僕の次の言葉を遮るように黒斗が答える。
まぁ、蒼空関連のことしか聞かれないと思っていたのなら、しょうがない気もするけど。
黒斗のことだ、もう一人については特に話すことはないとシャットアウトされてしまったのかも。
ということは、もしかして昔みたいにべったりじゃないってことか…
「まぁ、それはそうだけどね。意外と蒼空って独占欲強いだろう?」
「アレを独占欲強いで済ませるなんて…事情を知らないってのは本当に無知…いやいや…羨ましいな?」
にっこりと作り笑いを貼り付けるも明らかに不機嫌になった黒斗にこちらも微笑みで返す。
何かボロが出ないかと挑発したけれど、さすがに純粋に怒ったみたいだ。黒斗が完全に復帰したせいで、WWってなかなか蹴落としにくくて大変だな。
「ふふ、ごめんよ。決して彼を貶すつもりはなかったから。むしろ調子が良さそうで安心したよ。」
「あー、はいはい。お前らなんだかんだ仲いいからな。そんなにあいつの挨拶が聞きたいなら代わりに俺が応えといてやるよ。」
肩を竦めたかと思えばごほんと一つ咳払いをする黒斗。言っている言葉にいまいちピンと来ず、ん?と僕が首を傾げた途端
「お前に心配されるまでもねぇよクソ皇帝!…はい、どうだ?」
びしっと中指を立てて黒斗が声を上げる、が。
「いや、どうだって言われても…」
「ちょっと!いくら黒斗でも英智さまになんて口効くの!?っていうか今のあのバカの真似!?全然似てない!」
「ふふ、私も少々驚きましたが…あれが星宮さまのモノマネと考えると…おもし、ふふふッ」
「黒斗さんが中指を…」
「黒斗先輩…蒼空先輩とあれだけ一緒にいるのに全然似てない…っあははは!ごめんなさい!あははっ!」
桃李を皮切りに弓弦がツボに嵌まってしまう。当然、周りにいたあんずちゃんも笑っているし、遊木くんは驚いて目を丸めている。
僕も確かに面白いものを見たなと感心する。
「くそっ、なんだよ。せっかく真似たのに」
「ふふふ、なるほどね。これは確かに、弓弦の言っていた通り、だいぶ柔らかくなったのかも…ふふっ」
くすくすと笑いを堪えながら黒斗を見ると、昔に比べ顔の筋肉が息を吹き返したのか随分と拗ねたような表情を浮かべていた。
その表情が僕にとっては面白くて驚きで…
「案外、子供らしい一面もあるんだね」
なんてことを、本人には聞こえないように呟いた。
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