彼が大人になった時
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8
よく、小説なんかじゃ心臓が早鐘を打つ。なんて言葉があるが、まぁ俺にはあまり縁のない現象だった。
というのも俺は人の感情を観ることができるし、その行動や言動で次に起きることがわかってしまう。昔なんかは視界に入るものすべての情報を得ようとして頭が割れるほど痛む経験もしたほどだ。
だから、大抵のことは予測できてしまって、驚いたり、これから起きることに不安になったりしたことはなかった。
あぁ、強いて言うならあの時ステージに立とうと奮闘していた時ぐらいだろうか。あれは全くロマンチックな早鐘ではないのだが…
まぁとにもかくにも、鐘を打つ経験をしてなかった俺が、
「……っ」
今まさに死ぬほど心臓が早鐘を打っている。
「よかった。ちゃんと来てくれて。正直電話にすら出ないと思ってたんだけどぉ」
「い、いや…だって泉からの電話だし」
「…それって、俺だから出てくれるってこと?」
一瞬視線を上げればテーブルをはさんで真向かいにいる泉が頬杖をついてまじまじと見ていて、ばっちりと目が合う。
逃げるように視線を外せば、場所は以前のバーとは全く雰囲気が違う静かでおしゃれなレストランだ。
というより、宗の予想通り"夜景の見渡せるロマンチックなレストラン"である。あいつが漫画から得てる知識は侮れないのか。いや、小説か?そんなことはどうでもいいか?
「ま、まぁ…さすがに予想してたというか…あんなことが合って無視するのはありえないというか」
「そう?まぁいいけど。その予想通り、今日は返事をちゃんと伝えようと思って。」
「っ、そ、そうだよな。それ以外ないよな。」
緊張して喉がからからになる。
テーブルのコップには水が注がれているし、いくらおしゃれなレストランと言えど料理が来る前に水を飲んでもいいよな?
宗に聞いとけばよかったか?
「緊張してる?よねぇ。ふふ、黒斗が緊張してるなんて、ラッキーかもぉ?」
「…お…面白がってないよな?一応酔ってたとはいえ、俺の気持ちを伝えて、俺は死ぬほど緊張してるし、というか、本当は酔った勢いで伝えたことを後悔してるくらい、なんだが」
「うん、そうだよねぇ。まぁちょっとだけ俺で動揺してくれてるのが嬉しくてさ。」
ふふ、とまた含み笑いを浮かべる泉を睨むように見ると、バレていたのかちらりと向けてきた視線が合う。
同じように逃げてしまいたくなるものの、先程の意地の悪い視線ではなく、真面目な視線に逃げることができなくなる。そもそも俺が人を見ることで逃げたくなることなんて滅多にないというのに、泉が相手だと視線が自然と泳ぎたくなる。
「黒斗。俺から一つお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「は?お願い?いや…返事がどうのって話じゃ」
「告白を、素面の黒斗から聞きたい」
話を聞け!と言ってやりたいところだったのに、瞬きをして再度見た時には泉の顔は打って変わって恥ずかしそうに赤くなっていた。
それにつられて俺の顔も熱くなっていくのがわかる。
「い”っ、や…そんな真剣に強請られても困るんだが……というか、嫌だ」
「えぇ?俺への気持ちはお酒の上でしか成り立たないってこと?」
「はぁ?ちが…っ、つーか、そんなに言ってほしいなら泉から言うべきだ!」
俺が言い返すもじとり、と腕を組んで睨まれる。
泉のこういう表情も今まで何度も見てきたというのに、今となってはすべてが新鮮に見えてしまう。
いやこれは久しぶりに会ったからってことで。
昨日はほぼご飯中も視線を下げていたし、バーでは緊張のあまりジュースのような勢いで酒を飲んでしまってから記憶にないし…実質まともに会話をしたのは今日が初めてだと言っても過言ではない。
「それじゃあ意味ないでしょ?黒斗に好きって言ってもらえるまで何年待ったと思ってるのぉ?」
「いや、何年かは、知らないが…」
「黒斗の事を好きだって自分で自覚したのは中学生の…卒業間近だったしぃ?最初は自分の隣にいてくれるだけでいいかなって思ってたけど…両想いになりたい、ならなきゃって思ったのは…黒斗がみやくんと一緒に行動しだしてからかなぁ?」
「はぁ?あいつと行動しだしたのって1年生の最後のほうだろ?一緒にっていうかあいつがついてきてただけで、別に俺としてはあいつを撒きながら泉を探すのに必死な時期だし…」
とにかく!と泉が声を上げる。
お父さんお母さん、この子俺の話を遮って順調にわがままに育ってますよ。どっちに似たんです?
なんて、こういう泉とのやり取りが久しぶりすぎて感慨に浸ってしまうが本人はそれどころではないし、まぁ実際俺もそれどころではないようで、覚悟を決めなければならないらしい。
「あぁもう、くそっ。…すぅ…はぁ、泉。」
「んー、ふふ。」
一度目を閉じて、呼吸をして相手を見つめると嬉しそうに目を細めて見つめ返される。
泉となら昔から何度か目を合わせて会話をしたことはある。が、こんなに幸福に満ちた顔で見つめられるなんて今までにあっただろうか…?
改めて言わなければならないと思うと少し、どころか大分気恥ずかしいのだが…そうは言っても、確かに酔った勢いの告白をそのまま通すのは筋が通らない。
「…泉、い、えー…俺、今更申し訳ないん、だが…い、いまさら…俺、泉のことが…好きだ」
「今更ばっかりだねぇ?」
こんな夜景が綺麗に見えるレストランで告白なんて、なんというか…一世一代のイベントみたいだ。
ぐっと、膝の上で拳を作っている手から汗が吹き出しそう。
というか、なんなら背中から冷汗が吹き出している気がする。
何とか耐えていた視線も”好きだ”と言い終えたら自然と下に下がってしまう。自信がないのが相手にも伝わるだろう。
情けないと、笑われるだろうか。
「ん、ふふ…どうしようすごい嬉しい。ふ、ふふふ…♪」
予想外の反応に顔を上げる。
俺が真剣に、いや割と本気で緊張している中せっかく気持ちを伝えたというのに目の前の人物は気持ち悪い笑顔を浮かべていて、なんか…どこか既視感を覚える。
「きもちわ…あ、いやっ、ちょっと綾人を感じたのと、真の気持ちが分かった気がする」
「ちょっとぉ?今気持ち悪いって言いかけたよねぇ!?」
泉の今まで通りの反応に自然と笑みがこぼれる。
さっきまでの緊張感のある空気が一瞬で消えてしまった。
「自業自得だ。というか…ムードもへったくれもないな。まぁ…俺と泉じゃそうなるか…?」
溜息交じりに肩を竦めると、おそらく予約で頼まれていた料理が運ばれてくる。
慌てて笑顔を取り繕い、店員さんに会釈する。
「あ、どうもありがとうございます」
「どうもぉ」
お互いの目の前に店の一番人気と掲げられていたスパゲッティが置かれ、立ち去った店員さんを見送ると一度沈黙が生まれる。が
「ふふ…黒斗。じゃあさ、改めて、…俺と付き合ってくれる?」
「え、それ結局お前が言うの?…あーいや、ごほん。よ、喜んで…」
::END
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よく、小説なんかじゃ心臓が早鐘を打つ。なんて言葉があるが、まぁ俺にはあまり縁のない現象だった。
というのも俺は人の感情を観ることができるし、その行動や言動で次に起きることがわかってしまう。昔なんかは視界に入るものすべての情報を得ようとして頭が割れるほど痛む経験もしたほどだ。
だから、大抵のことは予測できてしまって、驚いたり、これから起きることに不安になったりしたことはなかった。
あぁ、強いて言うならあの時ステージに立とうと奮闘していた時ぐらいだろうか。あれは全くロマンチックな早鐘ではないのだが…
まぁとにもかくにも、鐘を打つ経験をしてなかった俺が、
「……っ」
今まさに死ぬほど心臓が早鐘を打っている。
「よかった。ちゃんと来てくれて。正直電話にすら出ないと思ってたんだけどぉ」
「い、いや…だって泉からの電話だし」
「…それって、俺だから出てくれるってこと?」
一瞬視線を上げればテーブルをはさんで真向かいにいる泉が頬杖をついてまじまじと見ていて、ばっちりと目が合う。
逃げるように視線を外せば、場所は以前のバーとは全く雰囲気が違う静かでおしゃれなレストランだ。
というより、宗の予想通り"夜景の見渡せるロマンチックなレストラン"である。あいつが漫画から得てる知識は侮れないのか。いや、小説か?そんなことはどうでもいいか?
「ま、まぁ…さすがに予想してたというか…あんなことが合って無視するのはありえないというか」
「そう?まぁいいけど。その予想通り、今日は返事をちゃんと伝えようと思って。」
「っ、そ、そうだよな。それ以外ないよな。」
緊張して喉がからからになる。
テーブルのコップには水が注がれているし、いくらおしゃれなレストランと言えど料理が来る前に水を飲んでもいいよな?
宗に聞いとけばよかったか?
「緊張してる?よねぇ。ふふ、黒斗が緊張してるなんて、ラッキーかもぉ?」
「…お…面白がってないよな?一応酔ってたとはいえ、俺の気持ちを伝えて、俺は死ぬほど緊張してるし、というか、本当は酔った勢いで伝えたことを後悔してるくらい、なんだが」
「うん、そうだよねぇ。まぁちょっとだけ俺で動揺してくれてるのが嬉しくてさ。」
ふふ、とまた含み笑いを浮かべる泉を睨むように見ると、バレていたのかちらりと向けてきた視線が合う。
同じように逃げてしまいたくなるものの、先程の意地の悪い視線ではなく、真面目な視線に逃げることができなくなる。そもそも俺が人を見ることで逃げたくなることなんて滅多にないというのに、泉が相手だと視線が自然と泳ぎたくなる。
「黒斗。俺から一つお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「は?お願い?いや…返事がどうのって話じゃ」
「告白を、素面の黒斗から聞きたい」
話を聞け!と言ってやりたいところだったのに、瞬きをして再度見た時には泉の顔は打って変わって恥ずかしそうに赤くなっていた。
それにつられて俺の顔も熱くなっていくのがわかる。
「い”っ、や…そんな真剣に強請られても困るんだが……というか、嫌だ」
「えぇ?俺への気持ちはお酒の上でしか成り立たないってこと?」
「はぁ?ちが…っ、つーか、そんなに言ってほしいなら泉から言うべきだ!」
俺が言い返すもじとり、と腕を組んで睨まれる。
泉のこういう表情も今まで何度も見てきたというのに、今となってはすべてが新鮮に見えてしまう。
いやこれは久しぶりに会ったからってことで。
昨日はほぼご飯中も視線を下げていたし、バーでは緊張のあまりジュースのような勢いで酒を飲んでしまってから記憶にないし…実質まともに会話をしたのは今日が初めてだと言っても過言ではない。
「それじゃあ意味ないでしょ?黒斗に好きって言ってもらえるまで何年待ったと思ってるのぉ?」
「いや、何年かは、知らないが…」
「黒斗の事を好きだって自分で自覚したのは中学生の…卒業間近だったしぃ?最初は自分の隣にいてくれるだけでいいかなって思ってたけど…両想いになりたい、ならなきゃって思ったのは…黒斗がみやくんと一緒に行動しだしてからかなぁ?」
「はぁ?あいつと行動しだしたのって1年生の最後のほうだろ?一緒にっていうかあいつがついてきてただけで、別に俺としてはあいつを撒きながら泉を探すのに必死な時期だし…」
とにかく!と泉が声を上げる。
お父さんお母さん、この子俺の話を遮って順調にわがままに育ってますよ。どっちに似たんです?
なんて、こういう泉とのやり取りが久しぶりすぎて感慨に浸ってしまうが本人はそれどころではないし、まぁ実際俺もそれどころではないようで、覚悟を決めなければならないらしい。
「あぁもう、くそっ。…すぅ…はぁ、泉。」
「んー、ふふ。」
一度目を閉じて、呼吸をして相手を見つめると嬉しそうに目を細めて見つめ返される。
泉となら昔から何度か目を合わせて会話をしたことはある。が、こんなに幸福に満ちた顔で見つめられるなんて今までにあっただろうか…?
改めて言わなければならないと思うと少し、どころか大分気恥ずかしいのだが…そうは言っても、確かに酔った勢いの告白をそのまま通すのは筋が通らない。
「…泉、い、えー…俺、今更申し訳ないん、だが…い、いまさら…俺、泉のことが…好きだ」
「今更ばっかりだねぇ?」
こんな夜景が綺麗に見えるレストランで告白なんて、なんというか…一世一代のイベントみたいだ。
ぐっと、膝の上で拳を作っている手から汗が吹き出しそう。
というか、なんなら背中から冷汗が吹き出している気がする。
何とか耐えていた視線も”好きだ”と言い終えたら自然と下に下がってしまう。自信がないのが相手にも伝わるだろう。
情けないと、笑われるだろうか。
「ん、ふふ…どうしようすごい嬉しい。ふ、ふふふ…♪」
予想外の反応に顔を上げる。
俺が真剣に、いや割と本気で緊張している中せっかく気持ちを伝えたというのに目の前の人物は気持ち悪い笑顔を浮かべていて、なんか…どこか既視感を覚える。
「きもちわ…あ、いやっ、ちょっと綾人を感じたのと、真の気持ちが分かった気がする」
「ちょっとぉ?今気持ち悪いって言いかけたよねぇ!?」
泉の今まで通りの反応に自然と笑みがこぼれる。
さっきまでの緊張感のある空気が一瞬で消えてしまった。
「自業自得だ。というか…ムードもへったくれもないな。まぁ…俺と泉じゃそうなるか…?」
溜息交じりに肩を竦めると、おそらく予約で頼まれていた料理が運ばれてくる。
慌てて笑顔を取り繕い、店員さんに会釈する。
「あ、どうもありがとうございます」
「どうもぉ」
お互いの目の前に店の一番人気と掲げられていたスパゲッティが置かれ、立ち去った店員さんを見送ると一度沈黙が生まれる。が
「ふふ…黒斗。じゃあさ、改めて、…俺と付き合ってくれる?」
「え、それ結局お前が言うの?…あーいや、ごほん。よ、喜んで…」
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