彼が合宿に参加するとき
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-合宿-1日目-無人島-コテージ前-
時間が足りない。先ほどからそればっかりを呟く黒斗。うんうん、まぁそうだろうな。ちらりと手元を見ればスケジュールをぶっつけで考えて組み立てている。
「父さんってば鬼畜ぅー」
「そればかりはお前に賛成する。だが、結局学院長になったら、今回よりももっと厳しく、深く俺が関わっていかなきゃならない。あのシャイニングと計画を練るなりするのも俺になる。今回俺がこうして実体験をすることで学ばせようとしているんだろ。」
「父さんは生徒の時選抜されてる方だったから、わかるんだろうけど黒斗は今まで行ったこともないのに、"場所はあるけど企画は丸投げ"状態だし」
だから誰にもスケジュール表も部屋割も配れていないのだ。仮にここでスケジュールができたとしてもコピーができない。俺と黒斗のコテージに毎時張り出す。そういった形式でST☆RISHとTrickstarのメンバーには承諾を得た。まぁ、自分で確認する癖付けようねって名目で。ちなみに俺はそれをさっきから見てはここをこうするからね、と一言入れて修正を施している。さすがに終始頭を使って疲れている黒斗だ。メニューも詰まったりするからそれをうまくフォローする。
「黒斗、これは…えぇ?晩御飯の時間までこれはきついって。食べる前になんか吐いちゃいそうだよ…」
「綾人…うまく割り振ってくれ」
「うん…」
思った以上に元気のない返事に、これはマジで疲れてる…と心配になる。打ち合わせの日からぶっ通しで考え、さらには蒼空の晩御飯のレシピも書いてきたんだとか…あいつのご飯はダークマターだからレシピ書いても無駄だと思うけど。そこは黒斗の良いところだから指摘はしない。と、途端にテーブルが震えだす。震源地を見ると黒斗のスマホに着信が入っていた。
「黒斗、電話」
「出て、」
あ、今甘えられた気分。超かわいい。よし出る。そして俺は一度咳ばらいをして黒斗の声を出す。
「もしもし、黒斗です」
『もしもしぃ…?ちょっと、今日みやくんから聞いたんだけど、合宿だってなんで俺に言ってくれないわけぇ?』
俺は電話越しの相手の声にはっとしてその場から立ち上がるもテーブルに思い切り太ももをぶつける。
「いっ!?」
「…どうした?誰だ?」
『ちょっとぉ黒斗、聞いてる?』
「え、あ、あぁ…聞いてる。あ、あー悪い。今ちょっと…」
「…おい?相手誰だ」
相手を言えば代われって言われる!いずみーぬともっと話したい!でも黒斗の怒った顔も見たくない!というか段々怖い顔になってる!やばい内心超見られてる!
「おい泉だろ…!」
『あれぇ…?なんか急に黒斗の声遠くなったんだけど?』
「え…違う違う。ほらあの今俺は黒斗の声を…わわわ、待って俺まだ言いたいこと言ってない!取らないで!」
「うるせぇ!あることないこと言われたら困るんだよ!?泉聞こえるか!?」
『わ、なんか耳元で大声出したり遠くなったり…電波悪いわけぇ?ってあ、みやくん勝手に俺のお弁当食べないでよねぇ!?』
ぶんぶんとスマホを取られまいと黒斗の手から逃れる。だっていずみーぬだよ?最近やっと仕事復帰したって言ってもなかなか会えないんだもん!俺いずみーぬの電話知らないんだもん!決して毛嫌いされてるってわけじゃないけど!
「おい、なんで逃げるんだよ!あーくそ…こんなことしてる暇ないんだが…」
観念したように黒斗は頭を抱えて座りなおした。追いかけっこしたかったけど、うん。お兄ちゃんわがまま言いません。え、もう十分言ってるって顔しないでよ。
「も、もしもし…?」
『あやくんでしょぉ…なんでいるの?』
「俺ってわかってからの開口一番それ!?久しぶりとかないの!?復帰おめでとうございます!!」
雪崩るようにツッコミを入れてから復帰祝いの言葉をあげる。
『あぁうん。ありがとぉ。それで、合宿って何?俺聞いてないんだけど』
「まぁ、言ってないもんね?Knightsって、意外と選抜されたことないのか…」
『選抜…あぁ、もしかしてあやくんの事務所との共同合宿の…かぁ。ゆうくんと他のがいなくて、黒斗はまた子守でついてってるの…?』
…あれ、もしかして。一瞬頭で考え黒斗に目をやり思ったことを見てもらうと黒斗はふるふると首を振った。次期学院長ってこと言ってないのか。
「まぁ、そんなところ。」
『ふぅん。相変わらず面倒見良すぎだよねぇ…みやくんも黒斗にお弁当のレシピ書いてもらったらしいし?後でお弁当の写真送るから。ちなみに晩御飯はすっかり俺の家に来て食べてる。まぁあれ食べるよりは…』
つまり、レシピを見てもやっぱりダークマターなわけか…ちらりと黒斗を見るももうすでにスケジュールを考えるのに必死で俺を見たりはしなかった。
『あやくん、黒斗さぁ…』
「ん?」
『最近、アイドルとしてならほんのちょっと女と接することできるようになったけど、情緒不安定なのは変わってないんだよねぇ。いきなり何か起きてもおかしくないからちゃんと守ってあげてね?』
「もちろん。何年お兄ちゃんやってると思ってんだよ…。」
そう言うとそれじゃ、あとお祝いの言葉ありがとねぇ。と一言挨拶をされたところで通話が終わる。
お兄ちゃんか…小さい頃はそんなこと考えてなくて、ずっと一緒で同じことやっていくんだって思ってたのに。それこそ双子らしく行動を共にしていたから相手の思ってる事とかなんとなく察することもできてた。
でも、黒斗が片目を失うと同時に俺は黒斗の考えてること、思っていることが全部わかるようになった。現場で意識を失ってからもいずみーぬの手を放さなかった黒斗の思いも。手術が終わって改めて黒斗の病室に家族で見舞いに入った時は酷かった。頭の中どころか、全身で黒斗の声を聞いた。痛いとか、なんでとか、泉っていっぱい叫んでいたり…俺はそれに耐えきれなくてひどい頭痛に見舞われて隣の布団に寝かされたけど、それでも目を開けていると思っていることが文字になって見えるようになるくらい、声になって聞こえるくらい、黒斗の思いが伝わってきていた。特に強い思いは距離も関係なく俺の脳みそとリンクしてしまう。
"綾人、手伝え"
「え?何?」
「…?何も言ってないぞ。というか、そこに突っ立ってるなら手伝ってくれ」
「おー、わかった。」
最初は、この奇怪ともいえる力が嬉しかった。初めて体験したときは頭痛いし具合悪いしで良いことなかったけど、次の日に1人で見舞いに行ったときは黒斗も落ち着いてて俺の名前を呼んでくれた。というか思ってくれていたというのが正しい。周りは意識を取り戻すまで会話ができないのに双子の俺はこうして黒斗の声を聞けると、それが幼いながらの優越感だった。それを繰り返しているたび、俺は黒斗に依存してしまった。俺だけが黒斗のことを本心からわかってあげられる。一番求められてるのはこの俺だ。なんて。
「綾人さ…」
「何?」
「悪い…何でもない」
「ふふ、いいよ。どうせ2週間同じコテージだしな。言いたいことあったら何でも言ってくれ。」
「…おー」
::Twin story
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