彼が合宿に参加するとき
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-合宿最終日-ミュージカル会場-
「…はぁ」
始まったような終わったような…。そんな気分だ。正直何度もこういう感情は味わってきたのだが、いまだに溜め息が自然と口から洩れてしまう。
蒼空をライブに送り出したりするときと同じだ。
先ほど、今まで合宿で共に過ごした全員を舞台に送り出し、俺は1人、舞台裏に残る。近くにあるゴミ箱にマスクを捨て、新しいマスクを装着する。都度新しいものに変えなければやはり衛生的によくない気がして…。
そんな心配をしながら近くの簡易椅子に腰を下ろす。演劇中はまったく俺は動かなくていいように現場スタッフが気を利かせてくれた。とはいえ、落ち着かない。休んでくれと言われたために演劇後の予定の資料ももらっていない。人が足りなくなったら手伝ってほしい、程度の扱いになっている。まぁ、これでも病人…だからか。
「暇だな。」
ぽつりとそう呟いて俺は目を閉じる。薄暗い舞台裏は寝室と似ている明るさでどうも眠気が襲ってくるのだ。きっと本調子ではない上にできるところまで動いたせいで体が限界なのだろう。熱を出したり風邪をひくとこんなに体が言うこと聞かないものだったのか…そんなことを今改めて知る。
振り絞ってうっすらと目を開け、手首に通していた髪ゴムで後ろの髪を緩くまとめる。壁に頭を凭れさせたいから横に流れるようにしばり自分の髪を横目で見る。
もう少し伸びれば、カールとか、ウェーブがつけれるように…
「あー…次の雑誌で男の娘…特集とか。死にたい。つうか、マネージャーが俺の昔の事言わなきゃ起用だってされなかったってのに」
軽くやけになりながら壁に頭を当て今度こそ目を閉じる。眠ってはいけない、けど始まってまだ30分、あと何時間…?黙って待ってられない…。いや、かといって寝るのは。
「…」
そんな問答を一体いつまでしていただろう。そしていつから意識を手放していたのだろう。
「黒斗!」
「…ん」
「おいー。起きろって。」
誰かに呼ばれている気がして目を開ける。舞台裏のライトをつけているのか少し明るい。いやでも…演劇中は消してなきゃならないんじゃ…そう思い頭も無理に回転させると、目の前には蒼空が眉間に皺を寄せて立っている。
「…う、ぇえ!?蒼空!?」
「おおう、予想以上の反応…。黒斗そんな顔できるんだなー?」
へらりと笑う蒼空に完全に覚醒した俺の頭は周りを見渡す。スタッフがせかせかと片づけをしている。それはつまり…嫌な予感をしながら顔を蒼空の方へ戻すと蒼空の後ろには嶺二こと兄さんがいる。
「あ、え?兄さんも」
「兄さん?」
一瞬蒼空が誰の事だ?と首を傾げるも嶺二が反応すると驚きながらもあぁ!と納得した。
「もうみんな楽屋戻ってるよん。僕ちんとそららんは着替え早くてこっちに戻ってきたんだけど、とりあえず、黒斗。お疲れちゃーん」
「は、はぁ…、え?おま、は?」
「僕ちんに向かってお前とか言わない。もー、せっかくそららんも僕も格好良かったのにねー!」
「確かに!ま、珍しく体調崩してるし…責めないけどここからは退けた方がいいよ。ほら」
蒼空に腕を引かれ、嶺二に体を預け、悠々と歩き出す2人に俺は必死に足を動かす。…て、向かってる方向が完全にみんなのいる楽屋じゃない…よな。
「どこに…いくんだ?」
「んー、先に打ち上げ会場行っちゃうよーん!」
「そ、俺たち本当に早かったから先に行って会場あっためる係になったんだ。って言っても、肉頼んでおくとか…そんな感じ。」
俺が自力で歩き出すことに蒼空も気付いたようで手を放す。同時に体を支えていた嶺二も頭を軽く撫でてきながら手を放し、ポケットから車の鍵を取り出した。
駐車場に出るとわずかに寒さを感じ、ジャケットの袖口を握る。というか、何ならこの寒さも熱のせいなんだろう。もう帰らせてもらうというのは駄目なのだろうか…。どう思っても、車に乗り込んでいく2人は心底楽しそうでそんな提案をする気にはとてもなれなかった。
「…んで、カミュさんがあそこでぐるぐるーっと回ったのは驚いたなー。いくらこう、攻撃をかわすときに軽やかにって言っても、空中で回って着地とか常人にできないからな…」
「そうか…」
「でもでも、りっつんも凄かったね。わざわざ一回きりの午後公演にしてたから何か意味があるのかと思ったらりっつんのその時間の本気凄かったもん。嶺ちゃん張り合いたくて頑張っちゃったよー」
「…やっぱり午後にして正解だったな。」
2人のミュージカルでの話を聞きながら時間を見る。あと2時間早く開演してたら凛月は本気出せなかっただろうな。申し訳ないことに俺は寝てしまっていたけど…なんとか大成功に収まったようで胸を撫で下ろす。
打ち上げ会場に着くと店の中で龍也さんと林檎さんがいた。そしてあともう1人…誰だあれ…
「…もうすでにいる。俺たちが早く来る必要あったのか?」
「え?だれだれ?」
「あ、日向さん!!と、女の人?」
蒼空がそう呟くと俺と林檎さんの間に違和感がないように入り込む。
「蒼空…その人は大丈夫だ。…あ」
苦笑いを浮かべ林檎さんに挨拶し、改めて頭を上げると林檎さんの横に立っていた誰かもわからない人が女だと気付く。声を上げると同時に反射的に蒼空と嶺二の後ろに隠れる。
「え、黒斗?」
「あ、嶺ちゃんそっとしておいて…ええと、今回の仕事お疲れ様でした。とりあえず、宴会の部屋、入っておきます?」
蒼空がそう促し全員を上手く玄関から誘導する。俺は相変わらず蒼空の後ろにいて、その女が嶺二に寄って行くものだから嶺二はあてにならなかった。後輩ちゃん?作曲とか、うんたらと話をしている。
「うっひゃあー、そっか、今回の…挿入歌…、綾人とあの人2人で作ってたんだ…」
「だから関係者として打ち上げにいるんだな。…よし、俺は体調も悪いし気分も悪くなりそうだから帰る。」
「まま、まってまって!!俺1人じゃ無理!」
部屋の前で蒼空とひっそりと話しながら作戦会議をするもやはり帰ることしか思いつかない。
その人が宴会の端の席に座る。もし、俺もいなければならないというなら対角線の席しかない。
「…楽しもう?一番頑張った奴が打ち上げにいなきゃみんな盛り上がれないしさー」
「具合悪くなったらお前のせいだからな。」
「う、うん…わかった。でも、せなたんもいるし大丈夫。うん!多分」
何がどうなって大丈夫なのかもはや期待すらできない。
諦めて質問をすることもせずまだいくつか空いた席の中、俺は女と対角線の席に座る。向かいに蒼空が座ると、ぞろぞろと全員が入ってくる。
「黒斗ー!お疲れ様ぁぁぁ!!!」
「っ…!」
条件反射なのか、俺を見つけた途端飛びついてくる綾人。俺の体力はもうゼロなんだが。あぁ、くらくらする。そして頭に響くでかい声。
「あやくん、離れて。っていうか、あの女誰?ちょっとぉあやくん聞いてんの?黒斗にくっつきたいならちゃんと守ってよぉ?」
「黒斗ちゃーん!2週間お疲れ様!あと、疲れた時はちゃんと休まなきゃだめよ?」
「わ、林檎さん…。わかりました。」
「イズミもっとそっちの方詰めて」
「はぁ?あいくんがそっち行けばいいでしょぉ?」
「ランランさん!こっちの席空いてるわよォ」
「あぁ、気が利くな。」
「ソラさん!お疲れ様です!今回の仕事…本当にソラさん格好良かったです!」
「はぁ、騒々しいな…。形式上参加する流れだったが断ればよかったか」
怒涛の如く色んな方面から声が聞こえる。そりゃ一気に9人入ってきたらこうもなるか…
ガンガンと頭に響きいっそ倒れてしまった方が楽なのではと思うが…どうも今は倒れられそうにない。
それよりも、今のこのやり遂げた後のみんなの顔を見ている方がずっと楽しいと思える自分がいるのだった。
::Thank you Knights & QUARTET NIGHT!!
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