彼が合宿に参加するとき
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-合宿-12日目-某所ホテル-503号室-
これはまた先日とは随分と違った待遇である。
午後のレッスンが始まると同時に俺の部屋から蒼空が出ていく。その入れ替わりのようにマスクをして入ってきたのは蘭丸さんだ。午前の時もマスクをして入ってきていたが、多分新しいマスクに変えてるだろう。几帳面な一面を見たと思いながら同時にカミュさんとは違って随分と看病をしてくれる。
ベッドサイドにあった水を冷蔵庫に入れ冷やしてくれたり、昼食後の薬を用意してくれたり、一定の時間がくると冷えピタを変えてくれたり。
「蘭丸さん」
「あぁ?」
「失礼かもしれないですけど。意外と、優しいというか…世話焼きなんですね。そこまでは俺の目でもそうそう見れることじゃないし」
「…そういうわけじゃねぇ。猫に餌やってんのと同じようなもんだ。」
「は…?猫?」
「お前は犬より猫っぽいだろ。どうしても犬科で言うなら狼。誰にも頼らず誰にでも平等に愛想ふりまいて、弱味を見せねぇ」
「弱味…」
「ま、そうしてるせいで今みてぇにくたばってんだろうけどよ。」
「弱味を見せることは大事、ですか?誰かを守ろうとか、平等な態度でいようとか、理想的な存在になったり、上の立場に立つうえで、弱味を見せることは俺にとってはマイナスとしか…思えないんだが」
「…そーだな。俺も人に弱ぇところは見せねぇ。舐められるからな。とはいってみるが…正直気を許す相手の1人2人、いた方がいいと思うぞ」
真剣な表情でそういう蘭丸さんに俺は何か言おうという気も起きず、頭も回らず天井を仰ぐ。するとぬっとベッドの横に立つ蘭丸さんが俺を見降ろしてくる。何事かとまじまじと見ているとばつが悪そうな表情を浮かべる。
「目ぇ閉じろ。昼休みから変えてねぇだろ。それ。」
俺の顔に手を伸ばそうとしたところで、そう声を掛けられる。あぁ、そういえば、泉が全員に通達してたな。黒斗の目元に手を伸ばさないで。って。まぁ確かにそうされると俺が怖いだけだからもっともなんだが、今回は目を閉じているうちに冷えピタを交換するということで、何とか乗り切っている。
「あ、あぁ…なるほど。」
慌ててこくこく頷き目を閉じる。だが、寝ている時、つまり意識がない時と違って、今俺の目元に手を伸ばしている、と意識すると正直恐怖は完全に拭えない。
「お前…猫みてぇ」
「っ…」
んなこと良いから早くしろと言いたいが正直そんなこともままならないほど俺の口は目とともに力んで固く閉ざされている。使えない口だまったく。
「おら、いいぞ。にゃんこ野郎」
「おい!人の事を猫だとか狼だとか馬鹿にしてるのか?ったく、蘭丸さんになついた覚えはないんだが…」
「綾人が犬に見えるからついお前が猫だと思っちまうんだよ。お前ら正反対だろ。犬の反対っつったら猫だろ」
「どんな先入観、ですか」
「お前ら実際仲いいのか悪いのかわかんねぇし」
マスクを顎の下にずらし持参していた飲み物を一口含む蘭丸さんに小さく溜め息を吐く。この人は不思議だ。心の中で考えてることも口に出すことも同じで同時なのだが、不思議なことを言う。俺が猫みたいだとか、綾人が犬みたいだとか。動物が大好きという顔でもないくせに。あとなぜか俺を綾人と同じに見ているのか弟扱いされる、綾人が蘭丸さんをにーやんだとか呼んで兄のように慕っているから悪いのだ。
「仲、良くはないです。俺的にいえば、泉や蒼空の方がずっと仲いいと思ってます」
「…でも弱味見せる程気は許してねぇのか?」
「そう、だな…。泉の事は俺が守らなきゃならない。蒼空の事は俺が面倒を見て、プロデュースして、一緒にステージに立つ相棒。だし。」
「わかんねぇ奴。」
他者からしてみれば今の話を聞いて、じゃあ蒼空はそれに該当する人間だろうと思うが…なぜだろうか、蒼空に弱味を見せることはしない。それは俺にもよくわからない。
もっと言うなら、俺自身の弱味がどういう時に発生してどういう時に他人に伝えるべきかがわからないということだ。
「わからないところがわからない。」
「相当重症じゃねぇか。お前もっと周りを頼れよ。今日みてぇにおとなしく看病されるのもお前にとっては大きな一歩なんだろ。」
「…恋人計画みたいに考えればいいのか…」
「んだそりゃ。今の高校生は物騒なことしてるんだな。」
「俺が恋愛感情というものを知らないから、1ヶ月間3人と恋人になったんだ。」
蘭丸さんは衝撃だったのか意味が解らないというような表情をしている。俺が寝返りをうって蘭丸さんの座る椅子に視線をやるとカミュさんとは違いしっかりと話を聞いてくれるような体勢だ。
「まぁ…結局俺は何が恋愛感情なのかよくわからなかったが、後々、寂しいとか、嬉しいとか、あと、照れる?…とか。そういうのはよくわかるようになった。」
「そいつは、よかった…んだよな?」
首を傾げる蘭丸さんをじっと見ているとふいと顔を背けられる。そのあと何度かぱちぱちと瞬きをする。
「カラコン、乾燥してるんじゃないですか…?外した方がいい」
「…は?」
「別にここじゃ誰かに見られることもないですし…目痛めるよりいいと思うが…」
舌打ちをしながらも慣れた手つきでカラコンを外す蘭丸さん。そういえば前は綾人もカラコンをしていたな。綺麗な青色、泉の瞳の色みたいな。今は嬉々として紫色の目を広めているが…
「そういや、お前の目はどっちも青い目だったのか?」
「は?…あー、多分そうだと思う、思います。なんで…」
「いや、綾人が見せてくる写真が全部お前が眼帯してからの写真なんだよ。だから、気になっただけだ。」
「俺の昔の写真では、俺ちゃんと青のはずです。けど。…なんかそう言われると怖い…な」
自分の事は盲目的、だとか、自分がよくわかっていないとか、弱味がわからないとか、この数日で色々と言われたせいか不思議に思ってしまう。そういえば、眼帯は年中つけてるし、いやそもそもこっちはつぶれているのだから今となっては調べようがないし、オッドアイだったからと言ってどうということはないだろう。そうだとしたら俺のもう片方の目の色は紫だったりするのだろうか…そんな馬鹿なことを考えながら俺は目を閉じる。
「なぁ。」
「はい…」
目を閉じながら蘭丸さんに返事をするとがたがたと遠くで音が聞こえる。
「暇だからよ。ギター弾いててもいいか?」
「ベースが得意なんじゃないんですか…」
「ギターも弾けるんだよ、わりぃか?そこのテーブルに散らばってる楽譜見てたらなんか引きたくなったんだよ。手持ち無沙汰だし」
「未完成だが…どうぞ…」
テーブルにある楽譜は俺が倒れた日から手が付けられてない。蒼空が片づけると気を聞かせてくれたが俺はそのままにしておいてくれと頼んだものだ。しばらくおとなしくしているとギターをチューニングしている音が聞こえてくる。もはや目を閉じてしまうとそれさえ子守歌のように聞こえてしまう。多分熱があることが最大の原因だが…
「明日は嶺二が看病してくれるらしいぞ。」
「は?いや、そもそも俺今日で治しますって。絶対!」
「お前…昨日で39度出したんだろ?そんな熱出しておいて2,3日で治る方がおかしいだろ。」
「…」
「病院はお前が願い下げしたんだろ…?ならこうして安静にしてるしかねぇんだからよ。つか、そんだけ熱出して病院行きたくねぇってダダこねる奴がいるかよ」
「い。から…」
「あ?」
「俺、病院行ったことないから、怖いんだ…。」
「まじか…よ。」
::I'm afraid of hospitals.
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