彼が合宿に参加するとき
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-合宿-11日目-某所ホテル-503号室-
「死にたい。」
「貴様が死んだら確実に俺が疑われるからやめろ。死ぬなら俺のいない時にしてくれ」
「それもそうか…いや、というか…面倒だと思ってるなら自分の部屋行くなりしてていいですよ。風邪うつすとまずいですし…」
俺は今、503号室のご立派なベッドで冷えピタを額に貼り、ただ寝転がっている。ただそれだけ…。あぁ…熱を出すなんて、風邪をひくなんて何年ぶりだろう。
「しかし、たかが熱を出しただけで看病が必要か?」
「俺もそう思います。」
現在、何がどうなってか…シャイニング事務所のカミュさんに俺は看病されて…は、いない。冷えピタは蒼空が買ってきてくれたのを自分で貼ったし、薬と水はベッドサイドに泉がおいてくれた。
なんでもカミュさん越しに見たところによると、蘭丸さんといざこざがあった時に止められる人がいないから、ならば最初から衝突させないようにすればいいという作戦。と蒼空に説得されたらしい。
「…」
「…」
特に喋ることもないし、そもそもだるいことには変わらないこの体で変に長話もしたくない。何もかも億劫なのだ。具合が悪いというのはこういうことなのか…。
カミュさんはさっきから分厚い小説を読んでいる。何を考えているのか見るのも気が引けるし、どうせ小説読んでその風景を想像してるだけにすぎないだろうし、というか、やっぱりだるい。
「貴様、先ほどから上体を起こして何かしたいことでもあるのか…?」
「え?」
「昼食はまだ30分先だ。それまではおとなしく寝ていることだな。」
「…あー、手持ち無沙汰だからそこにある書類を…」
「愚か者めが。自分の体調がどういう状態かわからないわけではなかろう。」
冷たく言い放つカミュさんは一切俺に目を向けたりはしない。しかしまぁ、体調不良ならおとなしく…というのはもっともである。とはいえ…俺はここ数年こんな状況に陥ったことはないし、何かをしていないと落ち着かない。
「はぁ…」
腰回りにある布団を掴んだり何かといじったり、ふと頭の中で新しい振り付けや曲を考えたり、そういえばじっくりと見ていなかった部屋を見渡したり。そうしているといつの間にか眼鏡をかけていたカミュさんと目が合う。
「おとなしくという意味が解らないのか?」
「え、いやいや、十分おとなしかっただろ…ですよね?そんな暴れてないし」
「暴れたら紐で押さえつけてでもおとなしくさせる。しかし貴様は何かをしていないと死ぬような人間らしいな。」
「そうかもしれない、です。体はだるいんだが…どうも、こう、いつもより何かしたいような気に駆られてる。」
「普段と違って動けないからなおさらなのだろう。だが頭を無理に使えば頭痛を伴う。趣味の作詞作曲は今は控えた方がいいな。ふん、俺が貴様の無駄話に付き合ってやる。それで少しは気がまぎれるだろう。」
「無駄話…?」
無駄なら聞かなくてもいいんだがな。そう心で思うもここは口を堅く閉ざした方がいいだろう。この人はそういう人だ。とりあえず…おとなしく従った方がいい。ともあれ…何を話せばいいんだ。
「話題が…ない。」
「なに?」
「これという話がない、です。いつもは質問されたら答えたり、相手の話題に相槌や意見を言うだけだからな。」
「…ならば俺が質問をしてやろう。そうだな…目良について聞こう。貴様の兄の事だ。」
「は?なんで」
反射的に眉間に皺を寄せてしまう。
「兄の話は嫌か?」
「そもそも兄だと思った事はないんですが…そうだな…あいつの話か。」
一度カミュさんから視線を外し考える。あいつのことについて何か言うとしたら…
「変態。」
「ふっ、あいつがか?」
「そう思わないんですか?」
「奴は仕事に関してのやる気は人一倍だ。そこはこの俺も高く評価している。まぁオフの時の関わり方にはどうも腹立たしい点はあるが」
「思いっきり殴ってやってください。敬語とか…使わないんですよね?あいつ」
「そうだな。貴様と同じで苦手なんだろう。正直今となっては同じ顔の貴様も敬語でなくともよく思えるほどだ…」
「同じ…顔」
カミュさんの言葉に2度瞬きをすると逆にカミュさんが不思議そうにわずかに首を傾げる。俺の呟いた言葉が聞こえていたのかスマホをその綺麗な長細い指でタップしながら俺のいるベッドに座る。何事かとスマホを覗き見るとどうやら写真が窺える。1枚の写真を2度タップして俺に画面を向けるとその写真は一体どこから入手したのか俺と綾人が期間限定のユニットを組んでいた時の写真だった。
「同じ顔だろう」
「いや、あぁ…そうだが…」
「少し貴様について色々調べていたのだ。まず簡単にネットで調べてみると、ほとんどは貴様のユニット、WorldWalkerについてが出てきたが…最近は海外の仕事はしていないみたいだな。」
「…俺が一緒にステージに立つようになってからはまだ一度も。というか…そんなんで昔の写真が出てくるわけない、ですよね?」
「まぁこれについては俺の調べ方が良かったということにしておこう。それよりも、同じ顔と言われるのは不快だったのか?」
「え…いや、不快じゃない。かといって嬉しいわけでもない。ただ、俺が眼帯をするようになってから同じ顔だと言われたのが初めてで。顔の事になるとみんなどうしても俺の眼帯の話になるんじゃないかって避けてるんだ。壊れ物を扱うみたいにされるのは苦手なんだが。」
「…貴様は十分壊れ物だろう。修理部品がないというかなり厄介な故障だ」
というと、どういう意味だろう。というか…俺が機械みたいな言い方…。俺が溜め息を吐くとカミュさんは独特なジト目で俺を睨む。
「これは俺の個人的な質問だが、寿とは本当に知り合いなのか…?」
「え?それこそその写真の頃のはずだが…」
「ふむ、いや、一切寿と貴様がともにいた等の情報がなく、本気で奴の妄想なんじゃないかと哀れに思っていた所でな」
「あー、俺、記憶力悪くて…というか、あまり昔の事は思い出したくないんだ。それで、パッと見じゃ思い出せなくて、まぁ、思い出したのも合宿の…3日目からだな。今じゃちゃんと思い出せてる。あれとは関係もないから特に痛みもないし…」
俺が苦笑いを浮かべて言うと、カミュさんは引っかかったのか、あれとは?と呟いていた。心の中で。俺はそれを察して話をしようとしたがどうも頭がぼーっとしてしまう。
長話がたたったのだろうか。と言うほど長話をした覚えもないのだが、傍らにある体温計を手に取り熱を測る。
カミュさんは察したのか俺の向かいのベッドに座りなおし足を組んで俺を見る。やっぱり看病する気はないようだ。
ピピピッ
と軽快な電子音が無音の部屋に響き俺は体温計に目をやる。
「…は、」
「下がったのか?」
表示される数字を見て自分の目を疑う。おいおいこういう時に限ってちょっとよく見えないとかないだろ。いや、よく見えてる。じゃあこれは夢か?勢いのあまり上体をあげそう自問自答していると手から体温計が奪われる。追うこともできずそのまま呆然としていると、無言で立ち上がったカミュさんに肩を押され無理矢理に寝かされる。暑いという暇もなく布団をかぶせられ額にかかる髪をかき上げられる。その直後少々乱暴ではあるが冷えピタがはがされ冷やしていた真新しいものが遠慮なく貼られる。
「つっめたぁ!」
「貴様なぜそこまで放っておいた!」
「え?き、気付かなかっただけで…」
「周りの事はよく見えているのに自分の事は盲目的なのだな。まったく…39度などそうそう出ないぞ…?」
「そ、そうなのか…あ、えー、気を付けます。」
「貴様が一番気を付けなければならないのは自分の不調を自分で理解することだ」
「は、はい…」
俺は簡単に目も合わせられず、やっとカミュさんにまともに看病してもらうこととなった。
::have a fever of 39°!?
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