彼が合宿に参加するとき
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-合宿-5日目-某所ホテル-
この合宿を始めてかれこれ5日。黒斗の事についてわかった事と言えば、昔の事を思い出さないようにしているということ。
一昨日も何かちょっと厄介なことになっていたらしく、残念ながらそれは僕がりっつんを連れて風呂に入っているときで正確な情報は解らず仕舞いだった。
不謹慎だけど、その時に僕がいてもし優しく声をかけてあげたり宥めることができたら思い出してくれたかも…なんて思ってしまう。
「うーん…」
時刻は22時を回ったところでみんなは眠りについている頃だろう。普段の仕事と違って高校生がいるからという理由もあって規則正しい生活を送れるこの合宿は大変ありがたいんだけど、僕の部屋はそうでもなかった。
もともと仕事でこの時間まで余裕で起きてることもあって次の日に影響が…とかっていうのは滅多にないんだけど、どうも僕の同室の子は夜に徘徊したい性格らしい。
「レーちゃん相変わらず起きてるんだ…?俺もだけど、年寄りなんだから寝れるときは寝ないとだめだよ」
「どストレートに年寄りって言わないで!?」
「ていうか、ベッドの上で熱心にスマホいじってたのになんで俺の散歩についてくるの?」
「いや、なんか、毎日散歩してるから気になったの。」
「そんな楽しくないんだけどねー?」
高層ホテルの上階の方に自由に出入りができるバルコニーがあるんだとか。毎日そこで月を見たり星を見たりするだけらしい。
「それとね。あ、いたいた、おいーっす」
バルコニーの扉を開けながら付け加えようとするりっつんはその話の種である人物を見つけて手を振る。
「黒斗…。」
備え付けの椅子に腰かけ目の前にあるテーブルに沢山の書類を広げている黒斗が眠気眼で僕たちの方を見る。まさか、毎日ここに?僕たちの舞台のレッスンに、龍也先輩との打ち合わせ。なぜかたまに来る社長からの電話に受け答えして、みんなを仕切ってる上に、さらに何かの書類とにらめっこ?学生っていうよりもはやサラリーマン…
「俺が寝ぼけてなければ今日は凛月だけじゃなくて嶺ちゃんさんがいる、よな。」
「せーかーい。黒斗今日はなんか難しそうなの見てるね。」
「あぁ、当日の会場警備とか…小難しいこと。段取りと同じように覚えておかないと、いろいろ大変なことになるだろ。」
そういえば。と、今みたいに一生懸命な黒斗を見てわかったことがもう一つある。それは、もう僕の知ってる黒斗じゃないということ。
外見の綺麗な顔立ちは眼帯で片目が隠れてしまっているし、男の娘としての仕事上で長かった髪も今ではさっぱりとした短髪。
性格もあややんと同じで活発だったのに今では正直見る影もないと言ってもいいほど、暗い。そして表情を一切変えない。ST☆RISHとの合同ライブで見せたあの笑顔はきっと作り笑いよりたちが悪いものだ。
「りっつん…ちょっと、いいかな。」
「ふふーん、おじいちゃんはねぇ。なんでもわかるよー?レーちゃん黒斗と話がしたいんでしょぉ。いいよ、俺は自由に散歩する方が好きだし。ちょっと向こう歩いてるから。」
「あ、ありがと…?」
だだっ広いバルコニーの彼方を指さしてその方向へ歩いていくりっつんに黒斗が落ちるなよ。と声をかけて僕に向き直る。
昔より、ちょっと目つきが悪くなったかな。
「思い出してないと言えば嘘になる。」
「へ?」
「一昨日、綾人のくそみたいなビデオレターをきっかけに考えてたら色々思い出した。嶺ちゃんさんが嶺ちゃんだってこと。」
「んん?いや、僕ちんはどうなっても嶺ちゃんだよ?」
「昔の俺は嶺ちゃんをお兄ちゃんだってなついてた人。でも、今の俺はちょっと、もうそんな純粋な心を持ってないから…って言葉にすると難しいですよね。」
「…うん。ごめんね?でも、僕はずっとあややんと黒斗のお兄ちゃんでいたいな。って思っててこうして黒斗に再会できたのだってウルトラハッピーだって思ってるよ?」
「…ウルトラハッピー…」
場を和ませようと言った冗談を本気にとらえたらしく気まずそうに持っていたペンをくるくると器用に回す黒斗。あぁ、こういう所は変わってないんだ!すぐ照れるところ。
「顔真っ赤ー」
「は!?ちょ、何言って…」
「昔は嶺ちゃん大好きだから結婚するーって言ってくれてたのにぃ」
「えええ…そんなん覚えてないですから…っていうか、その頃の俺は大好きとか、知ってたんだな。」
「今の黒斗の事。僕は何も知らない。最後に会ったのは黒斗が中学年になる前だよね。その後に入院したって聞いた時は驚いたけど。もし嫌じゃないなら、僕に話してくれる?当初の事でもいいし、今の黒斗の事でもいい。話せることでいいんだ」
「…」
向かい合って目を見ていた黒斗が逃げるように目を逸らす。僕じゃ話し相手にすらならない、かな…?
「今の俺は、立派で理想的で良いアイドル。です。それだけ」
「それが嫌なの?」
首を傾げて見ると嘘を見抜かれたような顔をして僕を見つめる黒斗。やっぱりそうだよね。あややんがキラキラしたアイドルになりたいって漠然とした夢だったのに対して黒斗は誰かを守るように…それでいて自分の意思のように"人形じゃない心のあるアイドル"を夢見ていた。
「正直、あのライブでも、黒斗は変だったもんね。何かできることがあるかな…って一生懸命考えた。だって、大事な弟の事だもん。」
「は、はぁ…弟…?」
「とりあえず、昔みたいにもう少し甘えるとか、人に頼るとか、してみたら?自分でなんでもできちゃうから、理想的なアイドルになっちゃうんだと思うんだよね!僕みたいに。」
「…あ、はい、嶺ちゃんさんみたいに…?」
「取り合えず、甘えると言えば僕がお兄ちゃんだから、嶺ちゃんさんって言い方やめよう!あと、甘えるときはいっぱいいっぱいに笑って!」
「あ、え?いやいやいや、なんでそうなるんですか」
「敬語もなし!!」
僕が椅子から立ち上がり言い放つとびくりと肩を震わせる黒斗。彼に足りないことは、誰かを頼ること。僕は、もう逃げたりしないしお兄ちゃんとしてしっかり受け止めるからたっくさん頼ってくれていいんだけどね。
「…れ、」
「レーちゃん」
そこでいつの間にか黒斗の後ろにいたりっつんがおかしそうに口角を上げながらお手本だよーと言ってのける。
「レーちゃんが嫌なら嶺二って言っちゃえば?」
「それは、年上相手に…問題だろ。」
「じゃあレーちゃんだねぇ。」
「ほら、昔みたいに撮影終わって抱き着いてくる勢いで言ってごらん!カモン!!」
「えー、黒斗昔はそんな感じだったの?ウケる!」
りっつんがけらけらと笑うのと同時にかぁあっと効果音が聞こえそうなほど黒斗の顔が赤くなる。うんうん、まだまだ初々しい反応だね!黒斗にはまだ心があるから大丈夫!下手したら男の娘してる時の黒斗の方がまだ表所豊かだけど。
「も、もういいだろ!わかった、俺は誰かに頼ることを覚えればいいんだろ。そうすれば少しは良くなるって、お、お、お兄ちゃんが言ったことはだいたい当たるし。ああああ明日から、そうするように意識する。今日はもう、寝る…!」
つらつらと早口で言いながらもしっかりと僕の事をお兄ちゃんと言ってくれたことは聞き逃さなかった。
「やっぱり弟ってかわいい!」
「うわぁ、兄者みたいで気持ち悪い」
::You can depend on me anytime.
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