彼が合宿に参加するとき
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-合宿-3日目-某所ホテル-507号室-
「へぇ、じゃあ君たちは一緒に活動してる訳じゃないんだ。」
「あぁ、俺は予定通り泉と同じユニットに入るつもりだったんだが…」
今日もカウンセリングなのぉ?と、イズミは黒斗を部屋に招き入れて察したのかそう悪態をついていた。
そうは言ってもいつもより少しだけ嬉しそうに見えるイズミ。僕のデータによるとつまりイズミは黒斗を気に入っているんだと思う。他の人との距離の取り方と黒斗では随分違うし。
だから、初日からこの2人は別で何か組んで活動してると思っていたけどどうやら違うみたい。
「あいくんってなんでそんなに黒斗が気になってるわけぇ?」
「気になってる、というか。僕にとってはちょっとイレギュラーであると言ってもいい。何て言ったらいいかわからないけど、常に見透かされてる気がして嫌だからはっきりさせたいだけ」
「…見透かされてる?あぁ、なるほどねぇ?」
「イズミは何か知ってるの?」
意味ありげに目を逸らすイズミを問い詰めてもうまくかわされる。カウンセリングといわれてるこの行為で単に黒斗に色々聞いているだけでは、僕の根本的な謎は解明されないようだ。
「黒斗の目に何か埋め込まれてるの?」
そう呟き黒斗の目を見ようと近付くと、今まで穏やかというか無表情だった黒斗が弾かれたように怯えた表情へと変わった。
「ひっ…!?」
黒斗が短い悲鳴をあげると興味なさげにベッドに寝転がっていたイズミが勢いよく起き上がり僕と黒斗の間に割って入ってくる。
「ちょっとぉ、あいくん…?」
「…なに?僕なにかした?」
「黒斗の目見ようとして、目元に手伸ばしたでしょぉ。」
「よくわかったね」
「もう絶対しないで!その光景黒斗のトラウマだから!」
イズミの手首を引き、もういいって。と促す黒斗は僕を見る。ごめんと言いたげなその顔に首をかしげると、やっぱりまた何か見透かされるような目をされて今度は僕が嫌になって顔を背けた。
目を逸らした先にあった備え付けの小さなテーブルにはイズミの台本が置かれていて随分と読み込まれたのか端々がくしゃくしゃになっている。
「泉って、案外真面目なんだなって思っただろ」
「…!」
はっとして黒斗を見ると僕が考えていたことを言い当ててどこか満足げに口角を上げる黒斗。
「案外ってなに?っていうか、そういうことするからあいくんにカウンセリングされるんだよぉ?」
「いいだろ、最近自分がわからなくなってたところだしな。ちょうどいい」
「…僕はカウンセリングをしてるんじゃなくて、その目についての情報を集めてるの。イズミと何か関係があるの?」
「…まぁ、ある。よな?でもあれは俺の最大の失敗であって最大の成功だと思ってる。」
「俺にとっては返しきれない借りになったねぇ。ある意味、この顔にはそれだけの価値があるんだぁって自覚したかも。」
「価値?」
自分の顔に自信を持つのはアイドルにおいて大切なことだけど、よほどのようだ。
「人ひとりの目を潰してしまうほどの価値。まぁ、これは黒斗が言ってたことなんだけど。そうでもしないと俺が立ち直れないだろうって」
わからない。この2人の間にあるのは僕が知ってる愛情とはちょっと違う気がする。大切にしたいとか、それもあるけど…でも、少しアヤトの持ってる感情に近い何かがある。いびつな感情が。
「…黒斗の目になにも埋め込まれていないのは納得するとして、じゃあどうしてみんなの行動を先読みできるの?」
「…思ってることがわかると、何をするかわかるから。」
「思ってることはどうやったらわかる?」
「…見れば…わかる」
「その理屈が僕には理解できない。僕は見ても黒斗やイズミが何を考えているのかわからないし、黒斗以外の人はみんなそう」
「それは…、なんなんだろうな」
俯きながらそう呟く黒斗は自分の眼帯に触れる。この話をすると黒斗は眉間に皺を作る。それにいったいどんな理由があるのかを3日3晩質問して僕も寝ずに考えてるけど答えはでない。
むしろ謎は深まるばかりで進まない。
「やっぱりその目について凄く気になる。あと、アヤトとの関係性についても…」
「なんであやくん?」
「アヤトは今まで誰かの言うことをあんなに聞いたことなかったから、あぁやって黙れって言われて黙ってるのは珍しい」
「それは…」
口ごもる黒斗にイズミが苦笑いを浮かべながら答える。
「単にあやくんが黒斗のこと溺愛してるだけだと思うけどぉ?あやくんちょっと…、おかしいからさぁ」
「ちょっと?」
僕がそう口にするとイズミも黒斗も首を振る。ちょっとじゃなくてかなりだよね。そういえば、僕のパソコンにアヤトから聞いた上での黒斗像を作ったデータがある。
「俺のデータ…だと」
「え?」
今、僕口にしたっけ…?
「見てみる?箇条書きだけど。あとアヤトが昔黒斗宛にって計画したビデオレターもある。3年前とか言ってた」
「なにそれぇ、ちょー気になる」
「やめろよ…。人のことなんだと思って…」
いつも無表情の黒斗が慌てる顔を浮かべてなんだか楽しくなり僕は制止の声も聞かずにそのビデオレターを再生する。
「あれぇ?このあやくんが来てる服、病院の…」
「え…」
僕も初めて見るそのビデオレターはアヤトが自分でカメラをもって回している。最初はアヤトが元気に挨拶をしてそのあととある病室に足を進めていくと言うもの。貼られていた名前は目良黒斗と、目良綾人。
「2人とも、入院してたの…?」
僕のその質問が言い終わる前にイズミの手によってパソコンはばたんと閉じられる。
「なんで…あんなことしてんの。あやくん」
「…」
明らかに暗い雰囲気を纏った2人についていけずに黙って様子をうかがっていると僕たちの部屋のドアが乱暴にノックされる。
「Excuse!瀬名先輩!」
「え…なに?かさくん…?」
一転して訝しげな顔をしながらドアを開けに行くイズミ。しかし黒斗はさっきから微動だにしなくて僕は慌てて黒斗をベッドに座らせる。何があったんだろう。さっきから左目を覆っている。
「…たい。くそッ…」
「タイ?」
「痛い。藍、悪い…けど、水」
一瞬何のことかわからなくてフリーズしてしまったけど黒斗が必死にこらえる表情を視界に捉えてベッドサイドにあったペットボトルを取り手渡す。ポケットから薬を取り出して何のためらいもなく2,3粒飲んでいる黒斗。合間を見て手を取り脈拍を測ると、人間の平常時よりずっと早い。イズミに声をかけようと立ち上がるとわかっていたかのように黒斗に手首を掴まれる。
「だい、じょうぶだから。誰にも…言う、な」
そう言う黒斗の意識は朦朧としている。イズミは何かの誤解を解くのに必死でこちらには気付いてなくて、僕は言われるままに隣に黙って座る。
「もう、平気…だ。」
その言葉を呟いた黒斗の手から力がふっと抜ける。僕はまさかと思って黒斗を見ると、気を失っただけなのか何のためらいもなく僕の肩に頭を預けてきた。
「……黒斗のこと、いや。目良の二人をもう少し調べる必要があるかも…」
::It hurts!
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