彼が合宿に参加するとき
What is your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
-合宿-2日目-某所ホテル-舞台-
「うっひょー!広いなぁ!ウチの学院の倍くらいありそー!!やっほー!」
「Leader!やめてください!…くぁぁ!役として参加するのにそんな調子じゃまずいですよ…!!」
昨日の大まかなような細かい打ち合わせ後からまったくと言っていいほど変わりのない相手方の連中に短く溜め息を吐く。正直、ともにミュージカルをやろうと協力する気すら起きない。
なんせ相手は高校生、まして話の通じない愚民ばかり。俺と同じ部屋になった鳴上という奴も随分と奇怪な奴で俺の事を寿にちなんでミューちゃんと呼ぶようになった。というよりは寿と仲良くなってしまって、周りの連中の事もちゃん付けで呼んでいる謎の根性を持ち合わせている。
「ミューちゃん?もォ、我関せずっていうような態度取らないでみんなと足並みそろえていきましょ?」
このように先ほどから簡易椅子に座って慣れもしないKnightsとやらの演技を見ていると目の前にひょっこりと現れ俺の手を引こうとする。
「気安く触れるな!貴様先ほどからちょこまかと色んな奴の面倒を見て…その暇があれば自分の演技のレベルをもっと上げろ」
「もー!どっちにしてもミューちゃんたちが参加してくれないと完成しないのよォ?」
こいつの言うことはごもっともかもしれんがだからと言って素人にわざわざ歩幅を合わせて何かを指導するなどもう二度とごめんなのだが…。
それは時を同じくして黒崎も思っているのだろうか。舞台裏の隅で壁に背を預けながらうたた寝をしている。まだこうして俺は見てやってるのだからましだろう。
「カミュさん…。嵐の言ってることは正しいですし…なんだかんだあの嶺ちゃん、とか藍だって参加してくれてますし…」
「寿は愚民の面倒を見るのが好きなのだろう。美風はただあの瀬名とやらに挑発されて見返したいというだけではないのか?目良の弟、お前ももう少し監督として、プロデューサーとして、俺を本気にさせるような熱意を見せてみろ。」
「目良の弟って言い方しないでくださいよ。…んで、熱意?」
その言葉を聞いた途端に居心地が悪いとでも言いたげな顔をし俺から目を逸らす。自信がないということなのだろう。ふん、と鼻を鳴らすと鳴上にお前はレッスンに戻れと促し俺と黒斗の2人になる。
「…もしカミュさんが参加しないなら、別にシャイニングに言ってもいい…んですけど。蘭丸さんの事も知ってます。2人ともこの仕事ちゃんとしなかったら今入ってる仕事全部なくされるとか…」
「なっ!?はぁ!」
うたた寝をしていたはずの黒崎は聞き耳を立てていたのかその言葉に過剰に反応する。
「てめぇ何で知ってんだよ!」
「綾人から聞きました。…だが、それだけの脅しをしてでもお前らに参加してほしいっていうのはシャイニングの意思だと俺は思ってる。俺はその意思をちゃんと継いで今回の合宿を成功させる。」
「…たかが高校生の貴様に俺たちが屈するとでも?」
「さぁ、どうでしょうね?」
そう言うと座ってる俺を見下すような目線で目良が俺を見る。その笑みはどうも俺や黒崎にもできなさそうなニヒルな笑みだった。こいつは一体自分に何を課しているのか。そもそもシャイニングと直接連絡が取れる高校生なんてその時点で不思議なのだが。
「別に、カミュさんにも蘭丸さんにも、跪いてくださいなんて言わない。あ、言いません。俺そういうの苦手だからな。でも、あなたたちは…こう、癖のある人たちばかりだし、自分が今まで受けた大人のやり口はやってみて損はないかと思ったんだが…」
「ふん、貴様のその生意気なところは非常に気に食わないが…」
しかし、早乙女に連絡がいけば仕事がなくなる。仕事がなくなれば事務所に行く必要はなくなるのだが、諸事情で俺は事務所になるべくいて調べ物をしたい。逆に仕事がないのに事務所に行けば怪しまれることもある。そう考えると…
「仕方ない。此度は貴様の口車に乗せられてやろう。」
「へぇ…伯爵サマが乗せられちまっていいのかよ」
「はっ、貴様も仕事がなくなれば困る身であろうが。」
そういうと舌打ちをしながら黒崎もともに舞台へと上がる。Knightsとやらの面々に不思議そうな目で見られ寿と美風は信じられないと呟く。
「…おい」
しかしその面々を見ると不思議な光景に気が付く。皆がそれぞれの立ち位置にいる中指導する立場にいるであろう目良の弟が俺たちの後ろにいるはずなのに、俺と黒崎をきょとんと見て一言。
「あ…やっと参加してくれる気になったのか…」
と呟く。
「あ?」
黒崎も何かがおかしいことに気が付いたのか俺の方を窺いながら後ろを振り返る。それにつられ後ろを振り返るとそこには眼帯を外しながら目良がにっこりと笑みを浮かべて立っていた。
「だ、騙したのか貴様ぁぁぁぁ!!」
がしりと目良の両肩を鷲掴みがくがくと前後に振る。
「や、やだなぁ!ミューちゃんさんもにーやんも参加しないと仕事なくなるのは本当でしょぉ!?っていうかプロとしてちゃんと仕事しない方が悪いじゃんんん!!」
がくがくと揺さぶられながらも反抗は生意気にもはっきりと聞こえてくる。
「は…?おい、綾人が何かしたのか?」
もはや弟側の敬語云々を気にせず黒崎も弟を攻め立てた。
「てめぇの兄はどんな神経してんだよ!ほんっときたねぇ性格してんだな!?」
「そうですね。」
黒崎の勢いに微動だにせず無表情で兄の悪口を肯定する弟に逆に黒崎がたじろいだが目良の肩を離して今度は俺が弟にかみつく。
「貴様の愚兄を今すぐ氷漬けにして来い!出なければ俺はもう今後一切合宿にはかかわらない!」
「…いや、ちょ、ミューちゃん氷漬けとか誰もできないから。」
「カミュは怒りが頂点に達したらすぐ氷漬けって言うよね」
「…はぁ…」
曖昧な返事をしながら一瞬目を逸らし再度合わせた弟は眉間に皺を寄せて、そして俺から目良へと視線を移す。
「あいつが凍ったように黙ればカミュさんと蘭丸さんはまじめに参加してくれる…んですかね…?」
「はぁ?そもそも氷漬けなんてできねぇだろ。俺は別にもう乗り掛かった舟だからな。参加してやる。その伯爵サマの事は知らねぇ」
面倒くせぇ、と呆れる黒崎を横目に俺は弟の提案に頷く。
すると弟は遠慮も何もなしに目良の襟元を掴み文字通り見下しながら一言
「いいか、これ以上余計な問題増やすな。観客席にいることは許してやるから俺がいいというまで口を開くな。開けたら殴る」
そう言い放った。
「…」
流石に言葉を失った。兄弟で双子とはいえそんなことをいう兄弟なんてどの国を探しても貴様らぐらいだぞ…?むしろその関係でいいのかと目良の立場が心配になる。
「まぁ…目良の弟よ。所詮そんなことをしても目良の口が閉じることはないだろう。黒崎に便乗するのは気が引けるが乗り掛かった舟、らしいからな。俺も参加してやろう」
と、そこで、目良がこれまでに見たことのない恍惚とした顔で弟を見つめている。気持ち悪い。
「黒斗のその顔久しぶりに見た!あぁぁぁそうだよね!目を失ってから間もなくはずっとそんな顔してぐふぅぅ!?」
…本当に殴った…だと?
「口開けるなって言っただろうが。」
そういって掴んでいたを放り投げるように離すと、その勢いで目良が盛大に転倒する。
「次は蹴る。」
もはやその扱いは兄弟とは思えないが…
目良はニコニコと笑いながらうなずいていた。
「い、泉ちゃん…?あの2人の仲についてもう少し詳しく教えてくれるかしら…これ以上過激になると困るから、耐性くらいつけておかないと」
そう呟いた鳴上の言葉に俺は初めて同意した。
::Put in Frozen
番外編TOPへ戻る