彼が合宿に参加するとき
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-合宿最終日-特別ライブ-
昨日は移動も含め長いレッスンの疲れを取るために各々ホテルに入ってからは自由時間にしていた。
最後まで気を詰めるもよし復習をするもよし。英気を養うために寝るもよし…といって解散したところで、その全てをこなしたのはまさに今、横で歌って踊っている綾人。
今日は合宿最後の特別ライブ。全員が引き締まっている顔の中でもとびぬけて集中力があったのは綾人だった。
正直超人だと思う。俺もしょっちゅう蒼空に超人だなんだと言われるがこいつはスイッチが入ったら呪文のように歌詞を復唱するし儀式のようにダンスの復習をする。昨日は死人のように寝ていた。
超人とはいえ自由度の高い綾人は本番だろうと、2人のハモリという打ち合わせを無視し全てを俺に任せハモリたいところだけ入りながらファンの元へ駆け寄っていく。会場の中央にまでステージがあるその場所で綾人は好き勝手にファンサービスをして好き勝手に踊っている。
俺は定位置を崩さず面白みのないパフォーマンスをしていたが、1人最前列の女がWorldWalker!と叫んで俺にハイタッチを求めるように手を伸ばす、とはいえ結構な高さがあるし、屈まなければならないし屈んだら…まぁまぁ近い。そう思いふっと微笑むだけで目線を外す。しかしそれが悪かったともよかったとも言えないがその女の周りの人もまるで請うように手を伸ばしてきたのだ。
「~♪」
そこで急に綾人が最後のサビをまともに歌いだし、渋々俺はそのファンに駆け寄って届く範囲でタッチをした。もちろん今は罵倒も何も出てこない、なぜなら俺は"理想のアイドル"で相手は"大事なファン"。それ以上でも以下でもない。ラストはしっかりと2人で合わせた通りにパフォーマンスをしステージから立ち去る。
「ったく、お前は自由すぎるんだよ。次のアンコールはしっかり打ち合わせ通りに…」
「えー?ファンサも大事な務めだよー?順番にファンサできたんだし?」
「だからって1人で好き勝手に動かれても困るんだよ…!」
「なになに?じゃぁ黒斗もそうすればいいのに!真ん中からの眺めは最高だよー」
ライブ直後の余韻のせいか綾人はいつもよりもテンションが高く、笑顔が憎たらしい。
「でも、黒斗、仕事って割り切ってたら女の子とハイタッチできるんだ?意外ー。」
「…」
舌打ちを聞こえるようにしながらステージに目をやると真緒たちが踊っている。あいつらを見ると一昨日の事の思い出す。余計なことを綾人があいつらに言ったせいで昨日の休日とも言える一日は"黒斗を楽しい・嬉しいと思わせる一日に!"をモットーに街に引っ張り出された。悪くはないとも思ったがやけに周りが真と2人にしようとするものだから本気で殴りたくなった。意図は明白でわざわざ見るまでもなくわかり、くだらないと思いながらも居心地が良かったのは確かだった。
「愛があればもっといいファンサやパフォーマンスができる。黒斗がなりたくなかったはずの"良いアイドル"から抜け出せるよ。」
「愛愛ってうるさいな…渉かよ…。というか俺はもう決めてるんだよ…」
「は?決めてるって何をだよ?え?は?そういうこと!?」
「…!勝手に人の心を読むな!」
「お互い様だし!?」
言いながら逃げる綾人を追う。余計なことを考えなければよかった。そう思ってもあいつ相手にはしょうがないことだ。アンコールの時間まで楽屋で休もうと俺も綾人も楽屋への道を通る。追いかけていたはずが気が付けば横にいてぎゃんぎゃんと怒鳴り散らせば綾人も負けじと言い返してくるものだから、左側の曲がり角を見ていなかった。
「っ…!?」
「あ、黒斗!」
綾人が俺に注意を促すも遅く、左側から曲がってきた人物に衝突してしまう。
「えと、あ、すみません。」
「だいじょーぶだよん」
慌てて頭を下げると衣装として俺がかぶっていたハットが相手の足元に落ちる。その白いハットをひょいっと持ち上げる手につられるように顔を上げつつ横目に綾人を窺うと驚いた表情をしている。
「あの…」
「あややん、黒斗。ライブ、お疲れマッチョッチョー」
「は、え…?」
「嶺ちゃーん、来てたなら言ってよ…ってか客席にいた?」
「いーやー?だって僕が客席にいたらみんなの視線が僕に来ちゃうでしょ!だから空いてる楽屋で待ってたよん」
誰だ。俺の頭はそればかりで綾人とこの俺のハットを奪ったまま返してくれない男を見る。あぁでも一つだけ言うとしたらぶつかったのが男でよかった。女だったら謝ることもままならない。
「代わりにー、客席には後輩ちゃんがいまーす!」
何がそんなに喜ばしいことなのか随分と大袈裟にぱちぱちを拍手をする。綾人はそれを見てほほー、俺が作曲した曲を勉強しに来たのかなぁーと自画自賛していて正直よくわからないテンションの2人を見ているとここにいたくなくなる。ともあれ視野が狭いにせよ、ぶつかってしまった本人を前に何も言わずに立ち去ることもできない。
「そんでぇー…黒斗で、間違いないんだよね…本当に」
「…は?ああ」
ふと、声をかけられるどころか頬に両手を添えられまじまじと見られる。俺より少し背の低い男はさらに屈んだりして俺を見る。なんだ?誰だ?助けを求めるように綾人に目をやると知らない顔をしてつつーっと目を逸らされる。こうなれば、あまり使いたくない手段だが知らない人にべたべたされる方が嫌だからしょうがない。
"助けて、お兄ちゃん"
「…!!嶺ちゃんもうストップ!!」
「ちょろいな…」
聞こえないように呟いてやっと離れていく嶺ちゃんなる人物を見つめる。薄々、なんとなく、つっかかるそのあだ名に眉間に皺を寄せて相手を見るとこうさーんと言いたげに両手を上げていた。いや、決して睨んでいるわけではなかったんだが。
「黒斗も…ここまで見られて覚えてないとは思わなかった。」
はぁ、と呆れたように溜め息を吐く綾人にはぁ?と威嚇するも伝わらず俺の横にピットリとくっついてくる。
「それよりお兄ちゃんって口で言って!」
「いやなんでだよ。そんな話じゃないだろ今」
相手の脇腹に肘を入れると目の前の嶺ちゃんなる人物がうわぁと声を上げる…。待てよ…嶺ちゃん?
「れい、ちゃん?嶺ちゃん…嶺、ちゃん?」
「う、うん、黒斗?急に僕の名前たくさん呼んでどーしたのかなぁ?」
「…?」
「って、ここで首を傾げるってことは本当に覚えてないのね…トホホ」
もう少しで思い出せそうな気もしたがそのままハットに視線をやると、あぁ!と言いたげにハットに手を伸ばした嶺ちゃん…。でいいか。
「もー、忘れたくせに僕より大きくなっちゃって?あややんは同じなのにね!黒斗にはハットなんていらないでしょー」
そういいながらも俺にハットをかぶせる嶺ちゃん。いや、次の衣装変わるから別に…もういらないといえばいらないんだが。
「ほしいなら、あげますよ。」
「えぇ!?何それ、顔も覚えてないおにーさんに簡単にものあげちゃうとか危ない子!」
「プレゼントは職業病みたいなところある…ありますから」
あややんと同じ顔して敬語とかヤダー!と騒ぐ相手にハットをかぶせてあげる。その行為にむっとするもはっと思い出したように目を見開く…表情がころころ変わるのを見るのは正直目が疲れる。
「今回僕ちんが来たのは見に来たのももちろんだけど、挨拶!次の企画のね」
「もしかして…次も俺は同行しなきゃならないのか…」
「うん?シャイニーさん言ってたけど?次期学院長が同行しマースって」
何もこんな3年生にとって忙しい時期に詰めなくても…そんなことを頭の隅で思うもあの人に何言っても無駄だろうと俺は1人溜め息を吐いた。
::Now what?
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