彼が合宿に参加するとき
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-合宿-13日目-無人島-
とうとう明日、この無人島を朝から立ち去り、その足で会場近くのホテルに入る。
正直、内輪ライブのお陰でお互いの力も知れたことで俺たちは更に仲睦まじくなった。
時刻は19時、あまり気を詰めすぎるのはよくないと、最終レッスンを早めに切り上げるよう全員に指示をくれたのは黒斗だった。最初は話しかけ難い奴だと思ってたけど、同い年ということもありその内にお互いほだされるようによく話す。
「明日、明後日で、もうこのユニットも終わりですねぇ…」
「…なぁんか、長かったような短かったような。」
「そうですね。でも翔さんと那月さんから学んだことはすごく為になりました」
あの藍から学んだきびしーいアイドルのイロハを真緒は文句一つ言わずにこなしていたのだから正直驚く…俺がお前の年のころはそんなしっかりしてた覚えはないし…
「つうか、昨日のアンコールで見た黒斗のパフォーマンス。やっぱり咲さんが言ってるようなパフォーマンスには見えなかったよな…」
「…そうですねぇ。黒斗くんもあやくんもとっても素敵でした」
「多分…心からアイドルをしていないから…」
心から…それはつまり俺たちでは解決できないような、真緒曰くトラウマが問題なんだろう。
「…遅かったな。もう全員集まってるぞ?」
茂みを歩いているといつのまにかコテージにたどり着く。そこにはいつものテーブルは撤去され、焼き肉パーティーが開催されていた。というか、俺たちを待たず先に始まっている。
「遅くなってすいません。黒斗さん、あの」
「早く食わないとなくなるぞ。」
「え…」
真緒の言葉を遮り俺たちに紙皿と箸を渡す黒斗はまるで真緒が何を聞きたいのかわかっているような目で俺たちから逃げるように離れていった。
「…黒斗さん、なんかあったの?」
とそこにひょっこりと真が顔を出し真緒に問いかける。俺たちに何かあったかを聞くより黒斗に何かあったと聞いてくる辺り、やっぱり真緒の言ってた通り伊達に兄弟っぽかったわけじゃなかった、のか。
「あぁ真…いや、昨日の黒斗さんと咲さんが言ってたことで、引っかかってて」
「え?」
「あのですね、昨日黒斗くんがアンコールに応えるべきアイドルじゃないって咲さんに言われてたんです。本人も同じ意見らしくて…」
「でも、黒斗の実力は本物だし、Twins temptationっつー綾人と組んだ臨時ユニットは実際俺たちの中では1番有力なユニットだ。」
「…綾人さんと黒斗さんのTwins temptationっていうのは2人で中学の時に組んでたユニット名で、それはもう…その時から息ぴったりで引っ張りだこだった。」
愁いを帯びた目で真が黒斗を見る。憧れの相手を見ているにはどうも不釣り合いなその表情に真緒は疑問を正直にぶつける。
「黒斗さん、やっぱり最近おかしいよな?真なら、もっとひしひしと感じてるんじゃないか…?」
「う、うん。DDDの時の黒斗さんは怖がりながらも頑張ろうって感じだったけど、今の黒斗さんは、周りが喜んでればいいって、吹っ切れてる感じ。だから、ステージに立つのはふさわしくないんじゃないかな…」
「でもアイドルにとっては大事な感情だよな?周りも楽しんでくれることがアイドルにとって1番うれしいこと…」
そう言いかけてぴんときた。那月も理解したのかはっとして黒斗を見る。
"自分もファンも"ではない。黒斗は嬉しいとか何も感じられないのか?自分がステージに立って、淡々とこなしていくだけになってしまっているんじゃ…
「真…それって…」
「多分、黒斗さんは"良いアイドル"なんだと…思う。でも、ショコラフェスの時に見かけた黒斗さんは凄く嬉しそうに男の子に笑いかけてて、一瞬戻ってきたのかなって思ったのに…」
「じゃぁ、黒斗さん、多分その時どっかで考え方間違ったんだろうな…。ひねくれてるから…」
そこに真緒の後ろからぬっと手が伸びてきて真緒の目が隠される。
「ぎゃー!?」
「おお、いい反応だな?」
「おい、綾人…」
俺が呆れたように後ろにいる人物に声をかけるとなんで言っちゃうんだよ!と一喝される。
「せっかく黒斗の声真似してたのに…で?黒斗がひねくれた性格してるって話を聞いて駆けつけてきたんだけど。」
こいつ、多分最初から最後まで聞いてただろ。そんなことを俺は目も合わせずに頭の片隅で考えるが、那月は馬鹿正直に一から説明をしている。親切なのはいいことだけど、綾人が黒斗関連の事で知らないことなんてない気がする。気持ち悪いほどに。
「そうだねー?俺も実は最近暇を余しては学院に行ってるけど、ショコラの時は確かに、いい線いってたんだよ。俺もさ、感情を共有してたっていうのかな、なんとなくわかったけどきっとそれが、自分の為に頑張るっていう考えをなくしてしまった一つの原因なんだと思う。その男の子の為にその日は頑張る。次の日は誰かの為に…そういった考えに変わっていった。ひねくれてるからな」
そう言って真緒にパチンとウインクをすると真緒は良い勢いで土下座をしてしまう。まあ…悪口ではないにせよ黒斗に対するそういう言葉を綾人に聞かれたらなんとなくそうなるのもわかる…ていうかなんか、土下座が妙にしっくり来てるな…
「"良いアイドル"。それは以前の学院の生徒会によるものだろ。その影響を受けすぎたんだよ。黒斗はその時に実際仕事をこなしてきて、死に物狂いで生き残ってきた学生だ。"良いアイドル"の大切さがわかってる。小回りもきくし誰にでも当たり障りないように対応する。俺の事務所にもそういう人いるし。」
「なんとか、ならないんですか?あやくんや咲さんを見て思うんですけど、やっぱり黒斗くんにも嬉しいとか楽しいって感情はあると思うんです」
「うん、あるよ。俺と体を分け合った兄弟だもん、なきゃ困る。でも心を変えるのはやっぱり生き方が違った者にしかできない。もちろん、俺も高校いかないでキッズの頃のコネでシャイニング事務所に入ったからそれからの生き方は違うけど、俺にはちょっと、教えられないこともあるでしょ。」
綾人の珍しい苦笑いにそこにいた全員が顔を見合わせる。綾人は芸歴=年齢と言ってもいいほどなのに、それでも教えられないこと…?
「もー、みんな鈍い!鈍すぎ…!ここで言うなら…真くんに頑張ってもらう感じかな…」
「え…僕!?」
ぎょっとして自分に指をさす真は何か心当たりはないかと俺たちに視線を送る。真緒は何かわかったのかうーんと言葉を濁していて那月はなるほどぉーと何かに気付いたようだ。
「な、なんだろうなー?」
俺だけがなんかわからないなんて癪に障るしごまかすように首を傾げる。いや、割と本気でわからねぇんだけど…。
「愛だよ…あ、い!」
「ちょ、あああ綾人さん!?」
「ふふーん。俺は確かに黒斗の事大好きだけど、真くんの事別に断ち切らせようとは思ってないし、というか、いずみーぬとどっちになるのかなってずっとわくわくしでぇぇ!?」
そう言ったところで綾人の脇腹に黒斗の肘が入ったことは言うまでもなかった。
「ほら、さっさと食わないとなくなるぞ」
::Let's have a BBQ!
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