彼が合宿に参加するとき
What is your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
-合宿-11日目-無人島-コテージ前-
「いただきまぁす!」
「ここ最近、この規則正しい食事が物凄くありがたく感じますね。」
各々が好きなようにおいしそうに晩ご飯を口に運ぶのを見ると作ってる身としてはこれ以上嬉しいことはない。
「黒斗はほんと何でもできるんだな!どこでそんなん学ぶんだ?」
俺が一口も運ばず周りを眺めていると向かいに座る翔が珍しく話しかけてくる。まぁ全員ランダムで毎日バラバラに座るようにしてるからいつかあるだろうとは思っていたけど…
「…特に学んだってほどじゃないが、高校に入ると同時に1週間引っ越しの間だけ、友人の家に居候させてもらった時に必要なことを自分から聞いてあとは自分でレシピ調べたりアレンジしたり…?」
「すっげ…俺じゃぁそこまでできねぇよ。レシピ通り作れるけど普通自分なりのアレンジとかまで手回らないって」
「それは、おチビちゃんが不器用なだけだろー?」
そこで別の会話に参加していたはずの神宮司さんが俺の左横から急に口を挟み、思いもしなかった方向からの声にびくりと肩を震わせる。
「あれ…?今もしかしてびっくりした?ごめん」
なるべく大袈裟にしないようにと思っていたがさすがに真横にいれば気付かれるか…
「大丈夫、です。」
「なんかさー、イッチーとシノミーは癖だからどうしようもないけど、黒斗慣れてないなら別に敬語じゃなくてもいいんだけど…?」
俺の敬語のおぼつかなさに気が付いたのか苦笑いを浮かべながら気を遣ってくれる神宮司さん。ちゃんと本心から気を遣ってくれているのはわかるがここで甘えてしまえばプロとして…
「おい、レンのせいで黒斗難しい顔してんぞ」
「俺のせいじゃないでしょ。っていうか俺と同い年のシノミーもそんなん気にしないから大丈夫だって」
「でも一応仕事として」
「じゃあこういう休憩の時は良いでしょ。個人的にも仲良くなりたいって最初に言ってたし…?」
その言葉にはっとして慌てて顔を逸らす。なんであんなこと言ったのはわからないが、友達というのが沢山いることに煩わしいとは思ったことがなかったから…仲良くなってもいいかと思ったわけで、
「さらに眉間に皺よってる…おーい黒斗-?」
「え、あ…なんだ?」
「いや、なんだじゃなくて、別にレンと仲良くなりたくなかったら断ってやってもいいぞ。」
その言葉を皮切りに気に食わないとぎゃんぎゃん騒ぎ始める神宮司さんと翔…俺が一体何かしてしまったのだろうかと目を点にしていると今度は右側でトントンと人差し指でテーブルを叩く音がしそちらに視線をやる。
「目良、良かった。この方法なら驚かないんだな。」
「…聖川さん、え?何してたんだ、ですか?」
「片目が見えないと視野が狭いだろ。いくら右側とは言え念のためにだな」
「…いや、あの…なんか気を遣わせてすいません。」
それにしても…と騒ぐ2人をよそに聖川さんが俺を見直しそして聖川さんの前に座る真に目をやり、俺に耳打ちしてくる。
「先ほどから話しかけても反応がないんだが、名前は遊木真で間違いないんだよな?」
「あ、ああ…真は人見知りってほどじゃないと思うんですけど…多分相手がプロってことで緊張してるんじゃないかと…同い年も、今日は席遠いし。」
「俺と向かいの角席だしな。」
その言葉に否定はできなかった。確かに真にとっては緊張したうえに向かいに座った人が生真面目そうな聖川さんならドジは踏めないと思ってさらに緊張するし隣の翔は距離関係なくST☆RISHの奴らに話しかけるし角席だから他に話す奴がいない。
「何か話したいことでも…あるんですか?」
「特に、まぁ世間話くらいはしたいんだが…学院の事は氷鷹からある程度聞いたが、この機会だから遊木の意見も聞きたいと思っていたんだ」
「なるほど…」
真面目だな…なんて言葉は喉の奥にしまい、真に目をやると食べることで精一杯この場所から逃れようとしている。やめろ、もう少しコミュニケーションを取ろうと試みろよ。明日は内輪ライブだぞ…
「真。」
「ななななんですか!?…あ、黒斗さん!」
「俺の存在すら忘れる程か…まぁいい、お前もう少し周りと交流を深めろ。せっかくの機会なのにもったいないだろ。」
「え、えぇ…でも」
そう言って聖川さんを窺う真に本人は不思議そうな顔をする。まぁ自分がそこまで警戒されるようなことはしてないから当たり前に生まれる疑問点だろうな
「遊木、何かあったら言ってほしい。」
「え。な、なにもないです!本当に!しいて言うなら格好いいけどちょっと怖いです!」
「結構ドストレートに言ったな。お前のそういう所いいと思う。」
「俺はそんなに怖い顔をしているか?」
「…多分、俺と同じじゃないですか…?俺もよく、無表情なんで怖いって言われます」
「…そうか」
「実際昔も俺と真が仲良くなるまでしばらくかかりましたし…」
ふむ、と俺の言葉に納得したのか真と目を合わせてふっと笑みを浮かべ始める聖川さん…きっとこれは安心させようとしてるんだろうな。
「…なんか、前の黒斗さんみたいですね…」
「まて!どういう意味だ!?俺こんなか?」
「こんなとはなんだ目良!俺のどこに汚点がある!」
「汚点まで言ってないだろ!そうじゃなくてなんか俺みたいって言われたら俺が腑に落ちないだろ!」
がたりと勢いで立ち上がる聖川さんにつられ俺も立ち上がって対抗する。隣でちょっとした小競り合いをしていた翔と神宮司さんは驚いて俺たちを見る。
「別に聖川さんの顔が問題なんて一言も言ってないじゃないですか!その真顔が真に不安を与えてるってだけだ!」
「俺の真顔の事を言うならまずは自分の無表情の事を気にしろ!今でえ眉間に皺が寄る以外の筋肉が動いていない!」
「表情筋が弱体化してるのは今に始まったことじゃないし今となっては笑いたくてもうまく笑えないんだよ!好きでこんな無表情なわけじゃない…!」
「笑いたくても笑えない…よくそれでアイドルを…?」
「…っ!」
さらに眉間に皺が寄ったのが自分でもわかるほど俺は怒りをあらわにした。いや、怒りなのか悔しさなのか。正直、笑顔はまともに作れたことがない。作り笑いだとわかるほどのクオリティーのものならいくらでもできるのに笑っていると思っているのに無表情だと言われ続けてから笑うことをやめた。確かに、それでアイドルなんて。
俺たちの言い合いはいつの間にか周りが注目していて真が酷く狼狽えている。お前のせいじゃない。
「…すいません。」
一つ息を吸って俺は聖川さんに頭を下げる。
「いや…俺も、心にもないことを言ってしまって悪かった。」
「本心、ですよね。…、正直俺、笑うってことがよくわからないだけで…あ、いや…今は俺の話なんて聞きたくない…よな。席外します。」
「おい…そこまで自分を責めなくても…」
聖川さんの声に耳を傾けることもなく俺はその場を後にしコテージの中へと入る。ドアをばたんと閉めると音也が俺がちょっと話してくるよ。なんて言ったのを聖川さんが止めるのが見えた。
「あー、俺の馬鹿。他人の笑顔にそんなに動揺しなくてもいいのにな…」
羨ましいと思った。聖川さんが自然に微笑むことができるのが…俺はああやってできない。笑ってると思っても無表情だと指摘を受けてきた。
「…アイドルの時も…本当は笑えてないんじゃないだろうか…」
そう呟き俺は自分のベッドに身を投げた。
::Keep smile!(fakesmile)
番外編TOPへ戻る