彼が合宿に参加するとき
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-合宿-8日目-無人島-コテージ前-
内輪ライブまで今日を含め残り4日。
「黒斗ってさー、人のお世話とか好きなの?」
「は?なんでだ?」
全員の曲も作り終え、それぞれのユニットがそれぞれの場所でレッスンをしている。俺たちもコテージの前でそれぞれが作っていた没になった曲たちをもったいないからと流してアレンジしていく。
「いずみーぬからも聞いたけど、随分と他人の為ばっかりに精を出してるみたいだから…なんか、昔はもう少し俺に似てた気がするんだけど…」
「綾人に?…今となってはあの頃の2人はどっちも死んだと思ってるんだが。」
俺の率直な意見に笑みを浮かべて休憩と言うように椅子に座る綾人。俺は流れる曲を聞きながらその前で体育座りをし、まさかこんな日が来るなんてと呟く。
合宿12日目に内輪のライブ、14日目に都心の会場近くのホテルに移動し、15日目に特別ライブ。シャイニングも父さんも納得のスケジュールと企画で、臨時ユニット制度も認知。その話はテレビ通話で父さんと綾人、シャイニング。そして俺の4人で話をした。途中シャイニングが高笑いをするから何事だと尋ねると、俺と綾人を指さし、もちろん現役だからユーたちも参加してくだサーイ。と。
「大丈夫、俺はアイドル俺はアイドル俺はアイドル。」
ショコラフェスのあの少年のおかげか何か知らないが、最近の俺はアイドルという何か別の生き物として具現してるならと自分を置き換え吹っ切れることで仕事をこなせている。もちろんその間は男女という見方もせずただファンとして見ることによって女性に軽いファンサができるようになった。
「距離を置いてサイン書くファンサって見たことないけどな」
「人の心を読むな!!」
急に綾人が後ろから声をかけてきたことにより思考が遮られる。
「まぁ…裏にずっと立ってたりするよりましだと思うけど。その吹っ切った感じのはやっぱりまだ問題だよなー」
「…蒼空にも言われた。」
「だろうね。蒼空も凄く良いアイドルだからそういわれるのも無理ないよ。黒斗も良いアイドルかもしれないけどそれは本当の黒斗じゃないから」
わかってる。そう心で呟くと、歌詞にそんな感じの入れよう、なんていいこと思いついたというように書き込んでいっていた。俺をネタにするなよ。
「安心しろって、そこからちゃんと解決するように作詞するから。あ、作詞と言えば、獅子王は元気?学院に戻ってきたって聞いた。なんか仕事でもたまに名前聞いてたからさ。」
「…あ、レオのことか…元気だぞ、あいつはいつも」
綾人はレオの事を獅子王と呼ぶ。正直わからなくなるからやめてほしいのだがレオは獅子っぽいというのとKnightsで王様と呼ばれてるところから獅子王、らしい。レオって言った方が早く済むのに…
「綾人、さっきからなんなんだ」
そこで俺はずっと視線を感じていて振り返る。机に突っ伏し顔だけ横に向けたまま俺を見る綾人は、んー、と適当に返事をする。
「…眠いのか?」
「見ればわかるのになんで聞くの?眠いけど、それじゃなくて。」
「…身内でも本心は見ないようにしてるんだよ。で、俺の思ってる事ずっと読んでるみたいだが…」
尋ねたところで顔を背ける綾人に溜め息を吐き隣に座る。俺が一向に見ようとしないことがきっと気に食わないのだろう。こいつの独占欲はこういう所にも影響していて…面倒くさい。
顔を腕で覆い何も見ない綾人とは対照的に、俺は片目を失う前は大まかではあるが他人の心を見ることができた。それを話した時、昔綾人はみんなの事を平等に見て、愛でるためだ。だから黒斗の目は綺麗な青なんだと言われた。それを言われて初めて自覚したのは綾人の瞳がやや紫だったこと。紫は神秘、優雅と良いイメージもあるが、逆に独占欲、二面性とマイナスなところもある。先日林檎さん相手ににまさに独占と二面性を発揮していたのを見た。
「昔っからお前だけなんでも見えててさー、今だってそうなのに?それをうまく利用しないとかもったいない」
ぐちぐちと文句を言う綾人に嫌でも溜め息が漏れる。
俺と違ってそんな力がなかった綾人は羨ましいと言っていたが俺は逆に荒むばかりで、とうとううまく利用したせいで片目が見えなくなった。以降俺のその力ともいえるその目は目を閉じていない間は否が応でも色々なものを見てしまい人の心、その行動や癖から何から何までわかってしまって正直具合が悪いどころの話じゃなかった。
俺が意識を失っている間に何があったのか、綾人は俺の心だけ読むことができるようになっていて、見られているというのが見てわかっている俺にとって怖くもあったし、喋らなくても会話できる心のよりどころともいえる存在でもあった。ちなみに、と言っては何だがその頃から綾人の瞳は前よりずっと紫色に近くなっている。
「俺は病んでるし、黒斗はそれが心地いいなんて歪んでるよねー」
ぺらぺらと読んでいる綾人にテーブルと挟むように拳を振り下ろす。
「い"った!?」
「俺とお前の愛が歪んでるのは正直今に始まったことじゃないのかもな。」
「いいこと言ってるんだけど今殴った意味ある!?ねぇ!?」
「というか、愛でいいのか…?」
「聞いてない!!」
がたりと立ち上がる綾人は怒ったのかずんずんと機材に近づき最初から曲を流す。
「2曲目の、歌詞アレンジしたから歌って。あと、愛で合ってるよ。本当に知ってほしい愛じゃないけど、きっとそれはいずみーぬか真君が教えてくれる」
「は?」
「兄弟愛は俺が教えたし、友愛は蒼空が教えてくれた。恋愛は…どっちかなぁー?」
「…あ、あのなぁ」
「別にどっちかを選べって言ってるわけじゃないけど、きっとわかるよ。それにこの合宿で更に黒斗の人間に対する感情もちょっと変化する気がするんだよなー、人の為なのは変わらなくてももっと違う根本的なこと。読める。俺はそうやっていっぱい黒斗の事ノートに書き込んできたから」
「最後に気持ち悪いことぶっ込んでくるなよ」
「はいはい、それも愛ですからしょうがないんです。ほら、いいから歌ってみて」
「…」
機材につながっていないどころかコードもないおもちゃにもふさわしいマイクを渡されそれをもって歌う。あいつらが限りあるレッスン場所をローテーションで使っているため俺たちはこのコテージの前のみ。それらしい雰囲気もないこの場所で俺たちは先ほどから小さな機材から流れる曲で歌って踊っている。
蒼空と歌うのとは違い、似たような、否ほとんど同じ声がコテージ前で響く。昔はよく一緒に仕事してたなぁ…と珍しく昔を思い出す。
でも今はやっぱり蒼空と歌っている方がしっくりくるし、その声質がいいと思って曲を作っているせいか違和感しかない。
「こんなことで本当に俺たち特別ライブに参加させられるのか…」
「シャイニーは言ったらやる人だからな。母さんや父さんと同じ。ああいう人の行動力って凄いだろ?」
ま、今回の臨時ユニット制度は黒斗の行動力によるものだけど。とにっこりと笑みを浮かべ言われれば反論はできない。自分の意見を通す代わりに自分も盛り上げの一員として参加する。確かに理には適っているから反論はできないししたところで相手は事務所の社長だし。
「衣装とかさ、決まった日からもうシャイニー依頼してるみたいだよ。割となんでも合う服らしいけど。俺たちどうする?さすがに1日前とかじゃなければ後から発注依頼しても…」
「そうだな。せっかくだし…」
一瞬でも頭を過ってしまったらもうおしまいだ。しまったと思ったころには綾人は物凄く嬉しそうな気持ち悪い顔をしている。
「そっかぁー、双子コーデって感じだねぇーふふふお兄ちゃん嬉し…ごふぅぅ!!」
まさか……綾人と一緒で楽しみだと思える日が来るなんて。
あの頃の二人は、まだ死んでなかったのかもしれない。
::Memories and Present
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