彼が合宿に参加するとき
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-合宿-3日目-無人島-コテージ横の草原-
「ステージのクオリティは、上の上といったところらしいな」
「夢ノ咲学院の講堂とそう変わらないと目良さんが言ってました…こんな無人島なんかにあるステージなのに…」
「さすがボスの作るステージって感じ?いつでもどこでもアイドルに関するところのお金の掛けようが半端じゃないよね」
聖川がその場にしゃがみステージとは程遠い草っ原に手を置く、時刻はちょうど10時を回ったところ。正直この真面目お二人の事だから朝早くに…なんて思ってせっかく朝6時に準備を終わらせたけどホッケーが俺たちの芸歴その他もろもろに興味を示していたせいでまるで昨日と同じような一日を過ごすところだった。
合宿が始まった1日目はそれはもう熱心な雑誌記者以上の食い付き様で俺たちにたくさん質問してくるし。聖川に至ってはなんか一緒に習字始めるし。いつも思うんだけど急に変な個性だしてくるよな。
「そうか、氷鷹の通う場所にも立派なステージがあるんだな。」
「はい、と言っても屋外ステージとか、仮設ステージとかイベントに応じて立てたりもしますけど、一回一回取り壊すので立派なものは講堂くらいしか…」
「へぇー?一個作って使いまわせばいいのに?」
「そうはいっても普通科も含めた学校だからな、そんなに規模を広く使えないのだろう。」
「その通りです」
とはいえ、夢ノ咲学院も相当金のかかっているような学院ともいえる。そもそも俺たちのいたところと違いアイドルだけじゃなく色々な面で芸能活動に携わる学科がある学院。
普通科はもちろん、音楽教員免許とかが取れるようになる音楽科、演劇や舞踏、舞台演出について学ぶ演劇科、宗教曲などに関する声楽を中心とした教育をする声楽科、そして設立されたばかりのプロデュース科。
特に夢ノ咲学院のアイドル科は強く支援されているらしく、学生にとってはアイドル科が事務所のようなものらしい。
「でも。学生なのに仕事とか当たり前に紹介されたりするんだろ?」
「そうです。今回のも仕事に入るんです。まあ合宿なのであまり実感わかないですけど、最後に特別ライブがあると考えれば…」
「そうだな、言わずもがな立派な仕事になり得る。」
「というかさ…余裕かましてる場合じゃないんだけど俺からも夢ノ咲学院について質問していい?」
こてんと首を傾げたホッケーに子供らしさを感じそういえばしっかりしてても高校生だもんなぁと思い返す。
「普通科の生徒って、つまり夢ノ咲学院のアイドルには会い放題…?ってこと」
「神宮司はまた下らんことを…」
「でも、普通科に入学してくる生徒にはそういうのもいるんじゃないの?下心とかさ…」
「あー…まぁ。何も知らないで入学してくるのがいます。今年の1年にもいたみたいです。」
はぁ、と呆れたように溜め息を吐くホッケーに今度は俺が首を傾げた。
「何も知らないでっていうと?」
「夢ノ咲学院はそういうことも多々あるのでアイドル科は他の学科と完全に敷地が区切られてて移動したいときは受付を済ませなければならないのと…不当な理由や明確な理由なしではアイドル科に容易に入れないんです。」
「は…」
「それはまた、随分と厳しいんだな。」
「…まぁ、言われてみればそうかもしれないです。あまり気にしたことはないですけど…」
「ただの恋愛禁止なんかよりずっと厳しい気がしない?」
うちは学園も事務所も恋愛禁止令があるけど、男女がまったく会わない状況にあることはまずない。というか逆にそこまでするほど全員が子供ではない、と言ってしまえばいいのかもしれないけど。夢ノ咲学院のアイドル科は真剣にアイドルを目指していても普通科の生徒にとってはそうではない。だからこそ…かもしれないが…
「でも俺昨日聞いた話に一番驚いたんだよね。なんだっけ、ほら、校内アルバイトがどうのこうのって。」
「校内通貨の事ですか…?」
「そうそう!高校生の通う学校にしては…ねぇ?」
言葉を濁しながら聖川を見るとこくこくと神妙な面持ちで頷いている。
「うむ、…ユニットにとって衣装を作るにもレッスン室を借りるにも校内通貨が必要ということは…なかなか手に入らなければそれだけ出来の悪いユニットになってしまうということだろう…」
「…なんつー話してん…ですか」
がさがさと乱暴に歩きながら言葉を放ったのはいつの間にか近くに来ていた黒斗。敬語が慣れないのかここ数回タメ口で話しかけられるがちゃんと言い直す礼儀はあるようで…
「あれ、マネージャーどうしたの。」
「レンさん、俺マネージャーじゃないんですけど…」
「じゃあ、俺たちの付き人?何でもやってくれるからもうそのレベルなんだよ」
けらりと笑うと眉間に皺を寄せたままの黒斗はホッケーを見やりCDを手渡す。そこには随分と綺麗な文字で"神宮寺さん、聖川さん、北斗"の文字。それはもしかしてもしかしなくても…
「俺たちの、曲?」
「はい。わりと、うまくできたかなと思います。流石に昨日からぶっ通しの同時進行で…頭が回ってなくて、感覚で作ってるんですけど」
まじで?と思わず問いたくなるような台詞に、ほんと黒斗は天才肌というかアヤチーと一緒で頑張りすぎなんだと思う。それがあの一家の血ならどうしようもないけど、前にアヤチーが隈作った顔のまま事務所のソファで寝てた時はさすがに驚いた。っていうか死んでるかと思うほどだったなぁ…
「目良さん、あの…無理しないでくださいね。いつも無理しすぎなところあるので。」
「おー…なんか…CD配る度にそう言われてる気がするな。でも俺にとって作曲は…まぁ暇つぶしにもなるし…いや、暇なんてないんだけど…。あ、眠い。」
「おい目良、いきなり自己完結するな。」
ふらふらする黒斗は聖川に肩を掴まれやっと揺れずに立っている。3日目にしてこれは…まだあと最終のライブも含め12日あるのに大丈夫か?見たところ気を抜くということがないせいだと思う。あとアヤチーと同室なのももしかしたら…いや絶対ストレスなんだろうな。
「すいません。えっと、じゃあ頑張れ…ください」
拙い敬語を残しふらふらと立ち去っていく黒斗を3人で呆然を見送る。
「目良さん…敬語慣れてないんですよね。」
「それもそうだろうが、敬語まで頭が回ってないんじゃないのか?3日間、目良は寝てないなんてことはないよな。」
「さすがに3日間寝てなかったら隈できるだろ?でも、ないってことは一応寝てはいる。それか…化粧で隠してる…とか?」
疲労の色は明らかに隠せていないにせよ、確かに隈ができているように見えるのとないのとでは周りに与える影響は違う。それに、いつも昼食も夕食も作っていてその味に狂いはないし、見るからに疲れているという態度はとらない。もともと無表情なのも少なからず影響しているとはいえ、それが逆に気付けなくなる原因の一つ。
「なんかさー、それこそ黒斗って高校生とは感じさせないよな。学院でも普段からあんな感じ?」
「はい。もともと周りに気が回ってしまうタイプみたいで…最近は…悪化してます。前以上に自分の為になることはしないんです。全部他人の為って言いながら努力して」
「ある意味病気じゃないのか…目良の相方は…?」
「あぁ、蒼空…星宮先輩は。はい…まぁ。」
言葉を濁すホッケーに聖川がドストレートに、使えないのか?と尋ねる。その瞬間眉間に皺を寄せていたが黙ったまま一度深呼吸をし
「まぁ目良さんのことを2,3番目に理解してる人ではあると思うんですけど。」
フォローした末に1番じゃないのかよ…と心の中で突っ込むより他なかった。
::You better sleep
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