彼が合宿に参加するとき
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-合宿-3日目-無人島-海辺-
「ミューズ?」
「はい、マコトはミューズに見守られてます。だからもう少し、失敗を恐れずに自分らしさを出していいのではないでしょうか」
「ぼ、僕らしさ…」
この合宿もはや2泊3日目、いまだに…マコトがワタシに心を開いてくれていないような気が…。昨日緊張してますかと聞いた時は、ワタシの国の言葉を覚えてないのが申し訳なくて…と言ってくれたとても真面目なマコト。
「マコト、2人で頑張りましょう。私も、マコトが全力を出せるよう、先輩として精一杯フォローします!」
「うう…僕も頑張るよ…。歌声もダンスも愛島さんにはかなわないかもしれないけど…」
「愛島ではなくセシルで大丈夫です!せっかくユニットを組んだんですから、仲良くしましょう」
じゃぁセシル、くん。でいいかな…!と尋ねてくるマコトに何度か呼び捨てで、というもうまく言えないらしく渋々頷く。苗字やくん付けだと距離がある気が…と思って提案したけどあともう一押しというところでマコトはブンブンと首をふってしまう。
「おー、案外仲良くやってるじゃん?実際ふたりとも…どんな風になるかいまだ予想付かないけど」
きょとんと目を丸め声のする方を見るとそこにはアヤトの姿。
「アヤト、どうしたんですか?」
「曲ができたよーってことで配りに来たの。2人にちゃんと合わせた曲だからそれなりに歌いやすいかと…たぶんね。」
アヤトはSSW、シンガーソングライターとして芸能界で幅広く活動している絶賛人気No1ともいえるアイドル。その人気ぶりもST☆RISHができる前からのもので、物知りなカミュから聞いた話だと4歳の頃から芸能界にて物凄いベテランらしく、アヤトのことを知らない人はいないとのこと。その作曲の才能もさることながら、頭もよくて演技も上手、歌も踊りも上手。すべては頑張った成果だよ、とアヤトは口癖のように言う。
「他人の為に書くって滅多にないからさ。その点では黒斗には負ける。あと真くん、黒斗がすっごい心配してたよ。いいねぇ、優しいお兄ちゃんに甘やかされて。」
「…う、はい。あの…」
「もちろん黒斗にはいじめるのやめろって言われてるけど、なんか黒斗が珍しく他人を可愛がってるの見るとなんっかむしゃくしゃするんだよな…。ま、いいや。はいセシル。これがCD」
にっこりと笑顔を絶やさないままワタシにCDを渡すアヤトの目はちっとも笑ってなんかいなくて、こういった話題は何となく嫌だなと感じ取れるほど。
「なぜ筆記体で名前が書かれてるんですか?」
「え?そんなん…他のと混ざったら大変でしょ。あぁ、なんで筆記体かっていうのは俺の癖。書きやすくて。あとこれが楽譜。歌詞は…書けるよな?」
「もちろん!任せてください!」
「セシルはほんと元気な返事だな。お前が引っ張ってかなきゃなんだから頑張れよ?なんかあったら俺も黒斗も相談くらいは乗るけど…多分な」
とそこにずっと黙っていたマコトがフルフルと首を振り、大丈夫です。と一言だけ小さく答える。
「僕たちで、最高のユニットにしますから。もう、黒斗さんに心配かけないように、頑張ります。」
「そか、…あーあと、いずみーぬ心配してたよ。栄養あるもの食べさせてとか怪我しないようにとか」
「えっ、泉さんは僕の保護者のつもりなんでしょうか…」
「うわぁー、俺いずみーぬのファンだけどあれが親だとちょっと泣きたくなるね。顔は好きだけど」
「…綾人さんも結構、顔が顔が…っていうタイプですよね。」
「この業界だと目が肥えちゃうからね。でも、本当に頑張ってよ。なんなら合宿明けのライブ、いずみーぬくるかもよー」
ひらひらと手を振りながらそう言い残していったアヤトを見送ると、はぁ…と疲れたようにマコトが溜め息を吐く。
「綾人さん…相変わらず過ぎ…」
「大丈夫ですか?」
「うん…。綾人さんって割と本気で黒斗さんの事大好きで、泉さんと違ってファンって訳じゃないから、僕目の敵にされてて」
「メノカタキ?」
「あ、ええと。一方的なライバルというか…そんな感じ。僕も黒斗さんの事好きだけど、綾人さんは独占欲が物凄いから…」
言われてみれば、この4日間滅多なことがない限り、綾人はずっと黒斗にくっついてて…今日に限らず事務所とかでもたまにすれ違ったりすると弟が可愛いんだよと、手作り弁当…の写真を見せてきたり。
正直、弟の話をしているときのアヤトは気持ち悪い…
「本当はさっき話をしてた、泉さんって人の事も。ファンだよって言いながら黒斗さんと仲良くしてるのを見るとあまりいい顔しなくて。あの人のブラコンっぷりは本当急に悪化したから…」
って、そんな話してる場合じゃないか!と慌てた様子でワタシからCDを受けとると、慣れた手付きで機材を操作するマコト。楽譜を見ながらその音楽を聴いているととても和み、そして曲から優しさが感じ取れる。雄大な自然が間近にあるこの水平線が見える海辺で聴いていると心地よく、あわよくばこれをBGMとして休みたくなるような…。
「なんか落ち着くなぁ…」
「心が洗われるというのはこういうことなんですね」
「…きっとこれは黒斗さんが作曲した方だと思う。やっぱり、ちゃんと僕たちが歌いやすいような曲になってる」
マコトが楽譜を見ながらたんたんとリズムを取る。TrickstarやST☆RISHといったアイドルにしてはゆったりした曲調で、ワタシも共感しやすくマコトも踊りやすいと一言。
「でも、ちょっと聞いただけで黒斗が作曲したのがわかるなんて、マコトは本当に黒斗のことが好きなんですね」
「ええっ!?いいいいいや…!そんな、こと…!」
誰でも気づいてしまうほどの動揺の仕方に思わず笑いが止まらなくなってしまい、マコトはさらに顔を赤くして慌て始める。
「人を好きになるということは素敵なことですから隠すことはありません。」
「そう…だけど。でも、隠してても隠してなくても黒斗さんにはうまく伝わらないから」
「なぜですか?」
「黒斗さんは好かれるとかってよくわかってなくて、というかそういう感情だけはちょっと拒んでるような…昔いろいろあって、黒斗さんは恋愛感情理解できなくて」
「…感情というのは理解するものじゃないです。きっと、ちょっとでもそういう気持ちになれば…」
うん、とマコトは頷くもその瞳は悲しそうで俯いてしまう。
「試したんだけどね。…僕じゃ駄目みたいで。」
マコトのその呟きは耳を澄ましていないと聞き逃してしまいそうなほど小さく震えていた。何があったか…聞こうにも聞けない気まずい状況に頭を悩ませる。こういう時はなんと声をかけたら…?
流れる曲調はいつの間にか変わっていて2曲目に入っていた。きっとこっちはアヤトが作曲したほうで、アヤトらしいアイドル曲。その曲が流れるもマコトは長い長い溜め息を吐いて元気には程遠い。
「マコト…」
「おい。お前ら曲聞いてるのか?」
「はぇ!?」
急に至近距離から声をかけられおかしな声が出ると同時に背筋が伸びてしまい、視線をやるとそこには黒斗が呆れたように立ち尽くしていた。
「…黒斗。」
「CD、間違ってない…みたいだな…はぁ。そうだ昼飯なんだがお前らコテージで食べるか、それともこっちで食べるか…どっちだって聞きにきた。もしこっちで食うなら弁当箱にいれて持ってくるが」
「黒斗!そんなことよりマコトが元気ないのです!黒斗なら何とかできますか!?」
「は?なになに?」
黒斗の両肩を掴むと勢いよく手を払われる。随分と目を見開いていて怒っているような困惑しているような表情が、マコトを視野に入れると途端に保護者のような顔つきになる。
「真…?」
「…」
大丈夫かと駆け寄る黒斗を眺めながらワタシはマコトの言ったことがなんとなくわかってしまったような気がした。
::Don't let life get you down!
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