我儘な紅茶で一服


我が儘な紅茶


「こんばんは、」

「…あー、ジョシュア、サマ。」

「ちょっと、俺の事またそうやって遠回しに馬鹿にしてたらいい加減怒るよ?」

夜の庭園を歩いていた俺は、不意に後ろから一国の王子であるジョシュアに後ろから声を掛けられた。
幼い頃仲良かったこともあり、王子だなんて肩書にどうもしっくりこないせいか未だにこいつをジョシュア様、なんて呼ぶには少し気が乗らない。

紅茶の国、ベルガント。今夜はパーティーが開かれている。というのも、他の紅茶の国との交流のためのパーティーで、来賓されているのはジョシュアと同じ王子ではなく、各国の王ばかり。

がやがやと騒々しい会場のせいで部屋にこもってしまおうとも思ったがただ騒々しいのが聞こえるだけで俺はしびれを切らせて外に出た。俺がそんな自由にできるのもジョシュアが幼馴染というだけなので、実際周りの従者にはよく思われていない。

「俺はふつーに、親の店を継ぎたかったのに。」

ぼそりと聞こえるように呟くと、ジョシュアがきまり悪そうに俺を見る。というのも、俺がこの城の、ジョシュアの執事という仕事をしているのはジョシュアが我が儘を言ったからだという。俺が20歳になった年、急に王家の馬車が家の目の前に止まって、俺を連れて、否、拉致をした。
どうやら親は平然としてたし、昔のよしみで王様から両親に話はいってたのかもしれない。そう思うとただただむかつくのだが。

「##NAME1##は、俺のそばにいるのが嫌?執事として仕えてからもう3年も経ってるのに、逃げ出そうとか今までなかったし、俺が言う以前から身だしなみも整ってて、実際指摘するところがなかった。昔は泥だらけになって遊ぶような子供だったのに」

「お前だってそうだったろ。王族に仕えるならそれくらいはしっかり、と思って。親に叩き込まれてて、ほら、お前が昔やらかしたこと王様から聞いたみたいで…」

「それから##NAME1##と遊べなくなったし。俺はもう毎日ずっとテーブルマナー、仕草、喋り方まで猛特訓だったよ。」

「俺もだよ。幼馴染が王族なんだから将来的に、って。とばっちり受けたんだからな!」

「でも、活かせてるんだからよかったんじゃない?君の立ち振る舞いは周りの国にもいい影響を与えてるし、執事までここまで礼儀正しいなんて流石です…ってね」

適当に返事を返し俺は家の事を思い出す。高級な茶葉をブレンドし、独自の紅茶を売っている老舗で、知る人ぞ知る。といった店だった。それが、ジョシュアの我が儘と引き換えにその店の茶葉を王室にも届けるようになり、所謂王室御用達になってからは紅茶の国では知らない人はいない有名店になった。
街の視察がてら毎度ジョシュアとともに寄るときは昔と変わらず美味しい紅茶を出してくれる。もちろん、普段は紅茶の提供ではなく、茶葉を売る店として営業しているのだが。

「ねぇ、俺と一緒にいるのが嫌?って質問、答えてよ」

空を見上げながら耽っていると少し拗ねたようにジョシュアが尋ねてくる。嫌だったらそれこそとっくに塀をよじ登って逃げているだろう。

「嫌って言っても帰してくれないだろ。それにお前が、"俺がいい"ってダダこねた理由知ってるのに、簡単に無碍にもできないって。」

「ただの情けで俺と付き合ってるの?」

「そうは言ってないだろ」

「じゃあ好き?俺の事。」

「…」

「言って。」

「脅迫だろそれ。お前怖いんだよ。あー、えっと。好き。これでいいだろ…もう寝る」

「ありがとう、じゃあ一緒に寝ようか」

「はぁ!?なんでそうなるんだよ!っておい!引っ張るな!廊下を走ったらだめですって!」

「城の中に入った途端に小うるさい執事になるのやめて。今はみんなパーティーに注力してる。いるのは俺たちだけだよ?」

「…うわー、ほんと性格悪…ごほん、ジョシュア様の仰せのままに。」

結局執事のまま!と完全に拗ねたジョシュアに無理矢理引っ張られながら俺はその手をぎゅっと握り返した。

「嫌いじゃないぞ。そういう子供っぽいとこ。」

「…うるさい!」










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