イベントストーリー
What is your name?
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何してるんだ、あれは…そう言いたげな表情の黒斗。それもそのはず、転校生ちゃんをはじめ、今回ライブに参加した1年生数名と、さらにいつの間にか合流していたあの夢ノ咲学院の生徒会長となんか眠そうな奴が増えているのだから。
遠目で見ているのもつかの間、黒斗のスマホに何か連絡が来たようで、通話ボタンを軽く押し、黒斗は話し込んでしまう。交換条件がうまくいってるのかいないのか、それは他事務所の俺があまり首を突っ込むことはできないけど、どうやら看板アイドルとして復帰してほしい。というのが条件である。
「あの、綾人さん。」
「…ん?えっと、紫之くん。だっけ」
「はい。あの…気になってたことがあって。黒斗先輩って、もしかして凄く忙しいんでしょうか…」
「最近電話ばっかりだから?」
「そ、そうです。」
この子は多分周りより察しが良いし、その上気にしてしまうタイプの子。案の定黒斗が忙しそうにしているのを見て少し心配しているようだ。
「黒斗は超人気モデルだったからねー。事務所も必死なの。」
「超、人気モデル…?」
「顔はもちろんだけど、声も演技も撮影の時のポージングも、仕事に対する熱意も。全部ひっくるめて人気だった。」
苦笑しながらそう伝えると続きが気になる、とでも言いたげに首を傾げる。きっとこの子たちの世代からぱったりと黒斗は姿を見せてないから、幻といってもいいのかもしれない。
今、学園でしている程度のライブではまだ本調子とも言い難い。いつになったら治るとか、どうやったら治るとか、あてはないけど、それでもきっと蒼空が黒斗を引っ張っていってくれるだろうから俺はただそれを遠くから羨ましそうに見るだけ。天才だって天才なりに大変なんだから。
「昔話するといっつも怒られるんだ。だからこれは内緒なんだけど、黒斗って昔は俺みたいな性格だったんだぞ?」
「えぇ!?」
俺が顔を寄せてこっそりと伝えると、声を抑えながら驚く紫之くん。まったく反応が初々しくて楽しい。
はっとして黒斗の方を振り向くと、口パクで死ねと言われた。うーん、見られてた。
「蒼空。」
ふいと視線を逸らされ、黒斗は蒼空を呼びつける。くまちゃんのぬいぐるみを抱えた子と一緒になってはしゃいでいた蒼空は一瞬不満げにしながらもおとなしくそちらへ向かう。
「お仕事って、大変だなー」
「へ?」
「大人の話。紫之くん、2年生になったら何したい?」
「えっと、まだ…何も…でも、もっともっとダンスが上手になりたい…です。漠然としすぎて呆れちゃいますよね。」
「ううん、目標を持つことはいいことだし、アイドルとしてはそれくらいの目標が良いのかもね。あれもこれもってやってると、大変だから。」
「綾人さんは、そうなんですか?」
「あー…うん。まぁそう言うことになるかな。黒斗の代わりに一杯なんでもできるようにならなきゃって思ったら、いつの間にかそうなってた。仕事場じゃ天才は壊れ物のように扱われるし、黒斗くらい乱雑に扱ってくれる方が俺的には良いんだけどなぁ…」
「お前は気持ち悪いだけだ。ったく、創に余計なことを教えるな…!」
いつの間にやら戻ってきた黒斗が何の前触れもなく俺の頭にごつんと音がなる勢いで殴ってくる。いや、いくらこういう扱いの方がって言っても、痛くないわけはないんだよ?かなり痛いからね。
「黒斗先輩。人気モデルって聞きました…!やっぱり憧れちゃいます。」
「はぁ?おま、綾人…。というより、俺に憧れるより蒼空に憧れた方がいいぞ。こいつは本当に凄いから」
「うぇぇええ!?黒斗が俺の事褒めるなんてめっずらしいぃぃ!なに!!今日はとんかつ食べさせてくれるの!?」
「…あぁ、いいぞ。」
「いやっほう!やったね!!」
ぴょーんと高く跳ねる蒼空に黒斗は困ったように笑みを浮かべる。すぐに何かあったんだろうと探ることはできるし、その理由だって読めばわかる。
「…大仕事だねー。あーやだやだ、大人のやり方ってきったなーい」
「うるさい。蒼空は普通にアイドルやりたいって話だし、別に構わない。」
「黒斗。またすさんでいくぞ。振出しに戻るなんて俺はごめんなんだけど。」
「…平気。」
じとーと見つめてみてもふいと目を逸らされる。
「あーあー!!お兄ちゃん心配だなー!!」
わざと大きな声でお兄ちゃんと強調してやれば、なっ!?と目を見開いて俺を見る。もちろん、俺の声にそこにいた全員が俺を見ている。
「お兄ちゃん…?」
俺のことを兄だと認識していなかった生徒は少なからずいてきょとんと目を丸める。
「えっと、じゃぁ。黒斗先輩って弟さんなんですか?」
アイドルはイメージ。世間でもよく間違えられているけど、ここでもその間違いは発生していた。
俺が弟で、黒斗が兄。だから黒斗のイメージはしっかり者で、俺はお調子者。
これが逆になればやっぱりいろいろ模索されるわけで…
「へぇ、興味深いね。黒斗が弟だったとすると、今言っていたみたいに君の事お兄ちゃんって呼んでいた時期があったのかい?」
それにいち早く食い込んできたのは腹黒と名高い天祥院英智。わぁー目つけられちゃったね。
「違う、俺はこいつのことだけはお兄ちゃんなんて言ってない。断じて!」
「こいつのことだけは?えー、じゃあ誰のことなら言ってたのー?」
「凛月っ!言葉のあやだ!変に絡んでくるな!あぁこの!」
甘えたちゃんだった、ことは確かにないし、俺のことはお兄ちゃんって呼んでくれたこともないけど、こうやってからかわれている黒斗を見ると面白くてしょうがない。
まぁこの後大抵倍返しされちゃうから何とも言えないけど。
「綾人、なんで黒斗を煽ったわけ?」
はぁ、と呆れた様子で俺を見やる蒼空にとぼけて見せるも、どうやら黒斗が少し元気ないのは蒼空も察していたようだ。
「違う事務所のお前に言うのも難しいことだけど、看板モデル兼アイドルやるってことになったんだ。…手始めに、ツアーライブ。」
「きっつ」
「だろ?それに黒斗最近…体酷使してるみたいだし。昔はどんなだったかって俺は詳しくはわからないから、何とも言えないんだけど、変に昔みたいに振舞ってそのうち死なないか心配で。」
「…うーん。難しいってはっきり言っちゃえばそれまでだからな。黒斗は蒼空と組んでるうちは死なないよ。もちろん昔の黒斗もいいかもしれないけど、今の笑いがぎこちない黒斗だって愛嬌あるんだから」
「あーそれ俺もわかる!ぎこちないのって逆に可愛さがこみあげてくるよなー!…あ、ごめんって。綾人怒ったら黒斗と同じ感じになるから嫌だ」
睨んでいた目を逸らし黒斗を見るとみんなによしよしと撫でられたりからかわれたりしている。わずかに頬なんか染めて。もともと人付き合いが苦手だから撫でられるだけでも怒ってたのに。
「ありがとう。ここまで生まれ変わってくれて。」
「…へぇ、綾人でもそんなこと言うんだなー」
「あーもう、今感動するところ!」
わちゃわちゃと人ごみから出てきた黒斗は眉間に皺を寄せながらも俺の目の前に立つ。後ろからはくすくすと笑う声も聞こえて何が起きるのかさっぱりだ。
「公開処刑だ…くそったれ」
思わず口が悪くなってる黒斗に首を傾げると吹っ切れたように口を開く黒斗。
「いつも、……ありがとう。お兄ちゃん」
蒼空も俺も含めて全員が大笑いしたのは、また別の話。
弾む!心と花咲くモールライブ::END
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