イベントストーリー
What is your name?
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「あのっ…」
「ん?」
ショッピングモールでライブをしましょうと皆さんと意気込んだ日から約1週間と5日。本番は明日。もう目の前である。
1年生だけのモールライブともなれば、中々繁盛させるのも難しい。そんな中、僕たちがライブの為にレッスンをしている間、お姉ちゃんと一緒にお手伝いしてくれることになった星宮先輩は一生懸命宣伝してくれている。
「あ、綾人さん…で間違いないですよね?」
「う、うん?眼帯してないからわかるだろ?」
「な、なんか確認しちゃうんです…ってそうじゃなくて、どうしてここに?」
今は放課後。今日も僕たちは司くんと友也くんと一緒にレッスンをしていて、何食わぬ顔で入ってきた綾人さんに全員目を丸くしていた。
「どうしてって…黒斗どうしてるかなと。」
さもあたりまえのようににっこりと笑う綾人さんにちょっと狂気を感じるも、これ以上言うのは身の危険を感じて口ごもる。すると横から僕の前に立ってくれたのはまったく同じ顔の黒斗先輩。
つい先日まで目良先輩と呼んでいたけど、ここ最近で綾人さんの存在を知り、名前で呼ぶようにと念押しされた。
「お前…前にも一回レッスンの時来てたよな…。厳しすぎるって1年生しょげてたぞ。」
「はぁー?いやいや、あれくらいはできないと!っていうかあの背の高い子が異様にやる気ないから悪いんじゃん!もう…せっかく今日も教えに来たのに。」
「…あのー。もしかして、綾人さんは俺たちを指導しに…?」
「みたいだが…厄介なら追い返すぞ。そもそも今は俺が考えた振り付けを最終確認してる最中だし、本番はもう明日だしな…?」
黒斗先輩は眉間に皺を寄せながら綾人さんを睨む、ふいと顔を背けた綾人さんは急に真剣な面持ちでラジカセの横に立つ。
「踊れる?今。」
「おい…」
「一通り見せてみてよ。それで俺が口出ししなくてもいいなら俺は黒斗に引っ付いてるから」
「どっちも迷惑だっ…!!」
「友也くん、創くん。私たちの実力を見せましょう。相手はプロです。踊って、良い評価を頂ければ自信にもなります。」
「そうですね。」
「…ダメ出しばっかりだったら落ち込むけど…そうなれば指導してくれるみたいだし…癖ある人だけど」
友也くんの呟きは聞こえていたのか聞こえないふりをしているのか、綾人さんは目を細め満面の笑みを絶やさないまま、曲を流す。
「…1,2,3。1,2,3」
僕たちが踊っている最中常にそうリズムを刻みながら瞬き一つせずに綾人さんはパフォーマンスを観る。緊張してしまいいつもよりぎこちない動きになっているのが自分でもよくわかる。
黒斗先輩はふいになりだしたスマホを見て電話をしている。
「ジャンプ…ターン」
僕たちの歌の中にそう低く動作を確認するように呟く声だけがレッスン室に響いていて、その絵面は相当温度差のあるものだっただろう。
一曲丸々踊った後に綾人さんはぱちぱちと響き渡るように拍手をする。黒斗先輩も通話は終わっていたようで拍手をしてくれたけど、その表情は曇っている。
「さっきみたいに踊ればよかったのに…」
そう呟いた声ははっきりと僕たちに聞こえていて、やっぱりみんな堅苦しい動きになっていたのかも…と心配になる。
「とりあえず各自、楽な姿勢で聞いて。水分もちゃんと取れよー。全体的な評価としては、今俺が見たパフォーマンスは、15点。100点満点中な。」
ぞわり、と背筋の汗が一気に引く。そんなに…酷かったんですか…?
「黒斗が言ってた通り、さっきの方が良かったかもしれない。それを見れば100点をあげてたかもしれない。でも、同じパフォーマンスはライブではしない。どんな状況でも100点のパフォーマンスをしなきゃお客さんは満足しない。ってことで、今のままじゃまずいな。」
全員が肩で息することも忘れ、にっこりと笑いながら放つ綾人さんの厳しい一言に声も出せずにただ呆然とする。
「今日1日で、最高のパフォーマンスをできるようにしごいてやる。もちろんもうひとペアもそんな感じでやってたから、みんな同じことをするのはあたりまえだろ…?同じユニットなんだから。」
「あー、おい。先に言っておくが、こいつは部外者で、完全にお前らと住んでる世界が違う。為にはなるが全部が全部鵜呑みにすることじゃないからな。」
「は、はい…」
「ですが、いつもPerfectなPerformanceを、というのはKnightsでもよく耳にしています。私はそこに至らなかったのですから、自分の非はしっかり受け止め、色々なことを吸収して、明日のライブを成功させて見せます。」
「へぇ。いい子だな。そういう奴嫌いじゃない。まぁ、無理しすぎも俺は好きじゃないけど。」
お前が言うな…。と一言突っ込みを入れた黒斗先輩に救われるように僕の口から笑みがこぼれてしまう。
「あーなんだ!笑えるじゃん!えっと、水色の子。」
「へ?」
「いや、今までずっと笑ってなかったから、黒斗みたいに笑えないのかと思って!そっか、緊張で笑えなくなるのは大変かもな…面白い事とか、楽しいこと考えれば自然と笑えるだろ?」
「あ、えっと、今は…ちょっと、怖くて。普段はライブとか、すっごく楽しいって思えるんですけど」
「…あ、俺のせいか」
自分の言ったことに今更後悔するも綾人さんは笑いながらごめんなーと返してくる。こ、怖い人なのかよくわからない…。
「えっと、水色の…」
「紫之。」
綾人さんが僕を指さしながら言うと呆れた声で黒斗先輩が苗字を告げる。
「あ、紫之くん?は、気持ちちょっと早めにステップ踏んだ方がいいかな。全体的にほんのちょっと遅いから、ほんと気持ち程度。」
「は、はい。あとは…」
「え?あと?歌声は綺麗だしね。あ、びしっと止まるところは止まったほうがいいよ、ゆるーっと動いてたら格好悪い。んで、そこのやる気満々の子!」
「朱桜。」
「すおーくん。あ、あの朱桜家のね!えっと君は、全体的に硬すぎかな。初々しさっていうか、柔軟さに欠けてる。お客さんはバリバリの硬派が好きな人もいるけど、君はまだもう少し1年生らしさを持ってていいと思うよ?」
「1年生らしさ?」
「無邪気に笑ってー。もっと!」
司くんがいーっと口角を上げるのに対し綾人さんは目の前に行って頬をつねるように引き上げる。
「いいいいいひゃいでひゅ!?なんなんですか!?」
「…表情筋死んでるわけじゃないんだから。明日はもっと笑えると思うけど。自分の中でリミットかけてたら黒斗みたいに…」
「黙れ。」
綾人さんは振り返ることもなく黒斗先輩の威圧を浴びて両手を上げる。ごめんって!と抱き着きに行く様子は本当に黒斗先輩の双子なのかとちょっと疑ってしまうほど。
「んで、さっきからびくびくしてる君は?」
「真白」
「フルネームでほら。言ってみて」
黒斗先輩が苗字を口にしたのにも関わらず、促すように目の前に座り笑みを浮かべる綾人さん。
「は、はい、真白…友也です。」
「可もなく不可もなく。誰よりも努力しててその努力を惜しみなく発揮できる。気付いてくれる人は少ないけど、いいところは多いと思う。…前面でパフォーマンスしたいと思わないのか?」
「へ?」
「どうかって聞いてるんだけど?」
「お、俺は…これっていった特徴もないし…1人だけ前に出るなんて…」
「OK、黒斗。この子のメンタル育てるから半分場所貸して。そっち2人は黒斗の指導で大丈夫だと思う。俺が言ったこともちゃんと理解してくれてるだろうし」
「はぁ…?そんなん…友也が良いか悪いか、判断させる。」
「俺…、やります」
「よく言った!そういう所だぞー。もっと伸ばしてかないとな」
嬉しそうにする綾人さんを複雑そうな表情で黒斗先輩は見つめる。
「あの、何か心配なことでもあるんでしょうか…」
「あ、あぁ…あいつプロ根性だけは凄いからな。全部自分のスタミナでスケジュールとかレッスンとか組んでいくから、友也が心配なんだ。」
「大丈夫ですよ。友也くんは人一倍頑張り屋です。私も負けていられないですからね。ご指導お願いいたします。黒斗先輩。」
「お願いします!」
「信用…してるんだな?」
そう言った黒斗先輩の表情は嬉しいようで悲しいような笑みを浮かべていた。
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