彼がステージに上がる時
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6
通話を終わらせた俺はいち早く現場に向かうべく席を立つ。その瞬間に斜め前にいる泉が眉間に皺を寄せて俺を見る。
「ちょっとぉ、まだ食事中でしょ?行儀なってないんじゃないの」
「…察しろよ、わかるだろ?」
「黒斗が女の為に後輩のもとに駆け付けるって?あり得ないよねぇ?」
「えっ、なに、どういうこと?」
肩を竦め嫌味を言う泉と反対に、蒼空は状況を全く理解していない。
「女の為じゃない。真たちが頼みの綱だって思ってる奴が軽音部に拐われたって。俺もいまいちわかってないけど」
「えっ、今の電話ゆうくんからだったの?なんで変わってくれないわけぇ!てっきり周りのガキだと思って無視してたのに」
「論点はそこじゃねぇよ。とにかく、この弁当食うなら食ってもいいぞ。ほとんど手つけてねぇし。俺行ってくる」
「なんかよくわかんないけど頑張れー!」
大声で声援を送る蒼空に苦笑いを浮かべる。目立つことはしたくないから大声出すなよ。生徒会や先生に見つからないよう祈りながら廊下を突っ走る。
というか、零の指示か?確かに朝、本人を見てみるとかなんとか言っていた。けど、拐った?いくら零でもそんなこと
「しない、よな?」
一人走りながらそう呟く。
軽音部室の前に3人の姿が見えた。と思いきやスバルが勢いよく部室に上がりこんで行く。
「たのもーう!どこだっ、転校生!明星スバルと愉快な仲間たちが助けにきたよっ、この印籠が目に入らぬか!控えおろうー!」
「あの馬鹿…」
「あ、黒斗さん!えっと…」
「真、とりあえず話は後だ。今の状況を何とかしねぇと…。」
開け放たれた軽音部室から光が差し込むことはなく、窓には暗幕が下がっている。無論零はそこにいて、なにやらスバルと対面している。
「そんなところで突っ立っておらんで、入ってくるがよかろ。おや、黒斗も一緒か…くくく、完全に肩入れしておるのう。そんな怖い目で睨みおって」
「目良先輩…いつの間に、」
「こっちには黒斗さんがついてるんだからな!早く転校生を返せ~!」
スバルの頭に手を置き宥める。相手は力ずくでやって話を聞くやつじゃないし、いくらなんでも友人にそんなことはしたくない。
「そう声を荒げるでない。お茶くらいだすぞ、客人。心配せんでも、お主らみたいなヒヨッコをいびって遊ぶ悪い趣味はないからのう?」
「零、お前のやりたいことはわかるけど拐ったとかなんとか…聞いたんだが?」
まどろっこしい言い方は嫌いだ。北斗は変に緊迫しちまってるし、まぁ、相手にしたことない三奇人を前にすればそうもなるかもしれない。
「えっと、女の子なんですけど!そいつ、俺たちの仲間なんです!というか、仲間になる予定って感じなんだけどね~」
スバルが俺の横からずいと顔を出す。いくら右だったからとはいえそれは驚くんだが。
「だから探してるっていうか、返してほしいんです!あんたらが、転校生を誘拐したのは知ってるんだぞ~!」
身を乗り出して相変わらず噛みつく体制のスバル。まぁ、誘拐ともなれば誰でもそういう態度だろうが、まさか零が…?
「くくく、いきなり土足で我輩の城に踏み込んできたかと思えば、えらく不躾じゃのう?けれど、そういう腕白な態度も若者の特権じゃ」
何が面白いのか笑っている零はどうも不思議な奴。お前こいつらより2歳上なだけだろ。なんて突っ込みは心の中にしまう。とはいえ、零の態度を見るとどうも誘拐ではなさそうで、あながち連れてきてくれないか、なんて誰かに頼んだんだろう。誘拐と間違われる態度を取る奴は晃牙のやり方か?
「転校生ならほれ、そこにおるよ。うちの子たちが拐ってきてしまったようでのう、そこは謝罪しよう。軽音部の愛し子たちは、どうにもやんちゃでのう?」
「あー、なるほど…」
「黒斗さん!なるほどじゃないって!」
俺に軽く突っ込みを入れるスバル。いや、でもあの双子ならなるほどと言うしかない。
転校生の居場所を教えてくれたりする辺り、争うことはしないだろうがしかし、このままこいつらを返す程零は優しくはない。
「とはいえ、双子が我輩のために献上してくれた貢ぎ物じゃ。ほいほいとただで返すのも惜しいのう」
「やっぱり。おい零、手荒な真似するんだったら俺も黙ってないからな?」
「黒斗を怒らせることはせんよ。怖いからのう?老体の我輩ではとても敵わん」
「いや、手荒なことはするつもりはないが…」
零に念押ししながら溜め息をつく。Trickstarの連中は完全に萎縮してるし、特に北斗は何が打開策か考えすぎて一言も喋らない。真も怖いのかなんなのかもはや居ることすら忘れ去られそうな程で唯一自己主張できるスバル、だが考えるより先に動くから墓穴を掘りかねない。
「おぬしらがまことに夢ノ咲学院の特異点となりうる彼女を、転校生を扱うに相応しいかどうか…この朔間零が、ちょろっと試してやろう」
無意味にも楽しそうな零に眉間に皺を寄せる。試す、つまりTrickstarの技術向上に繋がる事でもあるわけで。
「黒斗も手伝ってほしいのじゃが…?そんなに構えんでも、我輩のしたいことはわかるじゃろ?」
「…わかんねぇ」
「いつもならそれくらい見極めるじゃろう。嘘は吐かんでおくれ?」
「…こういう時だけ面倒くさい奴」
「空中浮遊!」
零に向けて思いきり暴言とも言える愚痴をついた瞬間、部室の奥から双子の声が聞こえる。は?空中浮遊?
「黒斗、今は我輩の話を聞いてほしいんじゃが。転校生にはあの子らがおるしのう」
「あー、なんだよ?ここで話するなら朝すれば良かっただろ」
「それもそうじゃが、転校生を見てからでないと判断が難しくてのう?まあその話はよいのじゃ」
横目に双子をみれば楽しそうにしている。あとの三人も駆け寄って心配しているが、あの様子だと特に問題はないだろう。
「黒斗、お主にはTrickstarの曲を作ってほしいのじゃ、今は自分のところもさほど忙しくなかろう?」
「何で知ってんだよ。まぁ、ステージに上がらないってなら別に曲作りくらいいくらでもやるけど」
「本当は愛し子たちが好きに作っておる曲でも良いのじゃが、Trickstarの為に作ったものではないゆえやはりピンとこないじゃろう?」
「へぇ、零もちゃーんとTrickstar側なんだな?お前らはサポートした上で自分達の好きなようにすると思ってたから、まさかそこまで後押しするとは思わなかったんだが」
「我輩もこの学院生活に飽きてきてのう?時代が変わる、それに関われることほど楽しいことはないじゃろう」
つまり、俺も零も時代の変わり目を2度も経験するのか。今の3年生は生徒会と五奇人がやりあった時の1回、そしてもし、この革命が成功すれば2回。
まぁ、こんなちっぽけな学院という国で短い間に2回も変革があれば確かに楽しいのかもしれない。
「今回は零に上手く動かされてやるよ」
「くく、黒斗に限って上手く動かされることはないじゃろう?その目で高度な状況把握ができるからのう」
つん、と眼帯をつつかれる。いや、そっちは見えないんだが。だが確かに、過去の一件から急速に見極める力が上がった。それは精神的に相手を敵と見て判断し、警戒と観察が癖になってしまったからだろう。
「良いことだと思うか?」
「なんじゃ、自信ない様なことを言うなんて珍しいのう?」
「たまにはそうなるんだよ。じゃあ俺曲作りにいく。S1まで少ししかない、曲を作ってあいつらが覚えて…を考えればさっさとやらなきゃな」
「よろしく頼むぞい?」
零の表情から争うようなこともないだろうと判断し、俺は先に退室するとしよう。とりあえず弁当を回収しに食堂へ行かなければ。
「はぁ、さすがに腹減った。弁当食べていいなんて言わなきゃよかったな」
ぞろぞろと食事を終えて散っていく生徒たちの波に逆らい食堂の中へと入る。すでに生徒がぽつんぽつんとしかいない食堂は無駄な広さを感じさせるがこれが数分前まで満員だったと思うと驚きだ。
「いた」
蒼空と泉の姿を見つけ安堵する。何せこれで先に教室に帰ってたとかだったら徒労もいいとこだ。
「あ、黒斗~!」
いち早く俺に気づいた蒼空にひらりと手を振り返し、俺は二人の元へと駆け寄った。
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通話を終わらせた俺はいち早く現場に向かうべく席を立つ。その瞬間に斜め前にいる泉が眉間に皺を寄せて俺を見る。
「ちょっとぉ、まだ食事中でしょ?行儀なってないんじゃないの」
「…察しろよ、わかるだろ?」
「黒斗が女の為に後輩のもとに駆け付けるって?あり得ないよねぇ?」
「えっ、なに、どういうこと?」
肩を竦め嫌味を言う泉と反対に、蒼空は状況を全く理解していない。
「女の為じゃない。真たちが頼みの綱だって思ってる奴が軽音部に拐われたって。俺もいまいちわかってないけど」
「えっ、今の電話ゆうくんからだったの?なんで変わってくれないわけぇ!てっきり周りのガキだと思って無視してたのに」
「論点はそこじゃねぇよ。とにかく、この弁当食うなら食ってもいいぞ。ほとんど手つけてねぇし。俺行ってくる」
「なんかよくわかんないけど頑張れー!」
大声で声援を送る蒼空に苦笑いを浮かべる。目立つことはしたくないから大声出すなよ。生徒会や先生に見つからないよう祈りながら廊下を突っ走る。
というか、零の指示か?確かに朝、本人を見てみるとかなんとか言っていた。けど、拐った?いくら零でもそんなこと
「しない、よな?」
一人走りながらそう呟く。
軽音部室の前に3人の姿が見えた。と思いきやスバルが勢いよく部室に上がりこんで行く。
「たのもーう!どこだっ、転校生!明星スバルと愉快な仲間たちが助けにきたよっ、この印籠が目に入らぬか!控えおろうー!」
「あの馬鹿…」
「あ、黒斗さん!えっと…」
「真、とりあえず話は後だ。今の状況を何とかしねぇと…。」
開け放たれた軽音部室から光が差し込むことはなく、窓には暗幕が下がっている。無論零はそこにいて、なにやらスバルと対面している。
「そんなところで突っ立っておらんで、入ってくるがよかろ。おや、黒斗も一緒か…くくく、完全に肩入れしておるのう。そんな怖い目で睨みおって」
「目良先輩…いつの間に、」
「こっちには黒斗さんがついてるんだからな!早く転校生を返せ~!」
スバルの頭に手を置き宥める。相手は力ずくでやって話を聞くやつじゃないし、いくらなんでも友人にそんなことはしたくない。
「そう声を荒げるでない。お茶くらいだすぞ、客人。心配せんでも、お主らみたいなヒヨッコをいびって遊ぶ悪い趣味はないからのう?」
「零、お前のやりたいことはわかるけど拐ったとかなんとか…聞いたんだが?」
まどろっこしい言い方は嫌いだ。北斗は変に緊迫しちまってるし、まぁ、相手にしたことない三奇人を前にすればそうもなるかもしれない。
「えっと、女の子なんですけど!そいつ、俺たちの仲間なんです!というか、仲間になる予定って感じなんだけどね~」
スバルが俺の横からずいと顔を出す。いくら右だったからとはいえそれは驚くんだが。
「だから探してるっていうか、返してほしいんです!あんたらが、転校生を誘拐したのは知ってるんだぞ~!」
身を乗り出して相変わらず噛みつく体制のスバル。まぁ、誘拐ともなれば誰でもそういう態度だろうが、まさか零が…?
「くくく、いきなり土足で我輩の城に踏み込んできたかと思えば、えらく不躾じゃのう?けれど、そういう腕白な態度も若者の特権じゃ」
何が面白いのか笑っている零はどうも不思議な奴。お前こいつらより2歳上なだけだろ。なんて突っ込みは心の中にしまう。とはいえ、零の態度を見るとどうも誘拐ではなさそうで、あながち連れてきてくれないか、なんて誰かに頼んだんだろう。誘拐と間違われる態度を取る奴は晃牙のやり方か?
「転校生ならほれ、そこにおるよ。うちの子たちが拐ってきてしまったようでのう、そこは謝罪しよう。軽音部の愛し子たちは、どうにもやんちゃでのう?」
「あー、なるほど…」
「黒斗さん!なるほどじゃないって!」
俺に軽く突っ込みを入れるスバル。いや、でもあの双子ならなるほどと言うしかない。
転校生の居場所を教えてくれたりする辺り、争うことはしないだろうがしかし、このままこいつらを返す程零は優しくはない。
「とはいえ、双子が我輩のために献上してくれた貢ぎ物じゃ。ほいほいとただで返すのも惜しいのう」
「やっぱり。おい零、手荒な真似するんだったら俺も黙ってないからな?」
「黒斗を怒らせることはせんよ。怖いからのう?老体の我輩ではとても敵わん」
「いや、手荒なことはするつもりはないが…」
零に念押ししながら溜め息をつく。Trickstarの連中は完全に萎縮してるし、特に北斗は何が打開策か考えすぎて一言も喋らない。真も怖いのかなんなのかもはや居ることすら忘れ去られそうな程で唯一自己主張できるスバル、だが考えるより先に動くから墓穴を掘りかねない。
「おぬしらがまことに夢ノ咲学院の特異点となりうる彼女を、転校生を扱うに相応しいかどうか…この朔間零が、ちょろっと試してやろう」
無意味にも楽しそうな零に眉間に皺を寄せる。試す、つまりTrickstarの技術向上に繋がる事でもあるわけで。
「黒斗も手伝ってほしいのじゃが…?そんなに構えんでも、我輩のしたいことはわかるじゃろ?」
「…わかんねぇ」
「いつもならそれくらい見極めるじゃろう。嘘は吐かんでおくれ?」
「…こういう時だけ面倒くさい奴」
「空中浮遊!」
零に向けて思いきり暴言とも言える愚痴をついた瞬間、部室の奥から双子の声が聞こえる。は?空中浮遊?
「黒斗、今は我輩の話を聞いてほしいんじゃが。転校生にはあの子らがおるしのう」
「あー、なんだよ?ここで話するなら朝すれば良かっただろ」
「それもそうじゃが、転校生を見てからでないと判断が難しくてのう?まあその話はよいのじゃ」
横目に双子をみれば楽しそうにしている。あとの三人も駆け寄って心配しているが、あの様子だと特に問題はないだろう。
「黒斗、お主にはTrickstarの曲を作ってほしいのじゃ、今は自分のところもさほど忙しくなかろう?」
「何で知ってんだよ。まぁ、ステージに上がらないってなら別に曲作りくらいいくらでもやるけど」
「本当は愛し子たちが好きに作っておる曲でも良いのじゃが、Trickstarの為に作ったものではないゆえやはりピンとこないじゃろう?」
「へぇ、零もちゃーんとTrickstar側なんだな?お前らはサポートした上で自分達の好きなようにすると思ってたから、まさかそこまで後押しするとは思わなかったんだが」
「我輩もこの学院生活に飽きてきてのう?時代が変わる、それに関われることほど楽しいことはないじゃろう」
つまり、俺も零も時代の変わり目を2度も経験するのか。今の3年生は生徒会と五奇人がやりあった時の1回、そしてもし、この革命が成功すれば2回。
まぁ、こんなちっぽけな学院という国で短い間に2回も変革があれば確かに楽しいのかもしれない。
「今回は零に上手く動かされてやるよ」
「くく、黒斗に限って上手く動かされることはないじゃろう?その目で高度な状況把握ができるからのう」
つん、と眼帯をつつかれる。いや、そっちは見えないんだが。だが確かに、過去の一件から急速に見極める力が上がった。それは精神的に相手を敵と見て判断し、警戒と観察が癖になってしまったからだろう。
「良いことだと思うか?」
「なんじゃ、自信ない様なことを言うなんて珍しいのう?」
「たまにはそうなるんだよ。じゃあ俺曲作りにいく。S1まで少ししかない、曲を作ってあいつらが覚えて…を考えればさっさとやらなきゃな」
「よろしく頼むぞい?」
零の表情から争うようなこともないだろうと判断し、俺は先に退室するとしよう。とりあえず弁当を回収しに食堂へ行かなければ。
「はぁ、さすがに腹減った。弁当食べていいなんて言わなきゃよかったな」
ぞろぞろと食事を終えて散っていく生徒たちの波に逆らい食堂の中へと入る。すでに生徒がぽつんぽつんとしかいない食堂は無駄な広さを感じさせるがこれが数分前まで満員だったと思うと驚きだ。
「いた」
蒼空と泉の姿を見つけ安堵する。何せこれで先に教室に帰ってたとかだったら徒労もいいとこだ。
「あ、黒斗~!」
いち早く俺に気づいた蒼空にひらりと手を振り返し、俺は二人の元へと駆け寄った。
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