イベントストーリー
What is your name?
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「ほらほら!笑って笑ってー、いー!!って」
「…いー」
そんなんじゃ全然笑ってるうちに入らないよ!嘘でしょ!?とそんな阿呆みたいなやり取りを間近で見せられる。確かにここは舞台裏だし、そういう直前のリハーサルみたいなのはわからなくもないんだけど。
「ねぇー。何やってんの」
「あ、けいちゃん。って、あれ…?えぇなんでそんな格好してるの…」
「貴様また俺のあだ名を変えてるだろ。こういった衣装にまた袖を通すことになるとは最初は思ってもみなかったが、発案者は俺だ。午後の部までしっかりとやりきってみせる。」
「あーのね。声かけたの俺なのになんで副会長にしか反応しないの?ほんと蒼空って俺の事嫌いなの態度に出るから嫌い。」
「ふーん。別に俺は薫たんに嫌われてても痛くも痒くもないけど」
うわ、ほんと性格悪い。昔からすればいいのかもしれないけどもっと改心すべきところあったはずなのにね。隣に立っている黒斗はなんかいつになく無表情…じゃない。なんか一生懸命顔のマッサージしてる!?
「黒斗?」
「おー…?」
「何してんの?」
「あぁ、表情筋のマッサージ…?ほら、これからライブだろ。」
「いや、そうじゃなくて…!今までそんなことしてなかったのに…!?」
「…そうだよな。俺でもわからないんだ。ただ、このライブに、今日招待した人がいて、俺の憧れの人がな。約束したんだ。俺の目指していたアイドルを見せてやるからって。」
そう黒斗が言った時の表情は穏やかで、こんな顔できたんだ…?なんて素直に驚いた。そこで蒼空が割り込んでくる。というか、俺の腕を引っ張り耳打ちをしてくる。
「まだ感情表現は乏しいんだけどなー。その人には甘えたりできるくらい信頼してるみたいだし、その感情は絶対プラスになるから。その気持ちをいつも持てるようになれれば今回の返礼祭は大成功になるわけ。」
「ふーん。甘えるって。たしかに黒斗が誰かに甘えるなんてこと今までなかったしね。案外そういう感情が今一番大事なのかも。うまくいくといいね」
「…応援してくれるんだ?」
「そりゃあね!俺黒斗の事は好きだし?」
そういいながら黒斗の肩を組んでみせると酷く驚いたように黒斗が短い悲鳴を上げる。変なところどじっ子っぽいよね。
でも、そういうところを少しずつでも周りに出せるようになれたらきっと素敵なアイドルになれるよ。もう俺たちは学生じゃないし、また世間の荒波にもまれるかもしれないけど、うまく乗りこなせるでしょ。黒斗も今は大切な仲間も相棒も、いるんだから。
「黒斗。始まるよ。」
「おー、なんつうか、こんなに緊張するものなんだな。楽しいとかそういった気持ちをファンに届けるってこんなに、ワクワクするんだな。」
「…黒斗。俺もその気持ちに上乗せするから、何倍にもしてファンに届けよう!」
「あぁ、蒼空。よし…行くぞ。」
そう言って一度俺たちの方を見た黒斗は今まで見たことないくらいの笑顔でステージに上がっていった。
舞台袖から見たそのパフォーマンスは、誰もが憧れるほど輝いていて、誰もが釘付けになるアイドルだ。
「驚いたな。」
隣にいた副会長が短く呟く。
「羽風、お前もそうだろうが…目良がこんなに輝くなんて、想像もしなかった。常に裏方にいて、何事も見据えていて、そのうえ諦めていたあの目良が。」
「うん、俺もあんなに本心から笑ってる黒斗なんて見たことないよ。泉くんが見たらどんな反応するんだろうなー」
「まぁ確かに…奴は目良にくっついていたからな…いや逆か?どちらにせよあの2人の関係はどうも深いつながりがあるようだし、きっと同じように喜んでいたのかもしれない。」
まさか観客に交じってたりするのかな。泉くんたまにそういうこと平気でやってのけるし…あのTrickstarの遊木真くん?とか関わると結構やばいし。あれはもう、やばいとしか言えないんだけど。
それにしても…この2人のユニット、この学院を卒業したら一から見直して、方針を変える可能性もあるとか…結構真剣に話してたけど…
割と王道のアイドルユニットなんだし、何を変える必要があるんだろうとは思ってるけど、多分、今回の黒斗の気持ちを引き締める口実だったのかな。あの2人なら確かに王道とは言えなんでもやっちゃいそうなアイドルだし、
「そういえば…黒斗は卒業したら今までよりさらに夢ノ咲学院に首を突っ込まなければならなくなるらしいな。」
「えー…?なんで?」
ちらりと俺を一瞥してそういえば知らないのか…といわれればいったい何のことかと気になってしまう。
「奴は、学院長の息子だ。」
「へぇ…えぇぇ!ってことは?え、もう学院長なの!?」
「いや、さすがにそれはないと思うが…それは決まっているらしい。」
うっそー?あの学院長の!?毎年入学式にしか現れないって言われるくらい目撃情報の少ないあの学院長の…!?っていうか入学式もまともに姿を見せてるとは言えないんだけど、毎回ハイテンションなビデオレター送ってくるだけだし。あの親にしてこの子あり?いやいや、むしろ性格真逆じゃん!
「えっと、卒業したら、じゃぁ先生にでもなるのかな。」
「あぁ、その線は考えてなかったな。案外あるかもしれん。」
「うわぁ!なんかそう決まったら俺いっぱい学院に遊びに来ちゃいそう!だって面白いじゃん。」
「まぁそうだろうな。俺も暇ができた時にはなるべく顔を見せるつもりだしな。」
同じ日にかぶっちゃったりしてー!なんて冗談を言うと心底訝し気に睨まれる。いや、俺だってごめんだよ?卒業してからも説教されそうだもんなぁ。
「ふぁぁ、ふ…寝起きにこの爆音はちときついのう。」
「あぁ、朔間さん、それに鬼龍。無事時間通り合流できたな。」
舞台袖に入ってくる朔間さんに見て、とステージを指さすと疲れたわい…とかなんとか言いながら目を細めてステージを見る。
「ほう…黒斗も蒼空も…キラキラしておるのう…。観客の熱気もさることながら、焼き尽くされそうじゃわい」
「凄いよね。俺たちこの後にライブするんだよ?なんか心配になってきちゃうくらいだし。ま、黒斗と蒼空の実力は知ってたつもりだけど、足枷が外れるとあの2人あんなに凄いなんて、ね」
「そうじゃのう、蒼空もあの頃から随分変わった。今の方がずっと生き生きしておる。二つに分かれてしまっていた力が一つになって、輝きを増しておる。黒斗も喜怒哀楽の喜楽という感情がやっとわかったみたいじゃのう。良き哉良き哉。」
「嬉しそうだね、朔間さん」
「我輩、彼らの事、これでもずっと心配しておったのじゃよ。心を閉ざした者と心が分かれてしまった者、じゃからのう」
先ほどとは違う意味で目を細めて安心しきった様子でステージを見る朔間さんに俺もほだされるように口元が緩む。
どうしてか、卒業だっていつのに、最後だっていうのに、寂しさよりも嬉しさがこみあげてくる。これが青春なのかな。俺が欲してた、俺たちだけの青春。
「もう少し早くこの波に乗れたらよかったのに…!」
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