イベントストーリー
What is your name?
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「あ、いらっしゃいませ…じゃなくて。蒼空先輩…」
「んー、売り上げは良い感じ…?まぁ、B1とはいえここまで立派な会場…そしてあのfineが出るってんだからそうもなるかぁ。」
先ほどひびきんから聞いた通り、転校生ちゃんは物販コーナーにいた。なんとも忙しないのは相変わらずのようである。
「蒼空先輩、黒斗先輩は?いつも一緒にいるのに…」
「あぁ!黒斗はこのB1でちょーっと荒治療中。」
「荒治療?」
「そう、本人もわかってるみたいだけど、今のままじゃ自分がなりたかったアイドルには程遠いって。だから、そんなに変わりたいならそれなりに体張りなよーってことで、見て」
転校生ちゃんを促すように物販コーナーにできている列の端を指す。そこにはグッズを持ちながら、列はこちらですとか、流星隊のグッズはこっちの列ですとか、何やら可愛い子が一生懸命売り子をしている。
「へ?はい、あの方すごくかわいいですよね…私と状況確認するときなんか近くで見てもすごく綺麗な顔立ちで、眼帯がギャップで凄く……え?」
「そ!あの子黒斗だよー」
「えぇぇぇぇえええ!?だだだ、だって!?私と普通に話してましたよ!?」
「普通にってことは、アイドルとして、義務的な行動を取ってるってことかー…。あの様子から見るとまぁそれなりに楽しんでるっていうのは察することはできるけど。楽しいこととファンとの触れ合いを一緒にすれば何とかなるかなぁと思ってやってるんだよなー」
「あの、凄い原始的な方法ですね。っていうか、黒斗先輩、え。なんであんなこと普通にできるんですか」
「昔は男の娘としての仕事多かったみたいだよ?だから問題ないんだって。意外だよね!」
「楽しんでませんか?」
「うん、楽しい。何回も記念写真撮った。」
そう、先ほども転校生ちゃんに声をかける前にも一緒に写真を撮った。最初は変装していったから業務スマイルで写真を撮って、そのあと俺で行ったら物凄い顰め面で撮ったのは記憶に新しい。
「黒斗ちゃん!」
俺が遠くから黒斗を呼ぶとむっとした顔で振り返るもまさかこんなに人がいるところで本性をさらすわけにもいかず可愛い声で反応してくれる。
とてとてと効果音が付きそうなその歩き方に何かもう可愛いとしか言えないのは事実なのだが物販コーナーの裏に着いた途端いつもの歩き方に変わり、俺の目の前に来るなり襟首を掴まれる
「その名前で呼ぶな…!一応今回は誰にもばれない方向性で進めてくれるって話だったろ!」
「ごめんごめん、あーいやほんとに…。もうそろそろいいかなって。なんかとりあえず楽しんでるのはうかがえたけど…それ以上になれないからさー」
「あたりまえだろ。これで感情表現が豊かになるなら前からやってる。」
裏にある簡単な仕切りの中で黒斗が着替え終わるのを待つ。化粧といっても女の子に必要な化粧はほとんどしておらず、ファンデーションを軽くつけただけに過ぎない。それであのクオリティーなのだからやっぱり黒斗は美形なのだろう。
「で、転校生ちゃんと普通に会話したとか何とか…」
「え、あ…まぁ。相手も俺ってわかってなかったから、できないことはないかと思ってな。」
「でもさ、男の娘だとあんなに感情表現豊かなのに、なんなんだろうね。ハンドル持つと人格変わるみたいなさ?いや俺じゃないんだからやめてよ?そういうの。」
「それはない。あれも俺だ。別の人格なんかじゃない。というか、俺だってあのままの性格ならどんなに良かったか…」
「ってことは、昔はそんな性格だったの?」
そう尋ねると黙り込む黒斗。思い出したくない?それなら無理には聞かないけど、そうならそうで言ってくれればいいのに。それも感情表現の乏しさの一つなのかもしれない。でも、いろんな過程をすっ飛ばして表情豊かになるのは難しい。
「泣くとか、甘えるとかさ。もっとしてもいいんじゃないかなー。俺ならちゃんとそんなことで面倒だとか思わないし。な?」
「あ、あぁ…そうだな。」
「おや?転校生ちゃんにも見つかってちょっとびっくりしているのだけど、まさか君たちにまで見つかるなんて。」
ふと、観客席の方に足を運ぶと随分と落ち着いた声で話しかけられる。先ほど別行動した転校生ちゃんが視界に入り、席には暴君が座っていた。
「なんでいるの?」
「ふふ、蒼空は相変わらず酷い言い草だね。そんなに僕の事が嫌いなのかい?」
「うん」
「…英智、どうしたんだ?検査入院とか、じゃなかったか?」
「日程が少しずれただけの話さ。って、言っても黒斗には見抜かれてしまうかな。」
「…おー、まぁ別に引っ張ってまで病院連れ戻そうとかさすがにそこまではしないが…あまり無理するなよ?」
「……」
「黒斗!そのまま!!」
慌てて俺がスマホを取り出し無我夢中で黒斗の顔を撮る。勢い余って連射してしまったけどこの際OKということにしておこう。
「な、んだよ。英智も、蒼空も黙って俺の顔見て…て、転校生までこっち近寄ってくるな!」
転校生ちゃんの姿を視界に捉えてから俺の後ろにいた黒斗。もちろん転校生ちゃんとの距離は十分保たれていたけど、
「しょうがないよ。黒斗。君が笑う所なんて滅多にないんだから。僕も転校生ちゃんも言葉を失ってしまったよ。」
「は?…笑って…たのか?」
「はい。会長に微笑んでましたよ?」
「証拠は俺のスマホにある!」
「…へぇ、はぁ…そう、なのか。ええと、良かったな。」
なんで!?今ここにいる誰もが口を揃えて突っ込みを入れかねないことをきょとんした顔で言われる。いや、良かったって黒斗の台詞じゃないから。むしろ俺たちの台詞だから。
「黒斗の表情筋が少しだけ蘇生したのかな?ふふ、さすが蒼空だね。僕じゃ無理だったよ。」
「そりゃそうだろ…。とにかく!あれの後だから少し表情筋が柔らかくなってるのかもなー?案外、間違いはなかったってことか…」
「…ふぅん。あれの後って?」
「あ、それはですね。黒斗先輩今回のドリフェスの物販コーナーで売り子として女の子の格好で手伝ってくれたんです!」
「あー…」
「…」
俺が止めようと手を伸ばしたころにはもう遅く、意外と気に入ってしまったのか転校生ちゃんは嬉々としてその時の話をする。それはもう自分が見た最初から最後まですべてだ。
「楽しそうなことをしていたんだね。」
「…転校生殺す。」
「待て待て待て!あぁもう、転校生ちゃん馬鹿!」
今にも放送禁止用語を言いそうな黒斗を引きずり転校生ちゃんから離れる。黒斗はぶち切れると海外で無駄に培った禁止用語を言うから正直怖い。というか本当に殺しそうだからそれが一番怖い。
「あーほら!黒斗。そろそろライブが始まるから!な!」
「…」
「おーい?」
「蒼空…俺は本当に笑ってたのか…?」
「ん、うん…もちろん。俺は嘘つかないよ。大切な相棒の為に、全身全霊を尽くして一緒にアイドルを目指してるんだからな。」
「そう、か…そうだよな。」
はぁ、と短く息を吐く黒斗。信じてくれてないだろうか、呆れられたのだろうかと俺は黒斗を覗き込む。すると途端に顔を上げ俺の両頬を掴み額をぶつけてくる。
「これからもよろしく頼むぞ。蒼空。」
そう言った黒斗の顔は俺が見たかった最高の笑顔だった。
羽ばたき!雛鳥と皇帝の凱旋::END
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