イベントストーリー
What is your name?
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「ほぉー…」
立派なものだ…。口にするとすればそうなのだろうが…たかがB1の為にここまで立派なものを立てているのを見て感嘆の声を上げるよりほかなかった。たかがB1、されどB1。姫宮にはそういう捉え方なのだろう。なにやら姫宮は自分の命運をかけているようだったし。
「…む?あれは…黒斗!」
「おー…千秋。今日は衣装合わせでレッスンか?」
俺の容姿を見て考え込む仕草をする黒斗。そう、何を隠そうこの守沢千秋…新しい衣装を見ると袖を通さずにはいられず、今日はこのライブの衣装を誰よりも早く着てしまったのである。
「…なんとなくわかった。でもお前、汚したりしたら大変だし、無駄に着て歩き回るなよ」
「黒斗はいつもまるで母親のような注意喚起を俺にするのだな!」
「それはお前が見てて危なっかしいからだ。…おい、言ったそばからその背中でひらひらしてるマントになんか葉っぱがついてるぞ。」
「おお!すまない、取ってくれ!」
「…さもあたりまえのように俺に頼む癖やめろ。」
面倒だなんだと呆れながら言いつつも黒斗は丁寧に葉っぱを取り払ってくれる。そういう優しさについついと甘えてしまう自分も悪いのだが。
「黒斗。それよりなにより、ここに何の用だ?確かWWは参加しないような…?む、もしかして飛び入り参加でもするのか?」
「しない。」
ぴしゃりと短く否定の言葉を発してから黒斗は何も喋らずご立派なステージを見る。ただ見ているだけで何を思っているのかそのいつもと変わらない表情からは何もくみ取れない。昔からその表情の鉄壁のガードというか…それは瀬名とともにいるとき程度しか崩れることはない。あとはすべて作り笑い。俺には作り笑いすら見せてはくれないが…逆に作り笑いを見せられるとそれはそれで信頼されていないのだと痛く実感するものだからまだましなのだろう。
「…卒業したらどうするつもりなのだ?アイドル活動は。」
「もちろん続ける。俺はアイドルとして、蒼空と一緒にステージに立ちたい。俺が目指してたアイドルとして。」
「ふむ、俺が思うに最近の黒斗は昔よりずっと作り笑いが上手くなったと思う。」
「褒めて、ないよな?」
「ふっふっふ…あたりまえだ!」
「…わかってはいるんだけどな。」
黒斗のなりたかったアイドル。失礼にも、そんな理想が黒斗にもあったのかと言葉にしそうなほど驚いた。ただ瀬名について歩いていただけの黒斗がアイドルを夢見ていたとかそういうのは全く想像できなかったからだ。
「目指してたアイドルとは?」
「は?」
「黒斗が目指していたアイドル、それは一体どんなものだ?」
「…それは、そうだな。思いを伝えられるアイドル。俺がずっと前から尊敬してた人みたいに輝いて、心を動かせるような…」
「あと一歩!」
「…な、なにがだ。」
「黒斗がそのアイドルになれるまで、あと一歩ということだ!感情表現が乏しい黒斗にとっては確かに難しい目標かもしれないが、もうあと一歩、他人の心に踏み込んだり、他人を自分の心に踏み込ませることで、変われる。」
「…どっからそんな自信が湧くんだよ。」
黒斗は目を逸らしながらそう呟くが、もう一度俺を見た後、了解、流星レッド。と聞こえるか聞こえないかの声量で答えた。
「昔からかなり変われたお前ならできる。それが俺の自信だ!」
「昔って、いつの話だよ…1,2年の話ならしないぞ…」
「ふっふっふ。俺は過去を振り返らない男だが…思い出に浸るのは悪くないぞ」
「思い出…?お、おう。」
戸惑いながらも俺の言葉に耳を傾けてくれる黒斗は頭上にクエスチョンマークを何個も浮かべている。
「あれは2年前の事、つまり俺たちがまだ未熟も未熟の1年生の頃だ。ユニットもロクに決まっておらず、クラス内の実技授業の時、俺は」
「1年の話はしないって言っただろ。お前話聞いてなさすぎだ」
「その時のお前と来たら今よりもっと何倍も不愛想だったな!俺はちゃんと1人1人によろしくと挨拶をしたにもかかわらずお前は無視どころか俺を見た瞬間離れていっただろう!」
「言動も行動もうるさかったからな。…つか、本当昔の話なんてしょうもないことしなくていい。」
「しょうもなくないぞ!俺にとってはお前の第一印象を今だからこそ聞いてほしいというのに!」
「愛想ないどころの印象じゃないだろ。」
はぁぁ、と長い溜め息を吐く黒斗は別段過去の自分を悔やんでいるとか反省しているという様子はない。うむ、そういう図太い性格はある意味いいところだと思うぞ。
「あの頃のお前は瀬名のガードマンだったな。なんというか、シークレットサービスか執事なのかと…」
「いや、それはない。あいつの執事だったら俺はとっくに謀反を起こしてるぞ。」
「はっはっは!いい冗談だ!」
「冗談じゃない。あいつの言うことを聞いてなきゃならないとか、質の悪い罰ゲームだろ。」
「いいな!今度3-Aのみんなでゲームをしよう!その罰ゲームにそれを起用するのはどうだ!」
「…え?は?お前俺の話聞いてたか?」
「それにしても黒斗はそんなことを言いながらも1,2年と瀬名とともに行動していたな…?何か理由があったのか?」
俺がそう尋ねた途端黒斗は眉間に皺を寄せる。それはもう思い切り…そこの表情筋は生存しているのかと思いながら催促するように首を傾げてみるが話すつもりはないようで口を堅く閉ざしている。
しばし沈黙が続いていると、黒斗のスマホが音を鳴らし始める。どうやら着信のようだ。
「…あー、噂をすればなんとやら、だな。面倒だな…まったく」
画面を一瞥すると俺にそう声をかけてから通話ボタンを押す黒斗。噂をすれば?つまり瀬名か?俺に目配せをしながらその場を立ち去ろうとしているようだ。
「…あぁ、は?なんで…っ!?」
1,2歩進んだところでぴたりと立ち止まる黒斗。なにやら重々しい空気なのだが…。
「…それを断るとかっ…そうだよな。というか…蒼空が言ったのか?それ」
む?蒼空か…?いったい何の話だろうか。そう思いつつ黒斗を眺めると入院以来伸ばしている黒斗の髪がかすかに揺れる。動揺か、風か。と思いきや良い勢いで黒斗が振り返り髪が空を切る。いや、しっかりまとまっていてだらしないということはまずないのだが。
「あーくそ!」
「…ど、どうした?」
いつの間にやら通話は終わっていたらしく黒斗がこれでもかというほど大声を張り上げる。おお、中々に珍しい光景だ。
「余計な仕事持ってきやがってぇぇぇ!」
「…?」
感心するのもつかの間、黒斗の荒ぶり様にさすがにかける声も見つからず、何なら心配になるほどだ。
「…千秋、B1頑張れよ。真剣にやれよ。ほかに見向きもせずしっかりライブに集中しろよ?いいな?そして今の光景は忘れろ。」
「お、おぉ。承知した…ぞ?」
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