彼がステージに上がる時
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4
昨日の一件もまるでなかったかのように、いつもの一日が始まる。それはもう昨日のような野良試合を生徒会が粛清するのが日常茶飯事になっているからだ。
「おはようございます」
清く正しく挨拶をしてくる役員の奴も、風紀を乱さんと必死な奴も、昨日の事は一切口にしない。
いざ校門を渡りきったところで手に握っていたスマホが震え出す。この時間にメールか、と思えばそれよりもずっと意外な着信。
わざわざ電話なんていったい誰かと思えば、朔間零の文字。
「もしもし?」
『おお、繋がったか。我輩じゃよ。くくく、久しくスマホを使用してなくてな。ちょっと手間取ったわい』
「我輩で誰か伝わらないだろ、詐欺かよ」
『相変わらずストレートに傷つく言葉を言うのう。まぁそれもお主の特徴なのじゃが』
「何の用か単刀直入に言えば部室に向かう。余計な話だったら切るぞ」
朝のせいか、喋り方がいつもよりゆったりとした零の一言一句に苛々し、用件を促す。
何をそんなに苛々しておるのじゃ?と惚けられればなおさら苛つくのも無理はないだろう。おさえろ自分。
「面倒くさいな。部室いけばいいんだろ?」
『物わかりがいいのう?黒斗はいい子じゃ』
「いい子って言うな」
その言葉を最後に通話を終える。
何でも知ってる零が唯一知らないこと、それは俺の過去だ。そのせいかもちろん俺の地雷も知らない。地雷の場所を知らないやつに踏むなと言っても無駄な話だが、いい子の件はかれこれ数百回は注意している。それでも言ってくるのだからもはやいじめなのだろう。
「着いてからやっぱり来なきゃよかったっていうのは考えない方がいいな」
軽音部室、そう名前をつけられた部屋の前で溜め息を吐く。
零とはここしばらく会話をしていないし見掛けてもいない。何がどうして今さら、というのは流石に馬鹿の考えること。きっと連絡してきたのは転校生の事だろう。いや、転校生と、Trickstarか。
がちゃり、と不意にドアが自ら開きはじめる。不本意ながら肩をびくつかせた。
「何をそこに突っ立っておるのじゃ」
「あぁ、お前が開けたのか」
「驚いたのか?ん?」
「はいはい驚いた。あーこわーい。」
面白くないぞい。そう零に一蹴され室内に招かれる、零のくだらないノリに乗ってやったのに…こいつ許すまじ。
「まぁ、お主を呼んだのも大体見当がついておろう。黒斗は頭が良いからのう。その目で何を観たのか、そして何を思ったのか聞かせてくれるかの?」
「何も、本当に何も見てねぇよ。お前が、零が知ってることしか見てない。」
「ふむ、まぁ見てないというなら深くは聞くまい。しかしお主の場合他人には見えない物が見えるからのう?是非耳にしておきたかったのじゃが」
まるで特殊な能力でもあると言うのか。
比喩というのはわかっているが、零の言い方は軽く中二病臭くて面倒くさい。
「俺は人より観察力が高いだけだ。それはもちろんこの目がなくなってから急激に高くなった、というか、人を警戒するようになっただけか…」
「確かに、入学したての黒斗はこれでもかと言うほど死んだ目をしておったな。観察力が高いせいで他人の本心、素性が考察できるようになり人間を信じることをやめておったしな。」
「お前らと生徒会がどんぱちしてた時はどっちの本心も怖くて…いや、失望してた。人間ってこんなに汚いのかってな」
「くくく、その頃から黒斗はひねくれておったのか。」
手厳しいのう。
そう言いながら俺の頭を撫でてくるのだから訳がわからない。とはいえ、俺を呼んだのはこんな理由じゃない。
俺の考察を聞けないとしても、何か話があるのはわかる。零が俺に話をするとするならばトマトジュースの話と凛月の話程度。
「感付いておるじゃろうが、その転校生のことでのう。どんな人間かくらいは聞きたいのじゃが。」
女が嫌い、だから嫌い。それ意外で転校生の情報。あぁ、多分コーラが好き。
「根性がある、肝が座ってる。教えればどんどん吸収してくぞ。あとそうだな、俺の見込みだと完全にキーになると思う。俺があいつらといる意味ないだろ、うん」
「ふむ、鍵、か…。つまり、革命は成功すると踏んでおるのか?」
「それについては5対5というより7対3で7が失敗。今の現状ならな」
「ほう、というと?」
「もうちょっと、装備を揃えないとな。勇者だって丸裸じゃダンジョンに入ることすらできないだろ」
つまり、もっと周りを使わないと、あいつらは勝てない。勝てないどころか、戦えるかすら問題なのだ。
武器も防具も"それなり"の物を付けなければ。例えば、UNDEAD。共同レッスンをしろとかそういうことじゃないが。
「周りをうまく利用する。その力が足りてない」
「我輩がそのチャンスを作っても良いかのう?」
「さぁ、好きにするんだな。あいつらを踏み台にするのか自分達を踏み台にするのか。お前も馬鹿じゃないだろ。」
「光が苦手な我輩が登り詰めてももったいないじゃろうて、連中が星のように一番上でキラキラしとるのは想像するだけで楽しみじゃし?」
「ふーん、なら踏み台か。俺はどうするかな。今度のS1について父さんからいい加減参加しないのかぁとか、色々言われてはいるけど。」
出るつもりはないのか?
目を細める零。それは、俺につまらないと罵倒しているのと、少し残念がっているように観えた。
俺が出たいと思えるようになるのはいつになるのか。今でもまだ自分から辞退したい程なのに、そんな顔をされても困る。
「蒼空がどうするかによる、かな」
「ほう?蒼空に任せておるのか。意外じゃのう。しかし彼も、お主が出ないならよっぽどではない限り出ることはないじゃろう」
零に言われれば返す言葉もなかった。蒼空というのは俺の相方。かれこれ3年間一緒にユニットを組んでいるのに一度も一緒にステージに上がったことがない。
基本的には行動を共にしているが、今は1ヶ月前ソロで仕事が入っていて沖縄に行っている。食ロケ、だったか。蒼空の好きそうな…
それはさておき、蒼空は俺とステージに上がることにこだわっていて、仕事だとか、成績に関わること以外でなるべくステージには上がらないようにしている。
故にS2は何度か参加しているが、S1は一度も…。
「今回はあいつらの事もあるし、無駄に争う相手を増やすのもあれだしな。」
「それは口実で、お主がステージに上がりたくないのじゃろ?くくく、もう傷は塞がってるはずなんじゃがのう」
「零は俺の事を何もわかってない。傷は塞がってる様に見えて皮一枚繋がってるだけだ。そう簡単に再活動できるほど緩いトラウマじゃないんだ」
「その話、確か学院内で2人しか知らんのじゃろ?どれ、我輩にも聞かせてくれぬか?」
「はぁ?何でだよ。俺に聞くな。いいか、もう一度言うぞ、他の奴らならいいから俺に聞くな!」
「おおう…そんな怒らなくとものう?すまんすまん。しかし他人の口で正しい情報が得られるかのう」
知ったことか。そもそも泉も真もそんなにぽろぽろ人に話して歩くような性格ではない。
「いっ…て」
「黒斗…?すまぬ、嫌なことを思い出させてしまったかの。もしかしてそれで痛みが…」
左目が痛む、奥の奥で刺されたような痛み…ずきずきとじりじりと。自然と右目からは涙が流れてくる。止まりそうにない涙に零は慌ててハンカチを渡してくる。
抉った本人が世話を焼くのは当たり前としても、頭撫でるなよ。
「よぉしよし、安心せい。ここには黒斗を傷つけるものなどおらんぞい。我輩が守ってやろう。」
「ったく、そんなん求めてない。それより、お前は今回のS1どうするんだよ…っつぅ」
「相変わらず自分の事は後回しじゃの。今回はまず転校生の意思を聞いてから決めるつもりじゃ。とはいえ、わんこはやる気満々じゃがの。若いと言うのは本当に羨ましいのう」
溜め息を吐き俺から離れていく、正確には俺が引き剥がした零は悲しそうに俺を見てくるが何を求めているのやら。まぁ、甘えられたいのだろうが生憎俺はそういう性格じゃない。ただ目が痛いだけで心は別に痛くないからな。
とはいえ転校生の意見、か。昨日の一件を北斗が転校生に詫びていた。起きていたであろう転校生がそれを聞いてどう思うか。そこが問題ではあるものの、どちらにせよ俺はあいつらを後押ししなければならない。
こいつらがしないなら俺でもいいかな、なんていつの間にか俺はあいつらに干渉していた。
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昨日の一件もまるでなかったかのように、いつもの一日が始まる。それはもう昨日のような野良試合を生徒会が粛清するのが日常茶飯事になっているからだ。
「おはようございます」
清く正しく挨拶をしてくる役員の奴も、風紀を乱さんと必死な奴も、昨日の事は一切口にしない。
いざ校門を渡りきったところで手に握っていたスマホが震え出す。この時間にメールか、と思えばそれよりもずっと意外な着信。
わざわざ電話なんていったい誰かと思えば、朔間零の文字。
「もしもし?」
『おお、繋がったか。我輩じゃよ。くくく、久しくスマホを使用してなくてな。ちょっと手間取ったわい』
「我輩で誰か伝わらないだろ、詐欺かよ」
『相変わらずストレートに傷つく言葉を言うのう。まぁそれもお主の特徴なのじゃが』
「何の用か単刀直入に言えば部室に向かう。余計な話だったら切るぞ」
朝のせいか、喋り方がいつもよりゆったりとした零の一言一句に苛々し、用件を促す。
何をそんなに苛々しておるのじゃ?と惚けられればなおさら苛つくのも無理はないだろう。おさえろ自分。
「面倒くさいな。部室いけばいいんだろ?」
『物わかりがいいのう?黒斗はいい子じゃ』
「いい子って言うな」
その言葉を最後に通話を終える。
何でも知ってる零が唯一知らないこと、それは俺の過去だ。そのせいかもちろん俺の地雷も知らない。地雷の場所を知らないやつに踏むなと言っても無駄な話だが、いい子の件はかれこれ数百回は注意している。それでも言ってくるのだからもはやいじめなのだろう。
「着いてからやっぱり来なきゃよかったっていうのは考えない方がいいな」
軽音部室、そう名前をつけられた部屋の前で溜め息を吐く。
零とはここしばらく会話をしていないし見掛けてもいない。何がどうして今さら、というのは流石に馬鹿の考えること。きっと連絡してきたのは転校生の事だろう。いや、転校生と、Trickstarか。
がちゃり、と不意にドアが自ら開きはじめる。不本意ながら肩をびくつかせた。
「何をそこに突っ立っておるのじゃ」
「あぁ、お前が開けたのか」
「驚いたのか?ん?」
「はいはい驚いた。あーこわーい。」
面白くないぞい。そう零に一蹴され室内に招かれる、零のくだらないノリに乗ってやったのに…こいつ許すまじ。
「まぁ、お主を呼んだのも大体見当がついておろう。黒斗は頭が良いからのう。その目で何を観たのか、そして何を思ったのか聞かせてくれるかの?」
「何も、本当に何も見てねぇよ。お前が、零が知ってることしか見てない。」
「ふむ、まぁ見てないというなら深くは聞くまい。しかしお主の場合他人には見えない物が見えるからのう?是非耳にしておきたかったのじゃが」
まるで特殊な能力でもあると言うのか。
比喩というのはわかっているが、零の言い方は軽く中二病臭くて面倒くさい。
「俺は人より観察力が高いだけだ。それはもちろんこの目がなくなってから急激に高くなった、というか、人を警戒するようになっただけか…」
「確かに、入学したての黒斗はこれでもかと言うほど死んだ目をしておったな。観察力が高いせいで他人の本心、素性が考察できるようになり人間を信じることをやめておったしな。」
「お前らと生徒会がどんぱちしてた時はどっちの本心も怖くて…いや、失望してた。人間ってこんなに汚いのかってな」
「くくく、その頃から黒斗はひねくれておったのか。」
手厳しいのう。
そう言いながら俺の頭を撫でてくるのだから訳がわからない。とはいえ、俺を呼んだのはこんな理由じゃない。
俺の考察を聞けないとしても、何か話があるのはわかる。零が俺に話をするとするならばトマトジュースの話と凛月の話程度。
「感付いておるじゃろうが、その転校生のことでのう。どんな人間かくらいは聞きたいのじゃが。」
女が嫌い、だから嫌い。それ意外で転校生の情報。あぁ、多分コーラが好き。
「根性がある、肝が座ってる。教えればどんどん吸収してくぞ。あとそうだな、俺の見込みだと完全にキーになると思う。俺があいつらといる意味ないだろ、うん」
「ふむ、鍵、か…。つまり、革命は成功すると踏んでおるのか?」
「それについては5対5というより7対3で7が失敗。今の現状ならな」
「ほう、というと?」
「もうちょっと、装備を揃えないとな。勇者だって丸裸じゃダンジョンに入ることすらできないだろ」
つまり、もっと周りを使わないと、あいつらは勝てない。勝てないどころか、戦えるかすら問題なのだ。
武器も防具も"それなり"の物を付けなければ。例えば、UNDEAD。共同レッスンをしろとかそういうことじゃないが。
「周りをうまく利用する。その力が足りてない」
「我輩がそのチャンスを作っても良いかのう?」
「さぁ、好きにするんだな。あいつらを踏み台にするのか自分達を踏み台にするのか。お前も馬鹿じゃないだろ。」
「光が苦手な我輩が登り詰めてももったいないじゃろうて、連中が星のように一番上でキラキラしとるのは想像するだけで楽しみじゃし?」
「ふーん、なら踏み台か。俺はどうするかな。今度のS1について父さんからいい加減参加しないのかぁとか、色々言われてはいるけど。」
出るつもりはないのか?
目を細める零。それは、俺につまらないと罵倒しているのと、少し残念がっているように観えた。
俺が出たいと思えるようになるのはいつになるのか。今でもまだ自分から辞退したい程なのに、そんな顔をされても困る。
「蒼空がどうするかによる、かな」
「ほう?蒼空に任せておるのか。意外じゃのう。しかし彼も、お主が出ないならよっぽどではない限り出ることはないじゃろう」
零に言われれば返す言葉もなかった。蒼空というのは俺の相方。かれこれ3年間一緒にユニットを組んでいるのに一度も一緒にステージに上がったことがない。
基本的には行動を共にしているが、今は1ヶ月前ソロで仕事が入っていて沖縄に行っている。食ロケ、だったか。蒼空の好きそうな…
それはさておき、蒼空は俺とステージに上がることにこだわっていて、仕事だとか、成績に関わること以外でなるべくステージには上がらないようにしている。
故にS2は何度か参加しているが、S1は一度も…。
「今回はあいつらの事もあるし、無駄に争う相手を増やすのもあれだしな。」
「それは口実で、お主がステージに上がりたくないのじゃろ?くくく、もう傷は塞がってるはずなんじゃがのう」
「零は俺の事を何もわかってない。傷は塞がってる様に見えて皮一枚繋がってるだけだ。そう簡単に再活動できるほど緩いトラウマじゃないんだ」
「その話、確か学院内で2人しか知らんのじゃろ?どれ、我輩にも聞かせてくれぬか?」
「はぁ?何でだよ。俺に聞くな。いいか、もう一度言うぞ、他の奴らならいいから俺に聞くな!」
「おおう…そんな怒らなくとものう?すまんすまん。しかし他人の口で正しい情報が得られるかのう」
知ったことか。そもそも泉も真もそんなにぽろぽろ人に話して歩くような性格ではない。
「いっ…て」
「黒斗…?すまぬ、嫌なことを思い出させてしまったかの。もしかしてそれで痛みが…」
左目が痛む、奥の奥で刺されたような痛み…ずきずきとじりじりと。自然と右目からは涙が流れてくる。止まりそうにない涙に零は慌ててハンカチを渡してくる。
抉った本人が世話を焼くのは当たり前としても、頭撫でるなよ。
「よぉしよし、安心せい。ここには黒斗を傷つけるものなどおらんぞい。我輩が守ってやろう。」
「ったく、そんなん求めてない。それより、お前は今回のS1どうするんだよ…っつぅ」
「相変わらず自分の事は後回しじゃの。今回はまず転校生の意思を聞いてから決めるつもりじゃ。とはいえ、わんこはやる気満々じゃがの。若いと言うのは本当に羨ましいのう」
溜め息を吐き俺から離れていく、正確には俺が引き剥がした零は悲しそうに俺を見てくるが何を求めているのやら。まぁ、甘えられたいのだろうが生憎俺はそういう性格じゃない。ただ目が痛いだけで心は別に痛くないからな。
とはいえ転校生の意見、か。昨日の一件を北斗が転校生に詫びていた。起きていたであろう転校生がそれを聞いてどう思うか。そこが問題ではあるものの、どちらにせよ俺はあいつらを後押ししなければならない。
こいつらがしないなら俺でもいいかな、なんていつの間にか俺はあいつらに干渉していた。
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