彼がステージに上がる時
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3
「目良先輩…?」
「ん?」
明星や遊木、衣更と別れ、転校生を保健室に送っている最中、何食わぬ顔で俺の後ろをついて歩く目良先輩。
「あの…なんで付いてきているんでしょうか…俺、遊木から目良先輩の話、ある程度は聞いているんですが」
目良先輩はどうも女性が嫌いらしい。詳しい話は聞いていないがどうも、脊髄反射並みに避けるとの事。
そのくせ、女の子を背負っている俺について歩くなんて何か特別な意味でもあるのだろうか。
「女が嫌い、って事だろ?今はとりあえずお前が気を失った女の子を背負ってることに不信感を覚えられないように、保護者的な立場をだな…」
「嘘、ですよね?」
あー、と言葉を濁すも懲りている訳ではないようで、最終的に保健室まで付いてくる。
ドア開けてやるよ。そんな親切をされればまぁ邪険には出来ないのだが。
「目良先輩、」
「俺、ちょっと用事があるから。転校生に話あるんだろ?」
「え、」
言葉が出なかった。目良先輩は恐ろしいほど正確に人の心理を読み解く力を持っている。あの人は何も見ていないようで、しっかりと人を分析し、観ている。
どんな状況下にあっても賢い選択のできる人だ。
ただの憧れの的なんてものじゃないのは既にわかっていること。
「じゃ…俺また戻ってくるから」
廊下に出ていく目良先輩から視線を外し転校生を見る。
間違いなく、ベッドに眠っているのは女の子だ。初日でただでさえ忙しないのに、色々なことに巻き込んでしまった。深く反省すべき事だと思う。
「…はぁ」
俺はもう一度保健室のドアを見て室内に目良先輩の姿がないことを確認する。
「転校生、意識がないなら聞こえてないだろうが、それでもいい、謝らせてくれ。…すまなかった。」
転校生に無茶をさせた、勝手に期待を押し付けた。なにも知らない、か弱い女の子に…。決して雑に扱おうと、ただ利用しようとしたわけではない。本気で仲間になってほしかった。
手順を誤ったのは俺なのだ。
この、夢ノ咲学院を変えたい一心で、大事なことを見失っていた。
まず一番になぜ俺たちが転校生を必要としているのかを、しっかりと伝えておくべきだった。
嘘をついて、ただ仲間になってほしいと懇願していた。
「仮にも自分の在籍する学院を悪く言いたくなかっただけ、なのかもしれない。俺は格好つけたがりだ」
この学院は、数々の有名アイドルを輩出してきた素晴らしい学院だ。
しかしそれはあくまで、外からの意見である。
「この学院は"アイドルの、アイドルによる、アイドルのための学舎"だと説明したな。だがその表現は、正確ではない」
誰もが知っている。誰もが虚ろな目をしてその事実を飲み込むしかない。
「実際は"よいアイドルの、よいアイドルによる、よいアイドルのための学舎"だ」
言いながら、憤りを感じる。俺が夢見たのは、俺がなりたいのはそんなものじゃない。
本当は明星の言う通り、みんながキラキラと本当の笑顔でステージに立ちファンを楽しませる。いや、一緒にファンと楽しむのが、アイドルだ。
それがこの学院では違う。
「期待は裏切られ、研鑽は顧みられず、個性や大事にしているものは否定され、学院が規定する"理想のアイドル像"に均される。…この学院は、たしかに優れたアイドルを輩出し続けている。だがそれは、家畜のように遺伝子操作され、豚小屋に繋がれた、人間味の無いアイドルだ」
そんなの…
「そんなの、俺は認められないな」
はたと自分ではない声に驚き振り返る。
そこには真剣な眼差しの目良さんがいた。
「あの…聞いて、たんですか」
「まぁ、途中から。ほらこれ、水分補給は大事だろ。人一人抱えてたんだ、いるだろ。あともう一本はそいつの。起きたら渡してやれ。」
「目良先輩…」
受け取った2本のペットボトルに視線をやると緑茶と、コーラ。
緑茶はたぶん、俺のだろう。コーラは転校生に?
「俺が飲み物をやるのがそんなに意外か?」
困ったように眉を下げペットボトルに入ったアイスレモンティーを一口含む目良先輩。
確かに意外、それもあるがなぜコーラなのか不思議な点もある、転校生がコーラが好きなんて話してないというのに。隣に座るかと思い椅子を準備するも、絶対嫌だと頑なに断られた辺り、ジュースを機会に転校生と仲良くなる気はないみたいだ。
「北斗の言ってたこと、これから言いたいこと、大体わかる。」
「え」
「今のうちだぞ?そいつが起きたらもう嫌なんて言われるかもしれないしな。」
肩を竦めながら女は心変わりが早いからと目良先輩に念を押された。
今ならば、本心を伝えられるだろうか…
「俺は、俺たちは、夢ノ咲学院の現状を打破し、変えたいと思っている。まだ、何ができるかはわからない…」
でも、その時力になってくれればと、こんなに振り回しておいて図々しいとは思う。
「俺たちは無力で、敵は強大な学院の権力構造そのものだ。 あっさり踏みつぶされて、それでお終い、かもしれない。だが、俺たちは戦うと決めた。このままでは、俺たちの心が殺されてしまう」
「ほんと…気にくわないな」
微かに、目良先輩が舌打ちをこぼしたのを聞き取る。あまり感情的にならないのが俺の目良さんに対する第一印象だったせいか、予想外な一面を見た気持ちになる。きっと、目良さんも気にくわないのだろう、だから俺たちに肩を貸してくれている。
いつか花咲くことを夢見て、俺たちは未来のために種をまこうとしている。なのに
「死んだ魚の目をして、偉いやつらに媚びへつらう。そんなのは、俺達が入学前に夢見た、憧れたアイドルなんかじゃない」
俺たちは、この腐った学院を革命する。生徒会を、この現状を妥当するために命を睹して戦いぬく。
「何も知らないお前を無理矢理仲間に引き込もうとしたのは、間違いだった。無理矢理、お前の都合を、気持ちを考えずに…これでは生徒会と同じだ」
「北斗…、落ち着け」
俺は気付かない内に熱くなりすぎていた。それを察した目良先輩に肩に手を置かれるまで気付かないほど。
集中すると周りに気を使えなくなるのは俺の悪い癖だとわかっていながら。
「"特別な立場"をもつこいつは、お前らの救世主になってくれるかもしれない。だが、同時に"普通の女の子"でもある。その事実は、頭にいれておくべきだ。お前もあまり背負いこみすぎて自己犠牲しないように気を付けろよ」
余計なお世話、かもしれないけどな。
そう付け足した目良先輩の顔はどこか不安そうに俺を見ていて、それでも少しだけ肩の荷が軽くなった気がした。目良先輩が俺の事をよくわかっていてくれている事がとてもありがたかったのかもしれない。
「女の子って言うのはどうも苦手だし、優しくはできねぇけど。俺は転校生も含めお前らの味方だ。」
「目良先輩、ありがとうございます。」
「とりあえず、転校生が起きる前に俺はおいとまするよ。ちょっとこいつの動きが唐突すぎて読めないから、な。でも安心しろよ。こいつはお前らのこと嫌いになったりしない」
へらへらと軽い笑みを溢し、俺の頭を好き勝手に撫でていった目良先輩は保健室を後にした。何を根拠に目良先輩は物事を言い切るのかわからないが目良さんの満足げな笑みに安心感が沸いてきていた。大丈夫だと…そう思えた。
少し落ち着きを取り戻した俺は深呼吸をしてもう一度転校生に向き直る。
「おこがましいが、期待している、転校生。お前がこの閉塞した学院に風穴を開けてくれることを。希望を、花咲かせてくれることを。お前は、俺たちが待望していた、かけがえの無い夢そのものなんだ」
目が覚めたら、まずはもう一度謝ろう。
目良さんから貰っていたコーラを渡して、不調じゃないか気にかけなければ。転校生が敵につくか味方につくかわからない。だがそれ以前に"普通の女の子"としての接し方をしようと心がける。
俺たちの意思を転校生は掬ってくれるだろうか。後押ししてくれるだろうか。
これで完全に断られ、終いに嫌われたら俺自身もショックだし、きっと明星と遊木も嘆くだろう。
俺は不安と期待を五分五分に、転校生の顔を見つめた。
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「目良先輩…?」
「ん?」
明星や遊木、衣更と別れ、転校生を保健室に送っている最中、何食わぬ顔で俺の後ろをついて歩く目良先輩。
「あの…なんで付いてきているんでしょうか…俺、遊木から目良先輩の話、ある程度は聞いているんですが」
目良先輩はどうも女性が嫌いらしい。詳しい話は聞いていないがどうも、脊髄反射並みに避けるとの事。
そのくせ、女の子を背負っている俺について歩くなんて何か特別な意味でもあるのだろうか。
「女が嫌い、って事だろ?今はとりあえずお前が気を失った女の子を背負ってることに不信感を覚えられないように、保護者的な立場をだな…」
「嘘、ですよね?」
あー、と言葉を濁すも懲りている訳ではないようで、最終的に保健室まで付いてくる。
ドア開けてやるよ。そんな親切をされればまぁ邪険には出来ないのだが。
「目良先輩、」
「俺、ちょっと用事があるから。転校生に話あるんだろ?」
「え、」
言葉が出なかった。目良先輩は恐ろしいほど正確に人の心理を読み解く力を持っている。あの人は何も見ていないようで、しっかりと人を分析し、観ている。
どんな状況下にあっても賢い選択のできる人だ。
ただの憧れの的なんてものじゃないのは既にわかっていること。
「じゃ…俺また戻ってくるから」
廊下に出ていく目良先輩から視線を外し転校生を見る。
間違いなく、ベッドに眠っているのは女の子だ。初日でただでさえ忙しないのに、色々なことに巻き込んでしまった。深く反省すべき事だと思う。
「…はぁ」
俺はもう一度保健室のドアを見て室内に目良先輩の姿がないことを確認する。
「転校生、意識がないなら聞こえてないだろうが、それでもいい、謝らせてくれ。…すまなかった。」
転校生に無茶をさせた、勝手に期待を押し付けた。なにも知らない、か弱い女の子に…。決して雑に扱おうと、ただ利用しようとしたわけではない。本気で仲間になってほしかった。
手順を誤ったのは俺なのだ。
この、夢ノ咲学院を変えたい一心で、大事なことを見失っていた。
まず一番になぜ俺たちが転校生を必要としているのかを、しっかりと伝えておくべきだった。
嘘をついて、ただ仲間になってほしいと懇願していた。
「仮にも自分の在籍する学院を悪く言いたくなかっただけ、なのかもしれない。俺は格好つけたがりだ」
この学院は、数々の有名アイドルを輩出してきた素晴らしい学院だ。
しかしそれはあくまで、外からの意見である。
「この学院は"アイドルの、アイドルによる、アイドルのための学舎"だと説明したな。だがその表現は、正確ではない」
誰もが知っている。誰もが虚ろな目をしてその事実を飲み込むしかない。
「実際は"よいアイドルの、よいアイドルによる、よいアイドルのための学舎"だ」
言いながら、憤りを感じる。俺が夢見たのは、俺がなりたいのはそんなものじゃない。
本当は明星の言う通り、みんながキラキラと本当の笑顔でステージに立ちファンを楽しませる。いや、一緒にファンと楽しむのが、アイドルだ。
それがこの学院では違う。
「期待は裏切られ、研鑽は顧みられず、個性や大事にしているものは否定され、学院が規定する"理想のアイドル像"に均される。…この学院は、たしかに優れたアイドルを輩出し続けている。だがそれは、家畜のように遺伝子操作され、豚小屋に繋がれた、人間味の無いアイドルだ」
そんなの…
「そんなの、俺は認められないな」
はたと自分ではない声に驚き振り返る。
そこには真剣な眼差しの目良さんがいた。
「あの…聞いて、たんですか」
「まぁ、途中から。ほらこれ、水分補給は大事だろ。人一人抱えてたんだ、いるだろ。あともう一本はそいつの。起きたら渡してやれ。」
「目良先輩…」
受け取った2本のペットボトルに視線をやると緑茶と、コーラ。
緑茶はたぶん、俺のだろう。コーラは転校生に?
「俺が飲み物をやるのがそんなに意外か?」
困ったように眉を下げペットボトルに入ったアイスレモンティーを一口含む目良先輩。
確かに意外、それもあるがなぜコーラなのか不思議な点もある、転校生がコーラが好きなんて話してないというのに。隣に座るかと思い椅子を準備するも、絶対嫌だと頑なに断られた辺り、ジュースを機会に転校生と仲良くなる気はないみたいだ。
「北斗の言ってたこと、これから言いたいこと、大体わかる。」
「え」
「今のうちだぞ?そいつが起きたらもう嫌なんて言われるかもしれないしな。」
肩を竦めながら女は心変わりが早いからと目良先輩に念を押された。
今ならば、本心を伝えられるだろうか…
「俺は、俺たちは、夢ノ咲学院の現状を打破し、変えたいと思っている。まだ、何ができるかはわからない…」
でも、その時力になってくれればと、こんなに振り回しておいて図々しいとは思う。
「俺たちは無力で、敵は強大な学院の権力構造そのものだ。 あっさり踏みつぶされて、それでお終い、かもしれない。だが、俺たちは戦うと決めた。このままでは、俺たちの心が殺されてしまう」
「ほんと…気にくわないな」
微かに、目良先輩が舌打ちをこぼしたのを聞き取る。あまり感情的にならないのが俺の目良さんに対する第一印象だったせいか、予想外な一面を見た気持ちになる。きっと、目良さんも気にくわないのだろう、だから俺たちに肩を貸してくれている。
いつか花咲くことを夢見て、俺たちは未来のために種をまこうとしている。なのに
「死んだ魚の目をして、偉いやつらに媚びへつらう。そんなのは、俺達が入学前に夢見た、憧れたアイドルなんかじゃない」
俺たちは、この腐った学院を革命する。生徒会を、この現状を妥当するために命を睹して戦いぬく。
「何も知らないお前を無理矢理仲間に引き込もうとしたのは、間違いだった。無理矢理、お前の都合を、気持ちを考えずに…これでは生徒会と同じだ」
「北斗…、落ち着け」
俺は気付かない内に熱くなりすぎていた。それを察した目良先輩に肩に手を置かれるまで気付かないほど。
集中すると周りに気を使えなくなるのは俺の悪い癖だとわかっていながら。
「"特別な立場"をもつこいつは、お前らの救世主になってくれるかもしれない。だが、同時に"普通の女の子"でもある。その事実は、頭にいれておくべきだ。お前もあまり背負いこみすぎて自己犠牲しないように気を付けろよ」
余計なお世話、かもしれないけどな。
そう付け足した目良先輩の顔はどこか不安そうに俺を見ていて、それでも少しだけ肩の荷が軽くなった気がした。目良先輩が俺の事をよくわかっていてくれている事がとてもありがたかったのかもしれない。
「女の子って言うのはどうも苦手だし、優しくはできねぇけど。俺は転校生も含めお前らの味方だ。」
「目良先輩、ありがとうございます。」
「とりあえず、転校生が起きる前に俺はおいとまするよ。ちょっとこいつの動きが唐突すぎて読めないから、な。でも安心しろよ。こいつはお前らのこと嫌いになったりしない」
へらへらと軽い笑みを溢し、俺の頭を好き勝手に撫でていった目良先輩は保健室を後にした。何を根拠に目良先輩は物事を言い切るのかわからないが目良さんの満足げな笑みに安心感が沸いてきていた。大丈夫だと…そう思えた。
少し落ち着きを取り戻した俺は深呼吸をしてもう一度転校生に向き直る。
「おこがましいが、期待している、転校生。お前がこの閉塞した学院に風穴を開けてくれることを。希望を、花咲かせてくれることを。お前は、俺たちが待望していた、かけがえの無い夢そのものなんだ」
目が覚めたら、まずはもう一度謝ろう。
目良さんから貰っていたコーラを渡して、不調じゃないか気にかけなければ。転校生が敵につくか味方につくかわからない。だがそれ以前に"普通の女の子"としての接し方をしようと心がける。
俺たちの意思を転校生は掬ってくれるだろうか。後押ししてくれるだろうか。
これで完全に断られ、終いに嫌われたら俺自身もショックだし、きっと明星と遊木も嘆くだろう。
俺は不安と期待を五分五分に、転校生の顔を見つめた。
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