イベントストーリー
What is your name?
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「テメーはお菓子職人じゃなくてアイドルだろうがっ、迷走してんじゃねーよ!」
「…なんか、騒々しくない?」
ライブが始まるまでと黒斗と一緒に学院内を散歩しているとどこからか怒鳴り声が聞こえる。何事かと黒斗と目を合わせた次の瞬間。
「ひっ…んぎゃああああああああああ!?」
「…?トラブルとか勘弁してほしいんだが。一般客が巻き込まれてたら笑えないぞ?」
隣ではいつも通り無表情の黒斗が溜め息を吐きながら面倒ごとに首を突っ込まんとしている。しかしその廊下を曲がろうと黒斗が一歩踏み出した途端。
「きゃっ」
一般客を巻き込んだのは黒斗だった。勢いをつけて角を曲がってきたのは黒斗ではなく一般客の女の方。そのせいか突き飛ばされたのは黒斗でその場に尻餅をつく。もちろん体格差があって女の方もその場にこけてしまう。
「あ…あのっ!すいません、大丈夫ですか?」
慌てて女が黒斗の手を取ろうと近づいて手を差し出す。
あ、やばいかも?
「黒斗…」
「近寄るなっ!!」
声を荒げたのは間違いなく黒斗だった。
予想外の方向でまずい…。明らかに何かあったと一般客がこちらを振り返ったりでざわついてる。俺は考えるよりも先に黒斗の手を掴んでその場を走り去った。
「ちょっとぉ?黒斗どうしたの?いくら何でもこういう場だよ?」
誰も来ないであろう音楽室に入って黒斗を問いただす。今までの黒斗は確かに、女が嫌いで苦手で何なら視界にいれたくないってくらいでも、怒鳴ったりなんてしなかったのに。
宥めるように俺が黒斗の手を掴むとびくりと肩を震わせた。まさか…
「っ…は、ぁ"」
「黒斗、まともに息できてない…落ち着いて。ここには女なんていないからぁ」
昔みたいにはできないけど、できる限り近くで促すように深呼吸をすると黒斗もそれに習って呼吸を整えようとする。やっぱり…なんて確信を得た。昔と同じだ。片目を失って初めて病院から出た時も、事務所の女に会った時と同じ。あの時は完全にパニックしてたけど、今回は自分から拒否しようと怒鳴ったんだねぇ。
「ふふふ、たっぷりTrickできたし、気分すっきり…」
「っ!?」
誰かの話し声に今度は俺が肩をびくつかせる。無駄に広い音楽室の反対側から入ってきたのは…くまくん?
「くまく…」
俺が声をかけようとするとその後ろから転校生が入ってくる。うわぁ、危なかった。声をかけて気付かれてたら転校生までこっちに寄って来る可能性もあった。そうなったら黒斗が落ち着いていられるわけがない。
「座れる?」
小声で尋ねるとこくこくと何度か頷きその場にしゃがむ黒斗。
「ごめ…」
「別にぃ?俺だってこんなことで黒斗に借り返せると思ってないからぁ…しかも上乗せされてるしねぇ?」
ふふ、と笑って見せるもいまだ黒斗は蹲ったまま。ちらりとくまくんに目をやると転校生と何やら約束がうんたらと話をしている。
多分、体調不良の事だと思うけど。
「うん?ナッちゃんって、鳴上嵐。そうそう、俺と同じKnightsの。昔はナッくんって呼んでたんだけど、ちゃん付けがいいっていうからさぁ…?」
ふうん、転校生なんかに昔話なんかして、本当にくまくん変わったねぇ。ちゃんと起きてレッスンに参加したりなんかして。でもそれが仇になっちゃったんだけど。
「細かいよねぇ、ふふふ。昔はそういうの、鬱陶しかったんだけど。いちいち他人の事なんか、覚えてらんないし。でも、転校生が、まーくんが、Knightsのみんなが…。紅茶部のみんなが、クラスメイトのみんなが、ううん、夢ノ咲学院のみんなが…空っぽだった俺のなかに、ひとつひとつ、あったかいものを積み重ねてくれた」
「くまくんってば、ほんと何言ってんだか」
「ふ、はは…嬉しそうだけどな。」
「…復活早いのはいいことだけど、減らず口まで復活しなくていいのに」
「あぁ…そこには凛月と…転校生がいるんだろ。そう考えたら頭が痛い、けど、駄々はこねてられない」
じっと黒斗を見ると困ったように眉を下げて逸らされる。俺が相手だとそうやって表情豊かになるのは嬉しいけど、そんな表情になるくらいなら無表情の方がいい。きっと、体育祭の日のあれのせいだ。俺の気持ちもゆうくんの気持ちも逃げるようにかわされてからその話には触れてない…でもそれ以来、黒斗はよく他人の心を見るようになった。
みんなが一歩一歩前進してるのに対して、黒斗だけ後退してるみたい。
「黒斗だってまだ子供なんだよぉ?1回くらい駄々こねたら?みやくんみたいに。」
「我が儘言ってる暇があったら他人のために努力するっての。」
「えぇ…?」
「えって、なんだよ…」
どうしたと言わんばかりに首をかしげる黒斗に、なんでもないと言って逃げるしかなかった。
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