イベントストーリー
What is your name?
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「ひゃっほう!キラキラだね!」
どんなときでも騒々しいな…。何て言ったらへそを曲げてしまうだろうか。
少し遠めで花火を楽しむ奴らを横目に俺は五線譜のノートを取りだし頭を悩ます。
隣には蒼空…というかまぁ、蒼空じゃない人格の蒼空。
一年の頃、独りでいた蒼空が自分で一番最初に声を掛けた相手が俺で、その時は間違うことなく蒼空だったが俺が泉とKnightsに入る話をしたときに割り込んできたのは蒼空じゃなかった。今の、もう一つの、蒼空を守るために生まれた蒼空だ。
「…また新曲か?飽きないもんだね、お前も…作曲バカってやつ。」
この通り、蒼空よりも正直に悪気もなく悪態をつく。俺が他人のこと言えないとかそんなことはまぁ置いておくとして。なにやら家庭事情で生まれてしまった蒼空のもう1つの人格は蒼空を独りの状況にすると防衛本能で顔を出す。蒼空を守るため、正直手も足も出るのが早い。物理的な意味で、
「これは俺たちの曲だ。今度のドリフェスで歌う。夏らしいのを作ったんだ。花火っていう風物詩もあるからな」
「あぁ?Trickstarのじゃないのか?」
「とっくに終わったぞ?お前が、…廊下でぶつぶつ言ってたとき」
それは俺じゃないし!なんて立ち上がり反論する蒼空。口も悪く喧嘩腰で暴力的なくせに俺には口で反抗するだけに留まる。その理由の1つとして、心を許した奴にはなつくから、と言っても俺は心が観えてて的確に言い当てたりするから勝てないと思ったらしいだけで…。
あと、観えるからこいつの手も足も全部避けられる。
初めて会った頃からしてみればその差は歴然で、むしろこの人格の蒼空は飼い慣らしてしまったと言っても過言ではない。
「それより蒼空は?今ごろ花火で遊びたくてうずうずしてると思うんだが」
「今から行って…あいつらがいれてくれるとは限らないだろ。だから泣いてんだよ」
「仲間に入れてくれるぞ?全員、仲間はずれなんてしない奴らだ」
「お前は、いいのか?」
「1人は慣れてるしな」
ノートを傍らに置き腕を組んであいつらを眺める。相変わらずスバルは騒いでいるし北斗は監視するのに精を出している。海の方から上がる花火に照らされながら騒ぐ姿は本当に子供のようだ。これが…青春か。
ちらりと蒼空を見やると、かくんと倒れこみそうなところで意識を取り戻したようでものすごい勢いで俺を見る。
「黒斗はいちいち大人っぽすぎだな!」
「…蒼空?っうわ!?」
不意にいつも通りの口調に戻った蒼空に目をやると、俺の手を引き集団の中へと連れていく。どうしてこう、もっと気を使ってくれないんだ。
「いっつもありがとう。」
そう蒼空が呟くと、俺を振り返りその勢いのまま飛び付いてくる。
「新曲楽しみにしてるからな!」
「蒼空さん…公共の場でなんてこと…」
真と真緒が口を開けて俺たちを見る。いや、誤解だ、ほんとに。
「目良先輩…!大丈夫ですか!こら蒼空!離れろ!」
「うー、北斗厳しい!てか俺年上なんだからいい加減さんくらいつけろよ!」
幼馴染みにそれは難しいだろ。そんなん気にしない歳からの癖ってもんが…
「蒼空さんが飛び付いてたなら俺も~!」
「う"っ…!?」
気を抜いていると後ろからスバルが良い勢いで抱きついてくる。背骨が軋む音が聞こえた気がしたがきっと大丈夫だと信じたい。俺はそこまで柔じゃない。
「…いっつぅ」
「黒斗さん大丈夫ですか?あはは、明星くんも蒼空さんも相変わらずですよね…」
「あーくそ、これで背中痛めてたら責任負わせてやる。」
「黒斗さん、目がマジっすよ。真何とかしてくれ」
「えぇ!?僕なの?」
おずおずと俺の前に現れる真に疑問符を浮かべる。すると不自然な、というより不慣れな手つきで背中をさすられた…。意味が全くわからないんだが。
「…。」
無言で真緒を見ると苦笑いを浮かべていて、正直真の予想外の行動に対処できないのだろう。どうしようもなくなって俺が真の頭を撫でてやると、えぇ!?と大袈裟に驚かれる。
先程から絶え間なく打ち上げられる花火。それに加え目の前でバチバチと花火を振り回すスバルのせいで眩しいのだが、心が暖かい。
「目良さんも、どうぞ」
北斗から線香花火を渡されるが火が付いていない。
…ん、どうしたらいいんだ?
「北斗?火はつけないのか?」
「それが、明星がずっとライターを保持していて…それに加え蒼空も便乗しているから収拾がつかなくなっているんです。」
「火がない花火って…」
俺たちのことは気にもとめず蒼空とスバルは走り回り、先ほど傍らにいたはずの真が犠牲になっている。真はあたふたしていて2人の奇行を止めようとしているが、あれはあれで楽しそうに見えた。
俺からしてみれば花火なんてキッズの時に撮影の一環としてやっていた。だからこそ悪い思い出もなければ良い思い出もない。
「青春云々っていうか、花火って…案外楽しいもんなのかもな。火ねぇけど」
明かりを灯さない線香花火を指先で回し、遊びながらそう呟く。人格云々を克服したとはいえない蒼空が今は楽しそうならとりあえず丸く収まったと考えるべきだ。俺自身もトラウマは克服はできていないしお互い様だ。絶対克服。なんて前向きに考えてはいないが、なにかお互いに悩みを持った俺たちだからこそもっと上に行けるだろう。打ち上げ花火なんて比じゃないくらいに。なんて…
「はは、こいつらといると、ほんと飽きないよなー。来年もまたみんなで花火をしたらすっごい楽しそうだ」
「……そうだな。少々騒がしいが、悪くない」
真緒と北斗が呆れたようにスバルたちを見る。確かにこれ以上ないくらい呆れてしまうことも多いが、それが日常生活の一部になるほどその騒がしさが馴染んでいる。
俺は、来年もこうして遊べないことの寂しさにただただ笑うしかなかった。
晩夏 サマーレッスン -summerlesson-</font>::END
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