彼がステージに上がる時
What is your name?
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「挑戦者!身長174cm体重58kg!軽音部の噛みつき魔!夢ノ咲学院アイドル科2年B組、"狂犬"大神晃牙ー!」
とある昼休み、とある屋外ステージにて、B1が始まる。空手部の南雲鉄虎が今回の司会らしい。
とはいっても、B1は生徒会や先生に見つかると面倒なだけで正直開催者や見物人に得があるとは思えない。むしろ粛清されるだけで損しかないのだが。
「今回は…あいつが出るんのか」
俺は挑戦者の名前を聞きながら、ついこの間ギターのピックをプレゼントしたなぁ…。なんて思い出す。もうこの学院ではプレゼンターなんて肩書きを貰えるほど学院の生徒にプレゼントをしている。ほんの暇潰し程度だが、それが割りと好評らしい。
「あっ、黒斗先輩!」
「…?」
誰に呼ばれたかもわからず振り返るがどうも人が多くて見つからない。
と思えば、ぐいと思いきり腕を引かれ疑問符を浮かべるや否や人混みから引き抜かれる。かなり周りの迷惑になっているんだが!?
「転校生!この人が俺たちの救世主、目良黒斗先輩!」
「は?」
一度瞬きをし、状況を把握すると、腕を引っ張ってきたスバルと、その横の北斗…間に女の子が一人と隣に真。
「おい、明星。勝手に話を進めるな。目良先輩、明星が無理矢理引っ張ってきてすみません」
「えーと、まぁ、引っ張ってくんのは今に始まったことじゃないけど、人混みなんだから少し考えろよな」
俺が明星に一言渇を入れると遠慮気味に女の子が声をかけてくる。女は、苦手なんだけど。
「あ、あの…よろしくお願いします」
「…あぁ、プロデュース科とかなんとか…だっけ。」
一度視野にいれるも早々に目を逸らし、北斗に確認を取るとこくりと神妙な面持ちで頷く。
「はい、それで…この間目良先輩に話したことを転校生に伝えようかと思ってたんです。でもたまたまB1が開催されていたので…色々と前倒しにしようかと」
北斗の言葉を遮るようにステージから雄叫びが聞こえる。その声は紛れもなく晃牙のものだ。エレキギターを構え、満足そうな笑みを浮かべている。あいつは相変わらず格好いいな。
「愚民共の魂に爪を立ててやる!引き裂いて噛みちぎって鮮血を啜ってやる!補食される間際の恍惚感を、感謝して堪能しやがれ!ロックン・ロール!!」
「おぉ、演奏が始まった!格好いいなぁ、エレキギター☆」
北斗に一言二言返事をしたかったが、晃牙の言葉にステージに振り返る。あぁ、せっかく近くにいたのに引っ張られたせいでステージが遠い。
この盛り上がりで前まで入り込んでいくのは中々に難しいだろう。
仕方ない、我関せずとエレキに夢中になってるスバルには後で奢ってもらうとして、何やら真と軽音部の話やユニットの話をしている。軽音部と言えば零のことか…確かに軽音部統率感ゼロだもんな…あいつやる気無いから。
つうか演奏くらい真面目に聞けよお前ら。
「転校生。目良先輩は、この学院ではかなり有名な人で話したことはなくとも誰もが名前と顔を知っている。無論テレビ出演も何度かしているから憧れの的と言っても過言はないな。ちなみにあいつらは構わず専門用語を言っているが、とりあえず、簡単にユニットの説明をしておこう」
横目でちらりと見れば北斗が逐一転校生に知らないことを教えている。
俺がテレビに出ているという話を聞いてちらちらと何度か見てくる転校生。
サインとかはあまりしたくないから、そういうのじゃないといいけど。それとも出てたかどうか思い出そうとしてるのか?
どちらにせよ残念なことに、北斗が自慢げに俺のことを話しているそのテレビ出演の話もキッズモデルの頃の事。英才教育を受けていたお前ならまだしも、一般人の転校生が知ってるわけ無いだろうに。
「ユニットは、一蓮托生の仲間だ。ユニットへの評価はそのまま個人への評価…。つまり学院での成績や世間的なアイドルとしての評判にも反映される。この夢ノ咲学院での修羅場を乗り越えるため、手を取り合って支えあう、かけがえのない同胞といえる」
北斗の言い分は間違いない。
俺もユニットとして2人で組んでいる。ファンクラブもあればグッズもあるが俺はステージに上がって歌ったことはない。
正直アイドル活動もモデル活動も、今となってはやっていないに等しい。
それでも評価が良いのは相方の星宮蒼空が頑張っているからだ。正直申し訳ない話だが、その代わり事務も含め仕事を取ったり曲を作ったりは俺がすべてしている。それで了承してくれているのだから、ユニットは一蓮托生の仲間、という言葉にも納得する。
「そして俺たちもTrickstarというユニットを結成している。どうか、覚えていてくれ。そして可能なら俺たちTrickstarに祝福をもたらす女神となってほしい」
「祝福をもたらす女神…か。」
熱く語る北斗は打倒生徒会で必死なのだろう。気付けば演奏を気持ち半分でしか聞いてなかった俺は北斗の言葉を呟いた。
「大変大変大変っすよー!!」
気を取り直して晃牙の演奏を聞こうとしたものの、また別の事態へと引き戻される。
この声は間違いなく鉄虎だ。声色から察するにいつものごとく落ち着きがないようだ。
ついこの間も落ち着けと話をした直後も慌てて何かやらかしていた。今回もわーわーと騒ぎながらこちらに走ってくる。以前、落ち着くようにアロマポットをプレゼントしたはずだが効果無しか。
「大将がいないんッスよ!って目良先輩!?なんでここに…いやそれより先輩が上がってくれてもいいんスけど!」
「いやいやいや、なんでだよ。絶対無理だ、俺はステージには上がらない。」
がしりと涙目になりながら俺の腕を掴む鉄虎に本気で抵抗する、勘弁してくれ。俺が出るなんて冗談でも言うなよ。
「あ、鬼龍さんならさっき見かけたよー?食堂でね!普通に食券買って、ナポリタンとか食べてたけど?」
うわぁ、紅郎らしい。彼奴変な所で抜けてるから、忘れたとかそんなんだろ。のんきに飯食って不戦敗か…?
「"ご飯食べてて"みたいなアホな理由で、むざむざ他のところに優勝旗がとられるなんて納得できないッス、ありえないッスよ!」
鉄虎の言い分はわかる、物凄くわかる。
気分屋とまでは言わないが、変な理由で余計な損を被るのは誰だって嫌だよな。
俺もよくそういうことに巻き込まれるしな。
「何を騒いでんだ、鉄」
「っ!」
鉄虎が涙目になりながら探していた人物が俺の横に突如現れる。見えない側に立つなよ、びっくりするだろ阿呆。
思いが伝わったのか紅郎はすまねぇと一言詫びると鉄虎の元へ向かう。
紅郎と鉄虎の妙なコントを見せられ呆れ返っていると、ステージで晃牙が叫ぶ。
ただでさえマイクを通しているのに…あー、マイクがハウリングしてる、悲鳴上げてる。
「あの…さっきはまともに挨拶してなくてすいません」
不意に、遠慮がちにしかししっかりと聞こえるように声をかけられる。これもまた見えない方からだ。ふざけるな。
視線を向ければそこには女の子がいた。
咄嗟に一,二歩下がったのは言うまでもない。なんせ女は嫌いなのだから。
「…。何の用だ」
「いや、その、改めて挨拶しようと思った…だけで」
「え、おー。それより…もしハンカチ持ってんなら紅郎に貸してやれよ」
「へ?」
紅郎を指差せばハンカチがないかと鉄虎とまたコントをしている。
一度俺を見返し、紅郎のもとへハンカチを渡しに行った転校生。正直もう話しかけてほしくない。
「黒斗さん。大丈夫ですか?」
こっそりと真が俺の肩をつつく。右から、うん、お前は良くわかってる。良い子良い子。だが大丈夫なわけがないだろう。馬鹿か、察しろよ。
「うわ、今もだけど…さっきも相当怖い顔してましたよ?転校生ちゃん、怯えてないかなぁ」
「いっそ、怯えてもう二度と話しかけてくれなきゃいいんだけどな」
はは、と苦笑いを浮かべる真をわしゃわしゃと撫でる。
「え、な、何ですか?」
「いや、お前を撫でると癒されるんだ。真って撫でられると結構露骨に喜ぶから。」
「そ、そんなにですか!?なんか、恥ずかしい…」
そう言いながらおとなしく撫でられ頬を染める真に本心から癒される。
ふう、と一息着き龍王戦に目を向けると何か違和感を感じた。
鉄虎のマイクが入っていない。
「真、ふにゃふにゃしてる場合じゃない。俺は先に抜けるからな。時間稼いでるうちに逃げろよ」
「え?ちょ、なんで!黒斗さーん!?」
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「挑戦者!身長174cm体重58kg!軽音部の噛みつき魔!夢ノ咲学院アイドル科2年B組、"狂犬"大神晃牙ー!」
とある昼休み、とある屋外ステージにて、B1が始まる。空手部の南雲鉄虎が今回の司会らしい。
とはいっても、B1は生徒会や先生に見つかると面倒なだけで正直開催者や見物人に得があるとは思えない。むしろ粛清されるだけで損しかないのだが。
「今回は…あいつが出るんのか」
俺は挑戦者の名前を聞きながら、ついこの間ギターのピックをプレゼントしたなぁ…。なんて思い出す。もうこの学院ではプレゼンターなんて肩書きを貰えるほど学院の生徒にプレゼントをしている。ほんの暇潰し程度だが、それが割りと好評らしい。
「あっ、黒斗先輩!」
「…?」
誰に呼ばれたかもわからず振り返るがどうも人が多くて見つからない。
と思えば、ぐいと思いきり腕を引かれ疑問符を浮かべるや否や人混みから引き抜かれる。かなり周りの迷惑になっているんだが!?
「転校生!この人が俺たちの救世主、目良黒斗先輩!」
「は?」
一度瞬きをし、状況を把握すると、腕を引っ張ってきたスバルと、その横の北斗…間に女の子が一人と隣に真。
「おい、明星。勝手に話を進めるな。目良先輩、明星が無理矢理引っ張ってきてすみません」
「えーと、まぁ、引っ張ってくんのは今に始まったことじゃないけど、人混みなんだから少し考えろよな」
俺が明星に一言渇を入れると遠慮気味に女の子が声をかけてくる。女は、苦手なんだけど。
「あ、あの…よろしくお願いします」
「…あぁ、プロデュース科とかなんとか…だっけ。」
一度視野にいれるも早々に目を逸らし、北斗に確認を取るとこくりと神妙な面持ちで頷く。
「はい、それで…この間目良先輩に話したことを転校生に伝えようかと思ってたんです。でもたまたまB1が開催されていたので…色々と前倒しにしようかと」
北斗の言葉を遮るようにステージから雄叫びが聞こえる。その声は紛れもなく晃牙のものだ。エレキギターを構え、満足そうな笑みを浮かべている。あいつは相変わらず格好いいな。
「愚民共の魂に爪を立ててやる!引き裂いて噛みちぎって鮮血を啜ってやる!補食される間際の恍惚感を、感謝して堪能しやがれ!ロックン・ロール!!」
「おぉ、演奏が始まった!格好いいなぁ、エレキギター☆」
北斗に一言二言返事をしたかったが、晃牙の言葉にステージに振り返る。あぁ、せっかく近くにいたのに引っ張られたせいでステージが遠い。
この盛り上がりで前まで入り込んでいくのは中々に難しいだろう。
仕方ない、我関せずとエレキに夢中になってるスバルには後で奢ってもらうとして、何やら真と軽音部の話やユニットの話をしている。軽音部と言えば零のことか…確かに軽音部統率感ゼロだもんな…あいつやる気無いから。
つうか演奏くらい真面目に聞けよお前ら。
「転校生。目良先輩は、この学院ではかなり有名な人で話したことはなくとも誰もが名前と顔を知っている。無論テレビ出演も何度かしているから憧れの的と言っても過言はないな。ちなみにあいつらは構わず専門用語を言っているが、とりあえず、簡単にユニットの説明をしておこう」
横目でちらりと見れば北斗が逐一転校生に知らないことを教えている。
俺がテレビに出ているという話を聞いてちらちらと何度か見てくる転校生。
サインとかはあまりしたくないから、そういうのじゃないといいけど。それとも出てたかどうか思い出そうとしてるのか?
どちらにせよ残念なことに、北斗が自慢げに俺のことを話しているそのテレビ出演の話もキッズモデルの頃の事。英才教育を受けていたお前ならまだしも、一般人の転校生が知ってるわけ無いだろうに。
「ユニットは、一蓮托生の仲間だ。ユニットへの評価はそのまま個人への評価…。つまり学院での成績や世間的なアイドルとしての評判にも反映される。この夢ノ咲学院での修羅場を乗り越えるため、手を取り合って支えあう、かけがえのない同胞といえる」
北斗の言い分は間違いない。
俺もユニットとして2人で組んでいる。ファンクラブもあればグッズもあるが俺はステージに上がって歌ったことはない。
正直アイドル活動もモデル活動も、今となってはやっていないに等しい。
それでも評価が良いのは相方の星宮蒼空が頑張っているからだ。正直申し訳ない話だが、その代わり事務も含め仕事を取ったり曲を作ったりは俺がすべてしている。それで了承してくれているのだから、ユニットは一蓮托生の仲間、という言葉にも納得する。
「そして俺たちもTrickstarというユニットを結成している。どうか、覚えていてくれ。そして可能なら俺たちTrickstarに祝福をもたらす女神となってほしい」
「祝福をもたらす女神…か。」
熱く語る北斗は打倒生徒会で必死なのだろう。気付けば演奏を気持ち半分でしか聞いてなかった俺は北斗の言葉を呟いた。
「大変大変大変っすよー!!」
気を取り直して晃牙の演奏を聞こうとしたものの、また別の事態へと引き戻される。
この声は間違いなく鉄虎だ。声色から察するにいつものごとく落ち着きがないようだ。
ついこの間も落ち着けと話をした直後も慌てて何かやらかしていた。今回もわーわーと騒ぎながらこちらに走ってくる。以前、落ち着くようにアロマポットをプレゼントしたはずだが効果無しか。
「大将がいないんッスよ!って目良先輩!?なんでここに…いやそれより先輩が上がってくれてもいいんスけど!」
「いやいやいや、なんでだよ。絶対無理だ、俺はステージには上がらない。」
がしりと涙目になりながら俺の腕を掴む鉄虎に本気で抵抗する、勘弁してくれ。俺が出るなんて冗談でも言うなよ。
「あ、鬼龍さんならさっき見かけたよー?食堂でね!普通に食券買って、ナポリタンとか食べてたけど?」
うわぁ、紅郎らしい。彼奴変な所で抜けてるから、忘れたとかそんなんだろ。のんきに飯食って不戦敗か…?
「"ご飯食べてて"みたいなアホな理由で、むざむざ他のところに優勝旗がとられるなんて納得できないッス、ありえないッスよ!」
鉄虎の言い分はわかる、物凄くわかる。
気分屋とまでは言わないが、変な理由で余計な損を被るのは誰だって嫌だよな。
俺もよくそういうことに巻き込まれるしな。
「何を騒いでんだ、鉄」
「っ!」
鉄虎が涙目になりながら探していた人物が俺の横に突如現れる。見えない側に立つなよ、びっくりするだろ阿呆。
思いが伝わったのか紅郎はすまねぇと一言詫びると鉄虎の元へ向かう。
紅郎と鉄虎の妙なコントを見せられ呆れ返っていると、ステージで晃牙が叫ぶ。
ただでさえマイクを通しているのに…あー、マイクがハウリングしてる、悲鳴上げてる。
「あの…さっきはまともに挨拶してなくてすいません」
不意に、遠慮がちにしかししっかりと聞こえるように声をかけられる。これもまた見えない方からだ。ふざけるな。
視線を向ければそこには女の子がいた。
咄嗟に一,二歩下がったのは言うまでもない。なんせ女は嫌いなのだから。
「…。何の用だ」
「いや、その、改めて挨拶しようと思った…だけで」
「え、おー。それより…もしハンカチ持ってんなら紅郎に貸してやれよ」
「へ?」
紅郎を指差せばハンカチがないかと鉄虎とまたコントをしている。
一度俺を見返し、紅郎のもとへハンカチを渡しに行った転校生。正直もう話しかけてほしくない。
「黒斗さん。大丈夫ですか?」
こっそりと真が俺の肩をつつく。右から、うん、お前は良くわかってる。良い子良い子。だが大丈夫なわけがないだろう。馬鹿か、察しろよ。
「うわ、今もだけど…さっきも相当怖い顔してましたよ?転校生ちゃん、怯えてないかなぁ」
「いっそ、怯えてもう二度と話しかけてくれなきゃいいんだけどな」
はは、と苦笑いを浮かべる真をわしゃわしゃと撫でる。
「え、な、何ですか?」
「いや、お前を撫でると癒されるんだ。真って撫でられると結構露骨に喜ぶから。」
「そ、そんなにですか!?なんか、恥ずかしい…」
そう言いながらおとなしく撫でられ頬を染める真に本心から癒される。
ふう、と一息着き龍王戦に目を向けると何か違和感を感じた。
鉄虎のマイクが入っていない。
「真、ふにゃふにゃしてる場合じゃない。俺は先に抜けるからな。時間稼いでるうちに逃げろよ」
「え?ちょ、なんで!黒斗さーん!?」
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