イベントストーリー
What is your name?
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だから女は嫌いなんだ。顔がよければなんでもいいとか、顔がよすぎると嫉妬するとか、俺が会ってきた女はそればかりだ。
そりゃ顔が物言うモデル界にいたらそういう奴にしか会わないかもしれないが、この広大な一般の海でも顔しかみてない女がいたなんて。
「夢ノ咲の子でしょ?よかったら一緒に遊ぼ~」
先程からそんな感じの頭の悪そうな言葉ばかり。夢ノ咲だから?まぁアイドルのいる夢ノ咲の学生とデートしましたなんていい自慢話になるんだろう。見え見えなんだよ。でもそんな阿呆みたいなことのために自分を安売りするつもりとか無いんだが。
見たところ3人くらいの女と、男が2人…カメラを持っている。何かあったときのための用心棒か?しかもカメラって、あまーりよろしくない集団だよな?
「ねぇ、君その眼帯ってお洒落でつけてるの?」
「あれでしょ?中二病ってヤツ!」
「…」
正直、何も言う気力が無い。とにかくうるさい。俺は無事UNDEADを見送り観客側からライブを見ようと思っていたのに波に流され急に手を捕まれ気づけばこのテント裏だ。声を張り上げてもいいがすぐ近くにスピーカーがあるし無駄な足掻き。逃げても、良いカモを逃がすまいと男2人に捕まるだろう。
俺みたいな使えない奴を捕まえてどういう写真を売りさばきたいのか知らないが大人の稼ぎ方ってやつか。今日グラビアのモデルやったからなおさら考えさせられるが、ぜっっったいこういう道を外してしまったものには足突っ込まないモデルになろう。いやまだ復帰とか考えてないけど。
「ねぇちょっと見せて…!」
思考を巡らせていた俺の視界にぬっと女の胸元が現れる、あぁ豊満な女ってこんな感じなのか?近寄るなよ鳥肌立つ。なんて思い少し顔を上げた時その女の手が左目の眼帯に伸びていた。
「…ひっ!?」
咄嗟にとかそんな都合の良い少年漫画の主人公みたいに体を動かすことはできず俺はその場に立ちすくむ。目の前にあるその手が怖い。ナイフは持ってない?そんなこと知るか、海に反射する夕陽の光があのときのカメラのフラッシュのようだ。どうしてこんなに眩しいのにはっきりと見えてしまうんだ。
「っ!」
あの時と同じタイミングで、衝撃に備え目を瞑る。刺さる直前に目を瞑ったのと同じように。
「…ちょ、何?誰!」
「あのさぁ?学生に寄って集って恥ずかしくないのぉ?」
「お巡りさーん!ここよここ!良かった…ライブやるからって近くのお巡りさんが警備に来てたみたいよォ」
「…?」
構えていた衝撃はなく、代わりに泉の呆れた声と嵐の楽しそうな声が聞こえる。
恐る恐る目を開ければ女の手首を掴んだ泉と警察官を連れた転校生と嵐が見えた。
「な…なにが…は?え…?」
汚いと一言溢した泉が女の手を振り払う。逃げ出そうとする男女数名を数少ないながらも慣れた動作で取り押さえる警察官たち。
俺はそれをただ黙って、無心で見ることしかできない。
「黒斗、大丈夫?病院行く?」
俺を正気に戻そうと少々乱暴に俺の両頬に手を添える泉にはっとする。今までのことを思いだすと同時に左目に激痛が走った。
「いっ!…ぐぅぅ」
「黒斗ちゃん!?」
その場に崩れた俺に嵐と泉が慌てる。
嵐は持っていたスマホで誰かに連絡を取っている。俺はその左目の激痛と熱にただ耐えることしかできず踞る。
「っはぁ…ぁ、い、ずみっ」
「黒斗、大丈夫。俺は大丈夫だから…」
完全にフラッシュバックしていた。しばらく忘れていた左目を刺された直後の記憶。
泉を庇って俺の目が使い物にならなくなって、痛さに耐えながらも泉の手を掴んでたっけ。あの時女はこんな筈じゃない、この人を刺したかったんじゃないって心の中で思って呆然としてたからもう襲ってくることはないってわかってた。今も、警官に押さえられた女がもう向かってくることがないってわかってたが、昔同様泉に何か起きないようにと手を握る。
「っ、」
握る手に必要以上の力が入ってしまう。しかも今はもう1人近くに、何かあっては困る奴がいる。
「黒斗ちゃん?」
そう思ってわずかに顔を上げるとなにが起きたかわかっていないであろう嵐は俺の顔を覗き込む。
「くっ…そ」
わかってる。どうせフラッシュバックのせいだと。たかがその痛みにこうして踞ってしまう俺は自分の情けなさに悪態を吐いた。
しばらくして俺が復帰するのを信じて待っていたと今日言ってくれていたマネージャーが駆け寄ってくる。バッグにいれていたもしものための鎮痛剤を持ってきてくれたのだ。
一般人も女も多いからとマネージャーに言われ、数粒持ってきたのは正解だった。
「うっ…」
「黒斗。立てそう?もしまだ辛いならほんとに病院行った方がいいと思うけど…」
「へー、きだ…。とりあえず、鎮痛剤は…飲ん、だし」
「どう見ても平気には見えないんだけど、本当に大丈夫なの?黒斗ちゃん」
訳もわからないことに巻き込まれたのに俺に気を使ってくれる嵐の肩に手を置き大丈夫だと声をかける。泉に支えられ立ち上がるも水辺で踞った俺のズボンは救いようがないほどずぶ濡れだった。
「ほん、とう。女は…元々、だが、海も…嫌いだ」
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