彼がステージに上がる時
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21
俺たちは今、関係者を主張する小さなバッチを付けて舞台袖にいる。蒼空は正面から見たかったんじゃないのだろうかと何度か訪ねたが、逆に着いていくと言ってきかない。
「せなたんどこ行っちゃったんだろうな?」
講堂に入る時に軽く肩を叩かれ振り返れば、無言で手を振り離れていった泉を思い出す。
「さぁ…、なんかあいつ訳ありみたいな顔してたし、そっとしとくのがいいんじゃないか?もともと他人のパフォーマンス見る性格でもないだろ。」
「そうだけど…ていうか黒斗。大丈夫なの?」
「ん?いや、このバッチさえ付けて堂々としてりゃ疑われねぇよ?」
「そっちじゃなくてー…」
軽く小突かれれば言われたことを理解する。体調のことか。なんて呟けば呆れた表情を隠さず俺を睨む蒼空。
「大丈夫だ。とりあえずここにいる限りは。観客席より安全な気がするんだよな」
「もうずっと舞台袖で活動してたみたいなところあるからなー?」
舞台袖には確かに何度もお世話になっているわけだが、アイドルとしては不完全であることに変わりはない。気を失ったことも含め、克服できたとは到底言えない。蒼空に迷惑をかけてしまったことに関しては正直土下座をしても足りないだろう。
「あ、きたきた!ってあいつらあっちからくる感じなのか…せっかく待ってたのに!」
怒りをまったく隠すことなく舞台に入り込みそうな蒼空を抑えながらちらりと顔を出すとTrickstarの3人が観客側から舞台に乗り上げる。学生らしい腕白さが逆にあいつらのいいところか。
「ぐあ~っ、てめーアドニス!覚えてろよっ、俺様はまだまだ食い足りねぇーんだよ!離せ!ボケカスアホンダラが…!」
「うわ、なになに!?アドにん何引きずってきたの…?」
晃牙の首根っこを掴み舞台袖まで引きずるアドニス。
「いくらなんでも他にやり方あるだろ…ほら、晃牙おいで。今度新しい鈴買ってやる」
「くそ~っ!そんなんでほだされるかよ!どいつもこいつもコケにしやがって!」
「目良先輩…星宮先輩。どうしてここに?」
疑問符を浮かべるアドニスに説明をしてやろうと面と向かえば横から蒼空がアドニスに向かって飛び付く。そういえば軽音部室にいるとよくUNDEADの面々に会うっていってたな。そこまで仲良くなるかどうかは疑わしいが、アドニスの表情が変わらないのもまた驚きだ。
そんな2人を見やればぐるると唸りだす晃牙。
「…」
無言で晃牙に向けて腕を広げてみるも睨まれて終わる。期待はしてなかったがいざ足蹴にされると傷つくのだが。良いんだどうせ俺はそういうキャラじゃないしな。
「おやわんこ、甘えられるときは遠慮せずに甘えるものじゃよ?」
「わっ…と。零!ライブ後のお前ベタベタしてくるから嫌なんだよ…」
完全に背を向けていた舞台側から気配も何も感じさせず後ろから思いきり肩を組まれる。昔のやんちゃしてた頃もチャラいというか仲良い奴にはスキンシップの多い奴だったから、本気でライブをした後、余韻があるうちは昔みたいな零になる。まぁ、誰にでもというのがないあたりちゃんと頭使ってんだろうけど。
「よいではないかよいではないか…」
「どこぞのおっさんかよ。」
「それよりも、黒斗が権力を使ってバッチを入手し、わざわざここに居るのには訳があるのかの?」
後ろから肩を組んだまま俺の衣装につけられたバッチをつんつんとつつく零。なんだこいつ、いつもよりテンション高いな。楽しかったのか…?
「別に…。観客席にいるよりこっちの方が落ち着くからだ」
「体調不良を治すためにここにおるということかえ?」
「…うわ、部長なんでも知ってるな」
蒼空がひっぺがすように俺と零の間に割って入ってくる。察してくれたのか眉間に皺がよっているのはまぁ触れなくてもいいか。
零がだんだんと正気に戻るのと同時に舞台からライブの始まる音が聞こえてくる。決勝戦か。なんて実感もわかないまま、俺はTrickstarのパフォーマンスを見つめる。
そういえば本当に何も手を貸したりしなかったがちゃんと躍れているのだろうか…準決勝は荒れるであろうUNDEADを支えようとこちらに来た為に最後までTrickstarを見ることはなかった。
「ふんっ…!あいつら随分と楽しそうじゃねぇか。嫌でも羨ましく見えてくる」
晃牙が横に立って溜め息混じりに呟く。まだやる気満々の晃牙からしてみれば確かに舞台に立ち歌うことは羨ましく思えるのだろう。
「俺は、どちらかっていうと見守る感じだしな」
「はいはい、目良センパイは相変わらずですねー」
「…」
「大神、そういう言い方は良くない。目良先輩が泣くかもしれない」
「いや泣かないけどな?とにかくお前らは休まないのか?もっと静かな場所あるだろ」
「俺はここに残る。手間かけさせやがったあのTrickstarが万が一負けた時に殴るためにな!」
「大神が残るなら俺も残ろう。同級生が頑張っている時に休んでいたくはない。」
「アドにん真面目だな?俺は部長の傍らに座ってるよ。お前らと違って俺は座って見る派!ってか3人揃って立ってると見えないだろー!」
「これ蒼空や、そんなに言うならお主も前に出ればよかろ。とはいえここは舞台の袖。側面からしか見えんぞい?客席の前に作られた関係者席に居れば良かったのにのう」
気を使ってくれた蒼空にその話題はあまり振られたくないものだが、気になって蒼空を見ると何食わぬ顔をして、真ん前過ぎると首が痛くなる。と答えていたのを見て笑ってしまう。確かにその通りだなんて心の中で納得しTrickstarを見やる。
俺自身、この日に向けて一週間身を粉にしてレッスンしたせいかあいつらのパフォーマンスをすっかり忘れてしまっていた。それでも確かに、なにか成長した気がする。責任も含め色んなものが以前のS1とは違う。本当の意味での妥当生徒会、そして、SSへの出場権。
「若いってなんでも飲み込めていいよな?」
「おぅ?黒斗も年寄りの特権がわかってきたかのう?」
「年寄りとは言いがたいけどな。俺は確かに大人びているせいであいつらみたいに飛べないな、と。」
モデル時代に見た大人の世界と、大人のやり口と、そしてあのトラウマ。すべてが積もって俺は他人を敵対視するようになって、ひねくれた。おかげで無駄に大人びた見解ばかりするしなんなら留年してるんじゃないかと疑われることもしばしば。
「あぁでも、そう考えると晃牙が言ったように羨ましいかもな。若くて、馬鹿みたいに騒いで、やりきったって笑えるなら、羨ましい」
「黒斗!」
決勝戦の熱気に当てられてるのかまるで音符を飛ばしそうな勢いで蒼空が俺に飛び付く。
「騒ぐならまだまだこれからもできるだろ?俺と特訓してまた一緒にステージに立とう♪」
「と、特訓って言い方は嫌だが、まぁ、お前が俺に愛想つかさない限りは俺も全力でやるよ」
「愛想つくわけないだろ!一生俺は黒斗の部屋に居候してアイドルやるんだからな!」
阿呆みたいに高笑いする蒼空に呆れながらステージにふと目をやると、メインから離れた真と目が合う。今は真自身のソロ曲も終わり全員がメインの曲でパフォーマンスをしている。
「って、もう終わりか!?」
「あぁ?今さらかよ…ったく普段からライブやらパフォーマンスは真剣に聞くもんだって言ってるくせに最近はふ抜けてることが多いなぁ、目良センパイよぉ」
「返す言葉もない。ちょっと前とは大違いに色んなものを見てやらなくちゃならなくてな。こんな短期間で俺の今までの3年間の生き方ががらりと変わった…」
「俺もさー、ちょっと二,三週間くらい仕事いってる間にTrickstarがやる気になってるから驚いたよ」
それにしてもだ。そのやる気になった連中が急速に成長するものだから恐ろしい。それに引っ張られるように俺達も変わっている。学院の雰囲気も違う。それは、Trickstarが紅月を破ったこと、素人ながらプロデューサーという存在があること、それに加えて女だということも単純に何か影響があるのだろう。
そして今、また時代が変わろうとしている。その瞬間が近づいている。変わるとは断言できない。俺は未来が見えるわけじゃない。けれど、確かに感じる。観客がTrickstarの魅力に気付いている。
「見れると思うか?零。」
「我輩たちが字のごとく身を粉にしたのじゃ。黒斗も少なからず貢献した。あの嬢ちゃんの力も、それ相応の報酬がもらえる程に頑張ったのじゃ。これで新しい未来が見えないわけなかろう。」
くく、と嬉しそうに笑む零に肩をぽんと叩かれれば自然と落ち着いてくる。
そうして二つのユニットがパフォーマンスを終わらせ、俺たちはその結果を固唾をのんで待っていた。
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俺たちは今、関係者を主張する小さなバッチを付けて舞台袖にいる。蒼空は正面から見たかったんじゃないのだろうかと何度か訪ねたが、逆に着いていくと言ってきかない。
「せなたんどこ行っちゃったんだろうな?」
講堂に入る時に軽く肩を叩かれ振り返れば、無言で手を振り離れていった泉を思い出す。
「さぁ…、なんかあいつ訳ありみたいな顔してたし、そっとしとくのがいいんじゃないか?もともと他人のパフォーマンス見る性格でもないだろ。」
「そうだけど…ていうか黒斗。大丈夫なの?」
「ん?いや、このバッチさえ付けて堂々としてりゃ疑われねぇよ?」
「そっちじゃなくてー…」
軽く小突かれれば言われたことを理解する。体調のことか。なんて呟けば呆れた表情を隠さず俺を睨む蒼空。
「大丈夫だ。とりあえずここにいる限りは。観客席より安全な気がするんだよな」
「もうずっと舞台袖で活動してたみたいなところあるからなー?」
舞台袖には確かに何度もお世話になっているわけだが、アイドルとしては不完全であることに変わりはない。気を失ったことも含め、克服できたとは到底言えない。蒼空に迷惑をかけてしまったことに関しては正直土下座をしても足りないだろう。
「あ、きたきた!ってあいつらあっちからくる感じなのか…せっかく待ってたのに!」
怒りをまったく隠すことなく舞台に入り込みそうな蒼空を抑えながらちらりと顔を出すとTrickstarの3人が観客側から舞台に乗り上げる。学生らしい腕白さが逆にあいつらのいいところか。
「ぐあ~っ、てめーアドニス!覚えてろよっ、俺様はまだまだ食い足りねぇーんだよ!離せ!ボケカスアホンダラが…!」
「うわ、なになに!?アドにん何引きずってきたの…?」
晃牙の首根っこを掴み舞台袖まで引きずるアドニス。
「いくらなんでも他にやり方あるだろ…ほら、晃牙おいで。今度新しい鈴買ってやる」
「くそ~っ!そんなんでほだされるかよ!どいつもこいつもコケにしやがって!」
「目良先輩…星宮先輩。どうしてここに?」
疑問符を浮かべるアドニスに説明をしてやろうと面と向かえば横から蒼空がアドニスに向かって飛び付く。そういえば軽音部室にいるとよくUNDEADの面々に会うっていってたな。そこまで仲良くなるかどうかは疑わしいが、アドニスの表情が変わらないのもまた驚きだ。
そんな2人を見やればぐるると唸りだす晃牙。
「…」
無言で晃牙に向けて腕を広げてみるも睨まれて終わる。期待はしてなかったがいざ足蹴にされると傷つくのだが。良いんだどうせ俺はそういうキャラじゃないしな。
「おやわんこ、甘えられるときは遠慮せずに甘えるものじゃよ?」
「わっ…と。零!ライブ後のお前ベタベタしてくるから嫌なんだよ…」
完全に背を向けていた舞台側から気配も何も感じさせず後ろから思いきり肩を組まれる。昔のやんちゃしてた頃もチャラいというか仲良い奴にはスキンシップの多い奴だったから、本気でライブをした後、余韻があるうちは昔みたいな零になる。まぁ、誰にでもというのがないあたりちゃんと頭使ってんだろうけど。
「よいではないかよいではないか…」
「どこぞのおっさんかよ。」
「それよりも、黒斗が権力を使ってバッチを入手し、わざわざここに居るのには訳があるのかの?」
後ろから肩を組んだまま俺の衣装につけられたバッチをつんつんとつつく零。なんだこいつ、いつもよりテンション高いな。楽しかったのか…?
「別に…。観客席にいるよりこっちの方が落ち着くからだ」
「体調不良を治すためにここにおるということかえ?」
「…うわ、部長なんでも知ってるな」
蒼空がひっぺがすように俺と零の間に割って入ってくる。察してくれたのか眉間に皺がよっているのはまぁ触れなくてもいいか。
零がだんだんと正気に戻るのと同時に舞台からライブの始まる音が聞こえてくる。決勝戦か。なんて実感もわかないまま、俺はTrickstarのパフォーマンスを見つめる。
そういえば本当に何も手を貸したりしなかったがちゃんと躍れているのだろうか…準決勝は荒れるであろうUNDEADを支えようとこちらに来た為に最後までTrickstarを見ることはなかった。
「ふんっ…!あいつら随分と楽しそうじゃねぇか。嫌でも羨ましく見えてくる」
晃牙が横に立って溜め息混じりに呟く。まだやる気満々の晃牙からしてみれば確かに舞台に立ち歌うことは羨ましく思えるのだろう。
「俺は、どちらかっていうと見守る感じだしな」
「はいはい、目良センパイは相変わらずですねー」
「…」
「大神、そういう言い方は良くない。目良先輩が泣くかもしれない」
「いや泣かないけどな?とにかくお前らは休まないのか?もっと静かな場所あるだろ」
「俺はここに残る。手間かけさせやがったあのTrickstarが万が一負けた時に殴るためにな!」
「大神が残るなら俺も残ろう。同級生が頑張っている時に休んでいたくはない。」
「アドにん真面目だな?俺は部長の傍らに座ってるよ。お前らと違って俺は座って見る派!ってか3人揃って立ってると見えないだろー!」
「これ蒼空や、そんなに言うならお主も前に出ればよかろ。とはいえここは舞台の袖。側面からしか見えんぞい?客席の前に作られた関係者席に居れば良かったのにのう」
気を使ってくれた蒼空にその話題はあまり振られたくないものだが、気になって蒼空を見ると何食わぬ顔をして、真ん前過ぎると首が痛くなる。と答えていたのを見て笑ってしまう。確かにその通りだなんて心の中で納得しTrickstarを見やる。
俺自身、この日に向けて一週間身を粉にしてレッスンしたせいかあいつらのパフォーマンスをすっかり忘れてしまっていた。それでも確かに、なにか成長した気がする。責任も含め色んなものが以前のS1とは違う。本当の意味での妥当生徒会、そして、SSへの出場権。
「若いってなんでも飲み込めていいよな?」
「おぅ?黒斗も年寄りの特権がわかってきたかのう?」
「年寄りとは言いがたいけどな。俺は確かに大人びているせいであいつらみたいに飛べないな、と。」
モデル時代に見た大人の世界と、大人のやり口と、そしてあのトラウマ。すべてが積もって俺は他人を敵対視するようになって、ひねくれた。おかげで無駄に大人びた見解ばかりするしなんなら留年してるんじゃないかと疑われることもしばしば。
「あぁでも、そう考えると晃牙が言ったように羨ましいかもな。若くて、馬鹿みたいに騒いで、やりきったって笑えるなら、羨ましい」
「黒斗!」
決勝戦の熱気に当てられてるのかまるで音符を飛ばしそうな勢いで蒼空が俺に飛び付く。
「騒ぐならまだまだこれからもできるだろ?俺と特訓してまた一緒にステージに立とう♪」
「と、特訓って言い方は嫌だが、まぁ、お前が俺に愛想つかさない限りは俺も全力でやるよ」
「愛想つくわけないだろ!一生俺は黒斗の部屋に居候してアイドルやるんだからな!」
阿呆みたいに高笑いする蒼空に呆れながらステージにふと目をやると、メインから離れた真と目が合う。今は真自身のソロ曲も終わり全員がメインの曲でパフォーマンスをしている。
「って、もう終わりか!?」
「あぁ?今さらかよ…ったく普段からライブやらパフォーマンスは真剣に聞くもんだって言ってるくせに最近はふ抜けてることが多いなぁ、目良センパイよぉ」
「返す言葉もない。ちょっと前とは大違いに色んなものを見てやらなくちゃならなくてな。こんな短期間で俺の今までの3年間の生き方ががらりと変わった…」
「俺もさー、ちょっと二,三週間くらい仕事いってる間にTrickstarがやる気になってるから驚いたよ」
それにしてもだ。そのやる気になった連中が急速に成長するものだから恐ろしい。それに引っ張られるように俺達も変わっている。学院の雰囲気も違う。それは、Trickstarが紅月を破ったこと、素人ながらプロデューサーという存在があること、それに加えて女だということも単純に何か影響があるのだろう。
そして今、また時代が変わろうとしている。その瞬間が近づいている。変わるとは断言できない。俺は未来が見えるわけじゃない。けれど、確かに感じる。観客がTrickstarの魅力に気付いている。
「見れると思うか?零。」
「我輩たちが字のごとく身を粉にしたのじゃ。黒斗も少なからず貢献した。あの嬢ちゃんの力も、それ相応の報酬がもらえる程に頑張ったのじゃ。これで新しい未来が見えないわけなかろう。」
くく、と嬉しそうに笑む零に肩をぽんと叩かれれば自然と落ち着いてくる。
そうして二つのユニットがパフォーマンスを終わらせ、俺たちはその結果を固唾をのんで待っていた。
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