彼がステージに上がる時
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19
虫の息というのはまさにこのことを言うのだろうか。
黒斗と、あの生徒会長を見ながらそんなことを考え延長戦の結果発表を待った。生徒会側に投票する人物はたぶん半数以上いる。たとえ2人がどんなにパフォーマンスが上手くても、それを気にも留めず投票する人物がいる。fineのライブを見るということはそういうこと。
「やっぱり。そうだよねぇ」
思わず口に出たのは、投票結果に納得する言葉。一般人が投票したのも含めて、二度目の延長戦にもつれ込む投票結果。
きっと黒斗は完全に克服できたわけじゃない。本調子というよりむしろ時間経過につれ精神的に参っている。
黒斗がステージに上がってることに感動して、どうせなら勝ってほしいなんて思ったけど、目に見えないところで黒斗は恐怖に怯えてる。今すぐにでもステージから降りて休むべきだと思う。
「俺はあくまで赤の他人。決めるのは2人だしねぇ…」
とは言えみやくんは我が道を行く、突き進むタイプ。言い方は悪いけど、考えないで突っ走っていくから、きっと黒斗のこと気付けていないんじゃないかな。
「黒斗」
心配になってステージに一歩近づく。俺に気付いた黒斗は振り返り笑みを向ける。違う、笑ってほしいんじゃないんだけど。もっと自分の事、大切にしてよ。既に目線を戻した黒斗はみやくんに延長戦をしようと声をかけている。fineも言わずもがなやる気なようで、このまま二度目の延長戦が始まると、誰もが思った。観客はもちろん長くパフォーマンスが見れれば見れるほど楽しいのだからテンションが上がっている。
しかし、みやくんがマイクを持って一言
「延長戦は辞退する。」
「なっ」
「みや、くん?」
たったその一言で、みやくんは黒斗を引っ張りステージから降りた。
もちろん、舞台裏に向かって黒斗とみやくんを見つける。そこには気を失った黒斗と支えているみやくんの姿。
「みやくん…!」
「あー!せなたん!応援してくれてありがと。負けちゃったけど。」
「みやくん、どうして?」
「これ以上立ってると黒斗がやばそうだったから。体力じゃなくて、精神的にね。現に今、舞台裏に着いた途端から気失っちゃって。よくこんなんで延長戦しようなんて言ったよな…」
「黒斗。気失うって…そんなに」
講堂近くのベンチまで2人で黒斗を運ぶ。みやくんは気が付いていた。黒斗がどれだけ自分を酷使しているのかを…
「相手がfineじゃなかったら延長戦はしてた。でもひびきんがさ、凄い威圧で」
「ひびきん…?」
「渉のこと。ほら、五奇人がどーのこーのって時、色々あったから。もちろん俺も例外じゃないけど、」
過去をえぐる何かをされていたということなのかもしれない。五奇人と生徒会がぶつかり合ったころに被害を受けた生徒はたくさんいる。Knightsのリーダー…王様も、結局それが原因でおかしくなったし。
「卑怯すぎ」
「どちらにせよ、あれは完全に消耗戦だったから、黒斗が先に倒れるのは目に見えてただろ?」
認めたくないけど、確かにそうだと思う。現に今気を失った黒斗が何よりの証拠とも言えた。
「なんか食べさせないとなぁー。ところでせなたん。何戦目で負けたの…?」
「はぁ?そんなんどうだっていいでしょ。その件について苛々してるから触れないでよねぇ?」
「えぇー、なんだよもう。そうだ、あっちの出店でなんか食べるもの買ってくるからさ、黒斗よろしく。せなたんなんか食べたいものある?」
みやくんの肩に寄りかかっていた黒斗をゆっくりと俺に託して立ち上がるみやくんに簡単に食べれるものなんて返事をすれば難しいと愚痴り出店へと向かっていった。
「ねぇ黒斗…どうしてそうやって、無理ばっかりするの…」
返事もしなければ聞こえてもいない相手に溜息を吐く。自分ばかり面倒ごとに巻き込まれて、努力を通り越して無理をして、痛い思いをしてまで誰かをかばって。他人に見えない心の中が見えたりする本当不思議な幼馴染。
「うぅ…」
ふと肩を見ればまるでちょっと寝てたくまくんみたいに何事もなかったように起きる黒斗。
「あ、れ…泉?え?4回戦目は?」
「みやくんが辞退して、fineの勝ち。…みやくんのこと怒んないであげてよねぇ?」
「あー…えっと、あぁ、泉を観て大体わかった。そっか、また変に空気読みやがったんだな」
「空気…?いや、空気っていうか、黒斗の事知ってる人ならだいたい…」
「それが普段できないのが蒼空なんだよ」
申し訳ないほど意味は分からないけど納得してしまった。みやくんが普段空気読めないのは同意だし。
「それより、大丈夫なわけ?ステージから降りた瞬間気を失ったってみやくん言ってたけど。ちゃんと安静にしてないとさぁ」
「蒼空も相当精神やられてると思うんだけどな。俺もあまり蒼空の過去を知ってるわけじゃないから何とも言えないが」
みやくんの過去。本人が話したがり、というのもあって多少聞いたことはある。前に一度豹変したみやくんに黒斗の過去を…と迫られた時は正直怖かった。でもそれもついこの間本人から昔話を聞いた時になんとなく納得した。
「みやくん、多重人格だって言ってたっけ?」
「まぁ…そうだな。泉知ってたのか」
本人のいないところで好き勝手に喋ってしまうのは気が進まず、まぁねぇ。と話を終わらせた。夕焼けの色に染まる講堂付近の白いベンチを何となく見つめていると黒斗がぎゅっと俺の手を握る。
「ちょ、なぁに?」
一瞬眉間に皺を寄せてしまったのはスキンシップが苦手なせい。黒斗も、嫌いなはずなのに。それすら気にせず目を閉じたまま手を握り続ける黒斗。
「落ち着くなと思って。な、お兄ちゃん」
「それ小さい頃から言ってるけど俺の方が誕生日、後だからぁ」
急になんなんだろう、なんて思いつつも昔を思い出し同じようなやり取りをする。なぜか黒斗は緊張するなんて時には俺の手を握る。そのたびにお兄ちゃんと俺のことを呼ぶものだから足蹴にもできず、したいようにさせていたことが多々あった。
「おー?黒斗起きたの?レッスンの時といい相変わらず復帰早いな」
「わっ…」
「え、2人ともなんで手繋いでんの」
変な誤解する奴に見られた。よりによってみやくんに!両腕に大きな袋をもってベンチの前でまさに開いた口がふさがらない。というような表情をしている。
「昔っから俺が落ち着くための手段。泉とは手繋いで、真だと頭撫でる。小さいころからの習慣でな。」
「えー!残念!てっきりせなたんと黒斗付き合ったのかと思ったのに。こういう所だからさー、そういうことがあってもおかしくないし?」
「おい待て、残念ってなんだ。」
「もー、起きて早々苛々すんなって、ほらこれ、簡単につまめる物買ったからさ。ちゃんと食べてエネルギー補給しよ。あ、がっつり食べるものもあるぞ」
またそんなに一気に買いやがって。そう悪態をつきながら俺の手を放す黒斗を横目に俺も一つパンをもらう。大健闘だったなー。
なんて余韻に浸るみやくんに心から謝る黒斗。珍しく黒斗の頭をみやくんが撫でれば苦笑いを浮かべながら助かったと呟く黒斗にどこか安心した。
黒斗が誰かに助かったなんて言ったのを見たことがなかったから。いつも一人で背負う黒斗に、今は誰かが寄り添っているんだと思うと自然と笑みがこぼれる。
「せなたんがらしくない笑い方してる」
「うわ…本当だな。何年ぶりだその微笑み」
「ちょっとぉ?失礼すぎ、俺だってこういう笑い方するし。」
溜息を盛大について顔を背けると今頃準決勝をどの屋外ステージで見ようかと歩き回っているはずの一般人たちがぞろぞろと講堂へと向かっている。
「…黒斗」
わからないことがあれば思わず黒斗を頼る癖が抜けておらず、大衆を見ながら黒斗の袖を引っ張る。
「あー…準決勝の場所、変更した…のか?」
黒斗の答えは一寸違わず当たっていて講堂の入り口で変更になったという知らせをしている生徒会役員が立っていた。
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虫の息というのはまさにこのことを言うのだろうか。
黒斗と、あの生徒会長を見ながらそんなことを考え延長戦の結果発表を待った。生徒会側に投票する人物はたぶん半数以上いる。たとえ2人がどんなにパフォーマンスが上手くても、それを気にも留めず投票する人物がいる。fineのライブを見るということはそういうこと。
「やっぱり。そうだよねぇ」
思わず口に出たのは、投票結果に納得する言葉。一般人が投票したのも含めて、二度目の延長戦にもつれ込む投票結果。
きっと黒斗は完全に克服できたわけじゃない。本調子というよりむしろ時間経過につれ精神的に参っている。
黒斗がステージに上がってることに感動して、どうせなら勝ってほしいなんて思ったけど、目に見えないところで黒斗は恐怖に怯えてる。今すぐにでもステージから降りて休むべきだと思う。
「俺はあくまで赤の他人。決めるのは2人だしねぇ…」
とは言えみやくんは我が道を行く、突き進むタイプ。言い方は悪いけど、考えないで突っ走っていくから、きっと黒斗のこと気付けていないんじゃないかな。
「黒斗」
心配になってステージに一歩近づく。俺に気付いた黒斗は振り返り笑みを向ける。違う、笑ってほしいんじゃないんだけど。もっと自分の事、大切にしてよ。既に目線を戻した黒斗はみやくんに延長戦をしようと声をかけている。fineも言わずもがなやる気なようで、このまま二度目の延長戦が始まると、誰もが思った。観客はもちろん長くパフォーマンスが見れれば見れるほど楽しいのだからテンションが上がっている。
しかし、みやくんがマイクを持って一言
「延長戦は辞退する。」
「なっ」
「みや、くん?」
たったその一言で、みやくんは黒斗を引っ張りステージから降りた。
もちろん、舞台裏に向かって黒斗とみやくんを見つける。そこには気を失った黒斗と支えているみやくんの姿。
「みやくん…!」
「あー!せなたん!応援してくれてありがと。負けちゃったけど。」
「みやくん、どうして?」
「これ以上立ってると黒斗がやばそうだったから。体力じゃなくて、精神的にね。現に今、舞台裏に着いた途端から気失っちゃって。よくこんなんで延長戦しようなんて言ったよな…」
「黒斗。気失うって…そんなに」
講堂近くのベンチまで2人で黒斗を運ぶ。みやくんは気が付いていた。黒斗がどれだけ自分を酷使しているのかを…
「相手がfineじゃなかったら延長戦はしてた。でもひびきんがさ、凄い威圧で」
「ひびきん…?」
「渉のこと。ほら、五奇人がどーのこーのって時、色々あったから。もちろん俺も例外じゃないけど、」
過去をえぐる何かをされていたということなのかもしれない。五奇人と生徒会がぶつかり合ったころに被害を受けた生徒はたくさんいる。Knightsのリーダー…王様も、結局それが原因でおかしくなったし。
「卑怯すぎ」
「どちらにせよ、あれは完全に消耗戦だったから、黒斗が先に倒れるのは目に見えてただろ?」
認めたくないけど、確かにそうだと思う。現に今気を失った黒斗が何よりの証拠とも言えた。
「なんか食べさせないとなぁー。ところでせなたん。何戦目で負けたの…?」
「はぁ?そんなんどうだっていいでしょ。その件について苛々してるから触れないでよねぇ?」
「えぇー、なんだよもう。そうだ、あっちの出店でなんか食べるもの買ってくるからさ、黒斗よろしく。せなたんなんか食べたいものある?」
みやくんの肩に寄りかかっていた黒斗をゆっくりと俺に託して立ち上がるみやくんに簡単に食べれるものなんて返事をすれば難しいと愚痴り出店へと向かっていった。
「ねぇ黒斗…どうしてそうやって、無理ばっかりするの…」
返事もしなければ聞こえてもいない相手に溜息を吐く。自分ばかり面倒ごとに巻き込まれて、努力を通り越して無理をして、痛い思いをしてまで誰かをかばって。他人に見えない心の中が見えたりする本当不思議な幼馴染。
「うぅ…」
ふと肩を見ればまるでちょっと寝てたくまくんみたいに何事もなかったように起きる黒斗。
「あ、れ…泉?え?4回戦目は?」
「みやくんが辞退して、fineの勝ち。…みやくんのこと怒んないであげてよねぇ?」
「あー…えっと、あぁ、泉を観て大体わかった。そっか、また変に空気読みやがったんだな」
「空気…?いや、空気っていうか、黒斗の事知ってる人ならだいたい…」
「それが普段できないのが蒼空なんだよ」
申し訳ないほど意味は分からないけど納得してしまった。みやくんが普段空気読めないのは同意だし。
「それより、大丈夫なわけ?ステージから降りた瞬間気を失ったってみやくん言ってたけど。ちゃんと安静にしてないとさぁ」
「蒼空も相当精神やられてると思うんだけどな。俺もあまり蒼空の過去を知ってるわけじゃないから何とも言えないが」
みやくんの過去。本人が話したがり、というのもあって多少聞いたことはある。前に一度豹変したみやくんに黒斗の過去を…と迫られた時は正直怖かった。でもそれもついこの間本人から昔話を聞いた時になんとなく納得した。
「みやくん、多重人格だって言ってたっけ?」
「まぁ…そうだな。泉知ってたのか」
本人のいないところで好き勝手に喋ってしまうのは気が進まず、まぁねぇ。と話を終わらせた。夕焼けの色に染まる講堂付近の白いベンチを何となく見つめていると黒斗がぎゅっと俺の手を握る。
「ちょ、なぁに?」
一瞬眉間に皺を寄せてしまったのはスキンシップが苦手なせい。黒斗も、嫌いなはずなのに。それすら気にせず目を閉じたまま手を握り続ける黒斗。
「落ち着くなと思って。な、お兄ちゃん」
「それ小さい頃から言ってるけど俺の方が誕生日、後だからぁ」
急になんなんだろう、なんて思いつつも昔を思い出し同じようなやり取りをする。なぜか黒斗は緊張するなんて時には俺の手を握る。そのたびにお兄ちゃんと俺のことを呼ぶものだから足蹴にもできず、したいようにさせていたことが多々あった。
「おー?黒斗起きたの?レッスンの時といい相変わらず復帰早いな」
「わっ…」
「え、2人ともなんで手繋いでんの」
変な誤解する奴に見られた。よりによってみやくんに!両腕に大きな袋をもってベンチの前でまさに開いた口がふさがらない。というような表情をしている。
「昔っから俺が落ち着くための手段。泉とは手繋いで、真だと頭撫でる。小さいころからの習慣でな。」
「えー!残念!てっきりせなたんと黒斗付き合ったのかと思ったのに。こういう所だからさー、そういうことがあってもおかしくないし?」
「おい待て、残念ってなんだ。」
「もー、起きて早々苛々すんなって、ほらこれ、簡単につまめる物買ったからさ。ちゃんと食べてエネルギー補給しよ。あ、がっつり食べるものもあるぞ」
またそんなに一気に買いやがって。そう悪態をつきながら俺の手を放す黒斗を横目に俺も一つパンをもらう。大健闘だったなー。
なんて余韻に浸るみやくんに心から謝る黒斗。珍しく黒斗の頭をみやくんが撫でれば苦笑いを浮かべながら助かったと呟く黒斗にどこか安心した。
黒斗が誰かに助かったなんて言ったのを見たことがなかったから。いつも一人で背負う黒斗に、今は誰かが寄り添っているんだと思うと自然と笑みがこぼれる。
「せなたんがらしくない笑い方してる」
「うわ…本当だな。何年ぶりだその微笑み」
「ちょっとぉ?失礼すぎ、俺だってこういう笑い方するし。」
溜息を盛大について顔を背けると今頃準決勝をどの屋外ステージで見ようかと歩き回っているはずの一般人たちがぞろぞろと講堂へと向かっている。
「…黒斗」
わからないことがあれば思わず黒斗を頼る癖が抜けておらず、大衆を見ながら黒斗の袖を引っ張る。
「あー…準決勝の場所、変更した…のか?」
黒斗の答えは一寸違わず当たっていて講堂の入り口で変更になったという知らせをしている生徒会役員が立っていた。
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