彼がステージに上がる時
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18
「黒斗…いける?」
「ふ、ふは…不思議だ。今まで、お前はこんな緊張感張りつめた中、立ってたんだな。」
大袈裟だなー?なんて笑われれば返す言葉もない。
お待ちかねの、そして俺にとって人生の分岐点にもなりうるこのDDDが開催されてまだ数分。一度講堂で開催宣言を聞いた一般人がちらほらと仮設ステージの周りに見え始めていた。俺たちはすでに決めたステージの舞台袖にいるが、所詮は仮設ステージ、一般人からもかろうじて見えている。その期待の眼差し、そしてパンフレットから蒼空、蒼空からパンフレットと何度も見る人もいる。きっとどのユニットか考察しながら鑑賞するステージを決めているのだろう。
「ここにまで回ってきてくれる人、さすがに少なすぎかなー」
隣で残念そうにするもののへらへらと笑う蒼空には、らしくもなく気を遣わせてしまった。
肩慣らしになるべく人の少ないところから、と提案してくれたのは蒼空だった。
何より俺がステージに上がってアイドルというものをしたことがないことと、中央に行けば行くほど優秀なユニットが集まるからだ。
もちろん、その分観客も多くなる。
やるからには本気の蒼空なら、強行突破、もとい実力を見せつけて他を圧倒することができたが、残念ながらユニット単位でとなると、人前でのパフォーマンスがド素人の俺が足を引っ張る。そうなれば初戦敗退もあり得る。
それはさすがに…ともろもろ考えてくれた結果、時間ぎりぎりまで初戦相手を見極め、俺がいても対等に戦える相手を探すことだった。まぁ、見極めは俺の仕事。
「あまり、気の進む作業じゃなかったけどな。自分的にも、相手的にも…」
「ステージのさ、幅とか、見なくて平気?初めてだし、あと、観客との距離感とか、高さとか」
「あ、あー…そうだな」
「トラウマでつらいけど、観客と目を合わせないで明後日の方向見ながら歌うわけにはいかないしさ!」
固く動きにくいユニット衣装であるスーツをものともせず俺を引っ張りまわさんというほどのテンションの蒼空。ほらほら!と手を差し出されればそれを取らずにはいられないのだが。
「俺はお前に引っ張ってもらわなきゃ、立てないかもな」
「ん?ならずっと手を握って、引っ張って躍るか?」
「それは気持ち悪い」
「感動するところじゃないのかよ!?」
そんな阿呆みたいな漫才をしているうちに俺はステージに足を踏み出し、その真ん中にいた。
「怖い?」
「……」
何も言葉が出なかった。どちらかというと、走馬燈のように思い出されたあの日のことに気を取られていたのかもしれない。眩しいフラッシュの一瞬の光は昔から親の会見とかで見慣れていて、あの日たまたま何度写真をとっても目を閉じてしまう泉に、きっとあんたの目はみんなと違う。なんてことを言われた。そうなのかな…?なんて笑ってごまかしていた俺は内心、みんなと違うという言葉にショックを受けていた。
「最後だと思って気を引き締めろ。」
俺が泉にそう言って器具がフラッシュをたかせたのと同時に大きな物音を立ててスタジオの床にカメラが倒れこむ。
あの時俺は、この目があって良かったんだと感じた。フラッシュで何も見えなかったらきっと泉は…。
「ナイフなんて…ここにはないよな」
「え?…うん。黒斗、もう、始まるけど。本当に大丈夫か?」
息を吸い込み、目を閉じる。今になっても思い出す、左目に感じた痛みと、振り下ろされるその瞬間まで見えていた映像。
「もう、やるしかないだろ?」
「…お」
俺が見たかった本気の顔だ。そう言って遠慮なく俺の頭を撫でた蒼空は時間きっかりにMC兼アイドルとして陽気にしゃべりだす。
相手のユニットと、そして、俺たちがWorldWalkerだと紹介する。案外知られているものでWWと叫んでくれるファンもいた。
「っ、」
始まったばかりの相手側のパフォーマンスでぶつかる寸前の俺の手を蒼空が引く。
「観客に安心して見てもらわなきゃ、だろ?」
「わ、悪い…」
手を引かれたのすら一種のパフォーマンスとして受け入れられるそれも、きっと蒼空の力があってのもの。
WWは今まで蒼空が単体で、国内でも海外でもライブをしていた。複数だからできる掛け合いもなく、ある時は英国紳士のように、またある時は米国らしい派手なパフォーマンスをしてきた。2人でステージに立ったのは初めてだが、しかし不安も何もかも吹っ飛んだ。そんなもの、まるでなかったみたいに。
「初戦は無事に…2回戦目まぁまぁで、3回戦目は好調ってとこか」
「これからどこに向かうとかあるのか?」
「ないけど、俺はfineに挑みたいなー。せめて暴君の首くらい…こう…な?」
ふらふらとしかし足早に次の仮設ステージへ向かう。かれこれライブを3回戦まで乗り越えた。意外だったのは自分がここまで耐えれていること。よくある少年漫画のように簡単に克服できているわけではない。今でも蒼空が引っ張ってくれなきゃ俺はいるのかいないのかわからない程度のパフォーマンスをしてしまうだろう。初戦で思い出したあの走馬燈ともいえる映像はやはりまだ目を閉じれば流れ、思い出せば出すほど色濃く鮮明になっていく。
「怖いな。」
「あはは、冗談冗談!」
蒼空への返答とも、俺の思い出への感想ともなりえるその呟きにけらけら笑う蒼空。
「って、うっわ、もう準々決勝?とりあえずこのステージでいっか!」
「あ…あぁ。いや、まっ」
俺が引き止めるのも気にも留めずステージに引きずられる。相手側の舞台袖から上がってきたのは、
「えぇ?うっわー!黒斗!黒斗がステージに立ってる!」
「坊ちゃま、あまり騒いでは相手に失礼ですよ」
「Amazing!黒斗と蒼空。2人のパフォーマンスがまた見れるなんて!残念ながら、あの1輪の花は折ってしまったのでしょうか?」
fine。ここで当たりそうだとは思っていた。
英智の体力の消耗を考え、講堂に近いこのステージに…。負けるつもりで挑むことはさすがにないが、伊達に学院最強を名乗っていないfineだ。以前のB1の雪辱を晴らしたい蒼空は例のあの時と同じで、狂気すら感じる。
「花に、罪はない。俺はあくまで、あの花を俺のものとして、花言葉を純粋に受け止めている」
「なるほど。あなたは強い心の持ち主のようですが私たちを相手にパフォーマンスをするとなると、どうでしょう」
「楽しみだね。」
そう言って俺と渉の間に立つ蒼空。特に張り合おうということもなく間もなく始まる第4回戦に向けステージに体を向けた蒼空は俺に合図をする。つられて蒼空の見る方を見ればそこには泉の姿。何に一番驚いたかといえばもちろんそこにいることに驚く。あの有力ユニットのKnightsが鑑賞できるということは、つまりどこかで敗退してしまったということ。
「せなたんに後から怒られるの嫌だなぁ。精一杯頑張らないと。」
「まるで見張り役だな」
「だって眉間に皺よってる。やっほー、なんつって」
ひらひらと蒼空が泉の方へ手を振ればその周りの女たちが喜んでいて、当の泉は口パクで馬鹿じゃないの?と鬱陶しそうに返事をする。
fineの楽曲の傾向はいたってスタンダードなアイドル曲。もちろん俺たちにもスタンダードな曲はあるがかぶってしまっては観客が楽しめないと、WWらしい曲を選曲している。しかしそれでも実力差は覆せない。蒼空が単体でB1をした時の方がまだよかったのではないだろうか。たった一週間で、ぶっつけ本番でトラウマを克服しようとしている俺が足を引っ張り、投票が稼げていない気がしてしまう。
「大丈夫だ、怖くない。」
そう自分で言い聞かせるように呟く。渉が俺を見てほくそ笑むのが見えた。根っからおかしいと言われるあいつも、今ではそこまで残虐な奴ではない。だが俺に対しては五奇人の時の名残かなにか、少し手厳しい。なんなら嫌われている。今もきっと、俺が倒れるのを心待ちにしているのかもしれない。もちろんそれは、英智も同じ。
「…っ」
自然と舌打ちがこぼれてしまう。マイクに拾われていないのが何よりの救いなのだろうか。観客に聞かれてはいないだろうかと見渡す。前方でステージを見る周りの観客と圧倒的に落ち着いていて温度差のある人物が俺を見る。
「最後だと思って気を引き締めなよ。」
何かあっても俺が守るからさぁ
溜息まじりに、しかしはっきりと泉にそう言われる。ライブの騒々しさも気にならないほど、はっきりと。
「ふ、はは…そうだな」
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「黒斗…いける?」
「ふ、ふは…不思議だ。今まで、お前はこんな緊張感張りつめた中、立ってたんだな。」
大袈裟だなー?なんて笑われれば返す言葉もない。
お待ちかねの、そして俺にとって人生の分岐点にもなりうるこのDDDが開催されてまだ数分。一度講堂で開催宣言を聞いた一般人がちらほらと仮設ステージの周りに見え始めていた。俺たちはすでに決めたステージの舞台袖にいるが、所詮は仮設ステージ、一般人からもかろうじて見えている。その期待の眼差し、そしてパンフレットから蒼空、蒼空からパンフレットと何度も見る人もいる。きっとどのユニットか考察しながら鑑賞するステージを決めているのだろう。
「ここにまで回ってきてくれる人、さすがに少なすぎかなー」
隣で残念そうにするもののへらへらと笑う蒼空には、らしくもなく気を遣わせてしまった。
肩慣らしになるべく人の少ないところから、と提案してくれたのは蒼空だった。
何より俺がステージに上がってアイドルというものをしたことがないことと、中央に行けば行くほど優秀なユニットが集まるからだ。
もちろん、その分観客も多くなる。
やるからには本気の蒼空なら、強行突破、もとい実力を見せつけて他を圧倒することができたが、残念ながらユニット単位でとなると、人前でのパフォーマンスがド素人の俺が足を引っ張る。そうなれば初戦敗退もあり得る。
それはさすがに…ともろもろ考えてくれた結果、時間ぎりぎりまで初戦相手を見極め、俺がいても対等に戦える相手を探すことだった。まぁ、見極めは俺の仕事。
「あまり、気の進む作業じゃなかったけどな。自分的にも、相手的にも…」
「ステージのさ、幅とか、見なくて平気?初めてだし、あと、観客との距離感とか、高さとか」
「あ、あー…そうだな」
「トラウマでつらいけど、観客と目を合わせないで明後日の方向見ながら歌うわけにはいかないしさ!」
固く動きにくいユニット衣装であるスーツをものともせず俺を引っ張りまわさんというほどのテンションの蒼空。ほらほら!と手を差し出されればそれを取らずにはいられないのだが。
「俺はお前に引っ張ってもらわなきゃ、立てないかもな」
「ん?ならずっと手を握って、引っ張って躍るか?」
「それは気持ち悪い」
「感動するところじゃないのかよ!?」
そんな阿呆みたいな漫才をしているうちに俺はステージに足を踏み出し、その真ん中にいた。
「怖い?」
「……」
何も言葉が出なかった。どちらかというと、走馬燈のように思い出されたあの日のことに気を取られていたのかもしれない。眩しいフラッシュの一瞬の光は昔から親の会見とかで見慣れていて、あの日たまたま何度写真をとっても目を閉じてしまう泉に、きっとあんたの目はみんなと違う。なんてことを言われた。そうなのかな…?なんて笑ってごまかしていた俺は内心、みんなと違うという言葉にショックを受けていた。
「最後だと思って気を引き締めろ。」
俺が泉にそう言って器具がフラッシュをたかせたのと同時に大きな物音を立ててスタジオの床にカメラが倒れこむ。
あの時俺は、この目があって良かったんだと感じた。フラッシュで何も見えなかったらきっと泉は…。
「ナイフなんて…ここにはないよな」
「え?…うん。黒斗、もう、始まるけど。本当に大丈夫か?」
息を吸い込み、目を閉じる。今になっても思い出す、左目に感じた痛みと、振り下ろされるその瞬間まで見えていた映像。
「もう、やるしかないだろ?」
「…お」
俺が見たかった本気の顔だ。そう言って遠慮なく俺の頭を撫でた蒼空は時間きっかりにMC兼アイドルとして陽気にしゃべりだす。
相手のユニットと、そして、俺たちがWorldWalkerだと紹介する。案外知られているものでWWと叫んでくれるファンもいた。
「っ、」
始まったばかりの相手側のパフォーマンスでぶつかる寸前の俺の手を蒼空が引く。
「観客に安心して見てもらわなきゃ、だろ?」
「わ、悪い…」
手を引かれたのすら一種のパフォーマンスとして受け入れられるそれも、きっと蒼空の力があってのもの。
WWは今まで蒼空が単体で、国内でも海外でもライブをしていた。複数だからできる掛け合いもなく、ある時は英国紳士のように、またある時は米国らしい派手なパフォーマンスをしてきた。2人でステージに立ったのは初めてだが、しかし不安も何もかも吹っ飛んだ。そんなもの、まるでなかったみたいに。
「初戦は無事に…2回戦目まぁまぁで、3回戦目は好調ってとこか」
「これからどこに向かうとかあるのか?」
「ないけど、俺はfineに挑みたいなー。せめて暴君の首くらい…こう…な?」
ふらふらとしかし足早に次の仮設ステージへ向かう。かれこれライブを3回戦まで乗り越えた。意外だったのは自分がここまで耐えれていること。よくある少年漫画のように簡単に克服できているわけではない。今でも蒼空が引っ張ってくれなきゃ俺はいるのかいないのかわからない程度のパフォーマンスをしてしまうだろう。初戦で思い出したあの走馬燈ともいえる映像はやはりまだ目を閉じれば流れ、思い出せば出すほど色濃く鮮明になっていく。
「怖いな。」
「あはは、冗談冗談!」
蒼空への返答とも、俺の思い出への感想ともなりえるその呟きにけらけら笑う蒼空。
「って、うっわ、もう準々決勝?とりあえずこのステージでいっか!」
「あ…あぁ。いや、まっ」
俺が引き止めるのも気にも留めずステージに引きずられる。相手側の舞台袖から上がってきたのは、
「えぇ?うっわー!黒斗!黒斗がステージに立ってる!」
「坊ちゃま、あまり騒いでは相手に失礼ですよ」
「Amazing!黒斗と蒼空。2人のパフォーマンスがまた見れるなんて!残念ながら、あの1輪の花は折ってしまったのでしょうか?」
fine。ここで当たりそうだとは思っていた。
英智の体力の消耗を考え、講堂に近いこのステージに…。負けるつもりで挑むことはさすがにないが、伊達に学院最強を名乗っていないfineだ。以前のB1の雪辱を晴らしたい蒼空は例のあの時と同じで、狂気すら感じる。
「花に、罪はない。俺はあくまで、あの花を俺のものとして、花言葉を純粋に受け止めている」
「なるほど。あなたは強い心の持ち主のようですが私たちを相手にパフォーマンスをするとなると、どうでしょう」
「楽しみだね。」
そう言って俺と渉の間に立つ蒼空。特に張り合おうということもなく間もなく始まる第4回戦に向けステージに体を向けた蒼空は俺に合図をする。つられて蒼空の見る方を見ればそこには泉の姿。何に一番驚いたかといえばもちろんそこにいることに驚く。あの有力ユニットのKnightsが鑑賞できるということは、つまりどこかで敗退してしまったということ。
「せなたんに後から怒られるの嫌だなぁ。精一杯頑張らないと。」
「まるで見張り役だな」
「だって眉間に皺よってる。やっほー、なんつって」
ひらひらと蒼空が泉の方へ手を振ればその周りの女たちが喜んでいて、当の泉は口パクで馬鹿じゃないの?と鬱陶しそうに返事をする。
fineの楽曲の傾向はいたってスタンダードなアイドル曲。もちろん俺たちにもスタンダードな曲はあるがかぶってしまっては観客が楽しめないと、WWらしい曲を選曲している。しかしそれでも実力差は覆せない。蒼空が単体でB1をした時の方がまだよかったのではないだろうか。たった一週間で、ぶっつけ本番でトラウマを克服しようとしている俺が足を引っ張り、投票が稼げていない気がしてしまう。
「大丈夫だ、怖くない。」
そう自分で言い聞かせるように呟く。渉が俺を見てほくそ笑むのが見えた。根っからおかしいと言われるあいつも、今ではそこまで残虐な奴ではない。だが俺に対しては五奇人の時の名残かなにか、少し手厳しい。なんなら嫌われている。今もきっと、俺が倒れるのを心待ちにしているのかもしれない。もちろんそれは、英智も同じ。
「…っ」
自然と舌打ちがこぼれてしまう。マイクに拾われていないのが何よりの救いなのだろうか。観客に聞かれてはいないだろうかと見渡す。前方でステージを見る周りの観客と圧倒的に落ち着いていて温度差のある人物が俺を見る。
「最後だと思って気を引き締めなよ。」
何かあっても俺が守るからさぁ
溜息まじりに、しかしはっきりと泉にそう言われる。ライブの騒々しさも気にならないほど、はっきりと。
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