彼がステージに上がる時
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17
荒治療でよくなる人もいれば、もちろん、悪化する人もいるわけで。
「はぁー…、はーっ」
「…」
俺はただ、それを見ることしかできない。だって痛みを共有することはできないし、手伝うこともできないから。
できるとするならこれ以上は駄目だと止めることくらい。
「黒斗。一回休憩して、水飲む?」
「ふー…っ、くそ」
黒斗は体力がある。才能もある。運動神経も良い。顔も整ってる。生まれながら良いのは運動神経と顔。アイドルとしての才能と体力は、後々開花させたようなもの、だけどそれは確実に黒斗の力。努力した天才なんかじゃない。努力の天才。でもその努力は、トラウマによって誰の目に触れることもなく評価されることもない。
黒斗が唯一魅力だと言われているのは作曲。だけどそれだけじゃないのは明確なのに。でも、それだけなんでもできる黒斗がここまで磨耗するとは思わなかった。ここまで頑張るなんて考えてもみなかった。
「…どうしたの?」
「あー?」
「そんなに頑張ってさー。」
「…いや、別に。DDDはユニットでの出場が条件だか…ら。げほっ」
「うーん、でも黒斗らしくないな?」
そう呟くと目を逸らしその場に寝転がる黒斗。子供っぽい、といえば親近感が沸く。でも俺の知らない子供っぽさだ、そりゃあ、過去を知らないからだけど。そんな黒斗はずっと大きく息を吐き続けてる。
「はぁー、落ち着いた。…俺もお前も奇人って呼ばれない奇人だとか言われたことあったな。」
「えー?それ今も言われてるよ?特に黒斗。なんでも見えてるからさぁ」
「それは何となく察してるけど、お前が本当に五奇人の中に入らなかったのは不思議」
「俺入ると六奇人で語呂悪いからじゃない?自分でいってて意味わかんないけど。っていうか、本当昔話するなんて珍しい」
昔話というほどでもないだろう。そう言われればそうなんだけど。黒斗自身が過去を見たがらないせいか、思い出話をしたことは滅多にない。常に先を見ているから、なおさら。
「昔話、か…」
「…?」
寝転がり、仰向けのままの黒斗が呟く。視線をやると目を閉じていて、本当に綺麗な顔立ちだな。なんて改めて思うのと同時にまるで死人みたいだと思う。
「俺の目の話、するか」
「…は?」
随分と軽い、軽快な口調でそう言われる。相変わらず目は閉じているけど。
「俺の目は、泉を守るために犠牲になったんだ。泉が、過激なファンに襲われそうになったのを、助けた」
せなたんを助けた?過激なファン?
順を追って説明してよ、そう言うと苦笑しながらもうんうんと頷いて寝転がったまま、ただひたすらに黒斗は語ってくれた。
「俺と泉は、同じ事務所で、よく2人で写真を撮るようにしてた、まぁここでいう、ユニットみたいな感じで。とある撮影の日、アイドルというシチュエーションで写真を撮ることになって、ステージに上がって撮影したんだ。そこまでは良かった。」
黙って聞いていると黒斗がもそりと動く。額の上に手を起き天井に向かって長い溜め息を吐く。嫌なら、言わなくて良い。でもここまで言ってお預けも嫌だな。
「撮影が終わった直後、カッターかナイフか、それはあんまり覚えてねぇけど、それを持った俺たちより少し年上の女が撮影現場に、ステージに上がってきて、泉の顔を傷つけようとしたんだ。」
あぁ、嫉妬か。自分より年下なのに、自分よりちやほやされて、売れてるのが気にくわなかったんだな。言わずともわかる。悪知恵がついた奴が思い付きそうな、顔を傷つければ自分より劣るという安直な考えにたどり着いちゃったんだろう。
「それを、守ろうとしたの?」
「まぁ、そういうこと。俺がその時ステージにいなかったらトラウマにはならなかっただろうな」
「でも、克服しようとしてるじゃん。偉いんじゃないの?」
「一番怖かったのは、俺のファンだったこと。無論自分より売れてる泉に腹が立ったのもあるけど、俺といつも一緒にいるのが気にくわなかったんだってさ」
「あぁ、それが、過激なファンってことか?なにそれ怖ーい。それでそれで、続きは?」
ふふ、と少し笑みをこぼしながら続きを促すと黒斗は上体を起こし眉間に皺を寄せる。面白がるな、と随分とご立腹だったけど、少し目線をずらし口を開いた。
「俺はそれから病院行って、モデル活動をそのまま休止。そりゃ一悶着あって手術して眼帯をつけた奴に再開させるのは酷だって事務所の計らいで。ってなると泉もしばらく休むって言い出したんだ。まぁ、それも精神的に深い傷を負ってるからやむを得ないんだけど」
瀬名泉が号泣した。という言葉には驚いた。あのせなたんが?まさかー。なんて反応をしたけど、それは冗談ではないらしく呆れられただけだった。
「じゃあ、黒斗がここに来た理由は?わざわざステージに上がるような職業を選んだのはなんで?」
「一家全員が芸能系やってるのも理由だけど、一番は泉が心配だったから。あと、俺はその事があって泉しか信じられなくて、離れるのが怖かった。」
まぁ、自分を好きでいてくれるファンが自分の大切な人の顔を傷つけようと、いや、一歩間違えれば殺そうとしていたのだから、ショックでそうなるのもしょうがない。
「泉も、結構気にやんでるみたいだから、守らねぇとなって思って」
「せなたんも黒斗のこと守ろうとしてると思うよ。今回、黒斗がDDDでステージに立つって話を聞き付けたせなたん、凄く怖かった」
昼休みのことだ。普段は温厚、いや、周りに無関心なせなたんがどこからそんな情報が漏れたのか、血相を変えて俺をグラウンドの隅まで引きずり怒鳴ってきたのを覚えている。せなたんにとっては一大事だったのだろう。
「何て言われたんだ?」
「第一声に、馬鹿じゃないの!?って。それからはもう…わーって一気に言われた」
今すぐ止めさせてとか、レッスンするときは俺も付き添うからとか、呼吸困難になったら責任とれんのぉとか、終いには殺す気?とか聞かれたっけ。
「現に今付き添わせてないけど」
「ふは、まぁそれはしなくて良いけどな。それにしてもあいつはすぐ俺を死に急がせる。次は死ぬとか殺す気?とかな…俺に死んでほしいのかっての」
「逆だよ逆。心配だけど、ほら、せなたん愛情表現下手だからさ」
「…いや。内心は観えてるんだけどな」
そうか、そういえば黒斗は相手の心が読める、というか観えるんだ。なぜか知らないけど、それが要因であの暴君も黒斗を欲しがったし、五奇人の中に組み込まれる程の、まぁ、いわば能力といえば良いのだろう。
「俺のも観える?」
「今か、うん。腹へった。だろ。お前人の話まともに聞いてないな」
「えー、黒斗が喋ってた時は聞いてたってー。てか常時見えてるんじゃないのか?」
「観えてる、把握してる。けど見て見ぬふりだ。なんでも観えるってのも困りもんだからな」
そっか。それ以外に思い付く言葉もなく沈黙に包まれると、黒斗が気を利かせて飯でも食いに行くか。と呟く。
「あ、じゃあ家帰るー?」
あの暴君の発表から今日でレッスン5日目、明日にはDDDが迫ってる。ステージに今まで立たなかったと言えど、黒斗は基礎レッスンもしていたし、当たり前のように体力に問題はない。けど、ステージに立つからという理由でレッスンしたのは今回が初めてで、初日は本気で病院いかなきゃってくらい酸欠になってた。今もまだ見るからに心配な面の方が多いけど、言っても黒斗は言うことを聞かないだろうし。なによりここで克服できればと思うのと、単純に一緒にステージに立ちたいという欲望のせいで黒斗を止めることはできなかった。
そんな過酷ともいえるレッスンも今日で終わりだ。どちらにせよ家には帰らなきゃならないし、遅かれ早かれ帰路につかなければ。
「肩貸してくれれば帰れないことは…」
「黒斗のジョークは本気なのかどうか分かりにくいなぁ」
ふらふらと立ち上がる黒斗はへらりと軽い笑みを浮かべるけれど、酷使した体は正直に限界を訴えている。
慌てて黒斗のもとへ行き肩を貸した。
「明日、やれるとこまででいいからな。俺は黒斗とステージに立てれば、それ以上無茶は言わない」
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荒治療でよくなる人もいれば、もちろん、悪化する人もいるわけで。
「はぁー…、はーっ」
「…」
俺はただ、それを見ることしかできない。だって痛みを共有することはできないし、手伝うこともできないから。
できるとするならこれ以上は駄目だと止めることくらい。
「黒斗。一回休憩して、水飲む?」
「ふー…っ、くそ」
黒斗は体力がある。才能もある。運動神経も良い。顔も整ってる。生まれながら良いのは運動神経と顔。アイドルとしての才能と体力は、後々開花させたようなもの、だけどそれは確実に黒斗の力。努力した天才なんかじゃない。努力の天才。でもその努力は、トラウマによって誰の目に触れることもなく評価されることもない。
黒斗が唯一魅力だと言われているのは作曲。だけどそれだけじゃないのは明確なのに。でも、それだけなんでもできる黒斗がここまで磨耗するとは思わなかった。ここまで頑張るなんて考えてもみなかった。
「…どうしたの?」
「あー?」
「そんなに頑張ってさー。」
「…いや、別に。DDDはユニットでの出場が条件だか…ら。げほっ」
「うーん、でも黒斗らしくないな?」
そう呟くと目を逸らしその場に寝転がる黒斗。子供っぽい、といえば親近感が沸く。でも俺の知らない子供っぽさだ、そりゃあ、過去を知らないからだけど。そんな黒斗はずっと大きく息を吐き続けてる。
「はぁー、落ち着いた。…俺もお前も奇人って呼ばれない奇人だとか言われたことあったな。」
「えー?それ今も言われてるよ?特に黒斗。なんでも見えてるからさぁ」
「それは何となく察してるけど、お前が本当に五奇人の中に入らなかったのは不思議」
「俺入ると六奇人で語呂悪いからじゃない?自分でいってて意味わかんないけど。っていうか、本当昔話するなんて珍しい」
昔話というほどでもないだろう。そう言われればそうなんだけど。黒斗自身が過去を見たがらないせいか、思い出話をしたことは滅多にない。常に先を見ているから、なおさら。
「昔話、か…」
「…?」
寝転がり、仰向けのままの黒斗が呟く。視線をやると目を閉じていて、本当に綺麗な顔立ちだな。なんて改めて思うのと同時にまるで死人みたいだと思う。
「俺の目の話、するか」
「…は?」
随分と軽い、軽快な口調でそう言われる。相変わらず目は閉じているけど。
「俺の目は、泉を守るために犠牲になったんだ。泉が、過激なファンに襲われそうになったのを、助けた」
せなたんを助けた?過激なファン?
順を追って説明してよ、そう言うと苦笑しながらもうんうんと頷いて寝転がったまま、ただひたすらに黒斗は語ってくれた。
「俺と泉は、同じ事務所で、よく2人で写真を撮るようにしてた、まぁここでいう、ユニットみたいな感じで。とある撮影の日、アイドルというシチュエーションで写真を撮ることになって、ステージに上がって撮影したんだ。そこまでは良かった。」
黙って聞いていると黒斗がもそりと動く。額の上に手を起き天井に向かって長い溜め息を吐く。嫌なら、言わなくて良い。でもここまで言ってお預けも嫌だな。
「撮影が終わった直後、カッターかナイフか、それはあんまり覚えてねぇけど、それを持った俺たちより少し年上の女が撮影現場に、ステージに上がってきて、泉の顔を傷つけようとしたんだ。」
あぁ、嫉妬か。自分より年下なのに、自分よりちやほやされて、売れてるのが気にくわなかったんだな。言わずともわかる。悪知恵がついた奴が思い付きそうな、顔を傷つければ自分より劣るという安直な考えにたどり着いちゃったんだろう。
「それを、守ろうとしたの?」
「まぁ、そういうこと。俺がその時ステージにいなかったらトラウマにはならなかっただろうな」
「でも、克服しようとしてるじゃん。偉いんじゃないの?」
「一番怖かったのは、俺のファンだったこと。無論自分より売れてる泉に腹が立ったのもあるけど、俺といつも一緒にいるのが気にくわなかったんだってさ」
「あぁ、それが、過激なファンってことか?なにそれ怖ーい。それでそれで、続きは?」
ふふ、と少し笑みをこぼしながら続きを促すと黒斗は上体を起こし眉間に皺を寄せる。面白がるな、と随分とご立腹だったけど、少し目線をずらし口を開いた。
「俺はそれから病院行って、モデル活動をそのまま休止。そりゃ一悶着あって手術して眼帯をつけた奴に再開させるのは酷だって事務所の計らいで。ってなると泉もしばらく休むって言い出したんだ。まぁ、それも精神的に深い傷を負ってるからやむを得ないんだけど」
瀬名泉が号泣した。という言葉には驚いた。あのせなたんが?まさかー。なんて反応をしたけど、それは冗談ではないらしく呆れられただけだった。
「じゃあ、黒斗がここに来た理由は?わざわざステージに上がるような職業を選んだのはなんで?」
「一家全員が芸能系やってるのも理由だけど、一番は泉が心配だったから。あと、俺はその事があって泉しか信じられなくて、離れるのが怖かった。」
まぁ、自分を好きでいてくれるファンが自分の大切な人の顔を傷つけようと、いや、一歩間違えれば殺そうとしていたのだから、ショックでそうなるのもしょうがない。
「泉も、結構気にやんでるみたいだから、守らねぇとなって思って」
「せなたんも黒斗のこと守ろうとしてると思うよ。今回、黒斗がDDDでステージに立つって話を聞き付けたせなたん、凄く怖かった」
昼休みのことだ。普段は温厚、いや、周りに無関心なせなたんがどこからそんな情報が漏れたのか、血相を変えて俺をグラウンドの隅まで引きずり怒鳴ってきたのを覚えている。せなたんにとっては一大事だったのだろう。
「何て言われたんだ?」
「第一声に、馬鹿じゃないの!?って。それからはもう…わーって一気に言われた」
今すぐ止めさせてとか、レッスンするときは俺も付き添うからとか、呼吸困難になったら責任とれんのぉとか、終いには殺す気?とか聞かれたっけ。
「現に今付き添わせてないけど」
「ふは、まぁそれはしなくて良いけどな。それにしてもあいつはすぐ俺を死に急がせる。次は死ぬとか殺す気?とかな…俺に死んでほしいのかっての」
「逆だよ逆。心配だけど、ほら、せなたん愛情表現下手だからさ」
「…いや。内心は観えてるんだけどな」
そうか、そういえば黒斗は相手の心が読める、というか観えるんだ。なぜか知らないけど、それが要因であの暴君も黒斗を欲しがったし、五奇人の中に組み込まれる程の、まぁ、いわば能力といえば良いのだろう。
「俺のも観える?」
「今か、うん。腹へった。だろ。お前人の話まともに聞いてないな」
「えー、黒斗が喋ってた時は聞いてたってー。てか常時見えてるんじゃないのか?」
「観えてる、把握してる。けど見て見ぬふりだ。なんでも観えるってのも困りもんだからな」
そっか。それ以外に思い付く言葉もなく沈黙に包まれると、黒斗が気を利かせて飯でも食いに行くか。と呟く。
「あ、じゃあ家帰るー?」
あの暴君の発表から今日でレッスン5日目、明日にはDDDが迫ってる。ステージに今まで立たなかったと言えど、黒斗は基礎レッスンもしていたし、当たり前のように体力に問題はない。けど、ステージに立つからという理由でレッスンしたのは今回が初めてで、初日は本気で病院いかなきゃってくらい酸欠になってた。今もまだ見るからに心配な面の方が多いけど、言っても黒斗は言うことを聞かないだろうし。なによりここで克服できればと思うのと、単純に一緒にステージに立ちたいという欲望のせいで黒斗を止めることはできなかった。
そんな過酷ともいえるレッスンも今日で終わりだ。どちらにせよ家には帰らなきゃならないし、遅かれ早かれ帰路につかなければ。
「肩貸してくれれば帰れないことは…」
「黒斗のジョークは本気なのかどうか分かりにくいなぁ」
ふらふらと立ち上がる黒斗はへらりと軽い笑みを浮かべるけれど、酷使した体は正直に限界を訴えている。
慌てて黒斗のもとへ行き肩を貸した。
「明日、やれるとこまででいいからな。俺は黒斗とステージに立てれば、それ以上無茶は言わない」
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