彼がステージに上がる時
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16
かれこれ何日経っただろう。
なんて大袈裟に言うけれど、きっとまだ2,3日。いやもしかすると1日かもしれない。日の光を遮断されてからどれくらいかわからない。
ここは、防音レッスン室
「ゆ~う~くん?」
「…」
「俺は確かにゆうくんがお人形みたいになにも考えず与えられたものに従っていた頃のゆうくんが好きだけど、俺と喋ってくれなくなるのは困るんだよねぇ?せっかく手にいれたのにさ?」
「…」
僕がこの防音レッスン室に入れられた、いや監禁された原因は考えなくても明解な事で、あの生徒会長が僕をKnightsに移籍させるって勝手に承諾してしまったからだ。
Knightsの他のメンバーは泉さんのやり口に呆れているか知らないふりかどちらかで、僕が外部と連絡を取ろうとした時スマホを没収されてしまった。
つまり何かしらの外的要因がないと助からない。
「ゆうくん?観念しなよぉ…」
「…嫌です。僕は絶対にみんなを裏切ったりしない」
「話しかけてもそればっかり。じゃあそうだ、昔話でもする?」
「はい…?」
呆れた。昔話、つまり僕の地雷の話でもして精神的に追い詰めようって魂胆だ。と思えば、泉さんは生徒手帳を取り出す。綺麗な生徒手帳から取り出されたのは折り目からかすれていっている写真。
そこには作り笑いの僕と満面の笑みの泉さん。そして、両目が健在の黒斗さんと3人の幼い頃の写真。
「…黒斗さん」
「本当、ゆうくんって小さい頃から黒斗にくっついてたよねぇ?もちろん俺にもだけど」
懐かしい、今ではまずあり得ない黒斗さんの両目のあるその顔に無意識に釘付けになっていた。
「昔話って言うのは、俺とゆうくんが、大好きな人の話」
ふふ、と愉快そうに笑みを浮かべる泉さんに正直、驚くしかなかった。ただあの件があって2人はいつも一緒にいるものだと思っていたから。
僕の驚いた表情を読み取ると更に面白そうに泉さんは口角を上げる。
「俺も黒斗の顔、大好きだからねぇ?昔から面倒見よくて、ずっと自分より1歳か2歳上だと思ってたんだけど同い年って知った時はびっくりしたけどねぇ」
「あの、黒斗さんのこと好きなんですか?っていうか大好きな人って、え?」
「んー、なに?嫉妬?それは俺に?黒斗に?」
「違いますから。単に疑問に思っただけです!」
泉さんは余裕のない僕の反論に笑いが止まらないようだ。仕方ないだろう、だって自分よりずっと格好よくて才能のある相手と、自分が同じ人を好きになって、勝ち目があるとは思えない。
「泉さんは、本当に黒斗さんが好きなんですか?僕に向けるのと同じように、過去の黒斗さんが好きなんじゃないんですか?」
「俺が黒斗に向けてる好きはゆうくんへの愛とは違うよ?お兄ちゃんが別の人を好きになるのが心配なのぉ?」
つくづく話が通じない、なんて内心思いつつ僕は眉間によった皺を更に深くした。黒斗さんは、ずっと僕のことを守ってくれて、本当にお兄ちゃんとして慕っていた。
そんな黒斗さんだからこそ、色んな人から憧れの的となり好かれるのが当たり前で僕も最初はそうだった。いつからかその感情がうっすら変わっていたけど、まさか泉さんもそうだったなんて。
「それで、昔話って…なんの話ですか?」
「黒斗が目を失った話。ゆうくんも知ってるでしょ?」
知ってる。だからこそここで昔話をする意味がわからない。
「黒斗は、俺を守って怪我をした。中学後半の、何となく余計なことばかり考え始めた頃。まぁ、大人のやり口っていうのとか、悪知恵がつく頃だよねぇ?」
「泉さん?なんでそんな話」
「ん~?ゆうくんはもう聞き飽きた?でも俺はね、ずっと心に残ってるから。黒斗と一緒にいる時、黒斗を遠くから見かけた時、いつだって後悔する」
眉を下げる泉さんは今まで見たことなかった。僕に会えばいつも気持ち悪い泉さんが、誰かを思ってこんな表情をするなんて。
「黒斗、今度のDDDでステージに上がるって言ってた。残念ながらついこの間のB1では最後まで上がれなかったみたいだけど」
「えっ、ステージに…?」
拍子抜けした僕の言葉と、がちゃりというドアの開いた音が同時に響くと泉さんはいつもの表情に戻っていた。
ドアからひょこりと顔を出したのは、Knightsの鳴上くん。
「泉ちゃん、レッスン…出ないの~?」
「うるさいなぁ。せっかくのゆうくんとの時間、邪魔しないでよぉ?今行くから~」
「んもう…その子が関わるといつもの泉ちゃんらしくなくて嫌だわ!」
レッスン、そうだ。みんなDDDに向けてレッスンしてる!Trickstarも!明星くん、氷鷹くん、衣更くん…!!
僕がいなくてもTrickstarは輝けるかもしれない。でも、僕はみんなと躍りたい。
「泉さん…!ここから出してください!」
「え~、急にどうしたのゆうくん。そもそも出たら帰ってこないでしょぉ?」
「でも今、みんなきっと…!」
「じゃあ俺Knightsのレッスンあるからぁ。ここでおとなしくしててね?ゆ~う~くん♪帰ってきたらご褒美あげるから」
「っ…」
満面の笑みで顔を近づけてきたかと思えばさっさとドアの方へと向かっていく泉さん。無遠慮にばたんと閉められたのち鍵がかれられた。もちろん内側からの鍵は壊したのか何か知らないけれど細工がされていて開けられない。
泉さんがいるうちは大体開けてあるドアも、ちょっと出掛けるにもこの部屋から出るときは絶対に鍵を閉めている。
「なんとか、打つ手は…」
………。
正直、何も思い付かない。まともに食事も睡眠もとってないから頭が働かないのかも。いつも自分は馬鹿だ馬鹿だと思っているけど今ばかりはどうか見逃してほしい。だって脳を働かせる糖分すらまともに摂取してない!
「…ここから出ることも考えないといけないけど…黒斗さんの事本当なのかな。」
ステージに上がる。それは黒斗さんにとって人生で1,2を争う正念場なんじゃないかな。黒斗さんが目をなくした場所は、撮影のシチュエーションは、ステージの上というなんとも悲劇としか言いようがない場面だった。
一番不思議なのはそれでも泉さんにくっついてこの学院に入学したことだけど、僕が学院に入るきっかけを作ってくれたのはありがたかった。
ともあれステージに立つ理由はなんだろう。やっぱり純粋にSSに出たいから?過去の克服をしたいから?
どうあれ、以前に見せてくれたあのレッスン室でのパフォーマンスは魅力的だった。惚れ直したと言っても良いかもしれない。そのパフォーマンスがステージに上がって、表舞台に立つアイドルとして披露されるなら、絶対に見たい。とは言えDDDには自分も参加するから見れるかわからないけど。
「前は躍った直後にフラッシュバックか何かで目を痛がってたけど大丈夫かな」
今ももしかしたら練習をしているであろう黒斗さんを心配しながら、自分もどうにか出られる方法を探す。
Trickstarのレッスンに参加したい。何か、方法は…なんて考えても躍るためにしか使わない防音レッスン室。何も脱出するために必要なものは揃っていない。
「うー、考えないと…頭がぼーっとしてきちゃう。いや、考えてもぼーっとするけど」
体が拒否反応を起こす泉さんが近くにいれば気が張って眠くなったり意識が遠のいたりしないけど、1人で無音の場所にいれば疲労がたまっていて睡魔が襲ってくる。なんなら一回寝てちゃんと睡眠を取ろうかな。なんて思ってしまうほどまぶたが重い。
「……」
僕がいなくても、Trickstarは大丈夫。それは確実だし、逃れようのない現実かもしれないけど、ずっと昔に、人形だった僕に黒斗さんは言ってくれた。
「俺の弟は誰かの手で喋ったり動いたりする人形じゃないだろ」
あの時言われた言葉を自分で口にする。昔から口調は刺々しかったけれど、その言葉に、その眼差しに救われたのは確かだった。
「黒斗さん、見てて。僕は自分でこの困難に打ち勝って見せるから。黒斗さんのパフォーマンスを見に、そしてTrickstarのみんなと躍るために、泉さんになんか負けないから…!」
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かれこれ何日経っただろう。
なんて大袈裟に言うけれど、きっとまだ2,3日。いやもしかすると1日かもしれない。日の光を遮断されてからどれくらいかわからない。
ここは、防音レッスン室
「ゆ~う~くん?」
「…」
「俺は確かにゆうくんがお人形みたいになにも考えず与えられたものに従っていた頃のゆうくんが好きだけど、俺と喋ってくれなくなるのは困るんだよねぇ?せっかく手にいれたのにさ?」
「…」
僕がこの防音レッスン室に入れられた、いや監禁された原因は考えなくても明解な事で、あの生徒会長が僕をKnightsに移籍させるって勝手に承諾してしまったからだ。
Knightsの他のメンバーは泉さんのやり口に呆れているか知らないふりかどちらかで、僕が外部と連絡を取ろうとした時スマホを没収されてしまった。
つまり何かしらの外的要因がないと助からない。
「ゆうくん?観念しなよぉ…」
「…嫌です。僕は絶対にみんなを裏切ったりしない」
「話しかけてもそればっかり。じゃあそうだ、昔話でもする?」
「はい…?」
呆れた。昔話、つまり僕の地雷の話でもして精神的に追い詰めようって魂胆だ。と思えば、泉さんは生徒手帳を取り出す。綺麗な生徒手帳から取り出されたのは折り目からかすれていっている写真。
そこには作り笑いの僕と満面の笑みの泉さん。そして、両目が健在の黒斗さんと3人の幼い頃の写真。
「…黒斗さん」
「本当、ゆうくんって小さい頃から黒斗にくっついてたよねぇ?もちろん俺にもだけど」
懐かしい、今ではまずあり得ない黒斗さんの両目のあるその顔に無意識に釘付けになっていた。
「昔話って言うのは、俺とゆうくんが、大好きな人の話」
ふふ、と愉快そうに笑みを浮かべる泉さんに正直、驚くしかなかった。ただあの件があって2人はいつも一緒にいるものだと思っていたから。
僕の驚いた表情を読み取ると更に面白そうに泉さんは口角を上げる。
「俺も黒斗の顔、大好きだからねぇ?昔から面倒見よくて、ずっと自分より1歳か2歳上だと思ってたんだけど同い年って知った時はびっくりしたけどねぇ」
「あの、黒斗さんのこと好きなんですか?っていうか大好きな人って、え?」
「んー、なに?嫉妬?それは俺に?黒斗に?」
「違いますから。単に疑問に思っただけです!」
泉さんは余裕のない僕の反論に笑いが止まらないようだ。仕方ないだろう、だって自分よりずっと格好よくて才能のある相手と、自分が同じ人を好きになって、勝ち目があるとは思えない。
「泉さんは、本当に黒斗さんが好きなんですか?僕に向けるのと同じように、過去の黒斗さんが好きなんじゃないんですか?」
「俺が黒斗に向けてる好きはゆうくんへの愛とは違うよ?お兄ちゃんが別の人を好きになるのが心配なのぉ?」
つくづく話が通じない、なんて内心思いつつ僕は眉間によった皺を更に深くした。黒斗さんは、ずっと僕のことを守ってくれて、本当にお兄ちゃんとして慕っていた。
そんな黒斗さんだからこそ、色んな人から憧れの的となり好かれるのが当たり前で僕も最初はそうだった。いつからかその感情がうっすら変わっていたけど、まさか泉さんもそうだったなんて。
「それで、昔話って…なんの話ですか?」
「黒斗が目を失った話。ゆうくんも知ってるでしょ?」
知ってる。だからこそここで昔話をする意味がわからない。
「黒斗は、俺を守って怪我をした。中学後半の、何となく余計なことばかり考え始めた頃。まぁ、大人のやり口っていうのとか、悪知恵がつく頃だよねぇ?」
「泉さん?なんでそんな話」
「ん~?ゆうくんはもう聞き飽きた?でも俺はね、ずっと心に残ってるから。黒斗と一緒にいる時、黒斗を遠くから見かけた時、いつだって後悔する」
眉を下げる泉さんは今まで見たことなかった。僕に会えばいつも気持ち悪い泉さんが、誰かを思ってこんな表情をするなんて。
「黒斗、今度のDDDでステージに上がるって言ってた。残念ながらついこの間のB1では最後まで上がれなかったみたいだけど」
「えっ、ステージに…?」
拍子抜けした僕の言葉と、がちゃりというドアの開いた音が同時に響くと泉さんはいつもの表情に戻っていた。
ドアからひょこりと顔を出したのは、Knightsの鳴上くん。
「泉ちゃん、レッスン…出ないの~?」
「うるさいなぁ。せっかくのゆうくんとの時間、邪魔しないでよぉ?今行くから~」
「んもう…その子が関わるといつもの泉ちゃんらしくなくて嫌だわ!」
レッスン、そうだ。みんなDDDに向けてレッスンしてる!Trickstarも!明星くん、氷鷹くん、衣更くん…!!
僕がいなくてもTrickstarは輝けるかもしれない。でも、僕はみんなと躍りたい。
「泉さん…!ここから出してください!」
「え~、急にどうしたのゆうくん。そもそも出たら帰ってこないでしょぉ?」
「でも今、みんなきっと…!」
「じゃあ俺Knightsのレッスンあるからぁ。ここでおとなしくしててね?ゆ~う~くん♪帰ってきたらご褒美あげるから」
「っ…」
満面の笑みで顔を近づけてきたかと思えばさっさとドアの方へと向かっていく泉さん。無遠慮にばたんと閉められたのち鍵がかれられた。もちろん内側からの鍵は壊したのか何か知らないけれど細工がされていて開けられない。
泉さんがいるうちは大体開けてあるドアも、ちょっと出掛けるにもこの部屋から出るときは絶対に鍵を閉めている。
「なんとか、打つ手は…」
………。
正直、何も思い付かない。まともに食事も睡眠もとってないから頭が働かないのかも。いつも自分は馬鹿だ馬鹿だと思っているけど今ばかりはどうか見逃してほしい。だって脳を働かせる糖分すらまともに摂取してない!
「…ここから出ることも考えないといけないけど…黒斗さんの事本当なのかな。」
ステージに上がる。それは黒斗さんにとって人生で1,2を争う正念場なんじゃないかな。黒斗さんが目をなくした場所は、撮影のシチュエーションは、ステージの上というなんとも悲劇としか言いようがない場面だった。
一番不思議なのはそれでも泉さんにくっついてこの学院に入学したことだけど、僕が学院に入るきっかけを作ってくれたのはありがたかった。
ともあれステージに立つ理由はなんだろう。やっぱり純粋にSSに出たいから?過去の克服をしたいから?
どうあれ、以前に見せてくれたあのレッスン室でのパフォーマンスは魅力的だった。惚れ直したと言っても良いかもしれない。そのパフォーマンスがステージに上がって、表舞台に立つアイドルとして披露されるなら、絶対に見たい。とは言えDDDには自分も参加するから見れるかわからないけど。
「前は躍った直後にフラッシュバックか何かで目を痛がってたけど大丈夫かな」
今ももしかしたら練習をしているであろう黒斗さんを心配しながら、自分もどうにか出られる方法を探す。
Trickstarのレッスンに参加したい。何か、方法は…なんて考えても躍るためにしか使わない防音レッスン室。何も脱出するために必要なものは揃っていない。
「うー、考えないと…頭がぼーっとしてきちゃう。いや、考えてもぼーっとするけど」
体が拒否反応を起こす泉さんが近くにいれば気が張って眠くなったり意識が遠のいたりしないけど、1人で無音の場所にいれば疲労がたまっていて睡魔が襲ってくる。なんなら一回寝てちゃんと睡眠を取ろうかな。なんて思ってしまうほどまぶたが重い。
「……」
僕がいなくても、Trickstarは大丈夫。それは確実だし、逃れようのない現実かもしれないけど、ずっと昔に、人形だった僕に黒斗さんは言ってくれた。
「俺の弟は誰かの手で喋ったり動いたりする人形じゃないだろ」
あの時言われた言葉を自分で口にする。昔から口調は刺々しかったけれど、その言葉に、その眼差しに救われたのは確かだった。
「黒斗さん、見てて。僕は自分でこの困難に打ち勝って見せるから。黒斗さんのパフォーマンスを見に、そしてTrickstarのみんなと躍るために、泉さんになんか負けないから…!」
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