彼がステージに上がる時
What is your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
15
いくら英智でもこんなことをするとは。いや、予測はできていた、か。
「零…!」
「おぉ…黒斗、すまんのう。不甲斐ないところを見られてしまったわい」
「謝る理由なんてない。あれもまた策の内。俺たちがやったことと同じだ」
してやられたわい。なんて言う零をガーデンテラスにあるベンチに座らせる。隣に座れば肩に頭を預ける零。
こんな日の光が強い時にライブをさせようなんざ正攻法とは言えない。しかしそれは俺たちも使った手段であり、頭の良い奴のやり口だ。昨日の今日で何が変わったんだと先ほど敬人と話していたが、変わったのはあいつらだ。天祥院英智が退院したことがなによりの変化。
「本当、気にくわない。あいつは何が楽しいのかわからないな」
「黒斗、落ち着くがよかろ。今は彼の発表に耳を」
「知ってる。あいつがわざわざ自分の出場権を投げて作り出したS1の話をな。先生は皆反対していたが、俺の父さんがOKと一言。それで決まった話だ」
ほんの少し前父さんからいきなり大量にメッセージで送られてきた例のS1の概要が載った写真。正直何の話と思ったが、その後簡単に訳したメッセージが送られてきた。
DDDというそのS1は、年末に開催されるSSへの出場権を争うS1だ。
誰がもっとも観客を楽しませることができるパフォーマンスが、ライブができるか、それを競う。理にかなったものであるのは確かだ。
「黒斗は今回も彼らの、Trickstarのマネージャーをやるのかえ?無論、勝って欲しいのじゃろ」
「…」
ドリフェス…否、英智の発表を見ている4人の顔は優れない。決して俺は全てを見透せるわけではない、つまりあいつらに何が起きているのかは全くわからないが、ともあれfineの、いや、英智の思い通りになるわけにはいかないのは確かだ。
「黒斗!やっと追い付いた。ほんと、走り出すと早いしさ、さっき暴君が言ってたこと聞いてたら…見失っちゃうし」
肩で息をしながら蒼空が走ってくる。
そこまで必死になって人混みを掻き分けたのか。人混みにすらいない俺を。
「ガーデンテラスに近いからさ、もしかしてと思ったらほんとにいるんだもん。はぁーあ」
「蒼空や、相変わらずこんな日でも元気じゃのう」
「あー…起こしてごめん、部長。大丈夫?」
俺に肩を預けたままの零の額に手を宛がい体温を計る蒼空。いや、風邪とかではないんだけどな?
それにしても蒼空の表情は暗い。きっと英智の発表だろう。今でこそ奴らは単にライブをしているがファンは皆魅了されつつも凍りついているように見える。
「黒斗。先行き不安だ、Trickstarも。それに今日いきなりUNDEADが制裁をされてる。俺たちも確実に狙われる…というか、さっき明日の昼にB1で。って声かけられたし」
眉間に皺を寄せ隣に座る蒼空。先行き不安だと言いながら随分と反抗的な目ではあるが。
「どうする?」
「えっ、黒斗…俺に聞く?俺馬鹿なのに!」
「…お前はどうしたい。何か思い付くことはあるか?」
冗談に流されずそのままもう一度蒼空に問う。何か、やりたいことがある筈だ、蒼空は今そういう目をしている。生徒会に対する反抗的な目を。
それはDDDが開催されるという発表に対してではない。友人を、部長を、粛清した英智への反抗だ。
「俺は別にUNDEADが悪いことをしたとは思わない。正攻法じゃないのはお互い様だしな。だからこそ、自分の地位を守る為だけの暴君を許せない。許さない。俺は勝つ。絶対。」
「そうか。」
「黒斗はいつも通りで。ほんとは一緒に躍ってよなんて言いたいけどな」
「DDDには、間に合わせる」
「え」
「…」
俺の言葉に目を丸くする蒼空と、ぴくりと肩にある零の頭が動く。すなわち、そういうことだ。俺も黙って見ようとは思っていない。もし、明日急に仕掛けられたB1で、仮に負けたとしても、DDDで覆す。
「明日も負ける気は毛頭ない。少しだけ、出る。荒治療だって言われてもな」
「黒斗。お主…」
いつの間にか頭を上げた零になぜか頭を撫でられる。痛くないかえ?なんて問い掛けられるけれど、その心配すらも今は甘んじている場合ではない。
動機が激しいのは、あのレッスンの時と変わりなく。誰かが見ている場に立って躍ることを頭で考えれば正直それだけで呼吸困難になりそうではある。
「もう、過去の惨事に負けたくないんだ」
それだけを蒼空と零に告げる。
ベンチから立ち上がり零を蒼空に任せて俺は演奏の終えた仮設ステージへと近付く。観客は概ね帰っているが、そこに残されていた真に声をかけた。
「何があったか、話せそうか?」
「っ、黒斗さん。あ、あの…僕。嫌なんです。Trickstarが、なくなるなんて!だから!」
「は?まて…Trickstarがなくなる?」
はっとした真は1度深呼吸をして俺を見る。今にも泣きそうな目で、訴えてくる。
「勧誘、か…。あいつまた同じことを。しかも自分達より弱い立場にいる相手に…。」
全てを察したわけではない。昨日の夜、英智が言っていたことと、真の言葉を整理すればそういうことだ。以前、俺にしたことと同じ、勧誘。五奇人と生徒会が波乱を起こすのと同時期。五奇人を潰すために俺はfineに誘われた。もちろんその時のfineは既に強者ではあったが、その上を行く五奇人をどうしても潰したかったのだろう。WorldWalkerに所属している俺を他所に、一度勝手に俺の脱退証明を書かれたことがあった。
あの時は勧誘も何もあったものではないが、それを知った蒼空が暴れまわったのを覚えている。
「蒼空も正直奇人じゃないのが不思議なくらいなんだが、まぁそれは今気にすることじゃないか…」
ちらりと後ろを見れば日陰に移動している蒼空と零の姿。
「真、まさかとは思うがTrickstar全員がfineに勧誘されたわけじゃないよな?」
自分でも馬鹿な質問だと思う、4人も招くほど余裕のあるユニットでもないだろう。となると全員別々、なのだろうか?
「ひ、氷鷹くんと明星くんはfineに…衣更くんは紅月…。僕は…」
「…真?」
「僕は、Knightsに…その、僕の才能を活かせる2人がいるからって。」
「一度殴っておきたい気分だな。…なるほど、モデルが2人いるからな。とはいえお前はもう」
「僕はグラビアモデルに戻る気はない!」
遠慮もなしに俺に声を張り上げる真。
これが本来の真だろう、自分のやりたいこと、意思を尊重できるのが人間だ。もう2度と弟のように可愛がった真にあんな目をさせるわけにはいかない。
弟のように可愛がったのは泉も同じで、ならKnightsにいけば安心かと思えばそうではない。あいつはむしろ、グラビアモデルだった頃の真に執着している。
そう考えれば、真にとって地獄なのは言うまでもないだろう。
「お前がその意思なら、とりあえずは安心だ。問題はあとの3人だな…。とにかく今日はもう帰った方がいい、何かあったら連絡しろよ」
今だ不安そうな真の頭を撫で、帰路へとつかせる。昨日S1で勝利した心を平然と、清々しいほどに折られてしまったのだ。今は休ませてやるしか他にない。
「浮かない顔をしていますねぇ!」
「っ!?」
急に左側から現れた渉に引くほど驚く。
視線で訴えれば、すみません。と誠意を感じない謝罪をされなお腹が立つ。
「何の用だ。明日の根回しか?」
「まさか!私がそんなことをしないのはよくわかっていますでしょう?私が伝えに来たのは、せいぜい目を大切にしてくださいということですよ。」
「目を大切にって…ナイフでも?」
目を細めこれでもかというほど睨む。観客にナイフを持たせるつもりか?それともお前らがナイフを持ち俺のトラウマを抉るつもりだろうか?
「いーえっ!古傷が悪化してしまわないようにということです。というか、なぜナイフなのですか?明日貴方の溺愛する蒼空くんと戦うのであれば、接戦になりうると思うのでこれを」
渉は何を考えているのだろう。正直、本心がころころ変わりすぎて動体視力が追い付かない、とでも言えばいいだろうか。手渡しで渡されたその一輪の花を見つめるといつの間にやら姿を消していた。
スノードロップの花言葉は、逆境のなかの希望。いや、贈り物の時の花言葉はたしか…
貴方の死を望みます。
「つまり、俺は参戦するなってことか…。まさかあいつにここまで嫌われてるとはな」
NEXT::
長編TOPへ戻る
いくら英智でもこんなことをするとは。いや、予測はできていた、か。
「零…!」
「おぉ…黒斗、すまんのう。不甲斐ないところを見られてしまったわい」
「謝る理由なんてない。あれもまた策の内。俺たちがやったことと同じだ」
してやられたわい。なんて言う零をガーデンテラスにあるベンチに座らせる。隣に座れば肩に頭を預ける零。
こんな日の光が強い時にライブをさせようなんざ正攻法とは言えない。しかしそれは俺たちも使った手段であり、頭の良い奴のやり口だ。昨日の今日で何が変わったんだと先ほど敬人と話していたが、変わったのはあいつらだ。天祥院英智が退院したことがなによりの変化。
「本当、気にくわない。あいつは何が楽しいのかわからないな」
「黒斗、落ち着くがよかろ。今は彼の発表に耳を」
「知ってる。あいつがわざわざ自分の出場権を投げて作り出したS1の話をな。先生は皆反対していたが、俺の父さんがOKと一言。それで決まった話だ」
ほんの少し前父さんからいきなり大量にメッセージで送られてきた例のS1の概要が載った写真。正直何の話と思ったが、その後簡単に訳したメッセージが送られてきた。
DDDというそのS1は、年末に開催されるSSへの出場権を争うS1だ。
誰がもっとも観客を楽しませることができるパフォーマンスが、ライブができるか、それを競う。理にかなったものであるのは確かだ。
「黒斗は今回も彼らの、Trickstarのマネージャーをやるのかえ?無論、勝って欲しいのじゃろ」
「…」
ドリフェス…否、英智の発表を見ている4人の顔は優れない。決して俺は全てを見透せるわけではない、つまりあいつらに何が起きているのかは全くわからないが、ともあれfineの、いや、英智の思い通りになるわけにはいかないのは確かだ。
「黒斗!やっと追い付いた。ほんと、走り出すと早いしさ、さっき暴君が言ってたこと聞いてたら…見失っちゃうし」
肩で息をしながら蒼空が走ってくる。
そこまで必死になって人混みを掻き分けたのか。人混みにすらいない俺を。
「ガーデンテラスに近いからさ、もしかしてと思ったらほんとにいるんだもん。はぁーあ」
「蒼空や、相変わらずこんな日でも元気じゃのう」
「あー…起こしてごめん、部長。大丈夫?」
俺に肩を預けたままの零の額に手を宛がい体温を計る蒼空。いや、風邪とかではないんだけどな?
それにしても蒼空の表情は暗い。きっと英智の発表だろう。今でこそ奴らは単にライブをしているがファンは皆魅了されつつも凍りついているように見える。
「黒斗。先行き不安だ、Trickstarも。それに今日いきなりUNDEADが制裁をされてる。俺たちも確実に狙われる…というか、さっき明日の昼にB1で。って声かけられたし」
眉間に皺を寄せ隣に座る蒼空。先行き不安だと言いながら随分と反抗的な目ではあるが。
「どうする?」
「えっ、黒斗…俺に聞く?俺馬鹿なのに!」
「…お前はどうしたい。何か思い付くことはあるか?」
冗談に流されずそのままもう一度蒼空に問う。何か、やりたいことがある筈だ、蒼空は今そういう目をしている。生徒会に対する反抗的な目を。
それはDDDが開催されるという発表に対してではない。友人を、部長を、粛清した英智への反抗だ。
「俺は別にUNDEADが悪いことをしたとは思わない。正攻法じゃないのはお互い様だしな。だからこそ、自分の地位を守る為だけの暴君を許せない。許さない。俺は勝つ。絶対。」
「そうか。」
「黒斗はいつも通りで。ほんとは一緒に躍ってよなんて言いたいけどな」
「DDDには、間に合わせる」
「え」
「…」
俺の言葉に目を丸くする蒼空と、ぴくりと肩にある零の頭が動く。すなわち、そういうことだ。俺も黙って見ようとは思っていない。もし、明日急に仕掛けられたB1で、仮に負けたとしても、DDDで覆す。
「明日も負ける気は毛頭ない。少しだけ、出る。荒治療だって言われてもな」
「黒斗。お主…」
いつの間にか頭を上げた零になぜか頭を撫でられる。痛くないかえ?なんて問い掛けられるけれど、その心配すらも今は甘んじている場合ではない。
動機が激しいのは、あのレッスンの時と変わりなく。誰かが見ている場に立って躍ることを頭で考えれば正直それだけで呼吸困難になりそうではある。
「もう、過去の惨事に負けたくないんだ」
それだけを蒼空と零に告げる。
ベンチから立ち上がり零を蒼空に任せて俺は演奏の終えた仮設ステージへと近付く。観客は概ね帰っているが、そこに残されていた真に声をかけた。
「何があったか、話せそうか?」
「っ、黒斗さん。あ、あの…僕。嫌なんです。Trickstarが、なくなるなんて!だから!」
「は?まて…Trickstarがなくなる?」
はっとした真は1度深呼吸をして俺を見る。今にも泣きそうな目で、訴えてくる。
「勧誘、か…。あいつまた同じことを。しかも自分達より弱い立場にいる相手に…。」
全てを察したわけではない。昨日の夜、英智が言っていたことと、真の言葉を整理すればそういうことだ。以前、俺にしたことと同じ、勧誘。五奇人と生徒会が波乱を起こすのと同時期。五奇人を潰すために俺はfineに誘われた。もちろんその時のfineは既に強者ではあったが、その上を行く五奇人をどうしても潰したかったのだろう。WorldWalkerに所属している俺を他所に、一度勝手に俺の脱退証明を書かれたことがあった。
あの時は勧誘も何もあったものではないが、それを知った蒼空が暴れまわったのを覚えている。
「蒼空も正直奇人じゃないのが不思議なくらいなんだが、まぁそれは今気にすることじゃないか…」
ちらりと後ろを見れば日陰に移動している蒼空と零の姿。
「真、まさかとは思うがTrickstar全員がfineに勧誘されたわけじゃないよな?」
自分でも馬鹿な質問だと思う、4人も招くほど余裕のあるユニットでもないだろう。となると全員別々、なのだろうか?
「ひ、氷鷹くんと明星くんはfineに…衣更くんは紅月…。僕は…」
「…真?」
「僕は、Knightsに…その、僕の才能を活かせる2人がいるからって。」
「一度殴っておきたい気分だな。…なるほど、モデルが2人いるからな。とはいえお前はもう」
「僕はグラビアモデルに戻る気はない!」
遠慮もなしに俺に声を張り上げる真。
これが本来の真だろう、自分のやりたいこと、意思を尊重できるのが人間だ。もう2度と弟のように可愛がった真にあんな目をさせるわけにはいかない。
弟のように可愛がったのは泉も同じで、ならKnightsにいけば安心かと思えばそうではない。あいつはむしろ、グラビアモデルだった頃の真に執着している。
そう考えれば、真にとって地獄なのは言うまでもないだろう。
「お前がその意思なら、とりあえずは安心だ。問題はあとの3人だな…。とにかく今日はもう帰った方がいい、何かあったら連絡しろよ」
今だ不安そうな真の頭を撫で、帰路へとつかせる。昨日S1で勝利した心を平然と、清々しいほどに折られてしまったのだ。今は休ませてやるしか他にない。
「浮かない顔をしていますねぇ!」
「っ!?」
急に左側から現れた渉に引くほど驚く。
視線で訴えれば、すみません。と誠意を感じない謝罪をされなお腹が立つ。
「何の用だ。明日の根回しか?」
「まさか!私がそんなことをしないのはよくわかっていますでしょう?私が伝えに来たのは、せいぜい目を大切にしてくださいということですよ。」
「目を大切にって…ナイフでも?」
目を細めこれでもかというほど睨む。観客にナイフを持たせるつもりか?それともお前らがナイフを持ち俺のトラウマを抉るつもりだろうか?
「いーえっ!古傷が悪化してしまわないようにということです。というか、なぜナイフなのですか?明日貴方の溺愛する蒼空くんと戦うのであれば、接戦になりうると思うのでこれを」
渉は何を考えているのだろう。正直、本心がころころ変わりすぎて動体視力が追い付かない、とでも言えばいいだろうか。手渡しで渡されたその一輪の花を見つめるといつの間にやら姿を消していた。
スノードロップの花言葉は、逆境のなかの希望。いや、贈り物の時の花言葉はたしか…
貴方の死を望みます。
「つまり、俺は参戦するなってことか…。まさかあいつにここまで嫌われてるとはな」
NEXT::
長編TOPへ戻る