11　


10月3日。
正式に付き合い始めたのが10月1日だってせなたんが言ってたから、今日で3日目？
俺たちはまぁありがたいことに仕事があって、冠番組の収録にその後は雑誌のインタビューと撮影。昨日も当然仕事終わりはまっすぐ家に帰宅して…
今日はこの撮影が終われば空いてるけど、黒斗の様子を見るにこの後せなたんと会う素振りはない。

「黒斗。昨日あっちの事務所でドラマの正式打合せ行ってきたんだろ？せなたんには？伝えたか？」

「おー、英智たちに絡まれたがちゃんとメッセージ送ったぞ。」

「あ、そういえば北斗たち皇帝と同じ事務所だったっけ？……ってそうじゃないだろ！え！？メッセで！？なんて伝えたんだよ」

「？…いや、普通に。真とドラマ共演するって。」

え、こいつそれだけ？なんかだって、当日泣いたっていう話瀬名淡から聞いたぞ？なんか不安とかあったから泣いたんじゃないの？

「それだけ？」

「あぁ、…え？なんだよ。その顔。」

「観ればわかるでしょうが！え！？あのドラマだよ！？ふっつーに青春送るようなドラマじゃないじゃん！キスシーンあるんだぞ！？」

黒斗が一瞬びくりと肩を震わせた後、観ようとしているところで俺が全部口に出す。と、

「あ、あー…それは…言ったら…まずいと思って。」

「いや、そうだろうけど…お互いのために言った方がいいって…。絶対せなたん見るんだから。付き合ってても付き合ってなくてもさ？」

それはそうだけど…なんてらしくなくもごもごと口ごもる黒斗。
…黒斗が恋愛に疎いのは確かにわかっている。
だからこそ、キスシーンだなんだと口にしずらいこともわかる。
けど、だからと言って、仮にも恋人よりも先にキスの予定がありますなんて言わないよりマシだろ。

「せなたんのことだから、仕事なら別に。って言ってくれると思うけど…直前になってキスシーンが～！ってわけじゃないんだから、言っておいた方が心の準備ができるだろ？…ってわけで、今日の夜会う約束を取り付けること！」

「きゅ、急に行けるか…？泉のスケジュールだってあるだろ」

「じゃあ作れる時間作ってどうにかしてちゃんと口で言うこと！俺もついて行くから…。あと、なんか泣いてたの結構心配してたみたいだぞ？」

「はぁっ！？何で知ってんだよ！いや、っていうか急にそんな…」

なんて黒斗が声を上げるのと同時に、撮影準備ＯＫでーすとスタッフから声がかかる。

「あ、今行きまーす」

「ちっ…了解です。」

黒斗が小さく舌打ちした後、笑顔で挨拶をして簡易椅子から立ち上がる。
俺もそれに就いていくようにセッティングを終えた撮影現場へと向かう。

「わかったよ。まぁ、蒼空が付いてくるなら少しは…ましか。」

へらりと微笑む黒斗。しかし今はその微笑みがやけに似合わない格好をしている。
なにせ今回の撮影は来たるハロウィンに向けての撮影で、黒斗は眼帯にコウモリの刺繍、黒いレースに赤いバラのコサージュが付いた大きなゴシックハット。
俺は襟に黒いファーが付いた灰色コートに、逆に灰色のファーが付いた黒の皮手袋。

「衣装着てる時から思ってたんだけど…コレ、どう考えてもUNDEADの方が向いてるんだよなぁ。」

「ふっ、まぁ確かにソラのは狼だからな。なおさら晃牙の方が似合いそうなのはわかる。…って言ってもあれだろ？定番すぎてマンネリしてるだろ」

「それはそう。学院の時もハマり役過ぎて間違いなく上位にいたもんな。でもまぁ多分世間的に見たら去年もやったよなぁって感じか。」

わからないでもない。
アイドルは飽きられるわけにはいかないし、定番と熟知しているとはいえ毎度毎度その定番ばかりをやるわけにはいかない。
俺たちも紳士を売りに出しているからと言ってスーツばかりじゃダメなのと一緒だろうな…。
うん。スーツよりもパーカーの方が楽だし…、あーそう考えるとジャージも捨てがたい。意外性で考えたら圧倒的にジャージ…。

「ソラくん良いですね！その物思いに耽る表情！めちゃくちゃかっこいいですよ！」

「…全然関係ないこと考えてるのにな。まぁいいが…ジャージか…さすがにパーカーで妥協してくれ」

俺の考えていることを観ていた黒斗が、とにかく今は撮影。と俺を小突く。

「あーごめんごめん。でもちょっとポップな感じも楽しみかも。」

それはそうだな。と微笑む黒斗の表情をカメラマンはチャンスを逃すことなくシャッターを切る。

「今のめちゃくちゃいい表情！あとはハロウィンっぽく！2人ともちょっと悪戯な表情して見て！」

「…その表情は得意だ。」

「俺も！可愛いも兼ねてるから俺の方が上手だけどな」

お互いカメラマンに褒められながらポーズを撮っていく。
俺はオオカミらしく手を前に向けてガオー！とか言ったり、黒斗はそのハットを胸元に添えて怪しく笑って見せたり。
こうして黒斗の姿をみると、黒斗はだいぶ撮影にもトラウマがなくなっていっているように見える。
卒業後初めて俺と一緒に雑誌の撮影を、と努力してくれた時から比べたらだいぶましだ。

卒業直後の撮影はフラッシュの度に過呼吸。やっぱりダメだってことになって俺単独に切り替わったり…。
それからも何度か撮影に挑戦したりして、なんとかやっとって感じだし。
卒業してライブとかは結構出たりしてたから完全に盲点だったけど、たぶん黒斗の本当の心底にあるトラウマは撮影、だったのかも。

「お疲れ様です～！ＯＫそうですね！出来上がった雑誌は後日事務所に届きますので、楽しみにしてくださいね」

マネージャーと一緒に3人で写真の確認を済ませるとさっさと黒斗が手洗いに行ってくると言って立ち去って行ってしまう。
俺はカメラマンを始めとしたスタッフたちに挨拶して回りつつ、このままWWは帰るからなー、という空気を周りに伝えて着替えのために控室へと戻る。

「俺だ、入るからな～」

一応声をかけてWorldWalker様 控室の扉を開く、と

「っ、…ずび、うぅ」

「わぁ…メイクがガチでハロウィン仕様だな」

そこにはアイシャドウを涙で滲ませ、目の周りがドロドロになった黒斗がうずくまっていた。
さすがに着苦しかったのか私服には着替えていたようで…ただ、脱ぎ捨てられただけの衣装は無残にもテーブルの上に横たわっている。

「…いずびに会える気がじない”っ。」

「………あぁ、せなたん？大丈夫大丈夫。いつも現場から帰るときには普段の黒斗になってるだろ？今日だって、この控室でささっとメイクしなおして、ちゃんと片付けて、せなたんに会いに行こう、な？」

そう、黒斗は今でこそ撮影も何とか克服して参加できるようになったものの終わった後は必ずこうやって情緒が不安定になってしまう。
泣いたり、怒ったり、その日によってさまざまで…まるでもう一人の自分と葛藤している自分を見ているようだ。
ややこしいけど。

「というかほら、むしろほら！俺頑張ったんだ～ってせなたんに褒めてもらえば？うん、それがいい！もうそれでメンタル保とう！」

「…わがっだ。」

ぐっ、と涙を止めるかのように眉間にしわを寄せて頷く黒斗。
ぐっちゃぐちゃのメンタルながらに俺と一緒に仕事をしてくれていることに感謝しながら、俺自分の衣装と一緒に黒斗が散らかした衣装を片付けるのであった。










::END

番外編TOPへ戻る