彼がステージに上がる時
What is your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
14
「聞いてよー?何か2-Aに人だかりができてるんだってさ」
「あれだろ?敏腕プロデューサー」
「なんだっけ…Trickstarとかってのをプロデュースした子」
朝から同じ話題の繰り返し。
あの紅月を負かしたのはプロデューサーが優秀だったからなのだと。
「度し難い」
授業中だろうと私語を慎まない奴はいくらでもいる。ただ今日の話題はどうも俺のプライドをえぐってくる話題ばかりだ。とはいえ、俺が見た限りあれはド素人。Trickstarが勝ったのはあの三奇人の朔間と、目良の存在が大きいからだ。大方策を練ったのが朔間、ユニットとしてのスキルを高めたのが目良だろう。周りの間違えたネタを聞きながら所詮傍から見ていた者たちが何を自慢げに言いふらしているのやらと溜息を吐く。
「ふむ…」
授業を終え横を見ればわずか遠くに目良の姿。奴はこの話題を聞いてどういう気持ちなのだろう。自分の頑張りが他人に評価されない、あろうことかド素人が凄いともてはやされているのを見聞きすればそれこそ心穏やかではないだろうが。見たところ特に不機嫌そうには見えないが、なぜか瀬名に頭を撫でられている。随分と珍しい光景に内心驚く。
「っ…」
と思えば呼んでもいないのに的確に俺の方をちらりと見る目良。
見ているのがばれたのだろうか。悪いことをしたわけではないが慌てて目を逸らす。
しかし、時すでに遅し。俺に向けて間の抜けた軽い笑みを浮かべる目良に思わず、は?と声を漏らす。奴はいつも俺にごまかすような笑みを浮かべる。しかし特に避けている様子もなくどちらかと言えば自ら歩み寄ってくる。特に話題もないくせに。
「どうした?」
先ほどまでの笑みが嘘のように無表情に戻っている目良はわざわざ俺の席まで歩いて俺にそう尋ねる。特にどうしたということもないのだが。
「何も。昨日の今日で貴様に何か変化が起きると思っていたのだがな」
「それはつまり今の転校生みたいな、ってことか?もう朝から何時間か経ってんのに治まる気配ないな。2-Aは今も大惨事だし」
今も?なぜそんなことがわかるのだろうか…。そんなことを本心では思いつつも今までの目良の言動を知っていれば取るに足らない奇怪な事象だ。
「貴様は手柄を取られて腹立たしくはないのか?」
「手柄?」
「Trickstarを勝利まで導いたのは貴様と朔間の力だ。それをあの素人に横取りされたも同然だろう。」
「別に怒ったりしないさ。昨日も言っただろ。ステージに上がった奴が主役だ。」
つまり俺は上がらないから、手柄も何もない。困ったように笑う目良に俺は納得がいかなかった。こんなに凄い奴が、ステージに上がらないだけで主役ではない、まして脇役としてさえも認知されないというのか。
昨日の言葉はただ俺への慰めの言葉として適当にあしらっていたが。今は違う。
「貴様もいつかステージに立て。その資格と素質、そしてそれだけの力があるはずだ。」
「約束はできそうにない。俺は自分の為の努力はできない奴だからな」
あくまでも無表情を崩さず、じゃあな。と席へと戻っていく目良の感情はどうあがいても読み取ることはできない。今言った言葉が本心なのかはたまた冗談なのかすら、俺にはわからない。
席へ戻っていく目良を眺めていると今度は星宮と目が合ったが奴は特に俺に気を配るでもなく2度ほど瞬きをして目を逸らされる。
「ステージに上がった者が主役、か」
昨日は確かに慰めるために言ったその言葉を繰り返す。入学したての頃の目良は瀬名以外と一切口を利かない愛想の悪い奴だと思っていた。片目を眼帯で覆い、今でいう苦笑いもふ抜けた作り笑いもなく俺を見ればというより、他人を見れば全員を敵対視していた。こいつは本当にアイドルになるつもりがあるのかと心底思った。
奴の本心はどこにあるのか今も行方はわからないが、あの性格でアイドル科に入るとするならば、親に芸能界へ通じる道としてこの学院に入れられたという可能性が最も高いのではという噂は耳にしている。しかし入学初期のころの奴を今改めて振り返る。そして奴の言った自分の為の努力はできないという言葉を察するに、奴は瀬名のボディーガードとして瀬名と同じ学院、学科、そしてコネを使って同じクラスで入学したのではないだろうか。
「もしそうだとしたらとんだ変わり者だ。」
思わず鼻で笑い呟いてしまう。
ボディーガードとまではいかないにせよ、何か瀬名に借りがあるのかも知れない。そう思ってしまうのは当初のころから変わらず、瀬名を守っているように見えるからだ。
「幼馴染、というやつだからか?」
幼馴染という単語に自分の過去を振り返る。思えば俺はあの我儘な暴君ともいえる英智に振り回されていたな。
まぁ俺も子供の狭い世界観でなんでも自慢げに、偉そうに喋っていたのだが。
どちらにせよ、目良がその幼馴染を心配して同じ学院に入学しているのだとしたら、俺と同じだ。
しかし共通点があるからといって仲良くなれるわけではないのだろう。目良も俺たち紅月を負かしたTrickstar側の人間。しかし英智も言っていたが、もう目良はTrickstarを全力で協力しないという話らしい。そして英智が今回遊びたがっている相手はTrickstarの連中だ。そうなれば目良を、否、WorldWalkerを敵として見るのは間違っているだろう。
最低限の配慮として、ライバルとでも言えば聞こえはいいか。
「しかし、放課後…英智が何を口にするか。それによっては敵になりかねん。」
ならば直接、目良に問うか?もうTrickstarの味方をしないか、と…それではまるで俺たち生徒会が何か手を下すと言っているようなものだ。
実際、英智が転校生を放課後に呼び出した時点で何かするのは見えているが。しかし呼び出したことは目良は知らない。今ここで聞いてしまえば英智に直接何か言いに、というより殴り込みに行かれるかもしれないのだ。
溜息を吐きながら教室を出る。何か考えるときは図書室が静かでいい。それにお気に入りの場所で思考を巡らせれば少しは回転も速くなる気がする。
「と思ったのだが、なぜついてきた。瀬名はいいのか?」
「そこでどうして泉の名前が出るのかわからないな。お前がさっきから俺を見ては眉間に皺を寄せるから、俺何かしたか?」
1人で向かっていたはずの図書室への廊下に昼休みを充実させようとぶらつく生徒の他に、いつの間にかついてきている目良。
「特に、いや、お前が1年の頃のことを振り返ったり、今後のことを考えていたが」
「1年の…俺?」
図書室につき俺の向かいに座る目良。どうも1人にはしてくれないようだ。
「随分と警戒心が強かったからな。それと今を比べていただけだ。」
「おー、何かわかったのか?」
「いや、そもそも貴様がなぜこの学院にいるのかということが解明できなくてな。そちらに思考が切り替わった。」
「で、今は今後の俺の動きがどうなるかな…なんて思考になってるわけか」
まただ。なぜ見透かされているのだろう。奴は読心術でも持っているのだろうか。いや今はどうでもいい。
あの時奇人と呼ばれなかった確実に奇人である目良と改めて対面して話をするのはそう何度もあることではない。今まではことごとくすべてを見透かされて話の主導権を握られていたが、俺も知らない英智がしようということだけは察知されてはいけない。
「あまり難しい顔をするとはげるぞ。英智にも言ったけど、酷なことさえしなければ首は突っ込まない。」
満足か?とでも言いたげな視線で睨まれる。すなわち、これだけ言っているのに酷なことをすれば許さないと暗に言われているようだ。
「そこまで言うなら俺も言わせてもらう。あまり出過ぎた真似をするようなら貴様相手だろうと容赦はしないぞ。」
「所詮俺は裏方アイドル。芸能界の裏を見るのも、裏の掃除をするのも、裏で被害を被るのも俺の仕事だ。この左目に比べれば、たいしたことはないからな」
目良が自分から眼帯を指さす。その仕草はどこか強烈で何よりも説得力がある。そして顔に張り付けられた笑みはまるで悪役のようだが、仲間を守ろうというその覚悟に誰しもが屈するしかなかった。
NEXT::
長編TOPへ戻る
「聞いてよー?何か2-Aに人だかりができてるんだってさ」
「あれだろ?敏腕プロデューサー」
「なんだっけ…Trickstarとかってのをプロデュースした子」
朝から同じ話題の繰り返し。
あの紅月を負かしたのはプロデューサーが優秀だったからなのだと。
「度し難い」
授業中だろうと私語を慎まない奴はいくらでもいる。ただ今日の話題はどうも俺のプライドをえぐってくる話題ばかりだ。とはいえ、俺が見た限りあれはド素人。Trickstarが勝ったのはあの三奇人の朔間と、目良の存在が大きいからだ。大方策を練ったのが朔間、ユニットとしてのスキルを高めたのが目良だろう。周りの間違えたネタを聞きながら所詮傍から見ていた者たちが何を自慢げに言いふらしているのやらと溜息を吐く。
「ふむ…」
授業を終え横を見ればわずか遠くに目良の姿。奴はこの話題を聞いてどういう気持ちなのだろう。自分の頑張りが他人に評価されない、あろうことかド素人が凄いともてはやされているのを見聞きすればそれこそ心穏やかではないだろうが。見たところ特に不機嫌そうには見えないが、なぜか瀬名に頭を撫でられている。随分と珍しい光景に内心驚く。
「っ…」
と思えば呼んでもいないのに的確に俺の方をちらりと見る目良。
見ているのがばれたのだろうか。悪いことをしたわけではないが慌てて目を逸らす。
しかし、時すでに遅し。俺に向けて間の抜けた軽い笑みを浮かべる目良に思わず、は?と声を漏らす。奴はいつも俺にごまかすような笑みを浮かべる。しかし特に避けている様子もなくどちらかと言えば自ら歩み寄ってくる。特に話題もないくせに。
「どうした?」
先ほどまでの笑みが嘘のように無表情に戻っている目良はわざわざ俺の席まで歩いて俺にそう尋ねる。特にどうしたということもないのだが。
「何も。昨日の今日で貴様に何か変化が起きると思っていたのだがな」
「それはつまり今の転校生みたいな、ってことか?もう朝から何時間か経ってんのに治まる気配ないな。2-Aは今も大惨事だし」
今も?なぜそんなことがわかるのだろうか…。そんなことを本心では思いつつも今までの目良の言動を知っていれば取るに足らない奇怪な事象だ。
「貴様は手柄を取られて腹立たしくはないのか?」
「手柄?」
「Trickstarを勝利まで導いたのは貴様と朔間の力だ。それをあの素人に横取りされたも同然だろう。」
「別に怒ったりしないさ。昨日も言っただろ。ステージに上がった奴が主役だ。」
つまり俺は上がらないから、手柄も何もない。困ったように笑う目良に俺は納得がいかなかった。こんなに凄い奴が、ステージに上がらないだけで主役ではない、まして脇役としてさえも認知されないというのか。
昨日の言葉はただ俺への慰めの言葉として適当にあしらっていたが。今は違う。
「貴様もいつかステージに立て。その資格と素質、そしてそれだけの力があるはずだ。」
「約束はできそうにない。俺は自分の為の努力はできない奴だからな」
あくまでも無表情を崩さず、じゃあな。と席へと戻っていく目良の感情はどうあがいても読み取ることはできない。今言った言葉が本心なのかはたまた冗談なのかすら、俺にはわからない。
席へ戻っていく目良を眺めていると今度は星宮と目が合ったが奴は特に俺に気を配るでもなく2度ほど瞬きをして目を逸らされる。
「ステージに上がった者が主役、か」
昨日は確かに慰めるために言ったその言葉を繰り返す。入学したての頃の目良は瀬名以外と一切口を利かない愛想の悪い奴だと思っていた。片目を眼帯で覆い、今でいう苦笑いもふ抜けた作り笑いもなく俺を見ればというより、他人を見れば全員を敵対視していた。こいつは本当にアイドルになるつもりがあるのかと心底思った。
奴の本心はどこにあるのか今も行方はわからないが、あの性格でアイドル科に入るとするならば、親に芸能界へ通じる道としてこの学院に入れられたという可能性が最も高いのではという噂は耳にしている。しかし入学初期のころの奴を今改めて振り返る。そして奴の言った自分の為の努力はできないという言葉を察するに、奴は瀬名のボディーガードとして瀬名と同じ学院、学科、そしてコネを使って同じクラスで入学したのではないだろうか。
「もしそうだとしたらとんだ変わり者だ。」
思わず鼻で笑い呟いてしまう。
ボディーガードとまではいかないにせよ、何か瀬名に借りがあるのかも知れない。そう思ってしまうのは当初のころから変わらず、瀬名を守っているように見えるからだ。
「幼馴染、というやつだからか?」
幼馴染という単語に自分の過去を振り返る。思えば俺はあの我儘な暴君ともいえる英智に振り回されていたな。
まぁ俺も子供の狭い世界観でなんでも自慢げに、偉そうに喋っていたのだが。
どちらにせよ、目良がその幼馴染を心配して同じ学院に入学しているのだとしたら、俺と同じだ。
しかし共通点があるからといって仲良くなれるわけではないのだろう。目良も俺たち紅月を負かしたTrickstar側の人間。しかし英智も言っていたが、もう目良はTrickstarを全力で協力しないという話らしい。そして英智が今回遊びたがっている相手はTrickstarの連中だ。そうなれば目良を、否、WorldWalkerを敵として見るのは間違っているだろう。
最低限の配慮として、ライバルとでも言えば聞こえはいいか。
「しかし、放課後…英智が何を口にするか。それによっては敵になりかねん。」
ならば直接、目良に問うか?もうTrickstarの味方をしないか、と…それではまるで俺たち生徒会が何か手を下すと言っているようなものだ。
実際、英智が転校生を放課後に呼び出した時点で何かするのは見えているが。しかし呼び出したことは目良は知らない。今ここで聞いてしまえば英智に直接何か言いに、というより殴り込みに行かれるかもしれないのだ。
溜息を吐きながら教室を出る。何か考えるときは図書室が静かでいい。それにお気に入りの場所で思考を巡らせれば少しは回転も速くなる気がする。
「と思ったのだが、なぜついてきた。瀬名はいいのか?」
「そこでどうして泉の名前が出るのかわからないな。お前がさっきから俺を見ては眉間に皺を寄せるから、俺何かしたか?」
1人で向かっていたはずの図書室への廊下に昼休みを充実させようとぶらつく生徒の他に、いつの間にかついてきている目良。
「特に、いや、お前が1年の頃のことを振り返ったり、今後のことを考えていたが」
「1年の…俺?」
図書室につき俺の向かいに座る目良。どうも1人にはしてくれないようだ。
「随分と警戒心が強かったからな。それと今を比べていただけだ。」
「おー、何かわかったのか?」
「いや、そもそも貴様がなぜこの学院にいるのかということが解明できなくてな。そちらに思考が切り替わった。」
「で、今は今後の俺の動きがどうなるかな…なんて思考になってるわけか」
まただ。なぜ見透かされているのだろう。奴は読心術でも持っているのだろうか。いや今はどうでもいい。
あの時奇人と呼ばれなかった確実に奇人である目良と改めて対面して話をするのはそう何度もあることではない。今まではことごとくすべてを見透かされて話の主導権を握られていたが、俺も知らない英智がしようということだけは察知されてはいけない。
「あまり難しい顔をするとはげるぞ。英智にも言ったけど、酷なことさえしなければ首は突っ込まない。」
満足か?とでも言いたげな視線で睨まれる。すなわち、これだけ言っているのに酷なことをすれば許さないと暗に言われているようだ。
「そこまで言うなら俺も言わせてもらう。あまり出過ぎた真似をするようなら貴様相手だろうと容赦はしないぞ。」
「所詮俺は裏方アイドル。芸能界の裏を見るのも、裏の掃除をするのも、裏で被害を被るのも俺の仕事だ。この左目に比べれば、たいしたことはないからな」
目良が自分から眼帯を指さす。その仕草はどこか強烈で何よりも説得力がある。そして顔に張り付けられた笑みはまるで悪役のようだが、仲間を守ろうというその覚悟に誰しもが屈するしかなかった。
NEXT::
長編TOPへ戻る