彼がステージに上がる時
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13
楽しかった。奇跡が起きた。
なんて素敵なことだろう。僕がまだこの学院で楽しめる要素があったなんて。
「今ごろアンコール中だろうな。さすがにもう体力が持たないか?」
夜のガーデンテラスで一人夜風に当たっていた。涼しくて気持ちがよかったのに、誰かに邪魔されるなんて…
「おや…?ふふ、君から僕に声を掛けてくれるなんて嬉しいな。同じクラスでも滅多にないのに。」
「お前と話す事ないからな。なにか面白い話でも持ってるなら別だがあいにく俺はネタを持ってない」
向かいの席に座るのは、何を隠そう今
回Trickstarの子達に手取り足取り色々と教えてあげていたと噂の黒斗。相変わらずの性格のようだ。
「ねぇ、気になるんだけど。その目で何を見たの?彼らのどこに魅力を感じたのかな?」
「少し俺より上の立場にいる奴は俺に決まってその台詞を言う。"何を見た"ってな。何を期待しているんだ」
「ただ率直な意見を聞きたいだけだよ?僕はね」
「英智が退院する。その事を父さんから聞いた時ぎりぎり間に合ったと思ったが、正直お前が戻ってきたら間に合ったもくそもないな。」
頬杖をついて溜め息を吐く黒斗。やだなぁ、僕はまだ何かするつもりなんてないのに。
「俺は懲戒免職か?Trickstarに手をかけたって理由で」
「黒斗。例え僕でも君に何かすることはできないよ。次期学院長にそんなことしたら例え僕がOBになっても末代まで呪われるだろう」
次期学院長。黒斗が持っている肩書きの中で今もっとも、秘密裏に、そして力のある肩書き。生徒会の中でも僕と敬人しか知らない。もっと言うなら生徒の中で僕と敬人。そんな彼に変なところで傷をつけてしまえば生涯真っ暗闇同然だ。
「次期って言ってもな。父さん精神だけは若いし、俺に継ぐのはまだまだ先だぞ」
ふっと鼻で笑う黒斗。そう、それなら安心、なんて事はいかない。彼が片目を失ったこともあり黒斗はあの一家の中で一番大事に、大切にされている。だからこそ、黒斗に何かしようなんて人は現れない。
けれど、Trickstarなら、根回しでもなんでも効果がある。
「君の事を仲間にしようとして、僕がやったこと覚えてるかい?」
「おー、勧誘?」
「そう。それをTrickstarの子達にするんだ。別に潰す訳じゃないから君も口出ししないだろう?」
「俺は馬鹿が嫌いだ」
今、思いきり罵倒された。決して僕を馬鹿とは言っていないけれど、でも何がどうして馬鹿呼ばわりされなきゃならないんだろう。
「俺はあいつらの保護者でもなければマネージャーでもない。今回も真が助けてと言わなければ手を貸したりしなかった。そしてあいつらは、今後自分達でしていかなきゃならない世界に入った。お前もアイドルなら言ってる意味はわかるだろう」
呆れたように肩を竦める。詰まるところ、滅多なことがない限りTrickstarに手を貸さない。と言うことだろうか。けれど、この二週間驚くほど急にやる気を出し手を貸した黒斗がいきなり手を貸さないなんてあり得ない。まぁ、どうせ僕のやり方が気にくわないとか色々口実を作って口を挟むんだろう。
「それも全部引っくるめて予定調和だよ。ふふ、楽しみだね」
「勧誘、か。何するのも勝手だけどな…真に、いや大切な奴らに嫌なことしたら容赦しねぇからな」
いつもは絶対に見せない、黒斗の楽しそうな笑顔。まるで悪魔のような笑みだけれど、彼をそこまでさせるのはいったいなんなんだろう。
黒斗が口にした真というのは、遊木真くん。パフォーマンスもあの3人より劣るあの子だ。
過去がどうであれ、それを理由に今自分の長所を活かせていない彼をそこまで守る理由は?幼馴染み、というのもあるのかもしれない。トラウマを思い出させたくないのだろうか。
「いまさら、もう遅いけどね」
もう僕がどうするかはすべて決めている。誰がなんと言おうと僕は黒斗に言ったときみたいに解散させ、そして勧誘する。僕に必要な才能が彼らにはある。僕が頂点に君臨するための才能が。黒斗の時は上手くいかなかった。けれど今頂点にいるのはこの僕だ。誰も、口出しはできない。
「黒斗!…と、えぇ?暴君ー?」
「やぁ、相変わらず僕の事そんな酷い呼び方するんだね?」
黒斗を見つけて満面の笑みを浮かべていたくせに僕を見た途端眉間に皺を寄せたのは、星宮蒼空。彼もまた、Trickstarに手を貸した一人。WorldWalker、世界を歩く者。その名に相応しく世界規模で人気を集めているのがこの2人。黒斗は何故かステージに立たない裏方アイドル。蒼空はまるで2人で歌って踊っているかのようなそのパフォーマンスと行動がファンを増やしている。
「蒼空、まさか君までガーデンテラスに来るなんて。なんだか客が多くて全然休めやしない。」
「ふん、悪かったなー?騒々しい俺が来たら発作も何も起きてないのに具合悪くなっちゃうのか?ざまぁみ」
「蒼空、うるさい」
「…こういう時くらい好きに言わせろよ」
じとりと黒斗に睨まれ、さらには罵倒を遮られた蒼空はこれでもかと言うほど僕を睨む。その目、まるで黒斗を見つけて走ってきた時とは別人みたいだ。冷たいな。
「君たち2人が僕の事を嫌いなのはまぁ重々承知だけど、あくまで君たちはTrickstarとは赤の他人だ。そしてこの学院の生徒である以上僕の、いや、生徒会長のやることにあまり口出ししてほしくないんだけど。」
「…そう、約束はできないけど」
立ったままの蒼空は見下すように僕を見る。対して黒斗は既に僕の方を見てはいなかった。完全に横を向いて話を聞く体勢とはとても言えない。まぁつまり、僕の言うことは聞いてもいなければ言うことも聞かないということなのだろう。あまり黒斗を敵に回したくないのが本心。もちろん仲間になれと言うこともないけれど、できれば何もせず黙っていてほしい。
「暴君、お前はいったい何が楽しいのか俺には全くわからない。黒斗を誘拐しようとした時も言ったけど、お前はアイドルになれない」
確かに、"良いアイドル"には向いてないかもしれないけれど、僕の考えるアイドルには、一番近いんじゃないかなと自負してるよ。蒼空くんとは別のジャンルなんだと言いきってしまえばそれでお仕舞い。気に食わなくてもそれでもやっていけるなら僕の"あり方"だって成功だろう。
「英智、薬」
「は?」
不意に黒斗がじっと僕を見る。その目は全てを見透かした瞳をしていてとても苦手なんだけど。それよりも急に聞く薬という単語にはっとする。時間を見れば医者から渡された薬を飲む時刻だ。これを、朝昼晩に飲んで体調管理をしている。
「黒斗、どうして…?」
素朴な疑問だった。何で知っているんだろう。何で、教えてくれたんだろう。僕がこれを飲み忘れれば数日後にまた具合が悪くなり病院に行くことになる。そうなれば会長が不在になって有利なのに。
「あと水。こだわりがあったよな?確かこれであってるだろ。って…なんだその顔は」
「いや、どうして僕にそんなこと。黒斗は僕が嫌いなんじゃないのかい?」
「暴君が嫌いなのは俺ー。黒斗を取ろうとしたことは煮ても焼いても忘れないし?でも黒斗はみんなのプレゼンターだからね?」
「その肩書きも正直不思議だが。いつからだっけな、周りにそう言われるようになったの」
「さぁ?結構前。とりあえずそれはつまり黒斗からのプレゼント。」
「じゃあな。せいぜい楽しすぎてぶっ倒れんなよ。目撃者だとしても救急車は呼ばないからな」
「え…」
彼の瞳は混沌としていた。同級生として心配する瞳と、敵として見る瞳。
黒斗の優しい面がいつどこで現れるのかわからない。そんな面に感化されて蒼空自身も僕に手を振り去っていく。僕がこれからしようとする行動を全てわかっていての態度なのだとしたらもうそれは黒斗の、いや、あの2人の生き方なのだろう。
「正直訳がわからないと言っても良いけど、優しさにつけこまれないようにね…」
そんなことを呟きながら僕はありがたく薬を飲んだ。
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楽しかった。奇跡が起きた。
なんて素敵なことだろう。僕がまだこの学院で楽しめる要素があったなんて。
「今ごろアンコール中だろうな。さすがにもう体力が持たないか?」
夜のガーデンテラスで一人夜風に当たっていた。涼しくて気持ちがよかったのに、誰かに邪魔されるなんて…
「おや…?ふふ、君から僕に声を掛けてくれるなんて嬉しいな。同じクラスでも滅多にないのに。」
「お前と話す事ないからな。なにか面白い話でも持ってるなら別だがあいにく俺はネタを持ってない」
向かいの席に座るのは、何を隠そう今
回Trickstarの子達に手取り足取り色々と教えてあげていたと噂の黒斗。相変わらずの性格のようだ。
「ねぇ、気になるんだけど。その目で何を見たの?彼らのどこに魅力を感じたのかな?」
「少し俺より上の立場にいる奴は俺に決まってその台詞を言う。"何を見た"ってな。何を期待しているんだ」
「ただ率直な意見を聞きたいだけだよ?僕はね」
「英智が退院する。その事を父さんから聞いた時ぎりぎり間に合ったと思ったが、正直お前が戻ってきたら間に合ったもくそもないな。」
頬杖をついて溜め息を吐く黒斗。やだなぁ、僕はまだ何かするつもりなんてないのに。
「俺は懲戒免職か?Trickstarに手をかけたって理由で」
「黒斗。例え僕でも君に何かすることはできないよ。次期学院長にそんなことしたら例え僕がOBになっても末代まで呪われるだろう」
次期学院長。黒斗が持っている肩書きの中で今もっとも、秘密裏に、そして力のある肩書き。生徒会の中でも僕と敬人しか知らない。もっと言うなら生徒の中で僕と敬人。そんな彼に変なところで傷をつけてしまえば生涯真っ暗闇同然だ。
「次期って言ってもな。父さん精神だけは若いし、俺に継ぐのはまだまだ先だぞ」
ふっと鼻で笑う黒斗。そう、それなら安心、なんて事はいかない。彼が片目を失ったこともあり黒斗はあの一家の中で一番大事に、大切にされている。だからこそ、黒斗に何かしようなんて人は現れない。
けれど、Trickstarなら、根回しでもなんでも効果がある。
「君の事を仲間にしようとして、僕がやったこと覚えてるかい?」
「おー、勧誘?」
「そう。それをTrickstarの子達にするんだ。別に潰す訳じゃないから君も口出ししないだろう?」
「俺は馬鹿が嫌いだ」
今、思いきり罵倒された。決して僕を馬鹿とは言っていないけれど、でも何がどうして馬鹿呼ばわりされなきゃならないんだろう。
「俺はあいつらの保護者でもなければマネージャーでもない。今回も真が助けてと言わなければ手を貸したりしなかった。そしてあいつらは、今後自分達でしていかなきゃならない世界に入った。お前もアイドルなら言ってる意味はわかるだろう」
呆れたように肩を竦める。詰まるところ、滅多なことがない限りTrickstarに手を貸さない。と言うことだろうか。けれど、この二週間驚くほど急にやる気を出し手を貸した黒斗がいきなり手を貸さないなんてあり得ない。まぁ、どうせ僕のやり方が気にくわないとか色々口実を作って口を挟むんだろう。
「それも全部引っくるめて予定調和だよ。ふふ、楽しみだね」
「勧誘、か。何するのも勝手だけどな…真に、いや大切な奴らに嫌なことしたら容赦しねぇからな」
いつもは絶対に見せない、黒斗の楽しそうな笑顔。まるで悪魔のような笑みだけれど、彼をそこまでさせるのはいったいなんなんだろう。
黒斗が口にした真というのは、遊木真くん。パフォーマンスもあの3人より劣るあの子だ。
過去がどうであれ、それを理由に今自分の長所を活かせていない彼をそこまで守る理由は?幼馴染み、というのもあるのかもしれない。トラウマを思い出させたくないのだろうか。
「いまさら、もう遅いけどね」
もう僕がどうするかはすべて決めている。誰がなんと言おうと僕は黒斗に言ったときみたいに解散させ、そして勧誘する。僕に必要な才能が彼らにはある。僕が頂点に君臨するための才能が。黒斗の時は上手くいかなかった。けれど今頂点にいるのはこの僕だ。誰も、口出しはできない。
「黒斗!…と、えぇ?暴君ー?」
「やぁ、相変わらず僕の事そんな酷い呼び方するんだね?」
黒斗を見つけて満面の笑みを浮かべていたくせに僕を見た途端眉間に皺を寄せたのは、星宮蒼空。彼もまた、Trickstarに手を貸した一人。WorldWalker、世界を歩く者。その名に相応しく世界規模で人気を集めているのがこの2人。黒斗は何故かステージに立たない裏方アイドル。蒼空はまるで2人で歌って踊っているかのようなそのパフォーマンスと行動がファンを増やしている。
「蒼空、まさか君までガーデンテラスに来るなんて。なんだか客が多くて全然休めやしない。」
「ふん、悪かったなー?騒々しい俺が来たら発作も何も起きてないのに具合悪くなっちゃうのか?ざまぁみ」
「蒼空、うるさい」
「…こういう時くらい好きに言わせろよ」
じとりと黒斗に睨まれ、さらには罵倒を遮られた蒼空はこれでもかと言うほど僕を睨む。その目、まるで黒斗を見つけて走ってきた時とは別人みたいだ。冷たいな。
「君たち2人が僕の事を嫌いなのはまぁ重々承知だけど、あくまで君たちはTrickstarとは赤の他人だ。そしてこの学院の生徒である以上僕の、いや、生徒会長のやることにあまり口出ししてほしくないんだけど。」
「…そう、約束はできないけど」
立ったままの蒼空は見下すように僕を見る。対して黒斗は既に僕の方を見てはいなかった。完全に横を向いて話を聞く体勢とはとても言えない。まぁつまり、僕の言うことは聞いてもいなければ言うことも聞かないということなのだろう。あまり黒斗を敵に回したくないのが本心。もちろん仲間になれと言うこともないけれど、できれば何もせず黙っていてほしい。
「暴君、お前はいったい何が楽しいのか俺には全くわからない。黒斗を誘拐しようとした時も言ったけど、お前はアイドルになれない」
確かに、"良いアイドル"には向いてないかもしれないけれど、僕の考えるアイドルには、一番近いんじゃないかなと自負してるよ。蒼空くんとは別のジャンルなんだと言いきってしまえばそれでお仕舞い。気に食わなくてもそれでもやっていけるなら僕の"あり方"だって成功だろう。
「英智、薬」
「は?」
不意に黒斗がじっと僕を見る。その目は全てを見透かした瞳をしていてとても苦手なんだけど。それよりも急に聞く薬という単語にはっとする。時間を見れば医者から渡された薬を飲む時刻だ。これを、朝昼晩に飲んで体調管理をしている。
「黒斗、どうして…?」
素朴な疑問だった。何で知っているんだろう。何で、教えてくれたんだろう。僕がこれを飲み忘れれば数日後にまた具合が悪くなり病院に行くことになる。そうなれば会長が不在になって有利なのに。
「あと水。こだわりがあったよな?確かこれであってるだろ。って…なんだその顔は」
「いや、どうして僕にそんなこと。黒斗は僕が嫌いなんじゃないのかい?」
「暴君が嫌いなのは俺ー。黒斗を取ろうとしたことは煮ても焼いても忘れないし?でも黒斗はみんなのプレゼンターだからね?」
「その肩書きも正直不思議だが。いつからだっけな、周りにそう言われるようになったの」
「さぁ?結構前。とりあえずそれはつまり黒斗からのプレゼント。」
「じゃあな。せいぜい楽しすぎてぶっ倒れんなよ。目撃者だとしても救急車は呼ばないからな」
「え…」
彼の瞳は混沌としていた。同級生として心配する瞳と、敵として見る瞳。
黒斗の優しい面がいつどこで現れるのかわからない。そんな面に感化されて蒼空自身も僕に手を振り去っていく。僕がこれからしようとする行動を全てわかっていての態度なのだとしたらもうそれは黒斗の、いや、あの2人の生き方なのだろう。
「正直訳がわからないと言っても良いけど、優しさにつけこまれないようにね…」
そんなことを呟きながら僕はありがたく薬を飲んだ。
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