彼がステージに上がる時
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12
「遠くにきた。か…」
教室で感慨に耽っていた北斗の言葉を思い出す。
確かに過去のあいつらと今のあいつらを見比べれば誰しも遠くにきたと言うだろう。
そもそもそれぞれがそれなりの実力を持っていたのも一つの奇跡なのかもしれないが。これで一人でも素人、否…才能のない人がいればTrickstarは完膚なきまでに叩きのめされてた。
「青春かー、俺はもう手遅れかなー」
部活動も青春らしいことはしてない気がする。わんちゃんともなにか戯れたわけでもなく、部長もそういうことはしない派らしい。黒斗と顔を会わせるのも日常だったから、青春らしいことはなかった。
「にしても、いいね。あの4人の成長を間近で見て、そしてその成果を客として一心に受け止められた」
ライブを終えたTrickstarに最後まで手を振りながらポケットからわずかに通知ランプを光らせるスマホをこっそりと確認する。黒斗からメッセージが届いていた。
「舞台袖からこっちは見えないから後で客席からの感想を教えろ。とかそんなん…」
『お前泣いてただろ』
「うぇっ!?」
俺の謎の奇声に周りに居た天満くんに訝し気な瞳で見られる。いや、これは誰でも声出るって。と、声にならない弁解を心で言いながら舞台袖に目をやる。今ももちろん、ライブ中でもこちらからも確認はできないし向こうから観客の表情を見ることは不可能だ。逆光であればなおさら…。
「黒斗って本当なんでも見てるな…」
もしかして実はあの左目に透視能力でもあるのかもしれない。まぁ確かにライブ中に感極まって泣いてしまった。しかし事実を明確につかれれば最早そんな異次元の事を考えてしまうのもしょうがない。
そんなことに頭を悩ませていると、ライブが終わってからしばらく真っ暗になっていたステージが明るくなる。
そこには例によってなずたんが立っていた。
「えー、たいへん長らくお待たせしましたっ!投票の集計がようやく終わったので、S1の結果発表をいたします~」
表情とその声色は相変わらず愉快ななずたん。ちなみに俺は苦手なんだよなぁ…昔はこう、話しかけにくくて…、なんて私情は置いといてぞろぞろと上がってくるそれぞれのユニットのリーダーを眺める。
紅月の蓮巳敬人。UNDEADの朔間零。2winkの葵ひなた。Trickstarのプロデューサーの転校生ちゃん。
「ってええ!?さっきまで隣にいなかったっけ?」
隣を見れば北斗を敬ってる1年の真白くん…だっけ?のもう一つとなりの席を見る。しかしその席はいつの間にか空になっていた。
これでもしどっか行って迷子とかだったら俺が怒られるんだろうなぁ…黒斗に。
よかったステージに上がってただけで、うん。よかった。
「勝利したユニットのリーダーがスポットライトで照らされますので!皆さん、固唾を飲んで見守ってください!」
なずたんの言葉にはっとしステージに目をやる。そうだ、そういえば結果発表をするんだ。馬鹿なことやって喜ぶタイミングを見逃すところだった!
「にしても黒斗…大丈夫かなー。寂しがってないかなー」
いつもWorldWalkerのライブの時、俺を見守るように舞台袖にいる黒斗は俺がパフォーマンスを終えて降りてくると、ごめん。と毎度謝るのだ。
「癖でみんなに謝ってないといいけど。うーん」
別に自分だけにそういうことを言ってくれる優越感なんてないけれど、あんな寂しそうな表情はあまり他人に見せるものじゃない。
誰しも理由はわかるだろうけれど、無駄に重く考えてしまう奴だっているわけだし。
下手すれば北斗に至っては自分がステージに立ったせいで…なんて考えてしまいそうだし…。
「さてさて、皆さん静粛に!厳正な投票の結果、本日のS1における各ユニットの投票数と順位が確定しました!それを今から発表しまーす!」
なずたんが嬉々としてマイクを握りまるで語尾に音符が付きそうなほどテンションが高い。
そんなにもうれしい結果だったんだ。一般人でも生徒会派でもない俺からしてみれば、つまりTrickstarが優勝したんじゃないか。と暗に示しているようだ。
「まず第4位…つまり最下位は、2wink!」
その言葉を聞きひなちゃんは苦笑いを浮かべながらマイクを持つ。まぁ言いたいことは薄々わかるけど。
「俺たちは途中でTrickstarに場を譲って舞台から降りたから、投票がなかっただけ!不戦敗って感じ。だから最下位だからって2winkを馬鹿にしないでねー?」
ごもっとも、というしかない。
あの2人のパフォーマンスはとても楽しく愉快、観客を虜にする良いアイドルだ。
2winkは評価されるべきユニット。
とはいえ身内の俺は何度か見てるにしても、2winkとしてはデビュー戦。正直かわいそうな話だが…。
「自分たちを犠牲にしてまで盛り立てたんだからね…。必ず勝ってよ、Trickstar!朔間先輩のUNDEADが勝ってもいいよ?どっちでもいいから、俺達の屍を越えていけー!勝利を掴めー!」
「ほんと、愉快だなー。」
部活でもそうだけど…微笑ましいな。なんて思いながら第3位の結果を待つ。先ほど2winkが応援していたUNDEADとTrickstar、そして紅月。正直ここで紅月が呼ばれてしまえば確定なんだけれど。
「ところが残念!UNDEADは、第3位ー!」
こう、思った通りにならないのはわかっていたけど、どうもむっとしてしまう。
マイクも取らずぼそぼそと喋る部長。最前列とはいえマイクが通らなければはっきりと聞き取れない。しかしやっと取ったと思えばどうも嬉しそうだ。
わからない。軽音部部長にして三奇人。よく棺桶で寝てるくせに何でも知ってる。今回もまるで全部わかった風でいつものようにマイク越しにくくく、と笑っている。
「喝采せよ、皆の衆!今宵の勝者に、拍手という名の祝砲を打ち鳴らすがよい!」
その言葉に俺は納得した。確信を得た。
会場はそこまで部長が嬉々としていることに理解ができないのかみんな不思議そうな表情だ。無理もないよね。一般人はあくまでこのどす黒い世界を知らないんだから。
「残るユニットは、ふたつ!常勝無敗の生徒会が誇る最強ユニット、紅月か!あるいは新進気鋭の革命児たち、Trickstarか!勝者は、光で照らされます!」
いまいち理解をしていない一般人でも、紅月のその実力はわかっている。たびたびS1を見に来ては勝利しているユニットだ。そんなところにひょっこりと現れた名前も顔もまだ一致していないTrickstar。
隣にいるRa*bitsの三人も暗転したステージをどちらが勝利するのか固唾を飲んで見守っている。
「スポットライト、どうぞー!」
なずたんのその言葉にパッと光が照らされる。間違えることなく、迷うことなく、そのスポットライトはTrickstarの勝利の女神と呼ばれた、転校生ちゃんを照らしている。
その結果に安堵した、頑張ってよかった、なんて。
マイクを持たずしてもけいたんの憤りがひしひしと伝わる。口癖のような度し難いという言葉も怒りのせいで少し声を張っているのかはっきりと聞こえた。
決して彼らが最弱と言われているわけではない。けれど、今まで積み上げていたものが一般人には理解できないやり方で崩された。
しかし紅月の負けが何を意味しているのか、この学院の生徒は理解している。
大番狂わせ。恐ろしいほどに成功してしまったこの革命。
「おめでとう、Trickstar!お前らが勝者っ、お前らがナンバーワンだぞー!」
なずたんの祝福の声に周りはどよめいている。とはいえ、一般人の歓声にわずかにかき消されているが、確実に戸惑いを隠せない生徒が過半数を超えていた。アンコールを控えているTrickstarにRa*bitsの3人が嬉しそうにステージに上がっていった。UNDEADも、らしくなくステージにいる。もちろん2winkも。
「よっしゃ勝ったーっ、俺たちが勝ったんだ!」
歓声を浴びながらすばりゅんが一番にステージの真ん中で跳ねまわる。その後ろをよろよろと北斗が歩いてくる。まおまおに支えられながら、ではあるがおおかた信じられないとかなんとか頭を抱えているのだろう。まこたんも足ががくがくしてるのがまるわかり。今更になって緊張して動けないなんて恥ずかしいことこの上ない。
けれどその表情はみんな輝いている。この上なく、嬉しそうだ。
「アンコールの喝采で何言ってんだか全然わかんないけど。お前らが楽しそうで何よりだ」
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「遠くにきた。か…」
教室で感慨に耽っていた北斗の言葉を思い出す。
確かに過去のあいつらと今のあいつらを見比べれば誰しも遠くにきたと言うだろう。
そもそもそれぞれがそれなりの実力を持っていたのも一つの奇跡なのかもしれないが。これで一人でも素人、否…才能のない人がいればTrickstarは完膚なきまでに叩きのめされてた。
「青春かー、俺はもう手遅れかなー」
部活動も青春らしいことはしてない気がする。わんちゃんともなにか戯れたわけでもなく、部長もそういうことはしない派らしい。黒斗と顔を会わせるのも日常だったから、青春らしいことはなかった。
「にしても、いいね。あの4人の成長を間近で見て、そしてその成果を客として一心に受け止められた」
ライブを終えたTrickstarに最後まで手を振りながらポケットからわずかに通知ランプを光らせるスマホをこっそりと確認する。黒斗からメッセージが届いていた。
「舞台袖からこっちは見えないから後で客席からの感想を教えろ。とかそんなん…」
『お前泣いてただろ』
「うぇっ!?」
俺の謎の奇声に周りに居た天満くんに訝し気な瞳で見られる。いや、これは誰でも声出るって。と、声にならない弁解を心で言いながら舞台袖に目をやる。今ももちろん、ライブ中でもこちらからも確認はできないし向こうから観客の表情を見ることは不可能だ。逆光であればなおさら…。
「黒斗って本当なんでも見てるな…」
もしかして実はあの左目に透視能力でもあるのかもしれない。まぁ確かにライブ中に感極まって泣いてしまった。しかし事実を明確につかれれば最早そんな異次元の事を考えてしまうのもしょうがない。
そんなことに頭を悩ませていると、ライブが終わってからしばらく真っ暗になっていたステージが明るくなる。
そこには例によってなずたんが立っていた。
「えー、たいへん長らくお待たせしましたっ!投票の集計がようやく終わったので、S1の結果発表をいたします~」
表情とその声色は相変わらず愉快ななずたん。ちなみに俺は苦手なんだよなぁ…昔はこう、話しかけにくくて…、なんて私情は置いといてぞろぞろと上がってくるそれぞれのユニットのリーダーを眺める。
紅月の蓮巳敬人。UNDEADの朔間零。2winkの葵ひなた。Trickstarのプロデューサーの転校生ちゃん。
「ってええ!?さっきまで隣にいなかったっけ?」
隣を見れば北斗を敬ってる1年の真白くん…だっけ?のもう一つとなりの席を見る。しかしその席はいつの間にか空になっていた。
これでもしどっか行って迷子とかだったら俺が怒られるんだろうなぁ…黒斗に。
よかったステージに上がってただけで、うん。よかった。
「勝利したユニットのリーダーがスポットライトで照らされますので!皆さん、固唾を飲んで見守ってください!」
なずたんの言葉にはっとしステージに目をやる。そうだ、そういえば結果発表をするんだ。馬鹿なことやって喜ぶタイミングを見逃すところだった!
「にしても黒斗…大丈夫かなー。寂しがってないかなー」
いつもWorldWalkerのライブの時、俺を見守るように舞台袖にいる黒斗は俺がパフォーマンスを終えて降りてくると、ごめん。と毎度謝るのだ。
「癖でみんなに謝ってないといいけど。うーん」
別に自分だけにそういうことを言ってくれる優越感なんてないけれど、あんな寂しそうな表情はあまり他人に見せるものじゃない。
誰しも理由はわかるだろうけれど、無駄に重く考えてしまう奴だっているわけだし。
下手すれば北斗に至っては自分がステージに立ったせいで…なんて考えてしまいそうだし…。
「さてさて、皆さん静粛に!厳正な投票の結果、本日のS1における各ユニットの投票数と順位が確定しました!それを今から発表しまーす!」
なずたんが嬉々としてマイクを握りまるで語尾に音符が付きそうなほどテンションが高い。
そんなにもうれしい結果だったんだ。一般人でも生徒会派でもない俺からしてみれば、つまりTrickstarが優勝したんじゃないか。と暗に示しているようだ。
「まず第4位…つまり最下位は、2wink!」
その言葉を聞きひなちゃんは苦笑いを浮かべながらマイクを持つ。まぁ言いたいことは薄々わかるけど。
「俺たちは途中でTrickstarに場を譲って舞台から降りたから、投票がなかっただけ!不戦敗って感じ。だから最下位だからって2winkを馬鹿にしないでねー?」
ごもっとも、というしかない。
あの2人のパフォーマンスはとても楽しく愉快、観客を虜にする良いアイドルだ。
2winkは評価されるべきユニット。
とはいえ身内の俺は何度か見てるにしても、2winkとしてはデビュー戦。正直かわいそうな話だが…。
「自分たちを犠牲にしてまで盛り立てたんだからね…。必ず勝ってよ、Trickstar!朔間先輩のUNDEADが勝ってもいいよ?どっちでもいいから、俺達の屍を越えていけー!勝利を掴めー!」
「ほんと、愉快だなー。」
部活でもそうだけど…微笑ましいな。なんて思いながら第3位の結果を待つ。先ほど2winkが応援していたUNDEADとTrickstar、そして紅月。正直ここで紅月が呼ばれてしまえば確定なんだけれど。
「ところが残念!UNDEADは、第3位ー!」
こう、思った通りにならないのはわかっていたけど、どうもむっとしてしまう。
マイクも取らずぼそぼそと喋る部長。最前列とはいえマイクが通らなければはっきりと聞き取れない。しかしやっと取ったと思えばどうも嬉しそうだ。
わからない。軽音部部長にして三奇人。よく棺桶で寝てるくせに何でも知ってる。今回もまるで全部わかった風でいつものようにマイク越しにくくく、と笑っている。
「喝采せよ、皆の衆!今宵の勝者に、拍手という名の祝砲を打ち鳴らすがよい!」
その言葉に俺は納得した。確信を得た。
会場はそこまで部長が嬉々としていることに理解ができないのかみんな不思議そうな表情だ。無理もないよね。一般人はあくまでこのどす黒い世界を知らないんだから。
「残るユニットは、ふたつ!常勝無敗の生徒会が誇る最強ユニット、紅月か!あるいは新進気鋭の革命児たち、Trickstarか!勝者は、光で照らされます!」
いまいち理解をしていない一般人でも、紅月のその実力はわかっている。たびたびS1を見に来ては勝利しているユニットだ。そんなところにひょっこりと現れた名前も顔もまだ一致していないTrickstar。
隣にいるRa*bitsの三人も暗転したステージをどちらが勝利するのか固唾を飲んで見守っている。
「スポットライト、どうぞー!」
なずたんのその言葉にパッと光が照らされる。間違えることなく、迷うことなく、そのスポットライトはTrickstarの勝利の女神と呼ばれた、転校生ちゃんを照らしている。
その結果に安堵した、頑張ってよかった、なんて。
マイクを持たずしてもけいたんの憤りがひしひしと伝わる。口癖のような度し難いという言葉も怒りのせいで少し声を張っているのかはっきりと聞こえた。
決して彼らが最弱と言われているわけではない。けれど、今まで積み上げていたものが一般人には理解できないやり方で崩された。
しかし紅月の負けが何を意味しているのか、この学院の生徒は理解している。
大番狂わせ。恐ろしいほどに成功してしまったこの革命。
「おめでとう、Trickstar!お前らが勝者っ、お前らがナンバーワンだぞー!」
なずたんの祝福の声に周りはどよめいている。とはいえ、一般人の歓声にわずかにかき消されているが、確実に戸惑いを隠せない生徒が過半数を超えていた。アンコールを控えているTrickstarにRa*bitsの3人が嬉しそうにステージに上がっていった。UNDEADも、らしくなくステージにいる。もちろん2winkも。
「よっしゃ勝ったーっ、俺たちが勝ったんだ!」
歓声を浴びながらすばりゅんが一番にステージの真ん中で跳ねまわる。その後ろをよろよろと北斗が歩いてくる。まおまおに支えられながら、ではあるがおおかた信じられないとかなんとか頭を抱えているのだろう。まこたんも足ががくがくしてるのがまるわかり。今更になって緊張して動けないなんて恥ずかしいことこの上ない。
けれどその表情はみんな輝いている。この上なく、嬉しそうだ。
「アンコールの喝采で何言ってんだか全然わかんないけど。お前らが楽しそうで何よりだ」
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